源泉徴収するものと、しないものの基準は明確にされています。給与の支払いをする事業者には義務があり、正しい手続きをするのがポイントです。今回は源泉徴収する・しないの基準や対象の報酬・給与、計算方法、手続きの流れ、ペナルティなどを解説します。最後まで読めば、源泉徴収する、しないの基準に関する疑問点を解消できるでしょう。
目次
源泉徴収の基本情報
源泉徴収とは、給与や報酬などを支払う側が一定率の金額を天引きしたうえで、納税者の代わりに国に所得税を納める制度のことです。所得税は確定申告で申告・納付するのが特徴で、期間は1ヵ月間と定められています。
源泉徴収の制度があるおかげで、手続き上の負担や税務署での混雑の緩和などが実現できています。基本情報について、以下の表にまとめました。
納付期限 |
※特例を適用すると、年に2回の支払いに変更できる |
対象 | 給与を支払う個人、法人、学校、官公庁、社団など |
フリーランスと源泉徴収|対象となる報酬の種類や計算方法、注意点を解説
源泉徴収する・しないの基準
源泉徴収するのか、しないのかの基準は明確に決まっており、原則として以下に該当する場合は手続きを進めるのがポイントです。
個人への支払い |
|
法人への支払い | 馬主に支払う競馬の賞金:競馬の賞として支払われる金品の中で、現金が該当※副賞の賞品は範囲外 |
報酬などを支払う相手や状況によって、基準が決められていると知っておくとよいでしょう。
源泉徴収する報酬・給与
源泉徴収する必要がある報酬や給与で一般的なものは、具体的に以下の通りです。
- 従業員に支払う給与・賞与
- 原稿料や講演料
- 弁護士など資格保持者への報酬
- 広告宣伝目的の賞金
ここから詳細に見ていきましょう。
従業員に支払う給与・賞与
従業員へ支払う給与や賞与、退職金などが対象の1つとしてあげられます。従業員への給与に関しては、年末調整によって正しい所得税を算出したうえで、正しい金額を算出するのがポイントです。
もし従業員が年の途中で入社した場合、前職での給与も合計して自社で年末調整するのが特徴です。従業員が転職してきたあとで、なるべく早く源泉徴収票を受け取るとよいでしょう。年末調整終了後、従業員に発行する流れです。
原稿料や講演料
原稿料や講演料に関しては、以下に該当するものは手続きをするのがポイントです。
- 同じ目的で経費とした謝金、取材費、調査費、車代など
- 旅費や宿泊費※後述する通り、例外として扱われるケースもある
具体的にあげられるものは、以下の通りです。
- 挿絵
- デザイン
- 校正
- 著作権や工業所有権の使用料
- 写真
- 作曲
- 翻訳・通訳
- スポーツなどの指導への報酬
一方で、含まない費用に関しては以下の通り明確にされており、把握しておくとよいでしょう。
- 試験問題の出題料
- 答案の採点料
インボイス制度開始前後で、変更となった点はありません。
参考:「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき」国税庁
弁護士など資格保持者への報酬
以下の通り特定の資格を保有している方への報酬に関しては、手続きをするのがポイントです。
- 弁護士
- 税理士
- 司法書士
- 土地家屋調査士
- 海事代理士
- 外国法事事務弁護士
- 計理士
- 会計補士
- 弁理士
- 社会保険労務士など
行政書士への報酬に関しては範囲外となっており、手続きをする必要がありません。
参考:「No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」国税庁
広告宣伝目的の賞金
以下の通り、広告目的の賞金などに関しては原則として手続きをするのが特徴です。
- 商品やサービスなどを広告宣伝をするうえで発生する賞金や賞品
- 素人参加のクイズ番組やのど自慢の賞品や賞金など
一方で、以下のケースは例外として扱われることを押さえておくとよいでしょう。
- 旅行
- 国や地方公共団体などが主体となり実施するもの
金額を計算するときは、原則として物品の処分見込価額を適用するのがポイントです。
源泉徴収しない報酬・給与
源泉徴収しなくてもよい報酬や給与に該当するものは、具体的に以下の通りです。
- 88,000円未満である従業員の給与
- 法人への報酬
- 報酬に含まれない消費税
- 弁護士などへの報酬のうち通常必要な範囲内の費用
それぞれ詳しく解説します。
88,000円未満である従業員の給与
範囲外で扱われるものとして、月額88,000円未満の従業員への給与があげられます。雇用形態に関係ないものの、扶養控除等申告書を提出している場合に限られる点には注意が必要です。
従業員の扶養控除等申告書がないと、給与から最低でも3.063%の所得税を源泉徴収する必要性が生じます。扶養控除等申告書を提出できるのは、1つの事業者に限られるのが特徴です。
従業員の中に掛け持ちで働いている方がいる場合、月額給与に関係なく手続きをするのがポイントです。
日雇いや2ヵ月以内の短期従業員に対しては、給与や申告書の有無などに関係なく手続きをするとよいでしょう。
法人への報酬
法人への報酬に関して、基本的には範囲外として扱われるのが特徴です。法人の支払いで源泉徴収するものは、馬主の法人への競馬の賞金のみと定められているためです。
報酬の支払先が法人であるのか判断するうえでは、以下の点をチェックするとよいでしょう。
- 法人税を納める義務がある
- 定款や日々の事業内容などより、団体として独立していることが明確である
条件を満たしていない場合、個人として見なすのがポイントです。
報酬に含まれない消費税
請求書などにおいて消費税と報酬額が分けられている場合、消費税は対象となりません。
一方で、報酬に消費税を含む場合、消費税込みの金額で手続きをするのがポイントです。例えば、弁護士から99,000円の請求書を受け取った場合、以下の通り書き方によって適切な対応をとるとよいでしょう。
- 請求額99,000万円:99,000円の10.21%の金額
- 請求額90,000円・消費税など9,000円:90,000円の10.21%の金額
請求額に消費税を含んでいる方が、金額は大きくなるのが特徴です。
参考「No.6929 消費税等と源泉所得税及び復興特別所得税」
弁護士などへの報酬のうち通常必要な範囲内の費用
弁護士や税理士などに支払う報酬の中で、以下に該当する費用は手続きをしなくてもよいのが特徴です。
- 交通機関に支払う交通費
- ホテルなどに支払う宿泊費など
支払者が直接支払いをする場合で、一般常識の範囲内であると認められると、手続きをする必要がありません。登録免許税や手数料など、弁護士などに支払う費用であっても、国などに対して納付すべきものであると範囲外です。
参考:「No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」国税庁
源泉徴収する所得税を計算するには
源泉徴収の所得税を計算するには、国税庁の源泉徴収税額表を参照するのがポイントです。給与所得者に対するものと賞与に対するものとに分けられており、状況に応じて使い分ける必要があります。
毎年更新されるのが特徴で、1月の給与を支払うタイミングで最新のものを利用すると知っておくとよいでしょう。月給制の場合は月額表を、日払いなどの場合は日額表の対象です。
以下の通り、対象によって計算方法は異なります。
給与 |
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賞与 | 【給与所得者の扶養控除等申告書を提出している方】
【前月給与の10倍を超える賞与がある方】
※賞与の対象期間が6ヵ月を超える方は12が適用される 【前月に給与の支払いがない方】
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報酬の源泉徴収 |
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【個人事業主】バイト先で源泉徴収票が出ない場合は確定申告はどうなる?
源泉徴収の手続きの流れ
手続きをする場合、基本的には以下の流れで手続きを進めます。
- 税務署に書類(給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書)を提出する:初めて従業員を雇用するときや、法人を設立した方(1人社長でも)が対象である
- 所得税を納める:原則として翌月10日までが期限として定められている
- 年末調整する:本来納付すべき所得税よりも源泉所得税の方が多い場合は還付、少ない場合は追加で徴収する
所得税は以下のいずれかの方法で納付できます。
- e-Tax
- 所得税徴収高計算書を添えたうえで、金融機関か税務署に持参する
上記の流れで算出した所得税は、納税地を管轄する税務署に納付するのがポイントです。
源泉徴収が必要なのにしないでいるとどうなる?
必要があるにもかかわらず、納付を怠ると以下のペナルティを課される可能性があります。
不納付加算税 |
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延滞税 |
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適切に対応しないと、余分に税金を納めたり税務署からの信頼を失ったりする可能性が高いです。手続きなどを難しく感じるかも知れませんが、必要な手続きは期日までに済ませるのがポイントです。
源泉徴収に関する相談は税理士へ
源泉徴収をする・しないの基準や対象の報酬と給与、計算方法、流れなどを解説しました。
原則として、給与や報酬を支払う事業者は、源泉徴収によって所得税を国に納付するのがポイントです。条件を満たす場合は源泉徴収が義務で、怠るとペナルティを課される点には注意が必要です。
源泉徴収は事業者にとって重要な手続きである一方、手が回らないと悩んでいるケースもあるでしょう。源泉徴収する時間や労力を削減するには、税理士の力を頼るのが賢明です。
小谷野税理士法人では、源泉徴収を始めとする税務全般をサポートしてきた豊富な実績があります。悩みごとがある場合、まずはお気軽にご相談ください。