起業や就職を考える際、スタートアップやベンチャー企業も選択肢に入れることがあるでしょう。しかし、スタートアップとベンチャーの具体的な違いはあまり知られておらず、同じように捉えられている場合も見られます。そこで、この記事では、スタートアップとベンチャーの違いに焦点を当て、それぞれの特徴やメリットを説明します。また、スタートアップやベンチャーに該当する企業の一覧も紹介しているため、参考にしてください。
目次
スタートアップとは?
スタートアップとは、イノベーション(革新性)により、短期間で急成長を遂げた企業を指します。
一般的には、スタートアップは英語で行動開始や操業開始、さらには起業や新規事業を意味する言葉です。しかし、アメリカ・シリコンバレーで企業のタイプを指す言葉として使われ始め、その後に日本にも広まりました。
スタートアップに該当する企業や会社は、ほかに類を見ない革新的なアイディアによって、わずか数年で事業の価値を高めています。また、スタートアップにおけるIT企業の割合は高く、そのイメージを持たれがちですが、必ずしもITに限られているわけではありません。
ちなみに、短期間で急成長を遂げるスタートアップに対して、着実な成長を図る事業をスモールビジネスと呼びます。スモールビジネスは、小規模経営で安定した事業であることが特徴です。職業としては美容師・エステティシャン・コーディネーター・コンサルタント・プログラマーなどが含まれます。
ベンチャーとは?
ベンチャーは、新たな事業を開拓するために設立された企業や会社のことです。スタートアップやスモールビジネスも、このベンチャーの一種に入ります。
ベンチャーという言葉は広義に用いられているのが現状です。単に設立間もない企業や、まだ成長していない会社がベンチャーと呼ばれているケースも見られます。
しかし、もともとベンチャーという言葉には、事業の規模を問わず、独自性の高いアイディアやテクノロジーで、新たなサービスを提供しているビジネスという意味が込められていました。
また、海外で用いる際に注意したいのが、日本で用いられるベンチャーという言葉はベンチャービジネスから由来した和製英語でる点です。そのため、英語圏では別の意味を持っています。
英語の「Venture」は一般的に「Venture Capital」や「Venture corporation」など、投資ファンドを指します。
新たな事業を開拓するために設立された企業や会社という、日本のベンチャーとは異なる意味なのです。
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特徴で見るスタートアップとベンチャーの違い
スタートアップはベンチャーの一種とされていますが、スタートアップにしかない特徴もあります。ここでは、スタートアップとベンチャーの違いを詳しく説明します。
イノベーション(革新性)の違い
スタートアップとベンチャーは、イノベーション(革新性)の方向性に違いが見られます。
スタートアップ | 革新的なアイデアにより、従来は存在しなかった新たなサービスを提供する |
ベンチャー | 既存のサービスを工夫したり、プラスアルファを加えて提供する |
スタートアップは、革新的なアイデアを用いてサービスを提供します。一般的な企業と異なる点は、「従来は存在しなかった新たなサービスの提供」に重きを置いている点です。
一方、ベンチャーは、既存のサービスにフォーカスしています。すでに存在しているサービスを工夫したり、プラスアルファを加えて提供するのが特徴です。
事業成長にかかる期間の違い
事業が成長するまでにかかる期間も、スタートアップとベンチャーには違いがあります。
スタートアップ | ・短い期間で急成長する |
ベンチャー | ・長期にわたって安定して成長する |
短い期間で急成長を遂げるスタートアップに対し、ベンチャーは長期にわたる安定的な成長で事業が拡大するのが特徴です。
スタートアップは、従来には見られない新しい価値観を生み出し、事業を展開します。そのため、起業後すぐにはあまり収益が上がらず、赤字となる場合もあるでしょう。
ビジネスでは、この最初の時期を「Valley of Death」(死の谷)と呼びます。
しかし、死の谷を乗り越え、世界的なイノベーションを起こせば、市場は一気に広がり、企業や会社は急速に成長することでしょう。
これに対し、ベンチャーは、従来のビジネスモデルを活用して事業を進めるため、起業間もない時期でも、経営を安定させやすいという特徴を持ちます。
その後は長い期間をかけ、リスクを抑えつつ、企業や会社をゆっくりと拡大できるのです。
このように、スタートアップとベンチャーでは、事業が成長するまでにかかる期間が違います。
出口戦略 (EXIT)の違い
スタートアップの目標は、起業間もない時期から出口戦略 (EXIT)を意識し、将来的な売却や上場を見据え、短期間での利益を得ることです。
そもそも出口戦略(EXIT)とは、出資者が企業や会社に投資した資金の回収を意味します。
具体的には、M&Aで事業を売却することや、IPO(新規公開株式・新規上場株式)などのことです。
一方のベンチャーでは、このEXITにたどり着くまで、長期的に従来のビジネスモデルを展開させていきます。
スタートアップは短期間で、ベンチャーは長期間での出口戦略を用いていることがそれぞれの特徴です。
資本調達の違い
スタートアップとベンチャーとでは、資本調達に違いがあります。
スタートアップ | ・資金調達のメインは投資家による出資 |
ベンチャー | ・創業融資での資金調達が主流 |
将来の成長を期待する投資家から、出資で資金調達を行うのがスタートアップの特徴です。
これは、スタートアップが新たなサービスをゼロから生み出すため、失敗するリスクもはらんでるからです。
起業して間もない頃のスタートアップは、まだニーズが不明であり、知名度も信頼度も低く、収益や融資を得られる機会がほとんどありません。
一方、ベンチャーは従来のサービスをもととしているため、起業したばかりであっても比較的に安定した収益を見込めます。
そのため、ベンチャーは創業融資を受けやすく、スタートアップは融資ではなく出資による資金調達が主流です。
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スタートアップやベンチャーで働くときの見極めポイント
スタートアップとベンチャーは、どちらも新たな事業を進めているという共通点があります。職場として選ぶ際、新事業だけにリスクを感じるという場合は、次のようなポイントに着目してみましょう。
経営者の経歴や実績
スタートアップとベンチャーでの仕事を考えている場合は、経営者の経歴や実績を必ず確認しましょう。
経歴からは、その経営者の最終学歴や職歴、取得している資格が分かります。実績には、過去の事業経験が記載されていることが多いです。
そもそも、自らの経歴や実績をきちんと公開しているかどうかも、見極めのポイントです。自信を持って自身についての経歴・実績を公開していれば、信頼できる経営者であると言えるでしょう。
会社の業績
企業や会社の業績は、これから仕事場とする環境にも影響します。業績の良い企業や会社であれば、待遇が良い可能性が高いからです。
ただし、スタートアップもベンチャーも、新たな事業を展開しているために、過去の業績が乏しい場合もあります。
その際は、将来性のある企業や会社かどうか、自分自身で事業内容を見極めなくてはなりません。
また、事業を開始して間もなかったとしても、他社と比較して事業の成長率が高ければ、今後にも期待が持てるでしょう。
求人募集の内容確認
求人募集が行われている際は、その内容をしっかりと確認しましょう。
待遇や給与も重要なポイントですが、そもそもその企業や会社に将来性はあるのか、自分のスキルや経験を活かせるかが大切です。
また、その企業や会社のビジョンに賛同できることや、社風に自分が合っているかどうかも、仕事を継続するためには欠かせません。
体験談や口コミ
その企業や会社の雰囲気を知るためには、実際に働いている人の体験談や口コミが有効です。
知人や友人の中に該当者がいない場合は、就職の口コミサイトを利用しましょう。
体験談や口コミからは、企業や会社の公式サイトや、世間一般の評判とはまた異なる情報を聞ける可能性があります。
関連記事:スタートアップ企業に税理士は必要?税理士の探し方とタイミング、費用やメリットを徹底解説!
スタートアップやベンチャーで働くときのメリット・デメリット
スタートアップやベンチャーで働く際には、どんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。就活や求人に応募する際には両方を比較し、検討してみてください。
メリット
スタートアップ・ベンチャーともに、新たな事業に取り組んでいる企業や会社であるだけに、多様性のある働き方が期待できます。
スタートアップやベンチャーでの働き方では、主に次のような点がメリットとして挙げられます。
- 働き方を選べる
- 幅が広い分野の業務に就ける
- 風通しの良さ
- 実力で評価される
- やりがいを感じられる
スタートアップやベンチャーでは、フレックスタイム制やリモートワークの導入など、働き方の自由度が高いケースが多いです。そのため、さまざまな働き方から自分に合っているものを選べます。
また、スタートアップ・ベンチャーともに、少人数体制の傾向が見られるため、業務についても、一人ひとりが幅広い分野を担当できるでしょう。
ほかにも、社内の風通しが良い傾向にあるのが魅力です。上司にも自分の意見を伝えやすかったり、実力で評価されるためにやりがいを感じやすかったりと、複数のメリットがあります。
デメリット
スタートアップやベンチャーでは、新たな事業がスタートしたばかりの頃、社内や業務にたびたび変化がもたらされるかもしれません。
次のようにメリットだけではなく、もちろんデメリットも存在します。
- 業務の負担が大きい
- 社内の体制が変化する場合がある
- 待遇が整っていない可能性がある
従業員が少人数の場合には、一人ひとりの業務負担が大きく、残業もあるでしょう。
特に、スタートアップは起業後すぐには収益につながりにくいため、福利厚生や手当など待遇が整っていない場合もあります。
また、スタートアップやベンチャーの場合、傾向として、事業内容や戦略の変更により社内体制も変わりやすいです。
スタートアップやベンチャーでの起業がおすすめなタイプ
次のようなタイプの方は、スタートアップやベンチャーで新事業を開始することに向いています。当てはまる場合、視野に入れてみてください。
主体性がある
スタートアップやベンチャーは、自分の意志や判断で行動をする、主体性のあるタイプの起業に向いています。
新たな事業を手掛けることから、前例や事例はなく、一つひとつ自ら考えて会社を動かしていかなくてはなりません。
そのため、スタートアップやベンチャーで起業する場合は、主体性の有無が成功を左右します。
チャレンジ精神がある
チャレンジ精神がある人は、スタートアップやベンチャーでの起業を目指してみましょう。
スタートアップやベンチャーでは、すぐに事業が成功するとは限りません。成果につながるまでは、事業内容や戦略の変更など、紆余曲折することもあるでしょう。
その際に、持ち前のチャレンジ精神で新たな道を開拓できるタイプの人は、新規事業の立ち上げにも向いています。
好奇心が強い
スタートアップやベンチャーでは、新たな分野を切り開いて事業を進めるため、好奇心を刺激される場面も多く見られます。
特に、新しいテクノロジーを用いた事業であれば、その分野の最新情報や最先端技術にふれながら、まだ誰も手掛けていないサービスを生み出せるでしょう。
新ビジネスに興味がある
新たなビジネスの立ち上げに興味がある場合は、スタートアップやベンチャーでの起業がおすすめです。
特にスタートアップは、これまでには見られない新規事業であるため、強いやりがいを感じられるでしょう。
また、そのような新ビジネスの構想を持っている場合には、実現のチャンスです。
関連記事:エンジェル税制でスタートアップに投資するとどうなる?メリット・デメリットや確定申告までの流れを解説
スタートアップ企業とベンチャー企業の一覧
スタートアップとベンチャーで、特に認知度の高い企業を具体的な例で紹介します。
ここまで、スタートアップとベンチャーの違いを特徴やメリットで紹介してきましたが、言葉だけではイメージできないという場合もあるでしょう。
代表的なスタートアップとベンチャーは次の通りです。
【スタートアップ企業の例・一覧】
- Apple
アメリカで創業した現・Apple Inc.は、1984年にMacintoshを発表し、コンピューターの販売を急速に広げました。
現在ではコンピューターにとどまることなく、iPhone・iPadなどの携帯端末、スマートウォッチのApple Watchなど、数々の製品を展開し、世界のテクノロジー事業を牽引し続けています。
参考: Japan – YouTube
1995年、スタンフォード大学の寮を仕事場にして、創始者2名がWebサイトの重要性を識別する検索エンジンを作成しました。
初のオフィスはガレージでしたが、その後に会社は急成長を遂げ、現在では世界屈指の主要IT企業として知れ渡っています。
- Amazon
Amazon.comは1995年7月、アメリカ・ワシントン州のガレージにて、オンライン書店としてスタートしました。そのときオフィスにあったのは、デスクとコンピューターと事務用品だけだったと言います。
しかし、営業を始めてから1ヵ月を過ぎると、その出荷は全米50州にとどまらず、世界45ヵ国へと広がっていきました。
現在では日本を始め、アメリカ以外でも数多くのサイトを運営しています。
参考:Amazonが、ジェフ・ベゾスが起業した1994年当時のガレージを再現。その様子は? – About Amazon | Japan
- Meta
Metaは2021年に、Facebook, Inc.から現在の社名に変更をしているアメリカの企業です。
共同創業者2名が、2004年2月にFacebookを創設したところ、同年12月にはユーザーが100万人に到達し、このサービスは爆発的な広がりを見せました。
その後は、さらにInstagramを提供するなど、現在もIT事業のトップを走り続けています。
- Uber
2008年12月のパリにて、起業家2名はタクシーを捕まえられなかったことから、Uberのアイディアを思いつきます。
翌2009年3月には配車を可能にするスマートフォンアプリを開発し、さらに2015年4月にはUber Eatsによるオンラインフード配達サービス始めました。
現在では数多くの国々が、このサービスを利用しています。
【ベンチャー企業の例・一覧】
- 楽天
楽天は1997年に創業し、従業員6人からショッピングモール・楽天市場のサービスを開始しました。
その後は事業拡大により、プロ野球への参入を果たし、さらには携帯キャリア事業、銀行・フリーマーケット・旅行・スマホ決済など、幅広いサービスを展開しています。
- サイバーエージェント
サイバーエージェントは、メディア事業やゲーム事業を扱っている企業であり、1998年3月に創業しています。
当時は新卒やアルバイトなど、若手3名だけの会社で、営業代行からのスタートでした。
創業者は史上最年少での上場を果たし、一躍脚光を浴びますが、その後、バブル崩壊のあおりを受けるといった不遇の時代もあったそうです。
しかし、最後には黒字転換し、現在はブログサービスのAmebaを始め、サイバーエージェントグループを構成するまでに成長しました。
参考:3分でわかるサイバーエージェント ~創業ストーリー編~ | 株式会社サイバーエージェント
- メルカリ
「限られた資源を有効に使い、より豊かな社会づくりのために貢献したい」と、創業者が世界一周の旅で抱いた思いから、2013年にメルカリは誕生しました。
最初から世界を目指し、翌年2014年には早くもアメリカに進出し、事業の拡大に向けて今なおチャレンジし続けています。
- カカクコム
カカクコムは、1997年5月、創始者が秋葉原の電器店を回る中で、インターネットによる価格情報を提供するサイト「価格.com」の発案を得たことにより、事業がスタートしました。
その後は、レストランの検索と予約ができる「食べログ」や、求人情報の一括検索サイト「求人ボックス」などのサービスにより、さらなる事業発展をしています。
- DMM.com
DMM.comは、1998年、石川県加賀市でレンタルビデオ店を経営していた創業者が、インターネットを介したビデオ通販・動画配信サイトを立ち上げたことから始まりました。
のちに動画配信で急成長を遂げ、現在はでオンラインゲーム事業、電子書籍配信事業、アニメーション事業など多岐に渡るサービスを展開しています。
企業の具体例で、スタートアップとベンチャーの違いをよりイメージしやすくなったのではないでしょうか。
世界規模で知名度の高いスタートアップは、特にアメリカ発祥の企業が多く、ベンチャーは国内にも複数設立している傾向です。
スタートアップやベンチャーでの起業を考えるなら税理士に相談を!
スタートアップやベンチャーとしての起業は、資金調達の面では創業融資の通りやすさが異なるため、注意が必要です。
また、収益が生まれ、経営が安定するまでの期間にも差があることから、それぞれに適した会社の設立方法を考えなくてはなりません。
スタートアップやベンチャーでの起業を考えているのであれば、まずは融資や補助金・助成金に強い税理士への相談をおすすめします。
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どんな些細なことでも、お気軽にご相談ください。