NPO法人(非営利組織)は、社会貢献を目的とした団体です。設立には、特定の要件を満たし、所定の手続きを経る必要があります。この記事では、NPO法人の特徴から、設立に必要な条件、具体的な手続きの流れ、そして設立時の注意点について詳しく解説します。これからNPO法人を設立しようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
NPO法人の特徴
NPO法人(非営利組織)は「特定非営利活動法人」とも呼ばれ、社会貢献を目的として活動する団体です。利益を追求するのではなく、公共の利益を高めることを主な目的としています。
NPO法人と一般的な法人との違い
NPO法人と一般的な法人(営利法人)にはいくつかの共通点と違いがあります。まず、共通点としては、どちらも法人格を持ち、法的に認められた団体であることが挙げられます。また、活動を行うためには、一定の手続きや規制を遵守しなければなりません。
以下の表に、NPO法人と一般的な法人の違いをまとめました。
項目 | NPO法人 | 一般的な法人(営利法人) |
目的 | 公共の利益を高める | 利益を追求し、株主や出資者に分配 |
利益の扱い | 再投資して社会貢献 | 株主や出資者に分配 |
収入源 | 寄付金、助成金、会費など | 商品やサービスの販売収益 |
設立費用 | 不要 | 必要 |
情報開示 | 義務あり | 義務なし(ただし、公開会社は義務あり) |
NPO法人は公共の利益を高めることを目的として活動を行う点が特徴的です。営利法人は利益を追求し、株主や出資者に利益を分配することが主な目的ですが、NPO法人は得た利益を分配せず、再投資することで社会貢献を図ります。また、NPO法人は多様な収入源を持ち、寄付金や助成金、会費などから資金を調達します。設立費用が不要である点もNPO法人の特徴です。
さらに、NPO法人は情報開示の義務があり、活動内容や財務状況を公開する必要があります。情報開示により、行政の監督を受け、透明性が確保されます。NPO法人は、社会的責任を果たしながら公共の利益を追求する、独自の法人形態と言えるでしょう。
参考:特定非営利活動(NPO法人)制度の概要|内閣府NPOホームページ
NPO法人と社会福祉法人との違い
NPO法人と同じく、社会福祉法人も公共の利益を目的として活動する非営利組織です。どちらも利益を分配せず、得た収益を再投資して社会貢献を図ることが求められます。また、情報開示の義務があり、透明性を確保するために活動内容や財務状況を公開する点も共通しています。
以下の表に、NPO法人と社会福祉法人の違いをまとめました。
項目 | NPO法人 | 社会福祉法人 |
目的 | 広範な社会貢献活動 | 福祉サービスの提供 |
設立根拠 | 特定非営利活動促進法 | 社会福祉法 |
設立費用 | 不要 | 一定の資産要件が必要 |
行政監督 | 柔軟な活動が可能 | 厳しい監督と認可が必要 |
収入源 | 寄付金、助成金、会費など | 主に福祉サービスの提供収益 |
社会福祉法人は主に福祉サービスの提供を目的としており、特定の法律(社会福祉法)に基づいて設立されるのが特徴です。これに対して、NPO法人はより広範な社会貢献活動を目的としており、特定非営利活動促進法に基づいて設立されます。また、社会福祉法人は設立に際して一定の資産要件が必要ですが、NPO法人は設立に費用がかかりません。
さらに、社会福祉法人は行政からの監督が厳しく、特定の福祉サービスを提供するための認可が必要です。一方、NPO法人は多様な活動分野で柔軟に活動できる点が特徴です。
NPO法人とNPOとの違い
NPO法人とNPO(非営利組織)は、どちらも公共の利益を目的として活動する点で共通しています。
以下の表に、NPO法人とNPOの違いをまとめました。
項目 | NPO法人 | NPO |
法人格 | あり | なし(法人格を持たない団体も含む) |
設立根拠 | 特定非営利活動促進法 | 法的手続き不要 |
行政監督 | あり | なし |
収入源 | 寄付金、助成金、会費など | 活動内容や規模に応じて異なる |
NPO法人は特定非営利活動促進法に基づいて法人格を取得した団体であり、法的に認められた法人格を持つ点が特徴です。一方、NPOは法人格を持たない団体も含まれ、より広範な非営利活動を行う組織全般を指します。NPO法人は設立に際して所定の手続きを経る必要があり、行政の監督を受けますが、NPOはそのような法的手続きが不要です。
また、NPO法人は多様な収入源を持ち、寄付金や助成金、会費などから資金を調達しますが、NPOはその活動内容や規模に応じて収入源が異なる場合があります。
NPO法人とNGOとの違い
NPO法人とNGO(非政府組織)は、どちらも公共の利益を目的として活動する非営利組織であり、利益を分配せずに再投資する点で共通しています。
以下の表に、NPO法人とNGOの違いをまとめました。
項目 | NPO法人 | NPO |
主な活動範囲 | 国内 | 国際的(特に発展途上国) |
目的 | 社会貢献活動 | 支援や人道的援助活動 |
設立根拠 | 特定非営利活動促進法 | 法的手続き不要(法人格を持つ場合もあり) |
収入源 | 寄付金、助成金、会費など | 国際的な支援機関や政府からの資金援助 |
NPO法人は国内での社会貢献活動を主な目的としていますが、NGOは国際的な活動を行うことが多く、特に発展途上国での支援や人道的な援助活動を行うことが一般的です。NGOは法人格を持つ場合もありますが、必ずしも法的な手続きを経て設立されるわけではありません。
また、NPO法人は多様な収入源を持ちますが、NGOは国際的な支援機関や政府からの資金援助を受けることが多いです。
NPO法人を設立するための条件
NPO法人を設立するためには、いくつかの条件を満たし、所定の手続きを経る必要があります。以下に、NPO法人設立のための主要な条件を解説します。
公益性の高い活動目的であること
NPO法人の設立には、特定非営利活動促進法に基づく活動目的が必要です。具体的には、社会教育・まちづくり・環境保護・国際協力・福祉の増進など、公益性の高い活動を行うことが求められます。
例えば、環境保護活動を通じて地域社会の環境意識を高めることなどが該当します。主な事業が公益性の高い活動でない場合や、宗教活動または政治活動を主たる目的とする場合は、NPO法人の設立が認められません。
営利を目的としないこと
NPO法人は、営利を目的としないことも条件の一つです。利益を追求するのではなく、得た収益を再投資して社会貢献を図ることが求められます。
例えば、活動で得た収益は、新しい社会貢献プロジェクトを立ち上げるために活用されるべきです。NPO法人は利益を分配せず、社会貢献を目的とすることを前提に設立する必要があります。
最低10人以上の社員がいること
NPO法人の設立には、最低10人以上の社員(発起人)が必要です。社員はNPO法人の運営に関与し、総会での議決権を持ちます。
社員には特別な条件はなく、家族を含めることも可能ですが、役員には制限があります。例えば、役員総員が5人以下のときは、役員のうち配偶者や三親等以内の親族が一人も就任撃ません。
設立を目指す場合は、経済団体やサークル活動、同窓会の仲間、親族などから同じ志を持つ人を10人集めることが一般的です。
暴力団が関与していないこと
NPO法人の設立には、暴力団やその構成員が関与していないことが条件の一つです。暴力団やその構成員の統制下にある団体はNPO法人として認められません。元暴力団員やその構成員でなくなった日から5年を経過していない者の統制下にある団体も同様です。
NPO法人の設立には、暴力団排除の観点から厳格なチェックが行われます。暴力団やその構成員がNPO法人を利用して暗躍することを防ぐために、役員になる人は「就任誓約及び誓約書」で暴力団ではないことを誓約しなければなりません。これにより、NPO法人が健全な運営を行うための基盤が確保されます。
報酬を受ける役員の数は全役員の3分の1以下
NPO法人の役員報酬には、「報酬を受ける役員数が役員総数の1/3以下であること」という制限があります。例えば、役員が9人いる場合、報酬を受け取れるのは3人までです。
ただし、役員が職員を兼務する場合、その労働の対価としての給与(役員給与)は役員報酬に含まれません。
役員や理事に報酬を支払う予定がある場合には、設立時に注意が必要です。
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NPO法人を設立する流れ
NPO法人を設立するためには、所轄庁に設立の認証を受けた後に、法人登記を行う必要があります。以下では、具体的な設立認証申請の方法について説明します。
NPO法人設立認証申請を行う
NPO法人を設立する場合、まず都道府県、政令指定都市、または権限委譲された市町村に設立認証申請を行います。原則として、主たる事務所を設置する場所を所管する所轄庁が申請先です。例えば、事務所が東京都にしかない場合、東京都知事が所轄庁となり、申請書類は東京都庁に提出します。
しかし、従たる事務所を設置する場合は申請先が変更になることもあるため、事前に最寄りの所轄庁に確認しましょう。
申請には、以下の書類が必要です。
- 設立認証申請書(1部)
- 定款(2部)
- 役員名簿(2部)
- 役員就任承諾書及び宣誓書(1部)
- 役員の住所を証する書面(住民票の写し、各1部)
- 社員のうち10人以上の者の名簿(1部)
- 確認書(1部)
- 設立趣意書(2部)
- 設立についての意思の決定を証する議事録(1部)
- 設立当初の事業年度及び翌年度の事業計画書(各2部)
- 設立当初の事業年度及び翌年度の収支予算書(各2部)
所轄庁によって提出部数が異なる場合があるため、事前に確認しましょう。
設立認証申請が受理されると、公報に掲載され、受理した日から1ヵ月間公衆に縦覧されます。縦覧される書類は、定款・役員名簿・設立趣意書・事業計画書・活動予算書です。例えば、東京都に申請された情報は、東京都生活文化スポーツ局のホームページで確認できます。
都道府県によって多少異なりますが、申請書が受理されてから約4ヵ月で認証または不認証の決定が行われます。
参考:設立の認証のための申請手続(PDF)|NPO内閣府ホームページ
NPO法人設立登記申請を行う
NPO法人設立の認証書を受け取った後、2週間以内に主たる事務所の所在地の法務局で設立登記を行います。登録手数料はかかりませんが、登記を完了しないと法人として正式に成立しません。
提出する書類には、以下のものがあります。
- 設立登記申請書(1部)
- 所轄庁で認証を受けた定款(1部)
- 設立認証書(1部)
- 理事の就任承諾書(人数分)
- 設立当初の財産目録(1部)
- 委任状(代表者以外が申請手続きを行う場合、1部)
- 登記用紙(1部)、印鑑届書(1部)
- 理事の印鑑証明書(1部)
設立登記申請書の書き方は、法務局のホームページから確認できます。なお、設立初年度の事業期間や役員の任期の始期は、登記日からです。
登記簿謄本などの必要書類を提出する
設立登記が完了したら法人として成立しますが、登記をしたことを証明する書類を所轄庁に届け出る必要があります。遅滞なく、以下の書類を提出しましょう。
- 設立登記完了届出書(1部)
- 登記簿謄本(1部)
- 登記簿謄本の写し(2部)
- 定款(2部)
- 設立当初の財産目録(2部)
上記の書類は所轄庁で一般公開されます。また、NPO法人として活動する上で、事業報告書等を所轄庁に毎年提出する必要がありますが、これも一般公開されます。
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NPO法人を設立する際の注意点
ここからは、NPO法人を設立する際に、注意すべき点について解説します。手続きを進める前に、以下3つのポイントを押さえておきましょう。
設立手続きから事業開始までに時間がかかる
株式会社や合同会社などの営利法人は、定款作成や設立登記のみで済むため、通常1週間から2週間ほどで手続きを完了できます。一方、NPO法人の設立には最低でも3ヵ月から半年程度、長い場合には1年以上もの時間がかかります。
- 所轄庁に提出する書類作成:14日〜1ヵ月程度
- 住民票の請求や定款の作成:1ヵ月半〜2ヵ月程度
- 縦覧:2週間〜1ヵ月間
- 審査:最大2ヵ月程度
所轄庁での審査が無事に通った後は、登記申請を行いますが、申請が受理されるまでには最大で1週間前後かかることが一般的です。これらの手続きを全て合計すると、3ヵ月から半年程度かかる計算になります。ただし、書類の準備や審査の状況によっては、1年近くかかることもあります。
NPO法人の設立には多大な時間がかかるため、社会貢献の活動をすぐに始めたい場合は、早めに行動を開始することが大切です。
代行を依頼する場合は手数料10〜30万円程度が相場
NPO法人の設立には多大な手間がかかりますが、設立代行を依頼するとスムーズです。自力で設立すれば費用は抑えられますが、膨大な資料作成や手続きに数ヵ月の時間と労力を費やす必要があります。特に、NPO法人は株式会社や合同会社と比べて手続きが多く、負担も大きくなりがちです。
限られた時間と労力を新しい事業に集中させたい経営者にとって、設立手続きに時間を取られるのは好ましくありません。そのため、法律の専門家である行政書士などに、NPO法人設立の手続きを依頼することが一般的です。行政書士は法律に関する国家資格を持ち、公的機関に提出する書類作成や提出手続きの代理を行います。NPO法人の設立も得意分野であり、設立認証や設立登記といった手続きを代行してくれます。
行政書士に依頼する場合の費用は、事務所によって異なりますが、一般的には10万円から30万円程度です。費用が高いほどサポートが充実している場合が多いですが、安いところでも十分なサポートを提供している場合もあります。
NPO法人ならではの会計基準が存在する
NPO法人は営利を目的としていないため、企業の経営状態や資産を投資家に提供するのではなく、寄付者や市民に対して情報提供を行うことが求められます。活動の透明性や寄付金の適切な使用を周囲に示すためには、特有の会計基準(NPO法人会計基準)に従う必要があるのです。
この基準は法律で定められたものではなく、民間団体が協力して作成したもので、利用は任意です。しかし、正確で比較可能な会計報告書を作成するために、多くのNPO法人がこの基準を採用しています。企業会計基準に近い内容ですが、NPO法人特有の会計処理も含まれているため、注意しましょう。
また、NPO法人が収益事業を行う場合、収益事業とそれ以外の事業を区分して会計処理を行う必要があります。収益事業とは、物品販売やサービス提供などの収益を得るための事業で、明確に区分することで法人の財務状況を正確に把握し、透明性を確保できます。
また、NPO法人は利益が残れば法人税や法人住民税がかかる場合があります。免除制度もありますが、申請作業が必要です。詳しくは、各自治体のホームページでご確認ください。
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ポイントを押さえてNPO法人を設立しよう
NPO法人の設立には、公益目的や非営利性などの条件を満たし、所定の手続きを経る必要があります。設立には時間がかかるため、計画的な準備が重要です。
また、会計処理には高い透明性が求められ、収益事業と非収益事業を区分して管理する必要があります。経理処理も一般の法人とは異なるため、税理士など専門家のサポートを利用することをおすすめします。
NPO法人の設立を検討している方や、安心して社会貢献活動に専念したい方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。