合同会社の資本金は、自社に合った金額を選ぶことが重要です。一般的には、開業費用と運転資金の3〜6ヵ月分をベースに考えます。業種や企業の特性によって適切な金額が異なりますが、資本金が多いと信用度が増し、少ないと節税につながるメリットがあります。資本金を決める際には、慎重に計画を立てて後悔しないようにしましょう。
目次
合同会社の資本金の相場はいくら?
合同会社を設立する際、資本金はいくらが相場なのでしょうか。ここでは、資本金の平均額や法律上の最低金額、さらに現実的な相場について解説します。
資本金の平均額は「160万円」
法務省の登記統計をもとに調査した結果、2024年2月の合同会社の設立登記総件数は3,187件で、総金額は50億8,548万円でした。これをもとに、合同会社における資本金の平均額を求めると「約160万円」となります。
なお、資本金階級ごとの設立登記件数とその金額は以下の通りです(2024年2月分)。
資本金階級 | 件数 | 金額 | ||
100万円未満 | 1,575 | 49.4% | 2億9,437万円 | 5.8% |
100万円以上 | 932 | 29.2% | 10億8,453万円 | 21.3% |
300万円以上 | 255 | 8.0% | 8億402万円 | 15.8% |
500万円以上 | 395 | 12.4% | 21億9,055万円 | 43.1% |
1,000万円以上 | 24 | 0.8% | 2億4,800万円 | 4.9% |
2,000万円以上 | 2 | 0.1% | 6,401万円 | 1.3% |
5,000万円以上 | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% |
1億円以上 | 4 | 0.1% | 4億円 | 7.9% |
10億円以上 | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% |
総数 | 3,187件 | 50億8,548万円 |
参考:登記統計 商業・法人登記の種類別・資本金階級別 会社の資本金の額の変動の件数及び金額|政府統計の総合窓口
上記の表を見ると、およそ半数の企業が出資金100万円未満でスタートしていることが分かります。また、資本金300万円未満で設立している合同会社は、全体の約78%を占めています。
理論上は資本金1円でも設立可能
現在、会社の設立における資本金の最低金額は「1円」です。株式会社と合同会社どちらにおいても、資本金1円から設立が可能となっています。
以前の会社法には「最低資本金制度」という制度がありました。株式会社は1,000万円、現在の合同会社にあたる有限会社は300万円の「資本金」が必要でした。しかし、平成18年の会社法の改正により「最低資本金制度」が撤廃され、資本金が1円からでも会社を設立できるようになったのです。
従って、合同会社を社員1人で設立する場合、資本金を1円にすることは法的には可能です。しかし、現実的ではないため実際に1円で設立することはおすすめできません。
以下は、1円企業を設立する際のリスクです。
- 信用を得られにくい:資本金が少ないと取引相手からの信用が得にくくなります。
- 法人口座を開設しにくい:資本金1円の場合、法人口座の審査で落ちる可能性が高まります。
- 融資が受けにくい:資本金が少ないと融資を受ける際に不利になることがあります。
会社法の改正により、資金が少ない起業家でも法人を設立しやすくなりました。ただし、実際には1円だけで事業を運営するのは現実的ではないため、少なくとも事業を開始するのに必要な最低限の資金は準備しておくべきでしょう。
なお、資本金は社員一人につき1円以上が必要であるため、複数の社員がいる場合は資本金の最低額が人数により変動します。
相場は50万〜300万円程度
合同会社設立における現実的な資本金の相場は、50万〜300万円だと言えます。
資本金は、会社の設立および運営の元手となる資金です。いくらでスタートするかは、設立後3〜6ヵ月に必要な運転資金を目安にすることが一般的です。事業開始から半年程度の運転資金を確保できていれば、事業がうまく軌道に乗らなかった場合にも対応できる範囲が広がります。
関連記事:【税理士監修】会社設立時の資本金とは?その意義や設定方法と法的な注意点を解説
そもそも合同会社における資本金とは
合同会社は、比較的自由度が高い会社形態です。そのため、資本金に関しても独特のルールが存在します。ここでは、合同会社設立時の資本金について解説します。
資本金は社員が設立時に出資するお金
合同会社における出資者は、法律上「社員」と呼ばれ、出資額に応じた責任を負います。これは、出資者が会社の経営に直接関与し、実質的な経営者としての役割を果たすことを意味します。合同会社の社員は、会社の運営において重要な決定を行う権利を持ち、出資額に応じて会社の利益や損失に対する責任を共有します。
合同会社の社員は、会社の債務に対して出資額を限度とする有限責任を負います。つまり、会社が倒産した場合でも、社員は自己の出資額以上の負債を負うことはありません。株式会社の株主も同様で、株主の責任は出資した株式の価値に限定されます。
要するに、合同会社では出資者がより積極的に経営に関与することが期待されます。一方の株式会社では出資者が経営から一定の距離を保ちつつ、投資によるリターンを期待する形態です。どちらの形態も、出資者の責任は出資額に限定される点は共通です。
資本金として計上しないお金は資本剰余金
合同会社に出資された財産のうち、資本金として計上されなかった額はすべて資本剰余金です。これは、合同会社が設立された際や増資が行われた際に、出資された財産のうちどの部分を資本金とするかを決める際のルールです。
例えば、合同会社に1,000万円が出資されたとします。この場合、業務執行社員は、1,000万円を全額資本金として計上することも、一部を資本金とし残りを資本剰余金として計上することも、あるいは全額を資本剰余金として計上し資本金を0円とすることも可能です。
資本剰余金は、将来の事業拡大や新規事業のための内部留保として使用されることが多い傾向にあります。また、資本金とは異なり登記簿に記載される必要がないため、登記の手続きや登録免許税の節約にもつながります。
資本金は現物出資もできる
現金だけでなく、不動産や機械設備などの「現物出資」も資本金として認められます。現物出資をする際は、出資される資産の評価額が重要となり、適正な評価を行う必要があります。
現物出資は、資金調達の選択肢を広げるとともに、現金が手元にない場合でも事業を開始する機会を得られることを意味します。
資本金として現物出資できる例はさまざまです。例えば、以下のものが該当します。
- 動産(有形固定資産):自動車、パソコン、事務机、骨董品など
- 不動産:土地、建物
- 有価証券:株式、国債、社債、上場株式、非上場株式など
- 権利:著作権、特許権、営業権
現物出資は、合同会社の設立や増資において、金銭以外の資産を活用する方法として有用です。ただし、評価や手続きには注意が必要なため、具体的な現物出資の際の評価や手続きは、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
関連記事:自己資金と資本金の違いとは?自己資金の範囲はどこまで?
合同会社の資本金の決め方
ここからは、合同会社の設立における資本金の決め方について解説します。適切な資本金の額を決定することで、会社の信用度を高め、将来の成長に向けた準備を整えられます。以下のポイントを参考に、自社にとって最適な額を決めましょう。
運転資金を目安にする
運転資金は、日々の事業活動を継続するために必要な流動資本です。従業員の給与、日々の運営費、原材料や設備の購入費用などを捻出する必要があります。
合同会社の資本金を決定する際には、少なくとも3〜6ヵ月分の運転資金をカバーできる額を目安に設定すると良いでしょう。売上が安定するまでの期間、資金繰りに余裕を持たせられる金額です。
運転資金の計算方法は、以下の通りです。
- 固定費の算出する:家賃・保険・固定給の従業員給与など、毎月一定の支出がある費用を計算する
- 変動費を予測する:売上に応じて変動する原材料費・製造費・販売促進費などを見積もる
- 売上予測:過去のデータや市場分析を基に、将来の売上を予測する
- 資金繰り表を作る:上記の情報をもとに、資金繰り表を作成し、運転資金の必要額を算出する
運転資金をベースに資本金を設定することで、事業の初期段階での資金ショートを防ぎ、安定した事業運営につながります。
余裕をもって出資できる金額にとどめる
出資者が負担なく、かつ安心して出資できる金額を資本金として設定することが大切です。過度な出資は出資者の財政状況を圧迫する可能性がありますので、出資者が余裕を持って出資できる範囲内で資本金を決めましょう。
2年間の消費税が免除される条件を考慮する
合同会社設立時の資本金が1,000万円以下の場合は「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」に該当し、消費税の免税事業者の対象となります。条件を満たすことで、初期の2年間は消費税の納税義務が免除されるため、この点を考慮して資本金を設定すると節税につながります。
ただし、インボイス発行事業者は、一概に上記のような免税事業者が有利だと言い切れない場合があるため、免税か課税事業者かどちらを選択するか検討しましょう。
参考:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
業界や事業の特性を参考にする
業界の平均的な資本金の額や、事業の特性を考慮して資本金を決めることも有効です。競合他社との比較や、事業を行う上で必要な設備投資の規模などを参考に、適切な資本金の額を設定しましょう。
業界や競合他社より過度に少ない資本金を設定してしまうと、投資家や金融機関から信用を得られない可能性があります。同業他社の資本金の額や事業規模を参考にし、設備投資や研究開発費、人材育成費なども考慮しましょう。
将来の成長を見越して設定する
合同会社の資本金を決定する際には、単に現在の運転資金だけでなく、将来のビジョンに基づいた計画も重要です。事業計画には、市場の変動・技術革新・競合他社の動向など、多くの不確実性が伴います。中長期的な事業拡大や新規事業への投資を考慮し、余裕を持った資本金の設定を目指しましょう。
関連記事:会社設立における資本金はいくら必要?最低金額や平均も解説
資本金の額が多いメリット・デメリット
資本金の額によって、企業の信用度や運転資金の過不足など多方面にわたる影響が及ぶことを理解しておく必要があります。しかし、資本金が多ければ良いという訳でもなく、税負担が増える点も考慮するべきです。ここでは、資本金の額が合同会社に与える影響について解説します。
メリット:取引先や金融機関からの信用度が高まる
資本金の額は、合同会社の信用度に直結します。資本金が多いほど、企業が財務的に安定しており、リスクに対処できる能力があると見なされるため、取引先や金融機関からの信頼が高まります。
特に新規事業においては、資本金の額が信用情報として重要視され、融資の承認や取引条件の決定に影響を与える可能性があります。資本金が十分にあることで、より良い取引条件を引き出すことが期待できるでしょう。
メリット:十分な運転資金を確保できる
資本金は、合同会社の日々の運営に必要な運転資金の源泉です。適切な額の資本金を設定することで、売上が安定するまでの期間、資金繰りに余裕が生まれます。
市場の変動や予期せぬ出費にも柔軟に対応することが可能となり、事業の安定性が高まります。また、運転資金が十分にあれば、新たな投資機会にも備えられるため、事業の成長を促進する効果も期待できるでしょう。
デメリット:税負担が増える
資本金の額が大きいと、それに伴い税負担も増加する可能性があります。合同会社の資本金は、純資産として計上されるため、資本金が多いほど企業の資産価値が高くなり、税金が増えることにつながります。
しかし、税負担の増加は、企業の規模が大きくなることの自然な結果でもあり、適切な税務計画によって最適化することが可能です。資本金の額を決定する際には、税理士と相談し、税負担の増加を考慮した上で、最適な資本金を設定することが望ましいでしょう。
関連記事:資本金100万円で会社設立できる?起業前に知っておきたい決め方や平均額を解説
合同会社が資本金を決める際の注意点
合同会社の資本金の設定金額は、設立登記時の登録免許税や法人住民税など、さまざまな影響を与えます。以下の5つのポイントに注意しながら、適切な資本金を決めましょう。
資本金によって設立登記時の登録免許税が異なる
合同会社設立時に必要な登録免許税は、資本金の額によって異なります。登録免許税は「資本金の0.7%または6万円の大きい方」が適用されます。
例えば、資本金が300万円の場合、0.7%は21,000円ですが、これは6万円より少ないため、登録免許税は6万円となります。資本金が857万円以下の場合、登録免許税は6万円に抑えられますが、それを超えると0.7%の計算によって税額が増加するのです。このため、資本金を決定する際には、登録免許税の負担も考慮しましょう。
資本金が1,000万円を超えると2年目までの消費税免除の対象とならない
「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」により、設立後2年間は消費税の納税義務が免除されるため、初期投資の節約と経済的負担軽減が見込めます。
ただし、期首の資本金が1,000万円を超えると特例の条件を満たさず、消費税免税の対象となりません。
そのため「運転資金や設備投資」と「消費税の負担分」のバランスを考えた上で、自社の資金繰りに最適な資本金額を設定すべきです。
参考:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
資本金によって法人住民税の税額が変わる場合がある
法人住民税とは、法人税額に応じた税額と均等割額の合計で算出されます。
法人住民税 = 法人税額に応じた税額 + 均等割額
均等割額の税率には「従業員数の区分」と「資本金額の区分」があり、以下のようにそれぞれ均等割税額が異なります。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割 | 市町村民税均等割 従業者数50人以下 |
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万円超1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
たとえ赤字の場合でも、法人住民税均等割額の支払いは必須となるため、資本金が多ければその分、法人住民税の負担も重くなる可能性があります。
許認可事業は資本金の要件がある
合同会社を設立する際、特定の業種で事業を行うためには、許認可が必要な場合があります。建設業や派遣事業、職業紹介事業、旅行業などの許認可事業では、事業を開始する前に、関連する行政機関からの許可や認可を得なければなりません。そして、許認可を取得するためには、一定の資本金が必要とされることがあります。
資本金の要件は、事業の種類によって異なります。例えば、建設業や運送業などでは、事業を行うために必要な資本金の最低限度が法律で定められており、これを満たさないと許認可が下りない可能性があります。資本金は、事業の財務的な基盤を示すものであり、事業が一定の経済的な安定性を持っていることを行政機関に示す指標となるためです。
資本金要件がある主な許認可事業
- 一般建設業:自己資本が500万円以上
- 一般労働者派遣事業:2,000万円 × 事業所数
- 一般貨物自動車運送事業:許認可の申請直前に、規定の必要資金額を自己資金額が上回っている預金残高証明書やそれに付随する書類が必要
例えば、一般建設業を行う場合は、自己資本が500万円以上あれば許可が下りますが、特定建設業を行う場合は2000万円以上の資本金が必要です。このように、許認可事業を行うにあたっては、事業内容に応じた資本金の要件を満たすことが重要です。
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合同会社の適切な資本金は事業者ごとに異なる
合同会社の資本金相場は50万〜300万円です。実際に設立した企業のデータから、資本金100万円以下の企業が半数、300万円未満の企業が約78%となっています。
資本金を決める際のポイントは以下の通りです。
- 少なくとも3〜6ヵ月分の運転資金をカバーできる額を目安に設定する
- 税金や融資、業種による最低額を考慮して、適切な金額に調整する
- 社員に負担がない範囲に収まっているか確認する
資本金を決定する際のポイントはさまざまで、適切な資本金の額は企業ごとに異なります。合同会社の資本金について詳しく知りたい方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。