個人事業主が自宅の一部を仕事場にしている場合など、事業用として使用した費用は、家事按分で経費にできます。個人事業を本業としていても、副業でも事業で使用した費用については、経費として計上できるため節税につながります。この記事では、個人事業主が知っておきたい家事按分とは何か、計算方法から注意点まで詳しく解説します。個人事業主の節税対策に役立ててみてください。
目次
家事按分の概要
家事按分を正しく計算するためにも、その概要について理解しましょう。まずは、家事按分の概要、費用として計上するための適用条件について詳しく説明します。
家事按分とは?
家事按分とは、プライべ―トと事業での利用が混在している費用について、事業で使用した分をルールに従って経費として算出することです。
家事按分を適用するための条件
事業とプライベートで共有している費用について、事業での使用分を経費にする場合、一定の条件を満たさなくてはいけません。
プライベートと共有する場所やもの、サービスを事業で使用した場合、費用として計上できます。正しく費用計上するためにも、家事按分の適用要件に該当するかを確認しておくことが大切です。
以下、家事按分を適用するための条件です。
- 家事に関連する費用の中で、主要な支出が所得を得るために不可欠であること
- 上記の条件において、所得を得るために必要不可欠な支出である理由をはっきりと示せること
- 主要な支出に該当しない場合(50%以下)、業務に必要である部分を明確に区別できること
例えば、プライベートや家族も利用する空間(リビングなど)で仕事をしている場合は、パーテーションなど、業務に必要な空間を把握することが求められます。
家事按分の対象となる費用と計算方法
家事按分可能な費用は、主に家賃や電気料金などが挙げられます。事業のために使った費用の全てが、費用の計上対象となるわけではありません。適切なやり方で費用を計算するためにも、対象となる費用と計算方法について押さえておきましょう。
家賃
賃借している自宅の一部を事業用として使用している場合、事業に使っているスペースの面積や利用時間から算出して、地代家賃として経費にできます。
プライベートと業務で使用している家(部屋)の事業用の家賃を、計算するときの具体例を以下に紹介します。
家賃14万円、居住スペースが100㎡、事業用として20㎡を使用している例を基に、面積と時間を基にそれぞれ家事按分を求めます。
【使用面積で計算】
まず、居住スペースに対してどれだけの割合を事業用として使用しているかという按分率を求めます。 20㎡÷100㎡=0.2 1カ月分の家賃に先ほど導き出した按分率を1カ月分の家賃にかけて、経費としての地代家賃を計算します。 14万円×0.2=28,000 |
【事業として使用した時間で計算】
先ほどと同様に家賃が14万円、1日当たりの業務時間が5時間、週で6日間、自宅で仕事をしたケースを例に、地代家賃を求めます。 まず、1週間分の業務での使用時間と1週間の総時間を求めて、按分率を求めます 5(時間)×6(日間)=30(時間) 24(時間)×7(日間)=168(時間) 30(時間)÷168(時間)≒0.18 次に、先ほど導き出した按分率を1カ月分の家賃にかけて、経費計上可能な額を求めます。 14万円×0.18=25,200 |
家事按分の際は、使用面積を基に地代家賃を求めるのが一般的です。物件の更新料や持ち家の減価償却費も地代家賃として経費にできる費用に含まれます。
電気料金
電気料金を家事按分するときは、利用時間と日数、業務で使用しているコンセントの差し込み口の数で計算する2通りの方法があります。
プライベートと事業で使用した電気代の総額が1カ月あたり15,000円、1日当たりの業務時間が5時間、週の労働日数が5日間としてそれぞれの計算方法で、家事按分を計算してみます。
【使用時間と日数で計算】
1週間自宅で業務を行った総時間 5(時間)×5(日)=25(時間) 1週間の総時間 24(時間)×7(日間)=168(時間) 上記から、按分率を求めます。 25(時間)÷168(時間)≒0.15 1カ月分の電気料金の総額に按分率をかけて、経費として計上できる電気代を求めます。 15,000(円)×0.15=2,250(円) |
【コンセントの差し込み口の数で計算】
自宅のコンセントの総数が25個、3個を業務で使用している事例で、経費に計上できる費用を求めます。按分率は、コンセントの数から導き出します。 3(個)÷25(個)=0.12 15,000(円)×0.12=1,800(円) |
例えば、自宅で料理教室などを開催しているなど、事業でガスや水道を使っている場合は、事業で使用した時間を基にして、家事按分を求めるといいでしょう。
通信費
業務で使用した下記費用は、通信費として家事按分できます。
- 携帯電話利用料
- インターネット利用料
通信費については、業務での使用日数と時間を基に経費として計上できる額を求める2通りの方法があります。1カ月当たりのインターネット使用料金が8,000円、1日7時間、週に5日業務を行っている例を基に、通信費を計算します。
【使用日数で計算】
まず、按分率を求めます。 5(日)÷7(日)≒0.71 8,000(円)×0.71=5,680(円) |
【使用時間で計算】
按分率を求めるために1週間あたりのインターネット使用時間を求めます。 7(時間)×5(日間)=35(時間) 35(時間)÷168(時間)≒0.21 8,000(円)×0.21=1,680(円) |
携帯電話も家事按分の対象ですが、業務で使用したという明確な根拠を示すのが難しいのが現状です。携帯電話の使用頻度が高いときは、プライベートと混用ではなく、業務用として新たに契約することも検討してみましょう。
自動車に関する費用
プライベートと業務で使用する自動車を兼用している場合、業務使用分を経費として計上できます。経費の対象となるのは以下の費用です。
- 車両購入代金
- ガソリン代
- 駐車場費用
- 保険料
- 高速代
- 自動車税
- 車検費用
自動車関連費用のうち、ガソリン代は走行距離や使用日数から計算できます。1カ月当たりの走行距離が100km(そのうち事業使用分は40km)、使用日数は週2回、1カ月のガソリン代が2,000円だった場合を例に、経費を計算してみます。
【走行距離で計算】
まず、按分率を求めてから、費用を計算します。 40(km)÷100(km)=0.4 2,000(円)×0.4=800(円) |
【使用日数で計算】
まず、按分率を求めてから、費用を求めます。 2(日)÷7(日)≒0.29 2,000(円)×0.29=580(円) |
自動車に関する費用を家事按分して経費計上するときは、事業として使用した分を明確にするために、記録を残しておくことが大切です。
関連記事:家事按分とは?経費にできる割合や目安、計算方法を解説
家事按分の記帳方法
事業用として使用した費用は、経費として計上しますが、毎月と一年分をまとめて記帳する2通りの方法があります。
どちらが記帳方法として適しているかは法律などで決まっていないため、自身が管理しやすいやり方を選んで構いません。
毎月記帳するよりも、一年分をまとめて記帳した方が、手間がかからないことがあります。実際に試してみて、自分に合った記帳方法を選んでみましょう。
関連記事:事務所兼住宅の住宅ローンを経費にしながら控除を受ける裏ワザとは?
家事按分をするときの注意点
適切な計算方法で家事按分をしているつもりでも、税務調査で指摘される可能性があります。ここでは、家事按分をするときに注意しておきたいポイントを紹介します。
基準を明確化すること
事業用として経費計上する際の基準を明確にしておくことです。おおよその基準で経費を計上してしまうと、費用としての妥当性を証明できないからです。
また、節税対策として経費を増やすために、実際に業務で使用している以上の割合で経費を計上することも控えましょう。
家事按分可能な費用について、計算方法が2通りある場合があります。費用の計算方法は統一するのが原則で、月ごとに計算方法を変えるなど、一貫性に欠ける経費計上はやめましょう。
利用時間や日数など明確な計上基準を設け、統一されたルールと計算方法に従って家事按分をすることです。税務調査があったときに、相手を納得させる説明ができるように、領収書や按分率の根拠を残しておきましょう。
家賃を経費計上する条件に注意
生計を共にしている親族や親に対して、事業として使用した場所の家賃を支払っている場合は、経費として認められません。誤って計上してしまうと、後日ミスを指摘される可能性が高いため、注意しましょう。
経費として計上するためのルールがあるため、必ず適用条件を確認したうえで費用計上することをおすすめします。費用の計上に不安があるなら、税理士に相談しましょう。
合理的な根拠を示す
経費として計上する際に、合理的な根拠を示せるものを残してください。按分率については、ある程度の基準が示されていますが、正解はありません。
家事按分のルールに従って正しく計算しているつもりでも、税務調査で指摘されることは十分にあり得ます。そこで、税務調査員に対して合理的な根拠を示すことで、事業に必要な費用として認めてもらうのです。
根拠を示す書類として以下のものが効果的です。
- 作業スペースを証明するための図面
- 作業時間の記録
家事按分の計算で迷ったときは、自己判断せずに税務署に相談するか税理士に相談してみましょう。効果的なアドバイスがもらえるはずです。
関連記事:家事按分とは?家賃や光熱費を経費計上する際の条件やポイントを解説!
申告方法による家事按分の違い
確定申告をしている個人事業主がほとんどですが、青色申告と白色申告をしている方に分かれます。ここでは、申告方法の違いによって、家事按分に違いがあるのか説明します。
青色申告
青色申告をしている個人事業主は、家事按分において業務で使用しているスペースや割合の比率に関する制限はありません。そのため、明確に業務に必要な経費であれば、経費として認められる可能性が高いです。
白色申告
プライベートと業務で使用した出費のうち、業務での必要性が50%を超えたときに、経費にできます。
とはいえ、実際は業務での使用や必要性が50%以下でも、経費としての妥当性を証明できれば、必要経費として認められます。
業務での必要度合いで、経費計上の可否が決まる白色申告ですが、経費計上における要件の違いはほとんどありません。ただし、申告方法に関わらず、経費としての根拠を示せるようにしておくことが大切です。
関連記事:個人事業主が経費計上できる項目と事例、経費の落とし方を徹底解説!
まとめ | 個人事業主は適切な家事按分で費用を計上しよう
個人事業主は、プライベートと事業で共有している費用を、家事按分で経費にできます。ただし、経費とするためには、経費としての妥当性や、計上基準の明確化といった合理的な説明が求められます。経費の計算や按分率など、不安があるときは、税理士に相談することをおすすめします。妥当な家事按分で費用を計上し、節税対策に活用しましょう。