2023年10月の酒税法改正により、飲食店経営者は新たな税率に対応する必要が生じました。特に「第3のビール」の増税は、消費者の選択と市場の動向にも影響を与えると予想されます。この改正は、主にビール・発泡酒・新ジャンルの税率を段階的に一本化することを目的としており、2026年にはすべてのビール系飲料の税率が統一される予定です。これに伴い飲食店では、在庫に対する手持品課税の申告や、業務用ビールの価格変動など、経営戦略に悪影響を及ぼす可能性があります。
目次
酒税とは?
酒税はアルコールの種類や容量によって税率が異なり、法改正による変更もあります。場合によっては追加納税の対応が求められたり、還付が受けられたりする可能性があるため、飲食店の経営者は最新の税率を把握しておかなければなりません。
酒税とはアルコール飲料に課される税金
酒税とは、アルコール飲料の製造や輸入、販売に際して国に納める税金のことです。酒税の主な目的は、収入源としての財政的な役割と、過度な飲酒を抑制する社会政策的な役割を果たすことにあります。
税法で定められている酒税は、酒類の種類(ビール・日本酒・ワイン・ウイスキーなど)によって税率が異なり、アルコール度数や内容量に応じて計算されます。税率は、飲料の種類やアルコール含有量によって異なり、アルコール度数が高いほど税率も高くなることが一般的です。
酒税は、販売価格に含まれており、消費者は商品を購入する際に間接的にこの税金を支払っています。また、酒税の収入は、国や地方自治体の財政に貢献し、社会福祉や公共サービスの資金としても活用されています。
原則として飲食店が別途申告・納税する必要はない
通常、飲食店は酒税を別途申告する必要はありません。なぜなら、酒税は原則として、酒類の製造時や販売業者への販売時、または輸入時に課税されるからです。しかし、酒税率の改正が行われた場合、飲食店にも影響が及ぶことがあります。
例えば、2020年10月1日に実施された酒税法の改正では、酒税の税率が変更されました。これに伴い、飲食店が保有する在庫に対して、税率が上がった場合は追加の税金が課せられ、税率が下がった場合は還付を受けられる可能性があります。
ただし、1,800リットル以上のお酒を保有する飲食店が対象のため、個人店の多くは影響がないでしょう。
税法の変更は飲食店の在庫管理や財務計画に直接的な影響を与えるため、業界にとって重要な情報です。飲食店は、税法の変更に応じて適切な対応を取る必要があるため、酒税改正の情報をキャッチアップしていく必要があるでしょう。
関連記事:酒税について
2023年10月の税法改正で酒税はどう変わる?
最新の酒税法改正において、2023年10月1日からビール・日本酒・ワインなどの酒税が変更されました。具体的には、ビールや日本酒などの税金が下がり、発泡酒や新ジャンル(第三のビール)、ワイン、チューハイなどの税金が上がりました。
この改正は、2017年に決定されたもので、3段階に分けて実施されます。2020年10月1日に1回目の改正が行われ、2023年10月の改正は2回目にあたります。最終的な改正は2026年10月1日に実施予定です。
改正の目的は、酒類間の税負担の公平性を高めることと、商品開発や販売数量に影響を与えていた税率格差をなくすことにあります。
改正の主な内容は以下の通りです。
酒類 | 2020年 10月1日以前 | 2020年 10月1日以降 | 2023年 10月1日以降 | 2026年 10月1日以降 |
ビール | 77円 | 70円 | 63.35円 | 54.25円 |
発泡酒 (麦芽比率25%未満) | 46.99円 | 46.99円 | ||
新ジャンル (第三のビール) | 28円 | 37.8円 | ||
日本酒 | 42円 | 38.5円 | 35円 | |
ワイン | 28円 | 31.5円 | ||
チューハイ等の 低アルコール飲料 | 28円 | 35円 |
※350ml換算
2026年10月1日に予定されている酒税改正は、ビール系飲料の税率を統一することが主な目的です。現在、ビール・発泡酒・第3のビール(新ジャンル)は、原料である麦芽の使用割合や使用する副原料によって税率が異なりますが、これらの飲料に対する税率が一本化されます。
この改正により、同様の酒類間における税率格差が商品開発や販売数量などに影響を与えている状況を改善し、酒類間の税負担に公平性をもたらすことが期待されます。また、ビール系飲料の消費数量が減少している現状を踏まえ、選択肢が増えたことによる消費の移行が考慮されているのも特徴的です。
さらに、改正に伴い、酒類を取り扱う飲食店は、新旧の税率の差額を調整するための手持品課税(戻税)に注意が必要です。これは、該当する酒類を1,800L以上保有する事業者が対象で、増税される種類は課税され、減税される種類には戻税(還付)が発生します。
この改正により、ビール系飲料の価格差が小さくなり、消費者は価格差を気にせずに好みの酒類を選んで飲めるようになると期待されています。なお、ウィスキーは今回の酒税改正の対象外です。
参考:酒税に関する資料|財務省
関連記事:【2026年 酒税法改正】税率変更による事業主への影響は?
酒税改正に伴い飲食店が求められる対応
酒税改正により税額に変更があった酒類を保有する飲食店において、酒税率が引上げとなる酒類に対しては差額について納税義務が生じます。反対に、酒税率が引下げとなる酒類に対しては差額について還付が受けられますが、どちらの場合も手続きが必要です。
差額について「手持品課税・手持品戻税」が適用される
日本では、酒税率が改正されるとき、流通段階にある課税済みの酒類に対して新旧税率の差額を調整するための措置として「手持品課税」または「手持品戻税」が行われます。これは、令和5年10月1日に実施された酒税改正においても同様でした。
具体的には、酒税率が引き上げられる場合、飲食店ではその差額について追加で税金を納付する必要があります。反対に、酒税率が引き下げられる場合は、差額分の税金を戻してもらえます。酒税率の改正が行われる日の午前0時時点で、1,800L以上の酒類を所持している事業者が対象です。
申告には、課税額から戻税額を差し引いた結果、課税額が多い場合は納付が必要であり、戻税額が多い場合は還付を受けられます。申告の締め切りは、改正実施日から1ヶ月以内(10月31日まで)です。この制度により、税率の変更に伴う不公平を防ぎ、それぞれの飲食店で適正な税額を納付することを目的としています。
納付・還付を申告する方法
税額に変更があったアルコール飲料を提供する飲食店のうち、1,800L以上保有している場合に課税及び還付の対象となります。具体的には、以下の手順で行います。
- 申告の必要性の確認:
まず、保有している酒類の量を確認し、対象であるかを判断します。酒税率が引き上げられる酒類を1,800L以上保有している事業者が対象です。 - 課税額の計算:
新旧税率の差額を計算し、その差額について課税が行われます。課税額と戻税額を差し引きした結果、課税額が多い場合は納付が必要です。 - 申告書の作成:
国税庁のウェブサイトから「手持品課税等申告書作成ツール」をダウンロードし、必要な情報を入力して申告書を作成します。 - 申告と納付:
作成した申告書をもとに、期限までに税務署に提出し、課税額が多い場合は納付を行います。申告の締め切りは、改正実施日から1ヶ月以内です。 - 届出手続き:
酒税の手持品課税等の適用を受けるための届出手続きも必要です。これには「手持品課税対象証明申請手続」や「戻入れ(移入)酒類の手持品課税済確認申請手続」が含まれます。
詳細な手順や必要な書類は、国税庁のウェブサイトに掲載されているガイドラインや説明動画を参照すると良いでしょう。なお、申告に関連する資料は、将来的な確認のために保管しておく必要があります。また、不明点がある場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考:令和5年10月1日実施の酒類の手持品課税(戻税)について|国税庁
関連記事:輸入消費税とは?計算方法や関税との違い、免税・非課税になる条件などを解説!
酒税改正に伴う飲食店側の価格改定
酒税改正が行われると、飲食店における酒類の価格設定にも影響が及びます。店舗で提供する酒類の価格にも、税率の変更を反映させることが一般的です。税率が引き上げられた場合、その分のコスト増を価格に上乗せし、税率が引き下げられた際には、その差額を消費者にも還元する形で価格を下げることが望ましいとされています。
価格改定を行う際には、まず新しい税率に基づいた酒類の仕入れ価格を把握することが必要です。その上で、従来の価格設定と比較し、税率の変更分をどの程度価格に反映させるかを検討します。
一般的な価格の目安としては、原価率が30%を基準にすることが多いですが、税率の変更によってはこの比率が変動する可能性があります。また、大手ビール会社は酒税改正と原材料の高騰を踏まえた価格改定を行っており、飲食店は仕入れ価格を踏まえた料金設定が望ましいでしょう。
最終的な価格設定は、飲食店の経営戦略や顧客層、地域市場の状況に応じて決定されるため、一概には言えません。とはいえ、税率の変更は価格に直接的な影響を与えることは間違いありません。飲食店は、新しい税率を適切に価格に反映させることで、公平な競争を維持し、顧客に対して透明性を示すことが求められます。
飲食店におけるアルコール提供の免許要件
飲食店でアルコールを提供する際には、状況に応じて免許が必要な場合があります。通常、食事の提供がメインでのアルコール提供には特別な免許は不要です。しかし、ビンやボトルでの販売や深夜に営業する場合、接客サービスを伴うケースでは申請や免許が必要です。
ビンやボトルでのアルコール販売には、酒税法に基づく「酒類販売業免許」の取得しなければなりません。販売方法に応じて細かく区分されていますが、一般酒類小売業免許を取得すれば、すべてのアルコール類の販売が可能です。免許なしで販売すると、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられることもあります。お店でアルコールの販売をする際は、忘れずに免許を取得しなければなりません。
深夜営業でのアルコール提供は、警察署への「深夜酒類提供飲食店営業」の届け出が必要です。ただし、ファミリーレストランやラーメン屋など、アルコール提供が主目的でない飲食店ではこの届け出は不要です。
「深夜酒類提供飲食店営業」を届け出る場合は、飲食店営業許可書や店舗の図面、住民票の写しなどの書類が必要となります。申請は、営業開始10日前までが期限であるため、申請が遅れないように注意してください。
なお、接客サービスを主体とする店舗では、風俗営業許可が必要な場合があります。風俗営業と深夜酒類提供飲食店営業の許可は通常、同時に取得することはできません。営業形態ごとに必要な免許や申請が異なるため、複雑な営業形態を予定している場合は、事前に警察署に相談してみましょう。
参考:酒類の免許|国税庁
日本の酒税は世界一高い?
日本のビールに対する酒税は国際的に見ても高い水準にあります。例えば、350mlのビールにかかる酒税は、日本では63.35円ですが、イギリスでは39円、アメリカでは7円、ドイツでは4円(2023年10月時点)となっており、日本が他国に比べて高いことが分かります。
ビールのようにアルコール度数が比較的低い商品であっても、日本では高額な税率が設定されています。これは、日本独自の酒税制度に由来しており、消費税に加えて酒税が課せられる二重課税方式が採用されているためです。さらに、お酒の種類ごとに税率が細かく分けられており、ビールはその中でも特に高い税率が設定されています。
また、国税に占める酒税の割合を見ると、日本は2.5%であり、フランス0.9%、アメリカ0.7%、ドイツ0.6%と比較しても、日本が酒税に頼りすぎている状態が明らかです。これは、日本の税収における酒税の重要性を示しており、政府の財政運営において大きな役割を果たしていることを意味しています。
総じて、日本は酒税が高い国であると言えますが、これは長い歴史と複雑な税制の結果であり、国内の酒造業界や消費者に多大な影響を与えています。税制の見直しや国際的な調和を図る動きもありますが、現在のところ日本の酒税は他国と比較して高い水準にあると言えるでしょう。
参考:お酒にはどれくらいの税金がかかっているのですか?|財務省
関連記事:輸入販売をする際の税金の種類と計算方法
酒税を正しく理解して税制改正に備えよう
酒税改正は、飲食店経営者にとって無視できない影響をもたらします。改正時点で在庫しているお酒に対し、税率が上がったものは追加課税、下がったものは戻税が適用されます。そのため、1,800L以上の在庫を持つ飲食店では手持品課税の申告が必要となり、経営に悪影響を及ぼすかもしれません。
特に、ビール類の税率統一に向けた段階的な増税は、価格戦略や仕入れ方針の見直しを迫られることでしょう。また、手持品課税の申告や、業務用アルコールの管理にも細心の注意が必要です。
酒税に関してご不明点がある飲食店経営者の方や、改正に伴う経営戦略の見直しに不安を感じている方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。