労働保険料の勘定科目の仕訳に迷う方も多いのではないでしょうか。労働保険料を正しく仕訳するためには、基本的な知識と勘定科目の使い分けが重要です。また、概算保険料や確定保険料の支払いタイミングや処理方法は特に難しく感じるでしょう。本記事では、労働保険料の仕訳で押さえておきたい基本ポイントと注意点について解説しますので、経理業務を円滑に進めるための参考にしてください。
目次
労働保険料とは?
労働保険料とは、労働者の安全と生活を支えるために必要な費用であり、「労災保険料」と「雇用保険料」が含まれます。
労災保険は、労働者が業務中や通勤中に事故や災害に遭った際の補償を目的とした保険であるため、事業主が全額を負担し、労働者の費用負担はありません。
一方、雇用保険は、労働者が失業した時の生活を支援すること(給付)を目的としており、労働者と事業主がそれぞれ負担しますが、事業主の方が多く負担する仕組みとなっています。
労働者負担分は給与から控除され、事業主はその控除分と事業主負担分をまとめて納付します。
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支払いの流れ
どのような流れで、事業主が労働保険料を支払うのか解説します。
ステップ | タイミング |
1. 概算保険料の支払い | 労働保険年度の開始時(毎年4月頃) |
2. 年度末の確定保険料計算 | 年度終了後(3月末) |
3. 年度更新手続き | 毎年6月〜7月 |
労働保険年度の開始時(4月1日〜)に、労働基準監督署やハローワークを通じて、年度開始後40日以内に、見込みの賃金総額に基づいて「概算保険料」を支払いましょう。この概算保険料には、労災保険料と雇用保険料どちらも含まれます。
労働保険年度終了後(翌年3月末)、実際に支払われた賃金総額を集計し、概算保険料との差額を計算し、これに基づいて確定保険料を算出します。
6月〜7月の労働保険年度更新時に、概算保険料と確定保険料の差額を精算しましょう。不足分が発生した場合は追加で支払い、過剰分が発生した場合は還付を受けるか、次年度の保険料に充当する形で処理します。
労働保険料の仕訳における勘定科目
労働保険料の仕訳に使用する主要な勘定科目は「法定福利費」「預り金」「前払費用」の3つです。
勘定科目 | 説明 |
法定福利費 | 事業主負担分の労災保険料や雇用保険料を計上する際に使用する |
預り金 | 雇用保険料の労働者負担分を給与から控除した際に使用する |
前払費用 | 労働保険料を概算で支払った場合や翌年度分を前払いした際に使用する |
「法定福利費」は事業主負担分の労災保険料や雇用保険料を経費として処理する際に使用してください。「預り金」は、雇用保険料の労働者負担分を給与から控除し、一時的に保管するために使用します。
「前払費用」は、概算保険料を支払った場合や翌年度分を前払いした際に、一旦資産として計上するために使用します。後に経費へ振り替える作業が必要となるので留意しておきましょう。
労働保険料の仕訳例
労働保険料の仕訳は、支払いのタイミングや方法によって異なります。以下で、中小企業などで一般的に使われる仕訳例をケース別に解説します。
概算保険料を支払った場合
労働保険年度の開始時に、見込みの賃金総額に基づく概算保険料を支払った際の仕訳です。
借方に「法定福利費」を計上し、経費として処理しましょう。貸方には「現金預金」を用い、実際の支払額を記録します。
例)概算保険料10万円を銀行振込で支払った
借方 | 貸方 | ||
法定福利費 | 10万円 | 現金預金 | 10万円 |
確定保険料を精算した場合
労働保険年度終了後、実際の賃金総額に基づき、確定保険料の不足分を支払った場合や過剰分が還付された場合の仕訳です。
(a)不足分を支払った場合
借方に追加費用を計上し、貸方で現金の減少を記録してください。
例)確定保険料が概算保険料より20,000円多かったため追加で支払った
借方 | 貸方 | ||
法定福利費 | 20,000円 | 現金預金 | 20,000円 |
(b)過剰分が還付された場合
過剰分の還付金を借方の「現金預金」として処理し、費用を減額する形で貸方に「法定福利費」を記録してください。
例)確定保険料が概算より30,000円少なかったため還付された
借方 | 貸方 | ||
現金預金 | 30,000円 | 法定福利費 | 30,000円 |
労働者負担分を控除した場合
給与支給時に雇用保険料の労働者負担分を控除する際の仕訳です。
借方に給与総額を「給与手当」として計上し、貸方には労働者負担分を「預り金」に計上してください。その後、差引後の支給額を「現金預金」として処理します。
例)給与総額30万円、雇用保険料の労働者負担額が3,000円
借方 | 貸方 | ||
給与手当 | 30万円 | 預り金 | 3,000円 |
現金預金 | 29万7,000円 |
年度更新で過剰分を充当した場合
確定保険料の精算時に過剰分が発生し、翌年度の保険料に充当された場合の仕訳です。
翌年度に充当される過剰分を借方の「前払費用」として資産計上し、貸方には費用減額として「法定福利費」を記録してください。
例)概算保険料の過剰分20,000円を次年度に充当する
借方 | 貸方 | ||
前払費用 | 20,000円 | 法定福利費 | 20,000円 |
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労働保険料の勘定科目における注意点5つ
労働保険料の勘定科目について、以下5つの点に注意しましょう。
- 概算と確定の違いを理解する
- 労働者負担分を正確に控除する
- 賃金総額の正確な把握
- 支払い期限を守る
- 消費税との関連性を確認する
1. 概算と確定の違いを理解する
前述したように、労働保険料は、年度開始時に支払う「概算保険料」と、年度終了後に実際の賃金総額に基づいて精算する「確定保険料」の2つで構成されています。
不足分は追加納付、過剰分は還付や翌年度への充当が必要となり、仕訳も異なる対応が求められるため、それぞれの計算方法や処理の違いを正確に理解しておきましょう。
2. 労働者負担分を正確に控除する
雇用保険料の労働者負担分は、給与支給時に差し引き、「預り金」として記録します。この控除処理を正確に行わないと、給与計算のミスに繋がり、労働者との信頼関係に影響を与える可能性があるでしょう。
特に、控除忘れや計算ミスがあると、後で過不足を調整する手間が増えます。給与計算時には、毎月確実に確認を行い、預り金の管理を徹底しましょう。
3. 賃金総額の正確な把握
労働保険料は、賃金総額に基づいて計算されるため、毎月の賃金記録を正確に把握し、管理する必要があります。特に、年度更新時には正しい賃金データが不可欠であり、不整合があると追加支払いが発生する場合も考えられます。
誤りを防ぐため、給与明細や賃金台帳を定期的に確認し、年度末にはデータを再チェックする習慣を持ちましょう。
4. 支払い期限を守る
労働保険料の支払いには期限が設けられており、これを過ぎると延滞金や追徴金が発生する可能性があります。概算保険料の支払いは年度開始後40日以内、確定保険料の精算は年度更新期間中に行う必要があります。スケジュールを事前に確認し、計画的に処理を進めましょう。
5. 消費税との関連性を確認する
労働保険料は消費税の非課税取引ですが、仕訳処理の際に誤って課税対象として記録してしまうケースがあります。例えば、「法定福利費」や「預り金」の項目を処理する際に、消費税の課税取引と混同しないよう注意が必要です。科目ごとの扱いを再確認し、帳簿管理を徹底しましょう。
労働保険料の勘定科目でお悩みの方は専門家に相談
労働保険料の勘定科目や仕訳処理に不安がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。正確な経理処理が可能になるだけでなく、税務リスクの回避や業務効率の向上が期待できるでしょう。
小谷野税理士法人では、労働保険料の仕訳や勘定科目に関する的確なアドバイスを提供しています。労働保険料の勘定科目に関するお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。