税務調査では、個人の銀行口座が調査対象になるケースもあります。一方で、条件次第では口座の提示を拒否できることも。この記事では、個人の銀行口座が調査対象になるのはどんなケースか、口座の提示を拒否できるのはどんな場合かという点を解説します。税務調査への対応策も解説していますので、参考にしてください。
目次
税務調査で個人の口座が調査対象となる主なケース
税務署が個人の銀行口座を調査対象にするのは、何らかの疑いがあるときだけです。何も疑いがないときに個人の口座を無作為に調査することはありません。
主に、下記の疑いがあるときに個人口座の調査が行われます。
事業用口座と個人用口座の混同が疑われている
個人事業主や法人役員の場合、事業用口座と個人口座のお金が混同しているとみられるときに税務調査が行われます。
チェックされるのは、主に以下のポイントです。
- 事業用口座と個人用口座が明確に区分されているか
- 事業の取引が個人口座で行われていないか
- 個人的なお金を経費に計上していないか
これらを調べ、所得税の申告漏れがないか、所得を意図的に少なく申告していないかなどを確認します。
相続税や贈与税の申告漏れが疑われている
相続税や贈与税の調査では、申告漏れがないか確認するために関係者全員の個人口座を確認します。
具体的には以下のような状況が確認されると、申告漏れが疑われます。
- 申告されている財産が、税務署の把握している財産よりも少ない
- 資産状況に見合わない出金がある
- 申告書の作成に税理士が関与せず、相続人だけで作成している
申告書とは、相続税や贈与税を支払う必要がある場合に作成して税務署に提出する書類です。税理士が関与した申告書は正確に作成されているとみなされるため、税務署から疑われにくくなります。
一方、相続人や贈与を受けた人だけで作成した申告書は誤りがある可能性が高いため、税務署に確認される可能性が高くなります。
相続税や贈与税の申告は、一定の金額を超える場合に必要です。詳しくは下記の記事をご確認ください。
タンス預金の無申告は税務署にばれる!最適な相続・贈与税対策は?
税務調査で個人の口座の提示を拒否できる場合もある
個人口座の提示は、拒否できるケースと拒否できないケースがあります。
個人口座の提示を拒否できるのは「調査内容と全く関係ないとき」
個人事業主や法人役員の場合、個人口座の提示を拒否できるのは、個人の口座が事業と一切関係ないときです。国税庁の解説には、「個人の預金は事業との関連が疑われる場合に提示を求める」という旨の記載があります。
参考:税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)問7|国税庁
つまり事業用のお金と個人用のお金が完全に分離していれば、個人口座を提示する必要がないため、提示を拒否できます。
また相続税や贈与税の場合、個人口座の提示を拒否できるのは、個人の口座が相続・贈与と一切関係ないときです。
ただし、自分でも気付かないうちに調査対象のお金と個人用のお金を混同してしまうこともあるので注意しましょう。後から混同が発覚すると、個人口座の提示をしなかったことで税務署から「隠蔽した」とみなされるおそれがあります。
隠蔽とみなされると、一番重いペナルティである「重加算税」が科されます。やましいことがないなら、調査員の求めに応じて個人口座を見せることも検討しましょう。万が一問題が発覚したときのダメージが少なくなります。
申告漏れや脱税のペナルティについての詳細は、下記の記事をご確認ください。
税務調査の時効はどのくらい?無申告や脱税の場合の対象年数やペナルティを解説
個人口座の提示を拒否できないのは「調査内容と関連があるとき」
まず、個人事業主や法人役員の場合です。税務調査で個人口座の提示を拒否できないのは、以下のようなケースです。
- 自宅が仕事場を兼ねており、家賃・水道光熱費・通信費などを按分している
- 個人口座と紐づいたカードで仕事用の備品を購入した
- 売り上げの一部が個人口座に入金されている
- 事業用口座と個人用口座の間で金銭のやり取りがある
- 現金での取引が多く、収支に曖昧な部分がある
按分について詳しくは下記の記事をご確認ください。
上記のように、事業用の口座を調査しただけでは全貌が把握できないと税務署が判断した場合、個人口座の提示をする必要があります。
また、相続税や贈与税の場合、相続や贈与に関するやり取りが少しでもあれば提示は拒否できません。
なお、納税者は税務調査に協力する義務があるため、調査員の質問には調査内容に関する範囲で答えなければなりません。調査の妨害は、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金の対象です(国税通則法第128条)。
税務調査で個人口座の提示をしなくても税務署は調査可能
納税者が口座の存在を忘れているなどの理由で個人口座を提示しなかった場合でも、税務署は独自の手段で個人口座を調査できます。
税務署は、納税者の許可なしに金融機関に対して情報開示請求が可能です。また、取引先などの関係者にも調査を行えます。こういった第三者への調査を「反面調査」といいます。
また相続税や贈与税の場合、贈与者や被相続人のみならず、親族や近しい人の口座も調査できます(国税通則法74条の3)。
納税者が提示しなくても調査できるのに、なぜ税務署は納税者に対し提示を要求するのでしょうか?それは、本人に提示してもらった方が調査が早く終わるからです。第三者への調査は時間が掛かりますし、銀行に情報開示請求するのも手間が掛かります。
こちら側が個人口座を提示せず第三者まで調査が行くと、取引先や親族などの関係者からの印象が悪くなる可能性も。さらに、第三者への調査で思わぬ不正が発覚した場合、隠蔽を疑われてペナルティが重くなることもあります。
個人口座を調査員に見せるのは抵抗感がありますが、調査時間の短縮やリスクヘッジを考えると、個人口座を見せるのも一つの手です。
税務調査が来ると分かったら事前に対策して備えよう
一般的な税務調査の前には、事前連絡があります。下記の記事では、税務調査の流れや必要書類などの解説をしています。税務調査に不安がある方は、記事を事前に読んで対策しましょう。
税務調査はどこまで調べるのか?知っておきたい対象範囲や注意点・手続きなどを詳しく解説
【税理士監修】税務調査に来たらやばいのはどの役職?税務調査に対応するコツとは
税務調査で個人の口座を提示したくない場合は税理士に相談を
この記事では、税務調査で個人の口座が調査対象になるケースについてお伝えしました。
個人の口座にやましいことがなくても、いざ現場で調査官に個人口座の提示を求められたら、不安ですよね。
初めから税務調査に慣れている人はいません。しかし、場数を踏んでいる税理士なら、スムーズに調査官とのやりとりができます。個人口座の提示をしたくない方は事前に税理士と協議して、適切な対応方法を準備しましょう。
当法人では、税務調査の事前通知が来てからでもお引き受けできる場合もありますので、お急ぎの方はご連絡ください。