グループ通算制度とは、親会社と子会社間で純損益を通算して税額を計算する制度です。この記事では、連結納税との違いやグループ通算のメリット、単体申告の際の注意点を詳しく解説します。税務申告を行う際にぜひお役立てください。
目次
グループ通算制度とは?
グループ通算制度は同じグループ企業の複数の企業間、つまり親会社と子会社間で発生した利益と損失を相互に通算する制度です。制度を活用することにより、個々の企業が独立して申告する場合に比べて税額を軽減できます。グループ通算制度の目的は税負担の最適化です。社会全体としての税負担の均等化を図り、資金の効率的な再配分や経済活動の活性化に寄与することが期待されています。
グループ通算制度をうまく運用するためには、グループ内各社の財務状況を正確に把握する必要があります。また、法人税法上の対象企業や適用条件を満たしているかの確認も必須です。例えば、グループ通算制度を利用する企業グループでは、特定の持株比率や業種の一致など、一定の条件に適合している必要があるためです。
適切に処理を行うには専門的な知識が必要になるため、活用を検討している企業では、担当者が十分な知見を備えておく必要があるでしょう。
グループ通算制度を利用するメリット
グループ通算制度を活用するには、さまざまな知識が必要であり、手間もかかります。コストをかけてでも制度を利用するメリットはあるのでしょうか?
まずは、グループ通算制度にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
損失を利益と相殺できる
一つ目のメリットは、グループ内の複数企業間で利益と損失を合算し、相殺できることです。個々の会社が別々に税金を払うよりも、グループ全体としての税負担を軽減できます。
利益の高い企業と損失が発生している企業のバランスを取ることで、法人税額をおさえられる点は利点といえるでしょう。
税務申告の負担を軽減できる
グループ通算制度のための手続きなど新たな手間は発生しますが、全体で見ると税務申告にかかる負担は軽減されます。グループ通算制度は原則、グループ企業内の各社が個々に申告を行うよう定められています。しかし、親会社が一括で申告することもできるため申告の負担軽減に繋がります。
各企業の手間を省けるため経理部門の作業負担が減少し、その分他の重要な業務に注力できるでしょう。また、節税によって余剰資金が生まれることも期待できます。新たな投資や事業拡張、研究開発にリソースを回せるため、企業グループ全体の成長と競争力強化に向けた施策がとれるようになります。
グループ通算制度のデメリット
グループ通算制度には注意しておきたい点もいくつかあります。運用するにあたって気をつけておきたいデメリットを解説します。
コストがかかる
グループ通算制度の導入には初期費用がかかります。また、運用開始後も継続的な管理コストが発生するため、企業としては新たな予算を組む必要があるでしょう。一定のコストがかかる点はデメリットといえるかもしれません。
特にグループ企業間での利益と損失の配分プロセスは複雑なため、専門的なスタッフや外部コンサルタントの雇用が必要なケースも考えられます。コンサルティング料などのコストが増えれば、その分企業にとっては財務的な負担となるでしょう。
情報共有やデータ管理・収集・分析が必要
グループ通算制度を適切に管理し運用するには、正確なデータ収集と分析が重要です。十分な情報がないと、税務申告の誤りにつながるリスクが増大します。高度な情報共有と、正確なデータ管理を前提に、グループ企業内での運用システムを構築する必要があります。
また、グループ内での損益配分の決定には内部合意形成が必要です。経営資源の分散を招くことがある点も留意しておきましょう。
法規制に則って監視体制を整備する必要がある
グループ通算制度の運用には、さまざまな法規制への準拠が必要となります。もし違反をしてしまった場合、罰則が適用されるだけでなく、社会的な信用失墜につながる懸念もあります。
意図せぬ法令違反を防ぐためにも、十分な監視体制を整えることが求められるでしょう。
単体申告との比較
グループ通算制度では、グループ全体の所得を一括して計算、申告及び納付を行います。対して、単体申告の場合、各企業は自社の所得に基づいて個別に税額を計算し、それぞれ独立して申告・納付します。つまり、グループ通算制度を利用する最大の利点は、税負担の軽減と最適化にあるといえるでしょう。
例えば、グループ内で赤字の企業と黒字の企業があるケースを考えてみます。グループ通算制度により赤字会社の損失は黒字会社の利益と相殺することが可能です。結果としてグループ全体の課税所得を減少させることが可能となり、税負担の軽減につながります。
加えて、この制度は税務管理の効率化にも寄与します。単体申告では、各企業が個別に税務処理を行うため、管理業務が煩雑になりがちです。しかし、グループ通算制度を利用することで、一元化された税務管理が可能となり、管理コストの削減を実現できます。
グループ通算制度と連結納税の主な違い
グループ通算制度と連結納税は、企業グループの税負担を最適化するために設計された制度ですが、実施条件や算定プロセス、メリットや制限などに違いがあります。
前述した通り、グループ通算制度はグループ内で損益を相互にオフセットすることが可能です。そのため、特に経営合理化や効率的なリソース配分を図る企業にとって、有利といえるでしょう。
連結納税制度では、税務上のグループ全体を一つの納税義務者とみなし、グループ企業全体の利益を一括して計算します。特に多国籍企業や多角経営を展開する大企業グループにとって有益です。
また、グループ通算制度の適用を受ける際の要件は比較的緩やかですが、連結納税は厳格な条件と規定が伴う点にも違いがあります。例えば、連結納税を申請する際には、グループ会社間の株式保有比率が一定の基準以上であることが求められます。
このように、グループ通算制度と連結納税は似て非なる制度といえます。それぞれの特性を理解し、自社に最適な税務戦略を選択することが重要となるでしょう。
グループ通算制度における会計処理と税務申告
グループ通算制度を活用するにあたって、実際にはどのような会計処理が必要となるのでしょうか。本章では、グループ通算制度利用時の会計処理と税務申告の要点を具体的に解説します。
損益通算と繰越欠損金の計算
グループ通算制度制度を活用する際は、企業の財務状況を正確に把握し、繰越欠損金を正しく算出することが必要です。繰越欠損金は赤字企業の前年度未処理損失で、これを黒字企業の利益と相殺して税負担を軽減します。
計算する際には法規制に従った適切な会計処理が求められます。専門的な知識が必要になるため、税理士など税務専門家の指導のもと進めるのが安心です。アドバイスを受けながら処理を進めることで企業の経済状態をリアルタイムで精査し、グループ全体の税務戦略を見直していけるでしょう。
通算税効果額の計算と仕訳の方法
グループ通算制度を活用し、企業グループ全体の税金負担を最適化するためには、通算税効果額を正確に計算する必要があります。具体的には、まずグループ内で通算可能な損益の総額を詳しく確認します。その後、適用される法人税等の税率を使い税効果額を計算します。
計算の際は、税効果計算で生じる差異を正しく区分し、それぞれの差異に対して適切な税効果を計算し反映させるよう注意しましょう。
適切に計算することで法人税の申告書類上での誤りを最小限におさえ、税務調査時のリスクを軽減できます。また、より効果的な税務戦略の立案と実行にも役立ちます。
法人税、地方法人税の開示と注記
グループ通算制度においては、法人税および地方法人税の計算で必要とされる多数の開示項目があります。具体的には、損益通算の実施に関連する説明、使用される繰り越し欠損金の具体的な金額、そして税効果の影響の詳細な記載が必要です。税務調査時に、正確かつ迅速な評価を受けるために重要な資料となるため、しっかりと明記しておきましょう。さらに、グループ通算を利用する企業は、連結財務諸表の注記も必要です。
このように、グループ通算制度を活用する際には、正確な情報開示が不可欠です。必要な開示要件を把握し、適切な文書化と記録保持を行いましょう。税務調査におけるリスクを最小限におさえ、税務プロセスの透明性を高めることにつながります。
開示内容やそのほかの要件は変更される可能性があります。具体的な情報開示の指針として、最新の税務ガイドラインや制度の変更を常に確認することも重要です。
関連記事:グループ通算制度適用時の法人住民税の調整
まとめ
グループ通算制度は、グループ企業内にある企業が利益と損失を相互に通算できる制度です。グループ企業全体の税負担を最適化するために有用な手段であり、資源の効率的な配分にも寄与するなどのメリットがあります。
ただし、グループ通算制度の適用は複雑なため、意図せず運用を誤る可能性もあります。そのため制度を活用する際は制度内容や関連法規に十分注意を払うことが重要です。常に最新の税法やケーススタディを参照して知識を更新していきましょう。
企業の経営戦略において、税務申告は重要な要素の一つです。そのため、制度の適用時期や方法に不明な点があれば、すぐに税務の専門家に相談することをおすすめします。小谷野税理士法人ではグループ通算制度の運用について、専門的なサポートをさせていただきます。無用なリスクを避けつつ、制度のメリットを最大限に活用するサポートをさせていただきますので、ぜひお気軽に当法人までご相談ください。
適切な税務戦略を構築して、企業の財務健全性を高めていきましょう。