期末在庫は資産として扱われるのが特徴で、数を増やすとその分利益が増加するため、多くの税金を納める必要があります。節税したいと考えている事業者は、期末在庫を減らすことを意識しましょう。今回は、期末在庫を増やすと税金が増えることや、在庫を増やすメリットとデメリット、期末在庫の対象、評価方法などを解説します。最後まで読めば、期末在庫と納税額の関係性などへの理解が深まるでしょう。
目次
期末在庫を増やすと税金は増える
貸借対照表において、期末在庫は資産として扱われるため、数が多いとその分納める税金が増えます。
売上原価は「前期末棚卸+当期仕入高-期末棚卸」で計算するため、期末在庫が多いと売上原価が減少してしまいます。そして、売上原価が減少すると利益が増えるため納税額も増えてしまう仕組みです。
商品を仕入れるときは費用が発生することから、在庫に関しても経費として処理できるのではないかと感じる方もいるでしょう。将来的に、販売によって在庫はお金に換えられるのが特徴で、資産としての処理が求められます。
少しでも節税したいと考える事業者にとって、期末在庫は増やすのではなく減らすのがポイントです。
一方で、在庫を増やすメリットも複数あり、期末在庫が少なければ少ないほどよいとは一概にいえません。納税額に影響を与えることから、以下の通り期末在庫の数値を操作したいと考える事業者もいるかも知れません。
- 黒字の事業者:納税額を減らすために、帳簿上の期末在庫の数を減らす(脱税)
- 赤字の事業者:納税額を増やすと融資を受けやすくするため、帳簿上の期末在庫の数を増やす(粉飾決算)
いずれにしても違法で、以下のペナルティを課される可能性があります。
脱税 |
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粉飾決算 |
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期末在庫を正しく処理し、ペナルティを課されるリスクをなくすと、結果として事業の発展へとつながります。
資金繰りが悪化し困っている場合は、税理士に相談するなど早急に対策をとるのが望ましいです。
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期末在庫の対象
期末在庫の対象となる資産は5つに分けられるのが特徴で、具体的に以下の表にまとめました。
商品・製品 |
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仕掛品 |
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原材料 |
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貯蔵品 |
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半製品 |
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期末在庫の評価・計算方法
商品を仕入れたあと、市場などの影響によって在庫の価値は変化し続けるのが特徴で、期末在庫の金額を計算する必要があります。適切な方法で在庫を評価することで価値を明確にし、金額を算出できます。期末在庫を評価・計算する方法は、大きく分けると以下の2つです。
- 低価法:仕入れ時の原価と計算時の時価のうち、低い方の金額を用いて評価・計算する方法
- 原価法:仕入時の原価を用いて評価・計算する方法
仕入原価の計算方法によって、原価法は以下の6つに分けられます。
個別法 |
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先入先出法 |
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総平均法 |
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移動平均法 |
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売価還元法 |
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最終仕入原価法 |
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原価法に比べると、原価と時価の2点を考慮する低価法の方が、より正確に現状を反映しやすいといえます。
在庫評価方法ごとの計算方法は、具体的に以下の通りです。
個別法 | 商品ごとの仕入価格×在庫数量 |
先入先出法 | 在庫単価(先に仕入れたものから販売したと過程)×在庫数量 |
総平均法 | (期首在庫高+仕入れ高)÷(期首在庫数量÷仕入れ数量) |
移動平均法 | (仕入金額+在庫金額)÷(仕入数量+在庫数量) |
売価還元法 | 原価率×期末在庫の売価 |
最終仕入原価法 | 最後に仕入れた在庫単価×在庫数量 |
期末在庫の法定評価方法は最終仕入原価表のため、変更するときは事前に税務署へ「棚卸資産の評価方法の届出」を提出する必要があります。在庫評価の方法に関しては、比較検討したうえで自社に合うものを選ぶとよいでしょう。
期末在庫の確認方法
期末在庫を確認する方法は「帳簿棚卸」「実地棚卸」の2種類あり、それぞれの特徴を以下にまとめました。
帳簿棚卸 |
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実地棚卸 |
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帳簿上の在庫と実際の在庫の数値が異なる場合、実地棚卸の数値をもとに帳簿の修正が求められます。
人的ミスを少なくするには、以下の通り3定管理を徹底するのが有効です。
- 定品:決まったものを置く
- 定位:決まった場所に置く
- 定量:決まった量のみ置く
作業効率をあげられたり商品の紛失に気づきやすくなったりするなど、3定管理には多くのメリットがあります。在庫管理のルールなどを見直すと、働きやすい職場環境へとつながる効果が期待できます。
期末在庫の消費税の扱い方
前述の通り、期末在庫の金額が増えると納税額も増えることから、税込・税抜のいずれで処理するのかは押さえておきたいポイントです。期末在庫の消費税の扱いは、以下の通り経理方式によって異なるのが特徴です。
税込経理方式 |
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税抜経理方式 |
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税込経理方式と税抜経理方式は同時に適用できるものの、個々の経費は分ける必要があります。
例えば、棚卸資産Aの処理に税込経理方式を適用し、一方で棚卸資産Bの処理方法として、税抜経理方式を適用するのは認められません。基本的に、請求書や納品書などは税抜価格で記載されており、棚卸表を作成する方と意思統一をしておくのがポイントです。
期末在庫を増やすメリット
期末在庫など在庫を増やすメリットに関しては、以下の表にまとめました。
機会損失を減らせる |
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顧客に安心感を与えられる |
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コスト削減に繋げられる |
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期末在庫を増やすメリットとして、リピーター率の向上や、仕入れに関するコスト削減などの点があげられます。
期末在庫を増やすデメリット
期末在庫などの在庫を増やすとメリットがある一方で、以下の通りデメリットも生じます。
陳腐化や品質劣化が起こる |
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保管や管理の費用がかかる |
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現金預金が減る |
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期末在庫を増やすと、在庫を処分できず損失となる可能性があったり、資金繰りが悪化したりするなどのデメリットがあります。期末在庫に関しても、適正量を見極めたうえで管理するのがポイントです。
事業者によって考え方は異なるかも知れませんが、期末在庫が多すぎたり少なすぎたりするのは望ましくないといえます。
税務に関する相談は税理士へ
ここまで、期末在庫を増やすと結果として納税額が増えることや、期末在庫の対象や評価方法などを解説しました。販売により、将来的に事業者に利益をもたらす期末在庫は、資産としての処理が求められます。
節税を目的に期末在庫を増やしても、効果は期待できないと知っておくのがポイントです。適正量の在庫管理によって、管理コストを削減できたり、機会損失を減らせたりするなどのメリットがあります。
一方で、開業したばかりの事業者にとって、税務にまで手が回せないと悩んでいるケースもあるでしょう。
資金繰りなど税務全般に関する不安や疑問は、税理士を頼りにするのが賢明です。