青色申告はさまざまな優遇税制の適用を受けられるため、白色申告よりも税額を抑えやすいです。しかし所得が少なく税制面での特典を活用しきれない場合や、帳簿作成・管理が負担に感じる方にとっては、白色申告の方が適している可能性があります。今回は青色申告から白色申告に変更するのが得になるケースや、変更手続きの方法について詳しく解説します。
目次
青色申告と白色申告の基本的な違い
はじめに、青色申告と白色申告それぞれの基本情報について解説します。
青色申告の基本情報
青色申告とは一定水準の記帳を行い正しい税務申告をする人が、所得計算において有利な取り扱いを受けられる制度です。やや複雑なルールに基づいた記帳や確定申告が必要な分、節税につながる有利な特典を受けられる確定申告の方法ともいえます。
青色申告の特典の例は以下の通りです。
- 青色申告特別控除(最大65万円)を受けられる
- 赤字を最長3年間繰り越せる
- 家族への給与を経費計上できる
- 30万円未満の固定資産を一括で経費計上できる
さまざまな優遇税制の適用を受けられるため、大きな節税効果が期待できます。
一方で、以下のデメリットに注意が必要です。
- 事前に「青色申告承認申請書」の提出が必要
- 複式簿記による記帳が必要
- 確定申告書とあわせて「青色申告決算書」も提出する必要がある
青色申告のメリット・デメリットについては以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:青色申告のメリット5つ|デメリットや適用をおすすめできる人とは?
白色申告の基本情報
青色申告の申請をしない場合、必然的に白色申告による確定申告を行うことになります。
白色申告のメリットは単式簿記での記帳が認められる点です。青色申告のように決算書を作成する必要もないため、経理作業の手間は最小限で済みます(ただし収支内訳書の提出は必要)。
ただし白色申告では青色申告のような優遇税制の適用は受けられません。そのため白色申告の場合、青色申告よりも税額が高くなるケースが多いです。
関連記事:白色申告の帳簿の付け方解説|手書きやエクセルは可?記載例も
青色申告から白色申告への変更を検討するケースの例
青色申告にするためには事前に手続きが必要と紹介しました。そして、申請が承認されて青色申告者になった後も、手続きをすれば白色申告に変更できます。青色申告から白色申告への変更をした方が特になるケースの具体例を2つ紹介します。
1.売上減少により節税効果が低下した
売上減少により青色申告の優遇税制による節税効果が低下した場合、白色申告に変更した方が得になるケースがあります。
青色申告のメリットは優遇税制の適用を受けられることです。特に「青色申告特別控除」は青色申告者の全員に適用される制度であり、最大65万円の控除を受けられます。ほかにもさまざまな優遇税制が存在するため、個人事業主が節税をするためには青色申告が大前提といえます。
しかし青色申告の優遇税制による節税効果を得られるのは、売上から経費を引いた所得がある程度の金額になる場合です。所得が少ない、もしくは赤字の場合、青色申告の特典による恩恵を受けられないでしょう。
売上減少は一時的なものの可能性もあるため、すぐに白色申告に変更するのが最善とは限りません。しかし売上回復の見込がない場合や、節税効果を実感できるほどの所得ではない場合、白色申告への変更を検討するべきタイミングといえます。
2.帳簿付けが負担となっている場合
青色申告を行うための帳簿付けが負担となっている場合も、白色申告への変更を検討しても良いかもしれません。
青色申告では複式簿記による帳簿付けが前提となります。複式簿記は簿記の専門知識が必要な上、単式簿記よりも作業量が多いです。そのため、人によっては帳簿付けがかなりの負担になるかもしれません。
節税効果のメリットよりも帳簿付けによる負担の方が大きい場合、実質的にはマイナスの状態といえるでしょう。その場合は無理に青色申告を続けるのではなく、白色申告への変更の方が適している可能性があります。
なお、青色申告でも複式簿記が必須なわけではなく、単式簿記による帳簿付けも可能ではあります。単式簿記の場合は青色申告特別控除の額が10万円になるため節税効果は薄れますが、その他の優遇税制の適用は可能です。帳簿付けが負担になっている場合、白色申告への変更ではなく、単式簿記で青色申告を続けるのも1つの手段です。
関連記事:確定申告なのに帳簿を付けてない!個人事業主の最低限の対策は?
青色申告をやめる際の手続きと必要な書類
では実際に、青色申告を取りやめて白色申告へ変更する際の手続きについて解説します。
「青色申告の取りやめ届出書」を提出する
青色申告から白色申告へ変更するためには「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出が必要です。
届出書には氏名や納税地などの基本情報のほか、青色申告を取りやめる年度や取りやめの理由などを記載します。取りやめの理由の書き方として以下の例が挙げられます。
- 白色申告へ変更するため
- 売上減少により青色申告のメリットがなくなったため
- 廃業するため
変更手続きの期限
「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出期限は、青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までです。たとえば令和6年分から白色申告へ変更する場合、令和7年3月15日までに届出書を提出する必要があります。
青色申告から白色申告への変更で注意すべき点
青色申告から白色申告へ変更する前に押さえておくべき注意点を3つ紹介します。
青色申告の特典を受けられなくなる
青色申告から白色申告へ変更すれば、当然ですが青色申告の特典は受けられません。所得から差し引ける額が少なくなるため、青色申告の場合よりも所得が高額になりやすいです。
青色申告の特典の適用を受けられなくなった後の所得額について、事前にシミュレーションしておきましょう。
社会的信用や融資の受けやすさに影響を及ぼす恐れがある
青色申告から白色申告への変更は社会的信用や融資の受けやすさに影響を及ぼす恐れがあります。
金融機関に融資を申し込む場合、貸借対照表や損益計算書の提出を求められるのが一般的です。青色申告の場合は青色申告決算書を作成するため、必要書類をすぐに提出できるでしょう。
白色申告の場合に作成する収支内訳書では、実態を詳細には把握できないため融資を受けられない可能性があります。白色申告では融資が不可能とは限りませんが、青色申告者の方が融資の審査が通過しやすいのは事実といえます。
融資の申し込み以外にも、収入証明を提出するべき場面では財務状態や経営成績を証明する書類も必要なケースが多いです。収支内訳書よりも青色申告決算書の方が詳しい情報がわかるため、信用を得やすいと考えられます。
1年間は青色申告の再申請ができない
「青色申告の取りやめ届出書」を提出した日から1年間は青色申告の再申請ができません。
一時的に白色申告にしたいだけの場合や、すぐに青色申告へ戻す可能性が高い場合は、青色申告の取りやめをしない方が良いでしょう。青色申告の取りやめによる白色申告への変更が最善であるか十分に検討しましょう。
なお、1年分だけ白色申告をする場合は「青色申告の取りやめ届出書」の提出は不要です。収支内訳書や白色申告の必要書類を用意して確定申告を行えば、白色申告による確定申告ができます。
関連記事:青色申告はどのような時に取り消される?条件やデメリットについて解説
再度、青色申告に戻すことは可能?
青色申告から白色申告へ変更した後、再び青色申告に戻すことは可能です。青色申告に戻すための条件や必要な手続きについて解説します。
青色申告に戻すための条件
青色申告を取りやめて白色申告に変更した後、再び青色申告に戻すためには以下2つの条件を満たす必要があります。
- 「青色申告の取りやめ届出書」を提出してから1年以上が経過している
- 期日までに「所得税の青色申告承認申請書」を提出している
必要な手続き
前述の通り、青色申告に戻すためには「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。
申請書の提出期限は、青色申告をしようとする年の3月15日(土日祝に当たる場合は翌平日)です。たとえば令和7年分から青色申告に戻そうとする場合は、令和7年3月15日までに所得税の青色申告承認申請書を提出する必要があります。
どちらの申告にするかは多角的な判断が必要
青色申告は青色申告特別控除をはじめ、さまざまな優遇税制を受けられる点がメリットです。一方で白色申告の場合は簡易的な帳簿付けのみで済みます。所得額が少なく優遇税制による恩恵を受けにくい、または帳簿付けが負担になっている場合は白色申告にするのも1つの手段です。
青色申告を取りやめて白色申告に変更すると「特典を受けられなくなる」「社会的信用に悪影響を及ぼす」等のデメリットもあります。青色申告から白色申告に変更する前に、本当に変更するべきか十分に検討しましょう。
青色申告と白色申告どちらが良いか判断に悩んでしまう人もいるでしょう。自身に適した確定申告の方法を選ぶためには、税金の専門家である税理士に相談してアドバイスを受けることもおすすめです。