株式を売却して得た利益には、所得税と住民税が課せられます。もし、年間の利益が20万円超となる場合、または特定口座で源泉徴収を選択していない場合には、確定申告が必要になります。本記事では、株売却による確定申告が必要な条件と申告方法について詳しく説明していきます。
目次
株式投資の利益と税金の基礎知識
株式投資は資産運用の一環として、利用されています。その際、株式投資で得る利益には、主に値上がり益(キャピタルゲイン)と配当金の2種類があります。それらの利益には税金がからむため、計算方法や節税方法について理解することが大切です。
以下より、株式投資利益に課せられる税金の仕組みや、節税手段として有効なNISA口座の利用方法などを詳しく解説します。
特定口座の種類と申告方法
株取引を行う際の特定口座には、「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があります。
「源泉徴収あり」を選択した場合、年間の株式取引で利益が出た際の税金は、証券会社が事前に計算して源泉徴収を行います。したがって基本的には確定申告は不要です。
一方、「源泉徴収なし」の場合は、年間の株式取引の利益の総額を自己計算し、確定申告を行う必要があります。このためには、証券会社から送られてくる年間取引報告書が重要な資料となります。一般口座を利用する場合は、証券会社からの報告書がないため、売買の履歴を自己管理し、必要な情報を申告書に記載する作業が必要になります。
株式売却益にかかる税金と税率
株式を売却した際に得られる売却益には、所得税と住民税が課税されます。具体的には、所得税が15%、住民税が5%で合計20%が基本的な税率です。株売却の場合は、所得の大小にかかわらず一律の税率が適用される点に注意しましょう。
さらに、復興特別所得税が0.315%加算されるため、最終的な税率は20.315%となります。税率は売却益が大きければ大きいほど影響が大きくなりますので、正確に計算することが重要です。
運用期間中に受け取る配当金も同様に課税されますが、確定申告を行う際には二重課税にならないよう、適切な措置を適用しましょう。また、売却益が大きい場合や、複数の口座で取引を行っている場合は、確定申告で同一年分の利益と損失を相殺する「損益通算」を利用することができます。これにより納税額を抑えることができ、節税効果が期待できます。
関連記事:株式投資で損をしたときの節税法!確定申告での損益通算のやり方を解説 – 小谷野税理士法人(旧のびよう会計)
確定申告が必要なケースとは?
先ほどお伝えした特定口座の「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」について、それぞれのメリットとデメリット、さらに注意点について詳しく解説をします。
源泉徴収ありの場合
「源泉徴収あり」の特定口座を利用している場合、証券会社が売却益に対する税金を差し引いています。このため、原則として確定申告は不要です。
しかし、他の所得と合算した方が税負担が軽減される場合や、医療費控除、ふるさと納税などで還付を受けたい場合には、確定申告を行うと節税面で有利になる可能性があります。また、複数の証券会社で口座を持っている場合や、1年内の利益が大きく変動した際には、申告が必要となる可能性もあるため注意してください。
「源泉徴収あり」は手間がはぶけ便利ですが、もし所得控除を最大限に活用したい場合は、株売却以外の所得金額も計算しましょう。そのためには自分の全体的な所得状況を把握することが重要です。
源泉徴収なしの場合
「源泉徴収なし」の特定口座を利用している場合、証券会社は税金を差し引かずに売却益の全額を投資家に払い戻します。このため、利益が出た場合には自分で確定申告を行わなければなりません。
具体的には、年間の取引で得た利益を総額で計算し、必要な税額を申告書に記載して税務署に提出します。この際、証券会社から提供される年間取引報告書を利用すると、計算や記載が簡単になります。その他の所得と合算して申告することで、扶養控除や配偶者控除も可能になるため、節税にも繋げられるでしょう。
一般口座の場合
一般口座を利用して取引を行っている場合は、年間の売買記録をすべて自身で管理しなければならないため確定申告が必須です。
株式の売買ごとに発生する損益を正確に計算し、年間の合計利益を税務署に報告する義務があります。一般口座で取引している場合は、証券会社からの年間取引報告書がないため、管理が難しいと感じる人が多いでしょう。売却益だけでなく、手数料やその他の費用も確定申告の計算に含める必要があるため、取引履歴を自身で詳細に記録することが重要です。
なお、一般口座を利用した際には、損益通算が適用される場合もあります。ただし、特定口座と異なり、自分で計算し申告するスキルが求められるため時間がかかるでしょう。あらかじめ損益通算の仕組みについて理解しておく必要があります。
投資信託の利益がある場合
投資信託の利益も株式売却益と同様に確定申告が必要です。投資信託の利益には、分配金(配当金)や売却益が含まれます。分配金は基本的に受け取った時点で課税され、特定口座で「源泉徴収あり」を選択している場合は自動的に税引き後の金額を受け取ることになります。
しかし、「源泉徴収なし」や一般口座の場合は自己申告が必要になります。投資信託の場合でも株式と同様、売却時に利益が発生した場合には申告が必要です。確定申告の際には、証券会社からの年間取引報告書や取引明細書をもとに計算を行います。
また、投資信託の損益も損益通算の対象となるため、株式の損失と合わせて税負担を軽減することが可能です。
確定申告が不要なケース
株式投資をしていても、確定申告が不要となるケースも存在します。確定申告が不要となる条件は特別な場合が多いので、個々の投資状況や利用している口座の種類、年間の利益額に基づいて正しく判断しましょう。
NISA口座を使用している場合
株式投資でNISA(少額投資非課税制度)口座を利用している場合、年間360万円(成長投資枠:240万円、つみたて投資枠:120万円)までの投資額に対して得られる利益については非課税となります。そのため、NISA口座内での取引利益については確定申告は不要です。
NISA口座では、株式や投資信託など様々な金融商品に投資できますが、非課税枠を超えた投資や利益は対象外となるため注意してください。また、NISA口座は利益が発生しない場合や、損失が出た場合も確定申告は不要です。
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利益が一定額以下の場合
株式売却益や配当金などの利益が年間で一定額以下の場合も、確定申告は不要です。副業としての所得が年間20万円以下であれば、確定申告の対象外となります。
この20万円という基準は、本来確定申告が不要な給与所得者に適用されるものです。給与所得者以外の場合、例えば年金受給者などの場合は異なる基準が適用されるため注意してください。公的年金受給者の場合は、公的年金などの収入が400万円以下、かつ公的年金以外の所得が20万円以下の場合に確定申告が不要となります。
また、利益が少額でも他の所得と合算して全体の課税所得が一定額を超える場合は申告が必要です。基準額を超えているかどうかを正確に判断するために、年間取引報告書などの資料はしっかりと確認してください。
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確定申告に必要な書類と手続き
株式の売買や投資信託の運用で得た利益を申告する際、必要な書類と手続きがあります。株売却における確定申告で必要な書類とその入手方法、記入方法や注意点について詳しく見ていきましょう。
必要書類のリスト
確定申告を行う際には、複数の書類が必要となります。以下が代表的な必要書類のリストです。
- 年間取引報告書(年間取引損益報告書)
- 特定口座年間取引報告書
- 配当金支払通知書
- 源泉徴収票
- マイナンバーカードもしくは通知カード
- 本人確認書類
- 控除証明書(医療費控除や生命保険料控除など)
上記の書類のうち1~3は、取引を行った翌年の1月中旬~下旬に証券会社から提供されます。それらには1年間の取引内容が全て記載されています。
給与所得者の源泉徴収票や本人確認書類、控除のための証明書などは自身で用意します。
書類の入手方法
年間取引報告書や特定口座年間取引報告書は、証券会社のウェブサイトや郵送で受取可能なため、必要に応じて自分に適した手続きをしてください。証券会社によっては電子交付を行っている場合もありますので、ウェブサイトにログインしてダウンロードすることも可能です。
配当金支払通知書や源泉徴収票は、証券会社や勤務先から交付されます。もし書類が揃っていない場合は、早めに証券会社や勤務先に連絡して発行を促しましょう
住民票コードやマイナンバーの証明書類については、市区町村役場で発行が可能です。また、控除証明書は保険会社などから取得してください。
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書類の記入方法と注意点
まず、確定申告書の「譲渡所得等の内訳書」に年間取引報告書の記載内容を記入します。確定申告書の「譲渡所得」の欄にも記入します。特定口座年間取引報告書や配当金支払通知書も同様に記入します。該当する控除がある場合は、控除内容も忘れずに記入しましょう。
マイナンバーの記入も必要です。控除証明書の情報も、確定申告書の「控除」欄に漏れなく記入します。申告書を提出する前にはすべての記入内容を再確認し、誤りがないか確認しておきましょう。
電子申告(e-Tax)を利用する場合には、上記と同様の内容を対応ソフトやウェブサービスを用いて入力します。
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投資損失がある場合の対応
投資で損失が発生することは避けられませんが、損失を有効利用する方法があります。確定申告では損益通算や損失繰越控除を活用することで、税負担の軽減や将来的な利益との相殺が可能です。投資損失の仕組みや、具体的な利用方法について詳しく解説していきましょう。
損益通算の仕組みと利用方法
前述の通り、損益通算とは同一年度内に発生した利益と損失を相殺することで、課税対象となる利益を減少させる仕組みです。
例えば、株式投資で利益が出た一方で、別の銘柄で損失が出た場合、これらを合算して利益を減少させることができます。
確定申告書の「譲渡所得」の欄に利益と損失を双方記載し、損益を合算した値を申告するのが具体的な手続きです。これにより税額が軽減されるため、節税効果が得られます。
損失繰越控除の活用法
損失繰越控除は、年度内に相殺しきれなかった損失を翌年度以降に繰り越し、将来の利益と相殺することで税負担を軽減する仕組みです。
損失は最大3年間繰り越すことが認められており、その間に発生した利益と相殺することができます。年度ごとの確定申告書に損失繰越控除を適用する旨を記載し、証拠書類とともに提出するのが具体的な手順です。ただし、損失繰越控除は損失が発生した年度の確定申告を行っていることが前提条件となります。
株式売却益に影響する総合課税と譲渡所得の考え方
株式売却益に関する総合課税と譲渡所得の基本を理解することで、正しい税額計算を行えるようになります。
総合課税は複数の所得を合算し税額を計算する方法で、譲渡所得は株式などの資産売却から得た利益のことです。この2つの制度について正しく理解することで、ミスのない確定申告を行いましょう。
総合課税の適用とメリット・デメリット
総合課税は、給与所得や事業所得、配当所得など多様な所得を合算して税額を計算する方法です。株式売却益を総合課税に含める場合、所得全体で税額が決まります。
メリットは、所得控除や扶養控除などの税優遇措置を受けやすくなる点です。例えば、医療費控除や住宅ローン控除などを適用する際には、総合課税による確定申告で税負担を軽減できる場合があります。
ただし、総合課税は所得によって税率が変わる「累進課税」が適用されるため、所得全体の額が高ければ、より高い税率が適用される点がデメリットです。株売却以外で所得を得て、税率が上がる可能性がある人は注意してください。
譲渡所得の基本と計算方法
譲渡所得とは、株式などの資産を売却したときの利益のことをいいます。譲渡所得の計算方法は比較的シンプルですが、以下のポイントに注意して行いましょう。
まず、売却益は売却価格から取得費(購入費用)と譲渡費用(手数料など)を差し引いた金額で計算されます。
たとえば、株式を100万円で購入し、売却価格が150万円だった場合の譲渡所得は、50万円の利益です。さらにそこから譲渡費用として手数料が差し引かれます。手数料はそれぞれの証券会社や金融会社ごとで異なります。
税金は譲渡所得に対して課されますが、特定口座を利用している場合は源泉徴収されるため、あらかじめ税金が控除されています。一般口座や「源泉徴収なし」の特定口座を利用している場合は、この譲渡所得を基に確定申告を行います。
また、譲渡所得には特定の控除や軽減措置が適用される場合があるため、詳細は税務署や専門家に確認してください。
株式売却における確定申告は専門家に相談しよう
株式売却による利益や損失の申告は、法律や税制度への理解と知識が必要なため、複雑に感じる人も多いでしょう。特に初めて確定申告を行う場合は、手続きや必要書類の準備が難しいと感じるかもしれません。
特に株売却で譲渡所得による申告を行う際は、納税額が大きくなる場合もあります。正しく確定申告を行わないと、税率の高い重加算税が課されるリスクが生じます。
もし株売却における確定申告が必要な方は、ぜひ一度税理士に相談してみてください。損益通算や損失繰越控除などの複雑な手続きについてもサポートを得られるでしょう。さらに、二重課税防止や節税対策についてのアドバイスも受けられるため、投資収益を最大限に活用できる可能性が高まります。