経営者にとって「広告宣伝費をいくらまでかければいいのか」という問題は、頭を悩ませることの一つではないでしょうか。予算を割いた分、売上やビジネスの成長につながることが期待されますが、過剰な広告宣伝費は利益を圧迫してしまいます。この記事では、広告宣伝費の相場や経費計上のポイント、さらには注意すべき点まで、わかりやすく解説していきます。予算配分の参考にしていただければ幸いです。
目次
広告宣伝費はいくらまで?
広告宣伝費は企業の成長に不可欠な費用ですが、経営戦略においては、適切な投資額を見極めることが大切です。ここでは、広告宣伝にかける費用相場や経費として認められる範囲、広告宣伝費を利用した節税対策について解説します。
広告宣伝費の相場
広告宣伝費の相場は業界や企業規模、さらには事業戦略によって異なります。一般的には、売上高の2〜5%を広告宣伝費として設定する企業が多い傾向です。ただ、スタートアップや新商品を市場に打ち出す場合には、その比率はさらに高くなる傾向にあります。
また、デジタルマーケティングの台頭により、従来の広告手法と比較してコストパフォーマンスの高い戦略が可能となり、相場自体が変動しているのが現状です。
業種別の広告宣伝費における現状
業種別の広告宣伝費の相場を見ると、株式会社電通による「2023年 日本の広告費」の調査結果によれば、自動車業界は平均で約300億円と最も高く、次いで食品業界が約200億円、化粧品・医薬品業界が約150億円と続きます。
一方、小売業界は約100億円と他業界に比べて控えめな傾向にあります。特にデジタル広告の伸びが目立ち、業界全体でのオンラインへのシフトが加速していることも近年に見られる特徴です。
業種ごとの広告宣伝費における現状については、以下の表の通りです。
業種 | 広告宣伝費における現状 |
飲食業界 | 競争が激化しているため、地域密着型のプロモーションに力を入れ、平均で年間数百万円の広告費が投じられている |
小売業界 | オンラインショッピングの台頭によりデジタル広告に注力し、相場は数千万円規模にのぼることも |
美容・健康業界 | インフルエンサーを活用したマーケティングが流行し、数百万円から数千万円の広告費が見られる |
不動産業界 | 物件の特性を活かしたターゲット広告が主流で、数百万円から数千万円が相場 |
IT・通信業界 | 技術革新の速さに合わせた迅速なマーケティングが求められ、広告費は数千万円から億単位に及ぶことも |
製造業 | BtoB市場を意識した専門誌や展示会への出展が中心で、相場は数百万円から数千万円が一般的だが、業界によって異なる |
上記の業界では、デジタル化の進展と共に広告宣伝の手法も多様化しており、各企業は効果的な広告戦略を追求しています。
計上できる金額に上限はない
広告宣伝費は、業種にかかわらず企業にとって欠かせない費用ですが、その計上できる金額には法的な上限が設けられていません。つまり、企業がその事業のために必要と判断した金額を広告宣伝費として計上できます。
ただし、計上する広告宣伝費が事業の規模や収益と合理的な関係にないと、税務調査の対象となることがあるため、用途や使途には注意が必要です。過度な広告宣伝費を計上する場合には、その必要性や効果を説明できるようにしておくよう心がけましょう。
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節税対策に利用することも可能
広告宣伝費は経費として計上できるため、税金の節約として利用する企業も多いです。利益が出ている企業は、広告宣伝費を増やす分だけ課税所得を減らすことにつながります。
また、決算前に広告のための予算を経費として計上し、数ヵ月後に売上として戻ってくることも期待できます。他の節税対策と比較しても、先行投資としてリターンが見込める点がメリットです。
ただし、この方法はあくまで事業の拡大やブランド価値の向上など、正当なビジネス目的がある場合に限られます。無闇に経費を増やすことは資金圧迫のリスクを招く可能性があるため、節税を目的とした広告宣伝費の支出は慎重に行う必要があります。
関連記事:個人事業主が経費計上できる項目と事例、経費の落とし方を徹底解説!
そもそも広告宣伝費とは?
広告や宣伝を行うことで、新規の顧客に自社の商品やサービスを認知してもらえます。そのためにかける費用のことを「広告宣伝費」といい、条件を満たすものは経費として計上できます。
「広告宣伝費」に該当する費用
勘定科目の「広告宣伝費」に計上できる費用は、企業が製品やサービスの宣伝を目的として支出する経費を指します。下記の費用がその一例です。
- テレビCMやラジオ広告
- 新聞・雑誌の広告掲載料
- 看板やポスターの制作・掲示料
- パンフレットやカタログの印刷・配布コスト
- 広告塔としてのタレント起用料
- インターネットを利用したデジタルマーケティング費用
- 広告代理店に支払う手数料 等
また、展示会やイベントの出展料、それに伴う装飾や資材の購入費、宣伝用のノベルティグッズ製作費も「広告宣伝費」として認められます。企業のブランド価値向上や販売促進を図るための投資で、経営管理においても適切な会計処理が必要です。
ただし、社員教育や研修に関わる費用など、直接的な宣伝活動とは関連しない経費はこの科目には含まれないため、区分には注意しましょう。
広告宣伝費として経費計上できる条件
広告宣伝費として計上する条件は、広告活動が不特定多数の一般消費者を対象にしていることです。個々の顧客への接待や贈答など、特定の個人や団体を対象とした費用は、広告宣伝費とは区別されます。
経費計上を行う際には、広告宣伝活動が一般消費者に向けたものであることが明確で、その効果が企業の売上増加につながると見込まれることが条件です。したがって、その支出が企業の経済活動における広告宣伝の目的に合致していることを確認し、請求書や領収書を保持しておく必要があります。
また、BtoB(企業間取引)の場合でも、広告宣伝費として経費計上が可能です。例えば、業界誌への広告掲載や専門展示会でのブース出展費用など、他企業に対する宣伝活動も広告宣伝費として認められます。
重要なのは、その費用が企業の売上向上やブランド認知度の増加につながるかどうかです。
販売促進費との違い
広告宣伝費と販売促進費は、企業のマーケティング活動において重要な経費ですが、その性質には明確な違いがあります。広告宣伝費は、商品やサービスの魅力を広く一般に伝えるための費用であり、テレビCMや雑誌広告、ウェブ広告などがこれに該当します。
一方、販売促進費は、消費者の購買行動を直接促すための費用で、期間限定のセールやキャンペーン、試食・試用サービス、ポイントプログラムの運営などが含まれます。製品やサービスを特定の相手に手渡したり、実際に目で見せたりすることが特徴的です。
経費計上の際には、これらの違いを正確に理解し、それぞれの目的に応じた適切な勘定科目を選択することが重要です。広告宣伝費はブランドイメージの構築や認知度向上につながり、販売促進費は短期的な売上増加や顧客獲得に直結する活動に充てられるため、それぞれの戦略的な役割を踏まえた経理処理が求められます。
接待交際費との違い
接待交際費は、取引先や顧客との関係構築や維持のために支出される費用を指します。接待飲食費、ギフト代、慶弔費などがその一例です。
得意先との会食や懇親会、お歳暮の贈答などに関しては、項目を「接待交際費」としなければなりません。これらは広告宣伝費とは異なり、直接的な宣伝活動とは関連しないものの、ビジネス上の信頼関係を築くために必要な経費として扱われるためです。
広告宣伝費が一般消費者をターゲットとするのに対し、交際費は特定の個人や団体に対するものである点が大きな違いです。
関連記事:経費の節税におすすめ!計上できる項目や損金との違い、判断ポイント
「広告宣伝費」として認められないケース
大規模な支出があった際に広告宣伝費として計上できなかった場合、翌年に予想外の税金が課されるリスクがあります。ここでは、会計処理上の「広告宣伝費」として認められないケースについて解説します。間違えやすいパターンを把握し、適切な勘定項目で計上しましょう。
依頼側が広告物の作成に関わった制作費は外注費
広告物の制作において、依頼側の企業がどの程度関与するかによって、支出が広告宣伝費として認められるか外注費として計上されるかが変わります。
例えば、チラシ制作を外部業者に一任し、企業側の関与がない場合、その費用は広告宣伝費として認められます。これは、チラシが企業や商品の認知度向上を目的としているためです。
一方で、企業が構想を練り、その内容を基に外部業者に制作を依頼する場合、その支出は外注費となります。つまり、自社が制作に関わるか否かが、費用の区分を決定する重要な基準となるのです。
自社でアイデアを出し、外部業者に具体的な指示を与えて制作を行った場合、その費用は外注費に該当します。広告宣伝費としては計上できない点に注意が必要です。
特定の取引先へのプロモーションは接待交際費
広告宣伝費として経費を計上する際、特定の取引先に対するプロモーション活動には注意が必要です。
例えば、得意先だけに配る贈答品の製作は、広告宣伝費ではなく接待交際費として扱われることが一般的です。接待交際費は、その性質上、社外の人との親睦を深めるための費用と見なされるため、広告宣伝費とは異なります。
本来、交際費とすべき費用を広告宣伝費として計上したことが税務調査等で発覚すると、誤った計上が修正され、追加の税金が課される可能性があります。不特定多数を対象にしたものでないケースには注意しましょう。
商標登録したものは無形固定資産
企業のロゴやデザインの作成にかかった費用は、一般的に広告宣伝費となります。しかし、ロゴやデザインを商標登録した場合は、広告宣伝費としてではなく「無形固定資産」として計上しなければなりません。
無形固定資産は、その名の通り形のない資産であり、企業の長期的な利益につながるものとして扱われます。したがって、商標登録にかかる費用は、一時的な宣伝活動とは異なり、長期にわたって企業価値を支える投資として経理処理されるのです。
寄付金・協賛金
寄付金は無償で提供されるものであって、直接的な広告効果を目的としたものではないため、税法上、広告宣伝費としての扱いを受けません。
また、協賛金は、社会貢献活動やイベントへの支援として支出されるものですが、広告宣伝費として認められるケースとそうでないケースがあります。
例えば、イベントで使用するうちわや手ぬぐいに企業名を入れてもらうなど、不特定多数の人に対して企業やブランドの宣伝を目的として支出があった場合は、広告宣伝費として計上可能です。
しかし、宣伝効果を期待せず協賛金を募った事業に対するお付き合いや、地域との良好な関係を維持するために支出した場合、広告宣伝費ではなく「交際費」や「寄付金」として計上しなければなりません。
協賛金を計上する場合には、その目的が不特定多数を対象にしたものか、特定の事業者や地元地域を対象にしたものかで、勘定項目が分かれる点に注意が必要です。
取得価格が10万円以上の場合は固定資産として計上
企業が広告宣伝活動のために購入した備品や設備で、取得価格が10万円以上の場合、これらは広告宣伝費として即時に経費計上ができません。10万円以上の費用は固定資産として計上され、減価償却を通じて費用化されます。
例えば、自社の広告看板・ネオンサイン・PV撮影費など、費用が10万円を超え、かつ耐用年数が1年以上である場合、使用可能な年数に応じて減価償却費として経費の配分が必要です。耐用年数の詳細は、国税庁の「主な減価償却資産の耐用年数表」で確認できます。
一見すると広告宣伝費にあたるような費用でも、10万円を超える場合には計上する項目に注意し、適切な会計処理を行いましょう。
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広告宣伝費として計上する際の注意点
広告宣伝費としての条件を満たす場合でも、計上する際には注意すべきポイントがあります。ここでは適切に計上するために重要な、以下の4点について解説します。
実際に広告宣伝を行ったタイミングで計上する
広告宣伝費を計上する際「広告掲載の申し込みや、契約料の支払い時に経費を計上する」と誤解されることがあります。しかし、税務上は実際に広告宣伝が行われたタイミングで費用を計上するのが原則です。
これは、収益と費用の対応関係を正確に反映させるためで、例えば12月に契約して翌年1月に広告が掲載される場合、費用は1月に計上するのが適切です。
また、1年以上の長期契約をした広告や宣伝にかかる費用は、各月に分割して計上するのでなく、原則として「前払費用」として計上する必要があります。
消費税が課税される
広告宣伝費は、原則として消費税の課税対象となることも忘れてはなりません。広告代理店などの外部業者に支払う広告宣伝費には、通常、消費税が課税されます。また、支払った消費税額は税務上の仕入税額控除の対象にできます。
ただし、海外における取引では日本の消費税が課税されないため、課税対象外です。具体的な取引内容や状況により、消費税の取り扱いが変わる場合がありますので、詳細は税理士や会計士に相談することをおすすめします。
変動費になるケースもある
広告宣伝費は固定費となる場合が多いですが、変動費になるケースもあります。例えば、売上に応じて支払う成果報酬型の広告費は、売上高の増減に応じて費用も変動します。また、クリック数に基づいて費用が発生するオンライン広告も変動費の一例です。
変動費になる広告宣伝費は、売上予測や広告の効果測定をしっかりと行い、予算管理に注意を払う必要があります。
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広告宣伝費を正しく処理しよう
広告宣伝費として計上できる金額に上限はありませんが、交際費や販売促進費と混同しやすく、固定資産として減価償却すべきケースもあります。計上する際には、一見すると広告宣伝費と思える費用にも注意が必要です。
さらに、協賛金の中にも広告宣伝費として計上できる場合とそうでない場合があるなど、正しい処理には適切な知識が必要です。広告のために支払った費用を経費にできない場合、翌年の税負担が大きく変わる可能性もあるため、間違えがないよう慎重に処理しなければなりません。
広告宣伝費はビジネスに欠かせない支出ですが、その会計処理に不安がある場合は税理士のサポートを受けることをおすすめします。税理士をご検討の方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。