デジタル課税がいつから開始されるかご存知でしょうか?デジタル課税とは、オフィスや工場など拠点を持たない市場国で事業を展開している企業に対して、公平に課税する制度です。そんなデジタル課税がいつから導入されるのか、世界の動向を交えて詳しくお伝えします。デジタル課税の導入理由や日本への影響などについても触れていくため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
デジタル課税が導入される理由
デジタル課税が導入される理由は、現状の税制では適切な課税が困難だからです。今、世界全体でグローバルにビジネスを展開する流れが加速しています。
ところが、これまでの国際課税制度では、市場としている国に拠点を持っていない国際企業が市場国で利益をあげても、税金の徴収ができませんでした。
さらに、多額の利益を上げている国際的な企業の多くが、法人税率の低い国に移転するなどして、積極的に租税回避を試みています。
そこで、インターネットを通じたサービスを世界的に提供し、高い収益を得ている企業が支払う法人税を適切に徴収し、公平に分配する必要性が高まりました。
多国籍にビジネスを展開する企業に対する課税制度を根本的に見直し、税収を適切に得る仕組みを構築する運びとなったのです。
以下の世界的にも有名な企業に対して、より公正な課税が求められるようになったことから、OECDやG20によってBEPSと呼ばれるプロジェクトが立ち上げられました。
- Apple
- Meta Platforms(旧Facebook)
- Amazon
- Microsoft
このプロジェクトでは、以下の2点を中心とした議論がなされました。
- 国際課税制度の見直し
- 軽課税国への利益移転のルール
上記の目的を達成するために、デジタル課税の導入が検討されたのです。
デジタル課税を徹底解説
デジタル課税の導入に伴って、影響を受ける可能性もあり得るため、まずはデジタル課税について正しく理解しましょう。ここからは、適用対象や、利益配分について解説します。
デジタル課税の適用対象
海外に資本を持つ企業だけでなく、日本国内にもグローバル化を進めている企業が多くあります。しかし、インターネットを介して国際的な事業を展開している全ての企業が、デジタル課税の導入で税負担が増えるわけではありません。
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上記がデジタル課税の対象となる企業の要件です。莫大な利益を得ている多国籍企業に向けた対策であるため、全世界で約100社、日本国内では数社が課税対象となると言われています。
デジタル課税の利益配分
ここでは、デジタル課税でのルールについて詳しく解説します。多国籍企業が世界各国の市場で得た利益に課税される税金を、平等に配分するルールが設けられました。
株主の視点から企業価値を判断する指標である残余利益を、利益が全体の収益の10%を超える場合に適用されます。残余利益のうちの25%について、多国籍企業がビジネスを展開している市場国に、厳正に再分配します。
現状の国際課税制度では、多国籍企業が市場国で100万ユーロ以上の利益を得ていても、市場国は妥当な税収を得られません。
デジタル課税制度の導入により、これまで多国籍企業の拠点がなく税収を得られなかった市場国でも、利益の一部を得られることになりました。
デジタル課税の導入により、市場国に対する再分配額は毎年1,250億ドル以上と予測されています。これまで、市場国でも税収を得られなかった途上国が、より多くの税収を得られる見込みです。
グローバルミニマム課税の概要と対応
国際的にビジネスを展開し、多額の利益を得ている企業に対して法人税率の最低ラインを設け、公平な課税を試みるのがグローバルミニマム課税です。ここでは、グローバルミニマム課税の概要について解説します。
グローバルミニマム課税の対象企業
グローバルミニマム課税と、グローバル課税とでは対象となる企業の要件が異なります。グローバルミニマム課税の対象となるのは、以下の2つの要件を満たす企業です。
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グローバル課税の対象企業と同様に、日本国内で対象となる企業はそれほど多くないと言われています。
グローバルミニマム課税制度の概要
多くの利益を得ている多国籍企業に対して、妥当な納税を促すために法人税率の最低ラインを設けるのが、グローバルミニマム課税です。
グローバルミニマム課税が導入される背景は、国によって異なる法人税率を均一に近づけることで、税の公平化を目指すためです。法人税の負担を軽減するために、より税率の低い国に本社を移転したり、子会社を設立したりする企業が存在します。
そこで、税負担軽減の目的の移転や子会社設立、外資を誘致する目的での税優遇を抑制するために、グローバルミニマム課税を導入する運びとなりました。
グローバルミニマム課税の対象となる企業が拠点や子会社を置く国の税率に関係なく、最低税率15%の法人税が課されます。
例えば、グローバル課税の対象となる企業が、租税回避の目的で税率が低い国に移転や子会社を設立したとします。実際の法人税率が15%を下回る場合は、その差額分を親会社が負担するのです。
グローバルミニマム課税の導入により、子会社の税負担が15%に達するまで、親会社に対して上乗せで課税できるのです。
また、外資を自国に誘致したい国同士で、税率引き下げなどの優遇策を取り入れる競争が激化しています。過剰な誘致競争に歯止めをかける意味でも、グローバルミニマム課税は効果的だと言えるでしょう。
グローバルミニマム課税で納税額を算出する方法
グローバルミニマム課税制度において、最低税率が設けられました。ここでは、正しく納税額を計算するための流れを紹介します。
国税庁の資料を参照すると、グローバルミニマム課税の対象となる場合、以下の手順で計算をします。
構成会社等に係るグループ国際最低課税額=当期国別国際最低課税額+再計算国別国際最低課税額+未分配所得国際最低課税額-自国内最低課税額に係る税の額 |
①当期国別国際最低課税額=
(国別グループ純所得の金額-②実質ベースの所得除外額)×(15%-③国別実効税率)
・国別グループ純所得の金額=
その国又は地域を所在地国とする全ての構成会社等の個別計算所得金額の合計額-その国又は地域を所在地国とする全ての構成会社等の個別計算損失金額の合計額
②実質ベースの所得除外額=
その国又は地域を所在地国とする全ての構成会社等に係る給与等の費用の額×5%+その国又は地域を所在地国とする全ての構成会社等に係る有形固定資産等の額×5%
・構成会社等に係るグループ国際最低課税額=
当期国別国際最低課税額+再計算国別国際最低課税額+未分配所得国際最低課税額-自国内最低課税額に係る税の額
③国別実効税率
その国又は地域を所在地国とする全ての構成会社等の調整後対象租税額の合計額
グローバルミニマム課税の対象となり得る場合、上記の流れに従って正しく、納税額を計算する必要があります。
出典:国税庁 グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし
グローバルミニマム課税の対応や計算でお困りなら、「小谷野税尻法人」にお気軽にお問い合わせください。
グローバルミニマム課税の導入時期
グローバルミニマム課税は、令和6年の4月1日以降に始まる会計年度から適用されます。グローバルミニマム課税の対象となる企業に対して、法人税率の最低ラインである15%に達するまで、課税できるようになりました。
例えば、日本に本社を置き、最低税率よりも低い国に子会社を持っている企業に対して、日本の税務当局が、税率15%に達するまで親会社へ課税できます。
デジタル課税導入で日本が受ける影響
国内で対象となり得る企業は少数でも、デジタル課税の導入が日本へ影響を与えると考えられます。ここでは、国際課税制度の変更により、日本や日本企業が受ける可能性が高い影響について紹介します。
日本企業の国際競争力が促進
主に欧米を拠点とする企業の国際競争力が低下し、日本企業の国際競争力が向上する可能性が高まります。グローバルにビジネスを展開している多国籍企業は、国際課税制度が変更されることで、現状より税負担が増えるのは確実でしょう。
特に、欧米を本拠地とする多国籍企業の多くは、これまで租税回避のためにタックスヘイブンと呼ばれる国へ積極的に利益を移転していました。しかし、国際課税制度の改正により、税負担の増加が避けられなくなったのです。
欧米の企業ほど積極的に租税回避を行っている日本企業は少数であることから、世界の市場において日本企業の競争力が高まると期待されています。
日本の税収が増える
デジタル課税制度の対象となる複数の多国籍企業が、日本でのサービスを展開していることから、日本の税収増加が予測されます。
日本国内でデジタル課税の対象となる企業は少数であり、大半は課税対象ではありません。日本市場で巨額の利益を得ている多国籍企業から受け取る税収が増加する見込みであるため、日本の法人税収も増える可能性が高いです。
税負担率や海外進出への影響
グローバルミニマム課税が導入されたことで、今後、日本企業の税負担や海外進出に影響が出るかもしれません。
特に、輸出業をメインとする企業の税負担が変わる可能性があります。グローバル課税制度の導入により、税負担を求める権利がものやサービスを消費する国に移転すると、税負担が軽減することがあります。
日本よりも低い税率を設定している国が多いため、今までよりも税負担が減る可能性があるからです。しかし、輸出国の税率が変わる見込みがあることに注意が必要です。
これまで、外資を自国に誘引するために、税率を低くしてきた国が複数あります。グローバルミニマム課税の導入により、税率を低くすることへのメリットが薄れたことから、今後は税率の引き上げがあり得ます。
海外に進出している企業や輸出メインの企業は、今後の各国の動向次第で税負担が大きく変わるかもしれません。海外展開の際には、これまで以上に慎重な判断が求められるでしょう。
法人税率の引き下げ競争が抑制
外資を自国に取り入れるために、法人税率を低くする競争が抑制される可能性が高いです。公平な税収を期待する世界の国々にとって、租税回避のためのタックスヘイブンは悩みの種でした。
国債税制の改訂により、タックスヘイブンに子会社などを設立するメリットが薄れています。これまで通りの税率を維持する必要性が失われてくるため、税率を上げる可能性が十分にあり得ます。
法人税率を低くするなど優遇策の競争に歯止めがかかることで、国ごとの税率の差が縮まるでしょう。
取引先から情報提供を求められる
自社がデジタル課税制度の対象ではなくても、取引先の企業が対象となった場合、自社の情報提供を求められることがあります。
デジタル課税制度の対象となった企業は、市場国において利益が出た地域を適切に把握する必要があるからです。情報提供を求められた場合は、快く協力しましょう。
税制の対象企業には事務負担の軽減措置
グローバル課税制度の対象となる多国籍企業は、進出先の国ごとに税額を計算する事務負担が生じています。そのため、市場国が数十以上となる場合、事務負担を軽減するための適用免除基準が設けられています。
自社がグローバル課税やグローバルミニマム課税の対象となる場合は、税金の計算方法や軽減措置の対象となるのかを調べておきましょう。
参考:国税庁 グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし
まとめ | デジタル課税がいつから導入するかを理解し適切な対応を!
今回は、デジタル課税制度がいつから導入されるのか、制度の概要について解説しました。世界的にビジネスを展開している企業から、平等に税金を徴収するために国際課税制度が改正されました。対象となる日本企業は少数でも、影響を受ける可能性は十分にあり得ます。グローバル課税について理解し、適切に対応しましょう。