法人・個人事業主を問わず、資格取得費用は経費として処理できる可能性があります。業務に直接関連するものや一身専属的なものなどの条件を満たすのがポイントです。今回は、資格を持つまでの費用を経費にする要件や、適用する勘定科目と仕訳事例、注意点などを解説します。最後まで読めば、資格を持つまでの費用の処理に関する理解を深められるでしょう。
目次
資格取得費用は経費になる
まず、基本として押さえておきたいのは以下の点です。
- 仕事に関連するものは経費にできる
- 開業のタイミングと関係性はない
ここから詳細に見ていきましょう。
仕事に関連するものは経費にできる
法人・個人事業主を問わず、資格を持つまでの費用は経費にできる可能性があります。
仕事をするうえで直接必要な技能や、ノウハウの獲得などに必要なものに限られるものの、法律で定められているためです。
具体的な事例は以下に示します。
- アパレル販売員:販売士の資格
- 靴販売員:シューフィッターの資格
- ドラッグストア販売員:登録販売者資格の資格
- 介護職員:難病患者等ホームヘルパーやケアマネジャーの資格
- 児童相談所の職員:チャイルドカウンセラーの資格など
一方で、給与扱いとなるケースがあったり、税理士などの取得費用は対象外だったりするなど、注意点も押さえておくのがポイントです。
適用する勘定科目は自由に選択できるため、なるべく分かりやすいものにするのが無難です。
事業に関連する資格取得の費用を経費処理できる仕組みは、負担を抑えつつ事業を効率的に発展させたい方にとってありがたいものでしょう。
開業のタイミングと関係性はない
開業に必要な資格取得の費用など、開業するまでに生じたものも経費算入される可能性があります。
法人・個人問わず開業するには特別な資格が不要で、必要な手続きをするのみです。
開業のタイミングに関係ないものの、条件として業務に関係があると認められることがあげられます。
対象期間は定められていないものの、税務調査で明確な説明が求められるため、請求書や領収書などを保管しておくのがポイントです。
請求書や領収書の保管期間は、以下の通り法人か個人事業主かによっても異なります。
- 法人:7年
- 個人事業主:5年か7年
法律で請求書などの保管が義務付けられている通り、大切に管理しておくのがポイントです。
請求書の整理や管理で悩んでいるあなたへ!保管方法を徹底解説!
資格取得費用を経費にするときの勘定科目
資格を持つまでの費用に関して適用する勘定科目は税法上決められておらず、自由に選択できます。
一般的に適用されるものは、具体的に以下の通りです。
勘定科目 | 対象の費用・概要 |
研修費(教育訓練費) |
|
福利厚生費 | 従業員が任意で自己研鑽をするための費用 |
新聞図書費 |
|
旅費交通費 |
|
前払費用 | 複数年度にわたり開催される講座費などを一括で支払うときに適用※決算時に振替処理 |
選ぶうえで、以下の注意点を押さえておくとよいでしょう。
- 誰が見てもすぐに分かる名前にする
- 必要なものを厳選し、財務状況を分かりやすくしたり確定申告の労力を削減したりする
経営状況を把握するうえでも、同じ取引が発生した場合は同じ勘定科目を継続利用するのがポイントです。
資格取得費用の仕訳例・勘定科目
仕訳に関しては、以下の通り具体例をもとに解説します。
【研修費】
従業員出席のビジネス講習代30,000円を現金で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
研修費 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
【福利厚生費】
従業員の任意のステップアップで必要な勉強会代10,000円を、現金で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
新聞図書費 | 10,000円 | 未払金 | 10,000円 |
【新聞図書費】
従業員が資格を持つまでに必要な本代8,000円を現金で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
新聞図書費 | 8,000円 | 現金 | 8,000円 |
【旅費交通費】
試験会場までのタクシー代として、従業員が5,000円を現金で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
旅費交通費 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
【前払費用】
会計期間が4月1日から3月31日の企業で、11月に翌年5月開催の勉強会代10万円を支払った場合
【期末】
借方 | 貸方 | ||
前払費用 | 10万円 | 現金 | 10万円 |
【翌期】
借方 | 貸方 | ||
研修費 | 10万円 | 前払費用 | 10万円 |
決算や確定申告などに影響を与えるため、資格を持つまでの費用は正しい仕訳がポイントです。
帳簿付けに関して疑問や不安などがある場合は、税理士へ記帳代行を依頼するのも1つの方法です。
経理にかかるコスト削減につなげられる可能性があります。
資格取得費用を経費に計上するときの注意点
資格を持つまでの費用の処理において、以下の点を押さえておくとよいでしょう。
- 仕事関連でも経費にできないケースがある
- 給与扱いとなり従業員負担が増えるケースがある
- 税務調査対策として証拠書類を保管しておく
- 退職した従業員へ費用を請求できない
それぞれについて、詳しく解説します。
仕事関連でも経費にできないケースがある
前述の通り、仕事に関連する資格を持つまでの費用は経費にできるものの、以下の通り一身専属的なものに該当すると認められません。
- 土地家屋調査士、税理士、行政書士、弁護士などの国家資格
- 医師
一身専属的な資格とは、特定の個人にのみ帰属し、他人にとってかえられない資格を示します。
例えば、従業員が行政書士の資格を持った場合、本代や試験代など資格を持つまでにかかる費用は経費にできません。
もし会社で費用を負担する場合、従業員の給与や役員報酬などでの処理がポイントです。
個人事業主の場合も同様で、業務に関係しない資格を持つまでの費用は対象外です。
例えば、接骨院を営む個人事業主が、新たに整骨院の開業目的で専門学校に通うときの費用は、経費に認められなかった裁判事例があります。
事業で得ている収入と直接的な関係性がないものであると、裁判で判決を受けました。
基準が曖昧だと感じる場合は自分で判断せず、税理士などの専門家を頼りにするとよいでしょう。
参考:「税務訴訟資料 第269号ー107(順号13330)」国税庁
個人事業主が経費計上できる項目と事例、経費の落とし方を徹底解説!
給与扱いとなり従業員負担が増えるケースがある
業務に関連性がないものの費用を負担すると、給与となり課税されることを押さえておく必要があります。
前述の通り、一身専属的な資格を持つまでの費用を会社で負担する場合など、従業員の納税の負担が増えることは知っておきたいポイントです。
給与が増えると、以下の税金が増えます。
- 所得税:累進課税制度で、年収があがると税率が高くなる
- 住民税:前年の所得に基づいて計算される
- 社会保険料:給与や賞与に保険料率を掛けて計算される
納税額が増えると手取り額が減少するケースもあり、従業員満足度をさげる可能性があります。
従業員のためを思って実施したものの、裏目に出る可能性もあると知っておくとよいでしょう。
一方で、以下の特定支出控除を適用できると、納税額を抑えられる可能性があります。
対象 |
|
判定基準 | 特定支出に相当する支出が給与所得控除除額の2分の1を超える |
通常は会社で年末調整しているとしても、特定支出控除を受けるには、従業員に自ら手続きをしてもらうのがポイントです。
税務調査対策として証拠書類を保管しておく
請求書や領収書の書類の保管など、税務調査対策が求められます。
法人・個人事業主を問わず、すべての納税者が税務調査の対象となるためです。
令和3年度の国税庁の発表によると、税務調査の対象となる確率は2%前後であることが判明しています。
税務調査とは、確定申告書や決算書をもとに、税金の計算や経費の処理などの正確性のチェックを目的とするのが特徴です。
一般的には通知があるものの、予告なく実施されるケースもあり、あらかじめ適切な対応をしておくのが無難です。
税務調査でチェックされるポイントは以下が挙げられます。
- 帳簿
- 領収書や納品書
- 節税行為
- 固定資産などの資産
税務調査が実施されると、信頼度を低下させたり追徴課税のリスクが生じたりするなど、デメリットがあります。
証拠となる書類の適切な管理のほか、正しい帳簿づけなど基本を押さえるのがポイントです。
税務調査を始め、税務に関して不安や心配がある場合は、1度税理士などの専門家に問い合わせると安心できるでしょう。
参考:「令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」国税庁
退職した従業員へ費用を請求できない
原則として、資格取得後すぐに退職されたとしても、支払った費用に関して請求できません。
労働基準法において、労働契約の不履行を防止するため、違約金や損害賠償を求める契約を結ぶのが禁じられているためです。
例えば、資格を持つための研修への参加前に、費用返還の条件に関する契約をしていたとしても、法律上は無効となるといえます。
一方で、以下のケースにおいては費用を請求できる可能性が高いです。
- 業務に関連する研修などではない
- 従業員の自由な意思のもとで選べる研修などである
- 従業員が負担すべき費用を会社が貸し付けた場合
現実的には考えにくいため、退職した従業員の費用は、返還してもらいにくいと把握しておくとよいでしょう。
正しい経費の計上で節税したい方は税理士へ!
ここまで、資格取得に関する費用を経費にするときの要件や勘定科目、仕訳例、注意点を解説しました。
資格を持つまでの費用を経費にするには、業務に関連し、一身専属的なものではないと認められるのがポイントです。
勘定科目は事業者側で設定できるため、分かりやすく明確に管理できるものを選ぶとよいでしょう。
裁判で争われた事例もある通り、適用要件について分かりにくいと感じている事業者もいるかも知れません
帳簿づけに関して不安がある場合、税理士などのプロに依頼するのが効果的です。
小谷野税理士事務所は、中小企業者様から上場企業者様まで、4,000社をサポートしてきた実績があります。正し節税したい事業者様は、お気軽に無料相談をご利用ください。