事業規模に合った経理や節税の見直しなど、さまざまな理由から、税理士を変更したいと考える場合は多いでしょう。しかし、税理士の変更には適した時期があります。タイミング良く税理士を切り替えることで、滞りなく業務を進められるでしょう。ここでは、税理士を変えるためにはどのタイミングがふさわしいのか、また、現在の税理士への変更の伝え方と、そのコツを説明します。
目次
税理士の変更に適したタイミング
効率良く税理士を変更するためにも、タイミングは適した時期を選びましょう。具体的には、どのようなタイミングで税理士を変更すべきかを説明します。
事業規模が拡大したとき
事業が成長し始めたとき、また、拡大を考えているようであれば、税理士変更のタイミングと言えるでしょう。
事業が成長すると、融資や新規事業の展開など、新たなニーズが生じます。また、事業の規模に合わせ、経理の負担も増えます。
具体的な経営・経理へのアドバイスもできるなら、その税理士は会社にとってもプラスとなる存在です。
起業したばかりの頃は売上が少なく納める税金も少なくて済むことが多いものの、事業規模が拡大すると、納税額も増えます。
しっかりと節税を行うために、税金対策にも力を入れなくてはなりません。仮に、今の税理士が、業の規模や会社の成長に対応しきれていないと感じたら、新しい税理士を探すタイミングといえるでしょう。
クラウドに移行するとき
クラウドに移行する際、税理士に対応してもらえない場合は、新しい税理士への変更をおすすめします。
クラウドサービスを導入すると、企業や会社は、クラウド会計ソフトを通じ、会計処理をネット上のサーバーでデータ管理できます。
クラウド会計ソフトはその大半が電子帳簿保存法に対応しており、会社は経理の効率化を図れます。
ただし、クラウドにもさまざまな種類があり、それぞれ使い勝手も異なります。そのため、会社で使いたいサービス会社の製品に、税理士が対応できない場合もあるでしょう。
クラウドへの移行を考えるのであれば、使いたいクラウド会計ソフトや、複数のサービス会社の製品を扱える税理士を選ぶことがおすすめです。
経理業務を外注するとき
経理業務を外注したいと考えたとき、現在の税理士が対応していないなら、変更を検討しましょう。
経理業務の外注は、会計事務所や経理アウトソーシングサービスなどにも依頼できますが、税理士であれば税務と同時に代行してくれます。
ただし、すべての税理士が経理業務の外注に対応しているとは限りません。外注すると、記帳や給与計算、入出金管理など、さまざまな経理業務を、税理士が会社に代わり行います。
そのため、例えば経営者自らが経理を兼任している場合や、事業規模が拡大し、経理担当者の負担が増えた場合などに活用すると、会社にとってもプラスとなるでしょう。
会社のためにも、経理業務を外注する際には、新たな税理士が必要と言えます。
事業承継や相続の検討段階
事業承継を検討したり、相続を考え始めたりする際には、現在の税理士が対応しているかどうかを確かめましょう。
もしも、対応に消極的な場合は、できる限り早く新しい税理士に変更することをおすすめします。
特に中小企業にとって事業承継をスムーズに進められるかどうかは、会社の存続に関わることです。
2024年3月、日本商工会議所が公表した事業承継に関する実態アンケートには、次のような内容が記載されています。
- 代表者が60歳以上の中小企業の場合、50%超が後継者を決定済み
- 中小企業の約7割が、事業承継のため後継者から内諾を得るまで、1年以上を要している
- 5割超の中小企業で、後継者に内諾を得てから事業承継が終わるまで、3年以上かかっている
このように、事業承継には準備期間がかかることもあり、代表者が60代のうちに後継者を決定している中小企業の割合は約半数です。
さらには、事業承継と同時に相続の手続きも進めたいのであれば、相続にも強い税理士を選ぶか、多様な案件に対応している税理士法人が適しています。
参考:「事業承継に関する実態アンケート 調査結果」を公表|日本商工会議所
法人税申告書を提出後
税理士変更の時期的なタイミングとして適しているのは、法人税申告書を提出したあとです。
ここまで説明してきた通り、事業規模が拡大したとき・クラウドに移行するとき・経理業務を外注するとき・事業承継や相続の検討段階は、税理士変更のタイミングと言えます。
しかし、急を要さないのであれば、法人税申告書の提出を終えてから、税理士を変えましょう。
税理士は、事業年度末に財務状況をまとめ、決算書を作成し、法人税申告書を税務署へと提出するのが仕事です。法人税申告書を税務署へと提出したら、その事業年度の業務は一旦区切られます。
そのため、法人税申告書を提出した後であれば、新しい税理士に引き継ぐ業務も少なく、変更をスムーズに進められるでしょう。
税務調査後
税務調査が行われた場合は、その直後が税理士を変更するタイミングです。
税務調査は、計上された経費が多かった場合や、多額の取引が行われた場合、さらには業績が急激に伸びた場合などに行われやすい傾向があります。
実際に行われる調査では、申告内容に誤りがないか、帳簿は正確に記載されているかなどが確認されます。
このような申告書類や帳簿を、現在の税理士が作成しているのであれば、税務調査の際には代理人として立ち会ってもらう方がいいでしょう。
関連記事:税理士変更の理由とは?税理士を変えるベストタイミングと引継ぎの注意点を解説
税理士の変更に適さないタイミング
税理士を変えるタイミングとして適していないのは、決算の3ヵ月前から法人税申告書を提出するまでです。
決算は、その事業年度の損益を正確に計上し、税額を算出したり決算書を作成したりしなくてはなりません。決算の準備が始まるのが、決算月のおおよそ3ヵ月前からです。
仮に、決算月の3ヵ月前に税理士を変更してしまうと、新たに依頼された税理士が正確に業務を把握できず、決算に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、決算の3ヵ月前から法人税申告書を提出するまでは、その事業年度に税務を行った税理士に決算を任せましょう。
税理士を変える理由とは
経営者が税理士を変更する理由は、コミュニケーションやサービス内容への不満、さまざまな変化の影響など、多岐にわたっています。
具体的な税理士変更の理由には、次のようなものがあります。
- 連絡が取りづらかったり、説明が分かりにくかったり、コミュニケーションに問題点がある
- 会計処理でミスが見られたり、節税効果が薄かったり、サービス内容に不満を感じる
- 新規事業のため資金調達の必要性が高まり、税理士に対するニーズが変わった
- 税理士事務所の方針転換で、従来のような対応が期待できなくなった
- 税理士が高齢になったため、クラウドを始めとした新たな業務に十分対応できていない
税理士変更の主な理由として、担当税理士や税理士事務所への不満が原因となっていることが分かります。しかし、税理士とその業務に不満がなくても、報酬が税理士を変更する原因になる場合もあります。
税理士の報酬が相場よりも高い場合や、税理士への支払い費用を抑えなくてはならなくなった場合などです。その際は、依頼するサービス内容を見直すという方法もあります。
顧問契約をスポット契約に、税務を丸投げしているのであれば、必要な業務を選んで依頼してみてはいかがでしょうか。
関連記事:税理士を変える際のポイントとは?変更する前に知っておきたいこと
税理士を変えるメリット
税理士を変更することで、企業や会社にはどのようなメリットがもたらされるでしょう。具体的な例を紹介します。
より事業に適した税理士と出会える
新たな税理士と契約すると、現在の事業により適したサービスで対応してもらえる可能性があります。
逆に、起業時から同じ税理士に業務を依頼していた場合、会社の成長に伴い対応が難しくなるケースもあるでしょう。
会社の経営状況に応じ、節税や助成金・補助金の取り入れ方、融資や出資などの資金調達方法も変わってきます。
それぞれの分野に強い税理士に相談することで、現在会社が抱えている課題の解決が期待できます。
税理士への報酬を抑えられる
税理士への報酬が高額で、会社に負担がかかっているようであれば場合は、ほかの税理士を探してみましょう。
現在依頼している税理士よりもコストの低い税理士に依頼できれば、経費削減につながります。実際、税理士の報酬が低くても、必ずしも業務の品質が下がるわけではありません。
報酬額とサービスの質を比較した上で、今の経営状況に合った税理士に依頼しましょう。
試算表の提出スピードが上がる
現在の税理士による試算表の提出が遅く、30日以上かかっている場合は、税理士の変更を推奨します。試算表とは、決算の確定前に作成する書類であり、取引の記録を集計した表です。
仕訳帳に記載された日々の取引は、勘定科目ごとにまとめられて総勘定元帳へと転記されます。
試算表は、その際の転記が正確に行われているかどうか、確認するためのものです。試算表の提出スピードに不満がある場合は、対応の早い税理士に変えることがおすすめです。
こまめに試算表を確かめてもらうことで、経営の課題にいち早く気づいて対処できるというメリットも期待できるでしょう。
経理の効率アップを図れる
経理コンサルティングが得意分野である税理士と契約すると、経理の効率アップを図れます。
税理士にも得手不得手があるため、経理を得意分野としている税理士であれば、経理についてさまざまなアドバイスを受けられることが期待できます。
アドバイスに基づいて業務を改善できれば、経理業務の負担も軽減できるでしょう。効率化につながるうえに正確性も高まるため、経理担当者の負担も軽減できます。
関連記事:税理士変更のトラブルは断り方が理由?契約解除の文例や引継ぎ方法を解説
税理士を変えるデメリット
税理士を変える際には、メリットだけでなくデメリットも生じる可能性があります。悪影響を最小限にとどめるためにも、事前にデメリットを把握しておきましょう。
新たな税理士を探すための時間や手間がかかる
税理士を変更するため新たな税理士を探すには、時間や手間を要します。
特に、こだわりの条件がある場合は、自社に適した税理士になかなか出会えない可能性があります。
しかし、時間や手間を省略するために、実績や経歴もよく確認せずに税理士を選ぶのは好ましくありません。自社と税理士とで考え方が合わないなど、後悔することになるかもしれません。
税理士の探し方は、インターネット検索、知人・友人、商工会議所や税理士会からの紹介、税理士事務所のセミナーに参加するなど、さまざまです。
自社に合う税理士に出会うためにも、複数の方法を用いて探すことをおすすめします。
税理士への報酬が上がる可能性もある
税理士を変更すると、支払う報酬額が上がる可能性があります。とくに、現時点で相場よりも安価な費用で税理士と契約している場合は注意が必要です。
しかし、良い税理士に出会えれば、より自社に適した分野・領域の業務を引き受けてもらえるチャンスがあります。
報酬額の高さが気になる際には、税理士の顧問料やその業務の相場を比較してから、税理士変更を検討してみてください。
前よりも良い税理士に出会えるとは限らない
税理士の変更を行っても、必ずしも前の税理士より品質の良いサービスを受けられるとは限りません。
事前に、税理士事務所のホームページで実績や経歴、業務内容や確認していても、実際に会って話をしてみると、違った印象を受ける可能性があります。
税理士には会社の経営や財務の状態を明かすこととなるため、変更は慎重に行い、しっかりと人物を見極めてからにしましょう。
関連記事:税理士変更のデメリットは?「ダメな税理士」「税務調査」「コロコロ変える」を防ぐ断り方とタイミング
税理士を変更する際の手順と伝え方
税理士変更を決めたら、あらかじめ必ず現在の税理士に変更の意向を伝えておきましょう。
契約解除を突然告げられると、税理士からの印象が悪くなる可能性もあります。新しい税理士への引き継ぎ業務や、残りの契約期間中の業務がずさんになるリスクもあるでしょう。
そのため、次のような手順で税理士の変更を行うと良いでしょう。
- 現在の税理士との契約内容を確認し、契約解除のタイミングを検討する
- 税理士の不在期間がなるべく短くて済むように、新しい税理士探しを早い段階から進めておく
- 現在の税理士との契約を解除する
- 現在の税理士に預けているデータや書類を回収する
- 新しい税理士に業務を引き継ぐ
この手順を進める際には、現在の税理士に対し、できる限り丁寧な対応を心がけることが大切です。
税理士変更までのステップを誤ると、税理士との間にトラブルが起こるかもしれません。預けているデータや書類の回収がスムーズに進まない恐れもあります。
現在の税理士への伝え方は、新しい税理士への引継ぎにも影響します。慎重に言葉を選んで、自身の意向を伝えることが重要です。
関連記事:税理士を「超スムーズに」変更する全手順を税理士目線で解説
税理士の変更を考えるなら、まずは新たな税理士に相談を!
税理士を変更する際には、適切なタイミングや現在の税理士への対応など、さまざまな点に考慮しなければなりません。
そこで、早めに新しい税理士を見つけ、変更に向けた今後の手順や、現在の税理士への伝え方など、アドバイスを受けると良いでしょう。
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