個人事業主は、災害や体調不良、出産や店舗改装など様々な理由で休業する場合もあるでしょう。この記事では、休業中で売上や収入が無くても計上できる経費や注意点について解説します。さらに、休業中に利用すべき「税負担を減らせる制度」や確定申告の書き方、減価償却、休業補償にも触れています。休業中の方、休業を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
再開する意思があれば、個人事業主は休業中も経費計上できる
個人事業主は、休業中でも経費を計上できます。法的に、個人事業主に休業の制度はありません。廃業届を出さない限り事業が継続しているとみなされるため、売上がなくても通常時と同様に経費が認められます。
ただし、再開する意思があることが条件です。長期にわたって事業を停止すると、税務署に目をつけられ税務調査に入られる可能性があります。その際「実質的に廃業している」と判断されると、経費が認められなくなるので注意しましょう。
そのため、休業中に経費を計上する際は以下の2点に答えられるよう準備する必要があります。
- 事業を再開するのはいつ頃の予定か
- 計上した経費が事業の維持・再開のために必要だと明確に説明できるか
以下、休業中に計上できる主な経費を紹介します。
固定費(家賃、光熱費、通信費など)
固定費とは、売上の増減にかかわらず常に発生する費用を指します。具体的には以下のような費用です。
- 事務所の家賃や光熱費
- インターネットの通信費
- リース料
ただし、自宅兼事務所の場合は、通常時と同じ家事按分にできるか注意しましょう。休業中でもメールチェックやリサーチなど事業再開の準備をしていた場合、通信費などの一部は経費として計上できます。
一方、家全体の通信費などがほとんど事業に使われていない場合、経費として計上できません。
事業用に使った時間を記録しておくなどして家事按分の根拠を明確にしておくのがおすすめです。税務署から問い合わせがあった際、正当性を説明できます。
家事按分について詳しくは下記の記事をご確認ください。
事業資産の減価償却費
事業に使用する設備や資産がある場合、休業中でも減価償却は続きます。ただし、休業中でも必要な維持補修を行い、いつでも稼動できる状態にしておくことが経費計上の条件です。
参考:事業の用に供した日(稼動休止資産の減価償却の可否)|国税庁
減価償却について詳しくは下記の記事をご確認ください。
減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
事業に関係する管理費や維持費
事業の再開に必要な管理費や維持費も、経費計上できます。具体的には以下のような費用です。
- 機械や設備のメンテナンス費用
- 事業用車両の整備費用
- ライセンス更新費用
- オフィスや倉庫の保険料や維持管理費
事業内容によっては、他にも計上できる経費があります。個人事業主の経費について詳しくは下記の記事をご確認ください。
個人事業主が経費計上できる項目と事例、経費の落とし方を徹底解説!
個人事業主は休業中でも確定申告を!利用すべき制度を紹介
休業中で売上がなければ確定申告をしなくてもペナルティが科されることはありません。しかし、経費を計上して赤字になっているなら確定申告するのがおすすめです。
なぜなら、確定申告を行うことを条件に税負担を減らせる制度があるためです。ここでは2つの制度を紹介します。
経費による赤字を他の所得と相殺できる制度
1つ目は「損益通算」です。種類の異なる所得間で損失と利益を相殺できる制度で、白色申告者でも青色申告者でも利用できます。
黒字の他の所得(給与所得、不動産所得など)がある場合、その黒字から事業所得の赤字を差し引いた額を総所得にできます。損益通算制度を使わない場合と比べて課税所得が減るため、税負担も減らせます。
具体例でシミュレーションすると、以下の通りです。
給与所得 | 300万円 |
事業所得 | -20万円 |
総所得 | 不動産所得 + 事業所得 = 300万円 + ( – 20万円) = 280万円 |
この場合、確定申告をしないと、給与所得の300万円に基づいて所得税や住民税が計算されてしまいます。
参考:損益通算|国税庁
経費による赤字を他の年の黒字と相殺できる制度(青色申告者のみ)
2つ目は「純損失の繰越し・繰戻し」です。赤字を前年もしくは翌年以降の黒字と相殺できる制度で、青色申告者のみが利用できます。なお、純損失とは「損益通算しても残る赤字」を指します。
未来に赤字を持ち越す方法は「繰越し」、過去の利益と相殺して税金を還付してもらう方法は「繰戻し」と呼ばれます。状況や戦略によって、使いたい方を選びましょう。
制度 | 概要 | 効果 |
繰越し | その年に出た赤字を、翌年以降(最大3年間)の利益と相殺できる | 利益が出た年の課税所得が減るため、将来の税金を減らせる |
繰戻し | その年に出た赤字を、前年の利益と相殺できる | 前年の課税所得が修正されるため、すでに納めた税金が一部還付される |
将来に向けて利益が出る見込みがある方は、未来の税負担を軽くできる「繰越し」がおすすめです。ただし翌年以降も青色申告をしなければ、その特典が継続できなくなります。
一方、すぐに資金が必要な方は「繰戻し」がおすすめです。支払った税金が一部還付されるため、資金繰りの助けになります。ただし前年も青色申告していることが条件です。
参考:青色申告制度|国税庁
参考:純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続|国税庁
なお、白色申告者でも、損失の理由が災害である場合は繰越しができます。
参考:災害により事業用資産などに被害を受けた個人事業者の方|国税庁
制度を利用しない場合でも確定申告するのがおすすめ
ここでは確定申告することで利用できる制度を2点紹介しました。しかし、制度を利用しない場合でも確定申告するのがおすすめです。
所得税の確定申告が必要ない方でも、自治体に対する住民税の申告はしなければなりません。住民税申告は確定申告とは違い、収入が無くても申告する義務があるためです。
住民税を申告しないと、本来払うべき額よりも国民健康保険料が高くなったり、各証明書が発行できなかったりします。ただし、確定申告をすれば住民税の申告は不要です。
つまり、「手間を省くために確定申告しない」と選択しても住民税を申告する手間が掛かるので、それほど手間は削減できません。
それならば不慣れな住民税申告をするよりも、毎年やっている確定申告をするのがおすすめです。
参考:国民健康保険加入世帯の方は所得の申告が必要です|茅ヶ崎市
休業中の個人事業主が確定申告をする際の書き方
e-taxで確定申告をする場合、収入が0である以外は通常時と同じように経費やその他の情報を入力します。
通常時に作成する確定申告書は第一表と第二表だけですが、赤字があると第四表も作る必要があります。第四表は、損益通算や繰越しの計算を行う書類です。e-taxの指示に従って入力すれば自動作成されます。
なお、繰戻す場合は下記の書類も併せて提出しましょう。
青色申告決算書または収支内訳書にある「本年中における特殊事情」の欄には、休業中である旨を記入しましょう。特殊事情の記入は必須ではありませんが、記入すると税務署から不審に思われる可能性を低くできます。
e-taxを使わず手書きで確定申告書を作る方は、下記の記事もご確認ください。書き方を解説しています。
休業中の個人事業主が経費計上する際によくある質問
ここでは、よくある質問3点に答えます。
個人事業主の休業補償の保険料は経費になる?
被保険者が個人事業主本人である場合は、経費になりません。従業員が被保険者であれば経費にできます。
個人事業主が休業するための手続きは必要?
所得税については、手続きは必要ありません。個人事業主には休業の制度がないため、廃業届を出さない限り事業が継続しているとみなされます。
ただし、青色申告決算書または収支内訳書の「本年中における特殊事情」の欄には、休業中である旨を記入するのがおすすめです。税務署に対し、収入の減少が不自然なものではないと説明できるからです。
なお、個人事業税については、自治体によっては届出が必要です。ホームページなどで確認しましょう。
参考:個人事業開業・休業・廃業届出書申請書ダウンロード|神奈川県
個人事業主で、休業していたけど廃業を決めた。廃業の手続きは?
廃業の手続きは、下記の記事で詳しく解説しています。参考にしてください。
休業中の確定申告が不安なら専門家に相談しよう
この記事では「個人事業主は休業中でも経費計上できる」という点を解説しました。しかし、減価償却費や家事按分などの計算は複雑です。さらに、税負担を減らせる制度の利用方法もわかりづらくなっています。
確定申告に不安がある方は、ぜひ税理士にご相談ください。税理士は、税負担を最大限減らすサポートができます。なお、税理士への相談料は経費に計上できますよ。