年俸制とは、一年単位で給与を決定する制度で、ボーナス払いと均等払いの2種類があります。それぞれ特徴が異なり、どちらが得するのか一概には言い切れません。本記事では、年俸制の特徴やボーナス払いと均等払いの異なる点、注意点、メリットとデメリット、ポイントなどを解説します。最後まで読めば、年俸制の導入に関する疑問点を解消できるでしょう。
目次
年俸制とは
年俸制の基本情報として、押さえておきたい点は以下の通りです。
- 一年単位で給与を決める制度
- 月給制と異なる点
- 向いている企業・職種
- 評価基準
ここから、具体的に解説します。
一年単位で給与を決める制度
年俸制とは、一年単位で給与を決める制度を示し、以下の理由によって採用する企業もあるのが特徴です。
- 従業員に公平だと感じてもらえる評価を実現するため
- 業績に応じた利益を分配したいため
原則として、従業員の合意のもとで給与を決定するのが年俸制の特徴です。法律において、年俸制に限定される取り決めはないものの、月給制と同様に残業代や休日出勤の給与などを支払う必要があります。
月給制と異なる点
月給制とは、1ヵ月単位で給与を決定する制度を示します。年俸制とは異なり、出勤日数や各種手当などの影響を受けやすく、月によって給与が変更になりやすいでしょう。
業績や社会情勢によって、賞与の金額が増減したり、もらえなくなったりするケースもあるのが特徴です。貢献度合いによって基本給が大幅に変動しない傾向にあり、一般的に月給制は、年功序列の企業で採用されてきました。
向いている企業・職種
年俸制の採用が向いている企業や業種などは、具体的に以下の通りです。
- SEやコンサルタントなど、高度なスキルが必要な専門職
- 取締役や会計参与などの役員
外資系の多くの企業で年俸制が採用されている一方、日系企業においては企業や職種が限られる傾向にあります。高度なスキルが必要な専門職は「高度プロフェッショナル制度」の対象で、労働基準法の適用外とされるケースがあります。
評価基準
年俸制の評価基準において、特に重要な点としてあげられるのは以下の点です。
- 成果の達成度:ノルマの達成度合いや個人の業績に対する評価
- 発揮したスキル:専門知識や企画提案、責任感などに対する評価
- 勤務態度:積極性や協調性、勤勉さなど、仕事に取り組む姿勢に対する評価
業務に関連するもののみを対象とし、勤務時間外の評価は対象外とするのがポイントです。
年俸制のボーナス払いと均等払いで異なる点
年俸制のボーナス払いと均等払いで異なる点は、具体的に以下の通りです。
ボーナス払い | 均等払い |
| 年俸を均等に12分割し、毎月定額を支払う |
ボーナス払いの方が、一般的な給与形態である月給制に近いと言えるでしょう。クレジットカードや住宅ローンなどの支払いで「ボーナス払い」を選択している場合、均等払いは向いていない可能性があります。
パーキンソンの法則でも言われている通り、「支出の額は収入の額に達するまで増える」傾向にあるためです。多くの人にとっては、毎月の収入が多くなると、その分多くの金額を使う可能性があると言えます。
年俸制のボーナス払いと均等払いのどちらが得?
年俸制のボーナス払いと均等払いは給与の支払い方が異なるものの、どちらが得するのかは一概に言い切れません。企業の置かれている状況や将来の展望など、さまざまな観点によって変わるためです。
健康保険料や年金などを計算するときは、それぞれ以下の上限が設けられるのが特徴です。
均等払い |
|
ボーナス払い |
|
従業員に対して高額な給与を支払う企業ほど、均等払いを適用する方が得する可能性はあります。仮に月に100万円給与を支払ったとしても、上限があることから、課税対象金額は65万円まで減額されるためです。
厚生年金保険料は従業員と会社で半分ずつ負担しているのが特徴で、会社側にとっても納付額を抑えられる可能性があります。
一方で、社会保険の支払いを抑えると、従業員が将来受け取る年金の額がその分少なくなります。従業員がいるからこそ事業は成り立つもので、自社の利益のみを考える事業運営は望ましいものではないでしょう。
ボーナス払いと均等払いのどちらにするのかは、長期的な視点に立ち、慎重な判断が求められます。
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年俸制のメリット
年俸制のメリットは以下の点です。
- 経営計画を立てやすい
- 業績向上が期待できる
ここから、具体的に解説します。
経営計画を立てやすい
年俸制のメリットは、年間の人件費を明確にできることから、一年間の経営計画を立てやすくなる点です。一般的に、企業にとって人件費の占める割合は大きいのが特徴である反面、月給制では月による変動が大きくなりやすいためです。
適切な計画や目標を立てたあとで事業を展開すると、事業活動を最大化させることが期待できます。
業績向上が期待できる
年俸制のメリットのひとつは、業績の向上です。年齢や経験などに関係なく、従業員を評価するのが年俸制の特徴で、従業員の意欲の向上が期待できるためです。
特に、若手の優秀な人材にとって、業績で評価される給与システムは魅力的に感じてもらえるでしょう。仕事への意欲が高い従業員を採用すると、期待以上の成果をあげ、会社の発展に貢献してもらえる可能性があります。
年俸制の採用によって、中長期的な目標や計画を立てやすくなると言えるでしょう。
年俸制のデメリット
年俸制のデメリットとして、以下の点があげられます。
- 人件費が負担になる
- 従業員の離職やモチベーション低下につながる
それぞれ詳しく解説します。
人件費が負担になる
年俸制のデメリットのひとつは、人件費が重い負担になる可能性がある点です。予想しない業績低迷に陥ったとしても、年俸制では原則として給与の減額が許されていません。
強制的に給与の減額を実施した場合は、契約違反となる点に注意が必要です。人件費についてはトラブルに発展しやすく、以下の点を明確にしておくことが求められます。
- 計算方法
- 賞与の支払い方法
- 対象者など
図らずも人件費の割合が増えると、企業活動においてネガティブな影響を与えるでしょう。
従業員の離職やモチベーション低下につながる
年俸制のデメリットの一つは、成果主義による従業員同士の軋轢の発生や、離職などにつながる可能性がある点です。年俸制では、「ライバルを蹴落としてでも上へ行く」「自分さえよければいい」のような従業員を生み出しやすいと言えます。
一方で、成果をあげられないと給与をもらえないプレッシャーから、実力を発揮できなかったり離職したりするケースもあるでしょう。
年俸制を採用するときの注意点
年俸制を採用するときは以下の点に注意が必要です。
- 毎月給与を支払う必要がある
- 就業規則や給与の変更には従業員の合意が必要である
それぞれ詳しく見ていきましょう。
毎月給与を支払う必要がある
「年俸制」と聞くと、1年に一度給与を支払うものだと捉える方もいるかも知れませんが、毎月給与を支払う必要があります。労働基準法第24条によって、給与は毎月1回以上、一定の期日での支払いが義務付けられているためです。
前述の通り、ボーナス払いか均等払いのどちらかを選択し、月給制と同様に毎月支払うのがポイントです。一般的には、月給制の給与支払日と同じ日が設定される傾向にあります。
参考:「労働基準法第24条(賃金の支払)について」厚生労働省
就業規則や給与の変更には従業員の合意が必要である
年俸制の注意点として、年俸制の採用に当たり、従業員からの合意を得る必要のある点があげられます。年俸制を採用する場合は就業規則を変更する必要があり、変更内容について従業員に納得してもらうのがポイントです。
年俸制を採用するにあたり、従業員から合意を得る必要があるのは以下の点です。
- 内容の正当性
- 採用する理由
- 変更する必要性
- 従業員に生じるデメリットなど
不意に年俸制を採用するのではなく、猶予期間を設定したり手当を支給したりするなど、準備期間を設けるのがひとつの方法です。
年俸制を採用するときのポイント
年俸制を採用するにあたり、以下の点を押さえておくとよいでしょう。
- 賞与の取り扱い方法
- 残業代の取り扱い方法
- 欠勤控除の取り扱い方法
- 社会保険・税金の取り扱い方法
- 各種手当の取り扱い方法
- 中途社員への対応方法
- 退職者や解雇発生時の対応方法
ここから、詳細に解説します。
賞与の取り扱い方法
年俸制の採用に当たって、以下の通り賞与の支払い方法を選択する必要があります。
- 年俸に含める:年俸を14等分or16等分し、毎月給与払いにする。残りの2等分or4等分を賞与として支払う
- 年俸に含めない:年俸を12等分した金額を毎月支払い、別途賞与を支払う
賞与を年俸に含める場合、法律において賞与としては扱われません。就業規則で設定してある場合に限られるものの、賞与の減額やカットなどをできるのが特徴です。
一方で、年俸に賞与を含む場合、賞与の支払いは確定しており、途中での変更ができません。
残業代の取り扱い方法
月給制と同様に、年俸制でも残業代の支払いは必要です。あらかじめ年間で支払う給与を決定するという特徴から、誤解しやすいポイントだと言えます。
一方で、固定残業代やみなし残業代などを給与に組み込む点を明示しておくと、残業代の支払いは発生しないでしょう。残業代が発生しないケースは、具体的に以下の通りです。
- 固定残業時間を経過していない
- 裁量労働制で、時間による報酬形態ではない
- 管理監督者が対象である
- 秘書などの機密事務取扱者である
残業代の支払いが発生するケースについては、数値などで明確化させておくとよいでしょう。
欠勤控除の取り扱い方法
年俸制では、月給制と同様に欠勤控除を適用できます。欠勤控除とは、欠勤によって従業員が働かなかった労働時間を給与から引くことを示します。
法律で決まりはないものの、ノーワークノーペイの原則で「働かない労働者に対して給与を支払う必要はない」とされているためです。欠勤控除を適用するには、就業規則に規定を設けるのがポイントです。
社会保険・税金の取り扱い方法
年俸制を採用するとき、以下の通り社会保険と税金の金額について、影響が出る点を通知しておくとよいでしょう。
- 均等払い:毎月の負担が大きくなるものの、将来の年金が増える
- ボーナス払い:毎月の負担が軽減されるものの、将来の年金が減る
それぞれの特徴については、従業員への十分な説明が求められます。
各種手当の取り扱い方法
年俸制を採用したとしても、以下の手当を支給するケースがある点は押さえておくとよいでしょう。
- 家族手当
- 住宅手当
- 資格手当
- 役職手当
- 通勤手当など
各種手当の支給について、以下の通りに分けられるのが特徴です。
- 法定福利厚生:社会保険や雇用保険、介護保険など、法律で会社負担の義務を定めているもの
- 法定外福利厚生:法定福利厚生以外のすべての手当
年俸制での各種手当の支給に関しては、就業規則で決めておくのがポイントです。
中途社員への対応方法
年俸制を採用するにあたって、以下の通り中途社員の待遇について決めておくとよいでしょう。
- 評価基準
- 評価期間
年俸制とは、過去一年間の実績に対して給与額を決定するものであり、中途社員に対しては例外的な対応が必要です。一般的には、入社日から契約更新日までの期間を対象とするのが特徴です。
一方で、評価対象の就業期間が短すぎると判断される場合は、従業員の平均給与額を支給するなどの対応が求められます。
退職者や解雇発生時の対応方法
年俸制を採用するときは、退職者や解雇者が発生したときの対応方法について、以下の通り検討する必要があります。
- 期の途中で退職者が発生:給与対象期間、賞与の支給の有無
- 会社側の都合で解雇者が発生:給与対象期間、賞与の支給の有無
年俸制とは言え、就業規則に明記してある場合、原則として労働実績のある期間のみの支払いで構いません。会社都合による退職者や解雇者が発生した場合も同様に、労働実績のない期間の給与の支払いは必要ありません。
トラブルを防ぐうえでは、イレギュラーが発生したときの対応について、就業規則に明確に記載しておくのがポイントです。
年俸制を採用するときは税理士に相談を
ここまで、年俸制の特徴やボーナス払いと均等払いの異なる点、注意点、メリットとデメリット、ポイントを解説しました。従業員のモチベーションを高めたり経営計画を立てやすくなったりする点から、年俸制の採用は注目を集めています。
月給制とは異なる給与形態となり、従業員への理解を求めたり就業規則を変更したりするのがポイントです。適切な対応をしないと、トラブルの原因となり、企業活動への悪影響が懸念されます。
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