「棚卸資産」と「在庫」とは、社内に残っている商品を意味するのが特徴で、基本的には同じものだといえます。会計上は棚卸資産が用いられる一方、一般的に利用されるのが在庫です。今回は、棚卸資産の種類や分類、評価方法、在庫との違いや税務調査でのポイントなどを解説します。最後まで読めば、在庫との違いを始め、棚卸資産に関する理解が深まるでしょう。
目次
棚卸資産と在庫の違いとは
棚卸資産と在庫は、どちらも社内に残っている商品などを表すもので、基本的に同じ意味を持っていると認識してよいでしょう。社内に残っている商品などが「在庫」で、決算時に残っている商品などを計上するときに用いられるのが「棚卸資産」であるためです。
棚卸資産とは会計上で用いられる単語である一方、在庫は一般的に用いられる単語であると言い換えられます。会計上では棚卸資産の勘定科目よりも、後述する通り「商品」や「半製品」などを適用するのが一般的です。
棚卸資産と在庫の厳密な違いについては、以下の表にまとめました。
棚卸資産 |
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在庫 |
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貸借対照表において、決算日から1年以内に現金化または費用化が見込まれる「流動資産」に、棚卸資産は分類されます。棚卸資産・在庫の管理は単に商品の数をチェックするものに留まらず、事業を発展させるうえでも参考にできる指標の1つです。
棚卸資産の種類と分類
棚卸資産は大きく5つに分類され、具体的には以下の表にまとめました。
商品または製品 |
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半製品 | 自社製品の加工のほか、現状のままで販売や貯蔵もできる製品 |
仕掛品 |
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原材料 |
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貯蔵品 |
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棚卸資産を求める場合、以下の通り2つの方法があります。
帳簿棚卸 |
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実地棚卸 |
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在庫を正確に把握するうえでは、帳簿棚卸と実地棚卸のどちらも実施するのが望ましいです。数値が合わない場合、実地棚卸の数値をもとに帳簿を修正するのがポイントです。
棚卸資産の評価方法
棚卸資産を評価する方法は7つあり、どの方法を選択してもよいとされています。比較検討したうえで、自社に合う評価方法を選択するとよいでしょう。具体的な評価方法については、以下の表にまとめました。
個別法 |
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先入先出法 |
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総平均法 |
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移動平均法 |
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最終仕入原価法 |
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売価還元法 |
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低価法 |
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棚卸資産の評価損の計上方法
棚卸資産の仕入時の原価よりも時価の方が著しく下がった場合は、評価損として計上できます。評価損として計上するうえでの条件は、具体的に以下の通りです。
- 季節商品として売れ残ったもので、今までの実績などから、通常の価額で販売できないと認められるもの
- 用途は似ているものの、他社からの性能や品質などが極端に異なる新製品の販売によって、通常の価額で販売できなくなったもの
破損や型崩れなどを理由に、通常の価額で販売できなくなったものに関しては、「特別の事実」として評価損の計上が認められています。
一方で、物価の変動や過剰生産などを理由に、棚卸資産の時価が低価した場合は評価損として計上できない点に注意が必要です。計上する場合、以下の計算式を用いるのがポイントです。
(棚卸資産評価額-時価)×実際の在庫
例えば、以下の条件下で評価損を求めてみます。
- 棚卸資産評価額:1,000円
- 時価:500円
- 実際の在庫:100個
(1,000円ー500円)×100個=50,000円
計算の結果、評価損として50,000円計上できると分かりました。
似ている勘定科目に「棚卸減耗損」があり、紛失などで商品が減少し販売できない状態にある点で異なります。
棚卸資産に関して税務調査で指摘されるポイント
税務調査において、以下の理由から棚卸資産は重点的にチェックされやすい科目です。
- 社内のみで金額を操作できる
- 調整した金額を来期に算入できる
棚卸資産の金額は、納税額に影響を与えると知っておくのがポイントです。棚卸資産の額によって納税額が変わる理由を把握するうえで、以下の流れを押さえておくとよいでしょう。
- 前期から引き継いだ期首棚卸資産に、今期の仕入れを加えたものがすべての棚卸資産である
- すべての棚卸資産から期末棚卸資産を引くと、売上原価を求められる(今期売った棚卸資産)
- 今期の売上から売上原価を引くと売上総利益を算出できる
例として、具体的な数値で見ていきましょう。
- 期首棚卸資産:100円
- 今期の商品仕入れ:4,000円
- 期末棚卸資産:200円
- 今期の売上:10,000円
- 売上原価:(期首棚卸資産100円+商品仕入れ4,000円)-期末棚卸資産200円=3,900円
- 売上総利益:売上10,000円-売上原価3,900円=6,100円
仮に期末棚卸資産を減らすと、売上原価が上がり、結果として売上総利益は下がります。
法人税などの課税所得にも影響することから、棚卸資産の金額の操作によって納税額を抑えようとする事業者もいるかも知れません。
税務調査で不正やミスを指摘されると、過少申告加算税や重加算税などのペナルティを受ける可能性があります。余分に税金を支払ったり対応に時間を割かれたりするなど、事業者にとって多くのデメリットがあります。
棚卸資産の扱いを安易に捉えず、正確に管理するのが望ましいです。
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棚卸資産を扱うときの注意点
棚卸資産を扱ううえで、以下の注意点を押さえておくのが望ましいです。
- 事前の申請が必要である
- 経営や資金繰りなどに影響がある
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
事前の申請が必要である
前述の通り、棚卸資産の評価方法は複数あるのが特徴で、どの評価方法を選択するのかについて税務署へ届出をする必要があります。税務署へ申請するうえで、押さえておきたいポイントは以下の表にまとめました。
提出期限 |
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提出先 | 住所を管轄する税務署 |
提出方法 |
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税務署へ届出しないと、最終仕入原価法が適用されると知っておくとよいでしょう。税務署に届出をしたとしても、事業年度が始まるまでに改めて変更届を提出すると、評価方法を変更できます。
申請に必要な「棚卸資産の評価方法の届出書」は税務署のほか、公式サイトでダウンロードすると取得できます。
経営や資金繰りなどに影響がある
棚卸資産は経営や資金繰りなど、事業を存続させるうえで影響力があると知っておくのがポイントです。適正量を維持したり、正確に処理したりすることなどを徹底するとよいでしょう。経営面に与える影響に関しては、以下の表にまとめました。
棚卸資産が多すぎる場合 |
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棚卸資産が少なすぎる場合 |
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融資など、棚卸資産が資金繰りに与える影響に関しては、以下の表にまとめました。
業界平均に比べて棚卸資産が多すぎる場合 |
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業界平均に比べて棚卸資産が少なすぎる場合 | 基本的に、融資の審査においては不利に働かない ※数値が急激に上昇している場合、不自然に捉えられる可能性がある |
多すぎたり少なすぎたりするのではなく、棚卸資産は「適正量」をキープできると理想的です。
税務調査の相談や対策は税理士へ
棚卸資産の種類や分類、評価方法、在庫との違いや税務調査でのポイントなどを解説しました。棚卸資産と在庫はいずれも社内に残っている商品を表し、会計上で用いられるのか、一般的に用いられるのかという点が異なります。
棚卸資産を適正量にしたり正確に記帳したりするのは、事業を発展させたり追徴課税のリスクをなくしたりするうえで重要だといえます。
時間や労力がかかる棚卸に対して、ネガティブなイメージを持っている方もいるかも知れませんが、事業者にとって必要不可欠なものです。前向きに捉え、従業員にも棚卸の重要性について説明しておくのが望ましいです。
棚卸資産の扱いについて疑問や相談したい内容がある場合、税理士を頼りにするとよいでしょう。税務調査に関する不安の払拭によって、事業により専念できます。