デジタル課税は、インターネット上で世界中にサービスを展開するグローバル企業に対して、公平な課税を行うための新しい課税制度です。従来の国際課税ルールで問題となっていた、物理的な拠点を持たない企業による「税金の回避」を是正することが期待されています。日本においても、税収の増加や公平な競争環境の整備が見込まれる一方で、情報提供を求められたり、新たな税制改正の可能性が示唆されるなど、デジタル課税によるさまざまな影響が予想されます。
目次
デジタル課税による日本への影響
デジタル課税の対象となる企業は限られており、日本国内でも該当する可能性のある企業はまだまだ少ない傾向にあります。しかし、デジタル課税が導入されると、日本における税収増加や企業への影響、さらには税制改正に至るまで、さまざまな影響が予想されます。
税収が増加する
日本はデジタルサービスにおける大規模な市場国(消費者のいる国)であり、国内で利益を上げているにも関わらず、相応の税金が納められていない外国企業に対して課税権を行使することで、税収が増加すると考えられます。
従来の国際課税ルールでは、市場国は拠点を持たない外国企業に対して課税できないため、グローバル企業が得た巨額の利益に対する税金の徴収が困難でした。しかし、デジタル課税の導入により、グローバル企業が日本国内で得た利益の一部が再分配されます。
これにより、日本の法人税収が増加し、社会保障費や新型コロナ対策などの財政支出の増大に対応するための財源が確保されることが期待されます。
以下では、各国の法人税率について触れているので、興味のある方は参考にしてみてください。
関連記事:【税理士監修】法人税率の変動:各国との比較を交えた推移についての解説
国境を越えた公平な競争環境が作られる
デジタル課税によって、国内外で事業を行う企業間の税負担格差が縮小され、公平な競争環境が整えられることが期待されます。
例えば、日本の中小企業が国内市場で競争する際、税負担の面で不利になることが少なくなります。その結果、日本企業が国際市場で現状より有利な位置を築くきっかけとなり、国内市場においても外国企業に対する競争力が強化されることが期待されるのです。
このように、デジタル課税は国内外の企業間で公平な競争環境を作り出し、日本企業の成長を後押しすることにつながると考えられます。
企業によっては情報提供が求められる
デジタル課税の導入により、企業は税務当局に対して、売上やユーザー数などの情報提供を求められることが予想されます。特に、国際的なデジタルサービスを提供する企業は、各国の税制に適応するために、より詳細なデータを提供する必要が出てくるでしょう。
企業にとってコンプライアンスコストなどの費用や業務負担が増える可能性がありますが、税務の透明性と公平性を確保するためには不可欠であると言えるでしょう。
中小企業への負担が増える
デジタル課税は直接的には大企業を対象としていますが、その影響は中小企業にも及ぶ可能性があります。大企業の税負担が増えることで、サービスの価格が上昇したり、大企業がコスト削減を図る中で、中小企業への発注が減少するなど、市場全体に波及する影響が考えられます。
サービスの価格が上がり消費者のコストが増える
デジタル課税の導入により、デジタル企業が新たな税負担を負うことになります。この増加したコストは、企業が提供するサービスの価格に転嫁される可能性が高いでしょう。結果的に、消費者が支払う料金が上昇し、コスト負担が増えることが懸念されます。
特に、オンライン広告やクラウドサービスなど、日常的に利用されるデジタルサービスの価格が上がることで、消費者の支出が増加し、経済全体に影響を及ぼす可能性があります。
既存の税制が改正される可能性がある
デジタル課税の導入に伴い、令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から「グローバル・ミニマム課税」が適用されます。デジタル課税の対象となるグローバル企業が税率の低い国に利益を移転し、租税回避することを防ぐことが主な目的です。
グローバル・ミニマム課税の導入により、国際的な税制の枠組みが変わることが予想されます。これに伴い、日本の既存の税制も改正される可能性があります。
特に、国際的な取り決めに基づく税制改正は、国内企業にとっても適応が必要となり、新たなビジネスモデルの構築や税務戦略の見直しが求められるでしょう。
デジタル課税の対象となる企業とサービス
デジタル課税の対象となるのは、以下の条件を満たす大規模なグローバル企業です。
- 世界全体の売上が200億ユーロ(約2.6兆円)以上
- 利益率が10%以上
例えばGoogle・Amazon・Meta(旧Facebook)・Appleなどの巨大IT企業が該当します。世界中で多くの収益を上げており、デジタルサービスを提供しているのが特徴です。この基準を満たす企業は、世界全体で約100社程度とされています。日本企業の中では、例えばソニーやトヨタなどの大手企業が該当する可能性がありますが、具体的な企業名は公表されていません。
該当する企業が得た利益のうち、収益の10%を超える部分の25%が、収益を得ている国に分配されます。
引用:デジタル課税「25年発効」 OECD条約案|日本経済新聞
GoogleやAppleのような企業は、巨大なユーザーベースを活用して莫大な収益を上げていますが、従来の税制ではその利益に見合った税金を徴収する仕組みが不十分でした。デジタル課税はこれらの企業が利益を得ている国々で公平に税金を納めるようにするものです。
デジタル課税が導入されるに至った背景
デジタル課税が導入されるに至った背景には、デジタル経済の急速な発展と、それに伴う税制の不公平感が大きく影響しています。インターネットの普及により、企業は物理的な拠点を持たずに国境を越えてビジネスを展開できるようになりました。これにより、従来の税制では適切に課税できないケースが増加したのです。
特に、巨大なデジタル企業が低税率の国に本社を置き、他国での売上に対してほとんど税金を支払わない状況が問題視されました。多くの国が税収を失い、国内企業との間で競争の公平性が損なわれるという懸念が生じたのです。
このような背景から、OECD(経済協力開発機構)を中心に国際的な協議が進められ、デジタル課税の枠組みが検討されるようになりました。2021年には、130以上の国と地域が合意し、デジタル企業に対する新たな課税ルールが策定されたのです。この合意により、デジタル企業は売上が発生する国で適切に課税されることが期待されています。
デジタル課税の導入は、グローバルな税制の公平性を確保し、各国の税収を安定させるための第一歩とされています。今後もデジタル経済の成長とともに、持続可能な税制の構築が進められていくでしょう。
デジタル課税の課題
デジタル課税の導入には多くの課題も存在します。以下に挙げる課題を克服するためには、国際的な協力と継続的な対話が不可欠です。各国が共通の目標に向かって協力し、持続可能な解決策を見つけることが求められています。
国際的な合意を得ることが難しい
デジタル課税において、国際的な合意を得ることは難しいと言えます。その主な要因は、各国の税制や経済状況が異なる点にあります。特に、デジタル企業が多くの利益を上げている国と、そうでない国との間で利害が対立することが多く、調整が必要です。
実際に、デジタル課税の導入は当初2023年を目指していましたが、各国での批准や国内法の整備が間に合わず、開始時期が2年も先送りされました。デジタル課税の実現には、国際的な協力と調整が不可欠です。
課税範囲が不明確である
課税範囲が不明確であることも、デジタル課税における課題の一つです。デジタル企業のビジネスモデルは複雑であることが多く、どの部分に課税するかを明確にすることが難しいのです。
特に、広告収入やデータ販売など、収益源が多岐にわたる場合、適切な課税基準を設定する必要があります。各収益源に対して具体的かつ公平な課税基準を設けることが不可欠です。
税制が追いつかなくなる可能性がある
デジタル課税の導入により、企業が税負担を回避するために新たな手法を模索する可能性があります。これに対抗するためには、各国が協力して監視体制を強化し、適切な法整備を行う必要があります。例えば、企業が新たな税回避手法を開発した場合、それに迅速に対応できる国際的な監視体制が求められます。
さらに、技術の進化も課題の一つです。デジタル技術は急速に進化しており、現行の税制がすぐに時代遅れになるリスクがあるため、柔軟で適応力のある税制を構築することが求められます。例えば、定期的に税制を見直し、最新の技術動向に対応できるようにすることが重要です。
デジタル課税の実現には、企業の新たな手法に対抗するための国際的な協力と、技術の進化に対応できる柔軟な税制の構築が求められます。
消費者の支払い負担が増える
デジタル課税の導入が消費者に与える影響も無視できません。企業が税負担を価格に転嫁することで、消費者が高いコストを負担する可能性があります。例えば、デジタルサービスの利用料金が上がり、消費者がこれまで利用していたサービスを利用しづらくなることが考えられます。
デジタルサービスの利用が減少すると、経済全体に悪影響を及ぼすリスクもあります。したがって、デジタル課税を導入する際には、消費者への影響を最小限に抑えるための対策が必要です。
デジタル課税を正しく知り、導入に備えよう
デジタル経済の急速な発展に対応するために導入されたデジタル課税により、国際的な税制の公平性が向上し、各国の税収が安定することが期待されています。
日本もデジタル課税の影響を受ける可能性があり、情報提供の義務が変わるなど、なにかしらの対応が求められることが予想されます。デジタル課税の導入により、日本の法人税収が増える一方で、企業の対応が求められる場面も増えるでしょう。
個々の企業への具体的な影響や対応策については、税理士など専門家のアドバイスが有効です。最新の情報をもとに最適な対策を講じたいとお考えの方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。