動物病院の経営において、経費の削減は経営の安定に欠かせません。無駄な支出を減らし、効率的な運営を目指すことが大切です。この記事では、動物病院が取り入れるべき9つの具体的な経費削減方法と節税対策を詳しく解説します。動物たちにより良い医療を提供するための参考にしてください。
目次
動物病院の経費を削減した方が良い理由
経費削減は、動物病院の経営をより堅実で安定したものにし、長期的な成長と発展を支えるために重要です。ここでは、動物病院が経費を削減するべき理由として、以下の3つを解説します。
利益率の向上につながる
動物病院の経費を削減することは、利益率の向上に直結します。経費を抑えることで、収益の一部を無駄な支出に費やすことなく、純利益として確保できるのです。
例えば、人件費や医療機器の仕入れコストを見直したり、予約制を導入することで、運営コストの削減につながります。また、スタッフの労働効率を向上させるための研修やシステムの導入も有効です。
経費の削減により、同じ収入でもより多くの利益を確保でき、経営の安定化や将来的な投資に充てる資金を増やせます。経費削減は、動物病院の長期的な経営に欠かせない戦略と言えるでしょう。
価格競争力を強化する
農林水産省の調査によると、2023年には日本国内の動物病院数が12,706件に達し、過去10年間で1,674件増加しています。ペット飼育頭数の増加を鑑みても、動物病院間の競争が激化していると言えるでしょう。
このような状況下において、経費の削減は、価格競争力の強化にもつながります。経費を抑えることで、サービスの価格を他の病院よりも低く設定する余地が生まれ、顧客が自院を選んでくれる可能性が高まるでしょう。
また、経費を抑えることで、他の病院よりも低価格でサービスを提供できれば、リピーターの増加や新規顧客の獲得が期待できます。特に競争が激しい地域では、価格設定が顧客の選択に与える影響も大きいでしょう。
参考:飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)|農林水産省
予期せぬリスクに備える
経営においては、突然の設備故障や自然災害、スタッフの急な退職など、予測不可能なリスクが常に存在します。こうしたリスクに直面した際、経費を削減して蓄えた資金があれば、迅速に対応することが可能です。
例えば、設備の修理や新しいスタッフの採用にかかる費用をカバーするための緊急資金として活用できます。また、経費削減によって生まれた余剰資金をリスク管理のための保険や予備費として積み立てることも可能です。
予期せぬ事態が発生しても、経費削減で確保した資金をプールしておくことにより、病院の運営に大きな支障をきたすことなく、安定したサービス提供を続けやすくなるでしょう。
動物病院で取り入れたい経費削減の方法
動物病院の経営を効率化し、利益を最大化するためには、さまざまな経費削減の方法を知り、必要に応じて組み合わせることが重要です。ここでは、経費を削減する9つの具体的な方法を紹介します。
完全予約制の導入を検討する
完全予約制を取り入れ、予約がない時間帯に診療を行わないことで、経費の削減が可能です。例えば、待合室や診察室の照明や空調を必要最低限に抑えることで、光熱費を節約できます。診療のスケジュールも明確になるため、スタッフの労働時間を効率的に管理でき、人件費の削減にもつながるでしょう。
予約の管理は難しいと思われるかもしれませんが、オンライン予約システムを導入することで、電話対応にかかる時間と労力を減らし、効率的に受付業務を行えます。オンライン予約システムは、無料で使えるものもありますが、有料のものでも月額5,000円〜1万円が相場です。
完全予約制は、経費削減だけでなく、患者と飼い主の待ち時間を短縮し、サービスの質向上にもつながります。病院側と顧客側の双方にメリットがあるため、検討する価値はあると言えるでしょう。
開院時間の見直し
完全予約制の導入が難しい場合でも、来院が少ない時間帯を短縮することで、人件費や光熱費の削減が期待できます。
例えば、平日の午前中や夕方の来院が少ない時間帯を調査し、その時間を短縮することで、スタッフの労働時間を減らし、電気や空調の使用を抑えることが可能です。また、短縮した時間を有効活用し、スタッフの研修や院内の清掃、在庫管理などに充てることで、業務の効率化も図れます。
まずは来院データを分析し、どの時間帯が最も効率的に短縮できるかを見極めることが重要です。無駄なコストを削減し、経営の安定化を図ることが期待できます。
雑誌の購読費用を削減する
受付に置かれている雑誌を廃止したり、タブレットに置き換えたりすることで、購読費用を削減することが可能です。年間で見ると雑誌の定期購読は意外と高く、毎月の経費を圧迫する要因となり得ます。
また、雑誌の管理や更新の手間も省けるため、スタッフの労力を他の業務に振り向けることもできるでしょう。
タブレットを利用すれば、最新の情報やコンテンツを簡単に提供できるため、飼い主にも喜ばれるかもしれません。経費削減だけでなく、業務効率の向上や顧客満足度の向上にもつながるため、動物病院の経営者にとって有益な取り組みです。
電子カルテを導入する
電子カルテを導入することで、紙カルテの管理にかかる時間と労力が大幅に削減されます。そのため、スタッフはより多くの時間を患者ケアに充てられ、顧客満足度の向上にもつながるのです。
また、電子カルテは情報の検索や共有が素早く行えるため、診療のスピードと正確性が向上します。さらに、紙カルテの保管スペースが不要となり、院内のスペースを有効活用できます。
電子カルテの初期導入コストは、クラウド型でも数万円から数十万円と、設備投資として決して安くはないかもしれません。しかし、導入後の業務効率化によるメリットを考慮すると、その価値は十分にあると言えるでしょう。長期的には人件費や運営コストの削減が期待できます。
医療機器はレンタルやリースにする
動物病院の経営において、高価な医療機器の導入は大きな負担となりますが、リースやレンタルを利用することで、初期費用を抑えることが可能です。新しい機器を購入する場合、数百万円から数千万円の初期投資が必要ですが、リースなら月々の支払いに分散されるため、資金繰りが楽になります。
また、リース契約にはメンテナンスや修理が含まれていることが多く、予期せぬ故障や修理費用の心配も軽減されるでしょう。さらに、技術の進歩が早い医療機器において、最新の機器に乗り換えやすいメリットもあります。
ただし、医療機器を長く利用することを考えると、総額で支払う費用は購入した方が安い場合もあります。経営が軌道に乗ってきたら購入するなど、収支のバランスを見て柔軟に検討しましょう。
光熱費を見直す
動物病院の経費削減には、光熱費の見直しも効果的です。例えば、節水器を導入することで、診察や手術で頻繁に使用する水道料金を抑えられます。
また、照明の見直しも有効です。従来の電球をLED電球に交換することで、電力消費を大幅に削減できます。LED電球は寿命が長く、交換頻度も少ないため、長期的なコスト削減につながるのです。
さらに、電力会社の切り替えも経費削減のポイントです。複数の電力会社を比較し、最もコストパフォーマンスの良いプランを選ぶことで、電気料金を削減できます。特に、動物病院は24時間体制で運営されることが多いため、電力消費が多く、適切なプラン選びが重要です。
正社員とパート従業員のバランスを見直す
正社員は専門知識や経験が豊富で、病院の中核を担う存在ですが、すべての業務を正社員で賄うと人件費が高くなりがちです。そこで、パート従業員を適切に活用することで、サービスの質を維持しつつ、コストを抑えられます。
例えば、受付業務や清掃、簡単なケア業務など、専門知識を必要としない業務はパート従業員に任せることで、正社員はより専門的な業務に集中できます。その結果、業務の効率化が図れ、患者へのサービス向上にもつながるでしょう。
また、パート従業員のシフトを柔軟に組むことで、繁忙期や閑散期に応じた人員調整もしやすくなります。経営者としては、適切な人員配置を心掛け、効率的な運営を目指すことが求められます。
システムやツールの導入
システムやツールを導入することも、経費削減に効果的です。手作業による予約管理には時間がかかる上に、ミスも発生しやすいです。人件費の削減や業務効率化のためにも、受付システムの導入を検討してみましょう。
オンライン予約システムを導入することで、予約の管理が自動化され、スタッフの手間を大幅に削減できます。受付業務の効率が向上し、患者への対応もスムーズになるでしょう。
また、給与計算システムの導入もおすすめです。給与計算は手作業で行うとミスが発生しやすく、時間もかかります。専用のシステムを導入することで、給与計算が自動化され、正確かつ迅速に行えるようになるのです。経理担当者の負担が軽減され、他の重要な業務に集中できるようになります。
システムやツールの導入は初期投資が必要となる場合が多いですが、長期的には経費削減と業務効率の向上につながります。
無料通話アプリの活用
仕入先や飼い主さんとの連絡手段を見直すことで、通信費を大幅に削減できます。LINEなどの無料通話アプリは、メッセージのやり取りも簡単で、診療の予約や相談にも便利です。
また、無料通話アプリはビデオ通話機能も備えているものが多く、遠方の飼い主さんとの詳細な相談や、ペットの状態を確認する際にも役立ちます。電話代だけでなく、時間と労力も節約できるでしょう。
利益を増やすには節税対策も大切
経費の削減は、企業の利益を増やすための手段です。経費を減らすことで、利益が増え、企業の財務状況が改善されます。一方、節税は、合法的に税金を減らすための方法です。経費を正しく計上することで、課税所得を減らし、結果として支払う税金を減らせます。
具体的には、経費として認められる支出を過不足なく計上することで、実際の利益を小さくでき、所得税や法人税の負担が軽減されます。この結果、節税が実現し、病院のキャッシュフローの改善にもつながるのです。
経費削減と節税の両方を効果的に行うことで、動物病院の財務状況を改善することが可能です。経費削減に合わせて節税対策を取り入れ、より安定した経営を目指しましょう。
動物病院が取り入れたい節税対策
節税対策は一つではなく、複数の対策を組み合わせることで、より多くの税金を抑えられます。ここでは、主に個人事業主の動物病院が取り入れるべき節税対策の一例をご紹介します。
青色申告をする
青色申告を選択することで、最大65万円の控除を受けられます。「複式簿記」と呼ばれる記帳が必要となりますが、近年では会計ソフトも充実しており、利用すれば比較的簡単に対応できるでしょう。
会計ソフトはクラウド型のもので月額1,000円程度の利用料が発生しますが、自動で仕訳を行い、記帳の手間を大幅に軽減してくれます。また、記帳の代行だけでなく、他の節税対策や経費削減の相談も兼ねて、税理士に相談する方法もおすすめです。
なお、青色申告をする場合は、動物病院の事業を開始した日から2月以内に、納税地の所轄税務署長に青色申告承認申請書を提出する必要があります。
動物病院の経営者にとって、青色申告は節税効果が高く、効率的な経営を目指す上で重要な手段です。以下の記事では、青色申告のメリットや手続き方法について分かりやすく解説していますので、合わせて参考にしてください。
関連記事:個人事業主の入門編!青色申告とは?メリットと手続き方法をわかりやすく解説
経費を正しく計上する
経費を過不足なく、正しく計上することは節税対策の基本です。所得税や住民税は、売上から経費を引いた「所得」に基づいて計算されます。広告費や福利厚生費、自動車税など、事業に関連する費用をしっかりと経費として計上し、課税所得を減少させましょう。
前払費用を経費に計上する
前払費用の計上も、有効な節税対策の一つです。例えば、年払いの保険料を前払いすることで、その費用を当期の経費として計上できます。前払費用の計上により、当期の課税所得を減少させることが可能ですが、翌年以降も同様の処理を継続する必要があります。
前払いする費用が多いほど、翌年以降の経費計上が難しくなる可能性があるため、計画的な資金管理が大切です。詳細は、税理士などの専門家にご相談されることをおすすめします。
少額減価償却資産の特例を利用する
青色申告を行っている場合、30万円未満の固定資産は一度に経費として計上できます。これは「少額減価償却資産の特例」と呼ばれ、利益が多い年に経費を増やし、課税所得を減少させることが可能です。
例えば、新しい診療機器やパソコンなどを購入する際、この特例を利用することで、即時に経費として計上でき、税負担を軽減できます。
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
法人化する
事業規模の拡大に合わせて、法人化を検討することも節税対策として有効です。個人事業主としての所得税は累進課税制度により高額になることが多いですが、法人化することで法人税の適用を受け、税率を抑えることが可能です。
さらに、法人化することで相続税や贈与税の回避も期待できます。例えば、事業を次世代に引き継ぐ際、法人の株式として贈与することで、個人資産としての贈与よりも税負担を軽減できるのです。
以下の記事では、一般的な個人事業主が法人化を検討する目安について詳しく解説しています。動物病院にも当てはまる内容ですので、合わせて参考にしてみてください。
関連記事:【税理士監修】会社設立する売上目安とは?個人事業主の所得・年商ならいくらから?法人成りのメリット・デメリットも紹介
小規模企業共済に加入する
「小規模企業共済」とは、事業主が退職金を積み立てるためのもので、掛け金は全額所得控除の対象です。月々の掛け金は1,000円から70,000円まで自由に設定できるため、経営状況に応じて無理なく始められます。
特に、動物病院のような小規模事業者にとって、将来の退職金を確保しつつ、現在の税負担を軽減する有効な手段となるでしょう。以下の記事で「小規模企業共済」について詳しく解説していますので、参考にしてください。
関連記事:小規模企業共済のメリットと加入ガイド
参考:小規模企業共済とは|独立行政法人 中小企業基盤整備機構
経営セーフティ共済に加入する
「経営セーフティ共済」とは、倒産防止共済とも呼ばれ、取引先が倒産した際に無担保・無保証人・無利息で借入ができる制度です。経営の安定を図れるだけでなく、掛け金は全額が経費の対象となるため、節税効果も期待できます。
動物病院の経営は予測が難しいことも多いため、こうした共済制度を活用することで、リスクを軽減しつつ財務の健全性を保つことが可能です。以下の記事では、経営セーフティ共済のメリットや節税効果について詳しく解説していますので、合わせて参考にしてください。
関連記事:経営セーフティ共済とは?メリットや節税効果などについて解説
参考:経営セーフティ共済とは|独立行政法人 中小企業基盤整備機構
生命保険料控除を活用する
生命保険料控除を活用することで、所得税や住民税の負担を軽減できます。生命保険や個人年金保険の支払いに対して、一定金額が所得から差し引かれるため、結果として税金の負担が軽くなるのです。
例えば、年間の保険料支払いが多い場合、その分控除額も増えるため、節税効果が高まります。
動物病院の効率的な運営には専門家のサポートも有効
動物病院の本業は動物たちのケアをすることですが、その経営においては経費削減と節税対策が大切です。今回ご紹介した9つの方法を取り入れることで、無駄な支出を抑えて利益を最大化し、効率的な経営が期待できるでしょう。
しかし、具体的な実施方法や適用範囲については専門的な知識が必要です。専門家のサポートを受けることで、より効果的な経費削減と節税対策が実現できます。税務に関する疑問や具体的なアドバイスが必要な場合は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。