副業が認められ、会社員の方も個人事業主として事業を行える時代になりました。
すでに独立している方の中には、個人事業主から法人(株式会社、合同会社)設立まで、何らかの業績を残している方もいると思います。そこで、今回は個人事業主から法人化をするタイミングとメリットについて詳しく解説していきます。
目次
法人化とは
法人化とは会社設立(株式会社、合同会社)のことを指し、個人から法人格となり法人成りともいわれます。
法人化には様々なメリットがあり、個人事業主とは異なる点が存在します。法人化すると免税期間の延長や会社としての信用力の向上などがあげられます。
これから法人化をしようと検討している方は、以下の点を参考にしてみてください。
法人の概要
法人化とは個人から法人(会社)に、資産や負債を引き継ぐかたちで事業を行うことをいいます。資産とは個人事業主が所有していた預金、売掛金、負債、貸付金などの金融資産、不動産、備品、車両などを指し、個人所有から法人所有となり所有権が変わります。
代表取締役が1人でも会社の資産は法人所有となり、個人的な使用や利用は制限されます。個人事業主とは違い税制面のメリットが大きい半面、会社の所有となった資産の管理などのルールが細かく定められています。
法人と個人事業主の違い
法人 | 個人事業主 | |
事業開始の手続き | 法人登記 必要書類、会社印などの 準備が必要 | 所轄の税務署にて開業届の提出 不備がなければ当日に開業可能 |
事業開始の費用 | 法定費用+資本金 株式会社 25万円〜 合同会社 10万円〜 | 0円 資本金不用 |
事業の廃止 | 解散登記・公告等が必要 (数万円の費用) | 届出の提出 |
税金 | 法人税 法人住民税 法人事業税 消費税 など 赤字でも年間約7万円 法人住民税の負担 | 所得税 個人住民税 消費税 個人事業税 所得税は累進課税 (5%~40%) |
経費計上 | 事業にかかる費用のほかに 役員報酬、退職金なども経費として計上可能 | 事業にかかる経費は計上可能 自宅兼事務所、通信費、車両等は決められた按分率を参考に計上 |
赤字の繰越 | 過去10年間分 さかのぼって申告可能 | 過去3年間分 さかのぼって申告可能 (青色申告) |
社会的信用度 | 高い 新規の取引、融資にも有利 | 低い 法人同士の取引を条件とする 会社もある |
会計・経理 | 法人決算書・申告 (税理士が必要な場合が多い) | 個人の確定申告 |
生命保険 | 全額経費 または 2分の1経費など | 所得控除 |
法人化をするタイミング
個人事業主が法人化する際には、以下の条件に達したタイミングで行うことでさまざまなメリットを得られます。特に、売上の増加で利益が大きくなるにつれて、より法人化の恩恵を受けることができます。どのようなタイミングで法人化するのが良いか、また、法人化によって個人事業主であったときとは具体的にどう変わるのかを解説していきます。
売上高が1,000万円を超えたとき
個人事業主が事業で売上高1,000万円を超えたタイミングで法人化するのがおすすめの理由は、2年間の消費税免税処置が受けられることがあるからです。個人事業で売上が1,000万円になった場合は、消費税の課税事業者の対象となります。しかし、法人化を行い会社設立をすれば2年間は、消費税の納税義務が免除される場合があります。納税義務の免除の条件には以下のような条件があります。
- 資本金が1,000万円以下
- 特定新規設立法人ではない
- 社会福祉法人ではない
- 相続による事業継承ではない
- 消費税課税事業者選択届出を提出していない
利益が800万円を超えたとき
事業での利益が800万円を超えたときには、法人化を検討するタイミングの一つです。理由は、所得税は累進課税に対して、法人税は一定税率なので税金を収める額が変わるためです。
具体的には個人事業主の所得税は、最高税率が45%となりますが法人税は最高税率23.2%となり税率が大きく異なります。
個人事業主の所得税率
課税される所得額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~194万円9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
法人税率
課税所得 | 期末資本金1億円以下 | 期末資本金1億円以上 |
800万円以下 | 15% | 23.4% |
800万円以上 | 23.4% | 23.4% |
インボイス登録を行うとき
2023年10月よりインボイス制度が導入されました。個人事業主であっても、インボイス登録を行うと課税事業者となり、消費税納税義務が発生します。消費税の免税には条件があり、要項を満たしていない場合は免税を受けることができません。
- 資本金1,000万円以下
- 設立1年目の前半6ヵ月(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下
(基準期間は、前々年の事業年度) - 特定期間における課税売上高(または給与等支払額)が1,000万円以下
(特定期間は、前事業年度開始日から6ヵ月) - 設立1期目が7ヵ月以下
法人化するメリット・デメリット
個人事業主が法人化するメリットはいくつかありますが、デメリットも存在します。法人成りを検討している方は、本当に法人化の選択がメリットになるのかを、検討して準備しましょう。
法人化のメリット
法人化のメリットは次の通りです。
税制上有利になる
個人事業主が法人化を行うと、経費に使える範囲が広がり節税につながる場合があります。具体的には、給与は役員報酬として所得控除が適用されます。今までは売上から経費を引いた所得に税金がかかりますが、役員報酬として自身の給料を設定することで、法人としてかかる課税額を少なくできます。課税所得が0の場合は法人税は発生しません。
ただし、高額な役員報酬を受け取ると個人の所得が増えて、所得税が高くなりますのでそれぞれの収支のバランスに着目することも大切です。
退職金が損金として認められる
個人事業主であっても、一定の要項をみたせば従業員に対する給与や賞与は必要経費として認められます。しかし、個人事業主本人の退職金は経費として認められていません。
法人化を行うと原則として、役員自身の退職金も損金算入が認められるため法人所得を減らせるメリットがあります。
役員退職金を支給すれば、一定の範囲内であれば原則として損金算入できるということは、法人の所得税負担が削減されることになりますので、利益が得られているなら会社にとっては節税効果が期待できます。
賠償金額の範囲を指定することができる
個人事業主は銀行からの借入などがある場合、税金の滞納、仕入れの未払金などの保証の責任はすべて本人が背負うこととなります。個人資産を所有している場合は、差し押さえ等の方法で返済義務が個人に生じます。
法人では出資額までの賠償範囲の指定が可能です。賠償の責任は法人(株式会社、合同会社)にあり会社の資産を売却するなどの賠償を行います。ただし、個人保証が付与された借入の場合は、代表取締役、役員自身の負債となり、個人に返済義務が発生します。
赤字(欠損金)を1(欠損金)を10年繰り越すことができる
法人の場合は、前年度の決算において赤字になった金額を翌年の欠損金として繰り越せます。この制度を法人税の繰越欠損金制度といいます。
前年度の赤字額を翌年度の課税金額から差し引くことが可能になり、課税金額を抑えることが可能です。
欠損金として繰り越す金額は、資本金が1億円以下の中小企業は全額繰り越せます。
繰越欠損金制度制度を利用するためには、複式帳簿による青色申告が必要です。
個人事業主の欠損金繰り越し期間は3年とされており、法人と同様に複式帳簿による記帳が必要で青色申告にて確定申告を行わなければなりません。
決算時期を自由に設定できる
個人事業主は12月に決算時期が決まっています。
法人は決算期を自由に設定できるため、閑散期などの余裕がある時期を決算月にすることで、業務の手間を増やす事なく事業に集中できるところがメリットです。繁忙期は決算に向けての準備にかける時間もなく、業務も増えるため決算時期を自由に設定できる点はメリットといえます。
法人化のデメリット
法人化には、以下のようなデメリットがあります。
赤字でも税金の支払いがある
法人には法人住民税がかかり、事業収益が赤字でも均等割の約7万円を納税しなければなりません。法人住民税は、均等割と法人税割りの2つで構成されています。
均等割とは法人であれば全ての会社に納税義務があり、その金額は資本金や従業員数、市区町村などによって変動しており赤字の法人では7万円ほどとなります。
法人税割りとは、法人が国に納めた法人税額に一定税率を乗じた額のことです。以下の計算式で算出できます。
- (都道府県)法人税額×1.0%
- (市町村)法人税額×6.0%
税率は市町村や所得によって、異なります。
社会保険への加入が義務
法人化すると従業員数に関わらず社会保険への加入が必要です。ただし社会保険への加入は、従業員への雇用の安定、社会保険料控除の計上、厚生年金受給といったメリットがあり、恩恵も少なくありません。
個人事業主の場合は、国民健康保険、国民年金への加入のみであるため負担額は少なく済みますが、将来働けなくなった場合などの保証は社会保険の方が手厚い傾向にあります。
会計や事務手続きが増える
法人化を行うとすべて1人で事務作業を行うことは困難となります。従業員を雇用する際にも、社会保険の手続きを行ったり、決算資料を準備して提出したりするなど手間がかかります。
法人の多くは、税理士事務所との顧問契約を行い毎月の経理を管理しています。個人事業主と違い、法人の場合は経営状況の管理や経費の管理が複雑化しやすいため、税金のエキスパートである税理士事務所におまかせすることをおすすめします。
法人化するにあたって、事務手続きなどに不安を感じている方は、ぜひ、わたしたち「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
法人化するための手続き
個人事業主が法人化するための手続きには、多くの書類や準備が必要です。また、個人事業主の開業届と違って必要書類の提出後から法人設立までに時間がかかります。
本項からは、法人化するための手続きを紹介していきます。提出する資料や認証を受ける必要があるため余裕を持って準備を行いましょう。
会社の基本的な内容の決定
会社を設立するにあたって基本的な内容を定めます。具体的には以下の内容が基本事項に該当します。
- 商号(会社名)
- 会社の目的と事業内容
- 本社所在地
- 株主や役員構成と報酬額
- 資本金額
- 決算日
細かな内容を決定することで、国や自治体は誰がどのような事業をどこで行うのかを知ることが可能です。会社として利益があがり、納税義務が生じた際にも、国税や都道府県は事業者を把握する必要があるため会社の内容を決定することは重要なポイントです。
法人用の実印の作成
法務局に設立登記の申請をするときには、会社の実印が必要です。社名が決まったらまず実印を作り、印鑑届書も忘れないようにしましょう。印鑑届書とは、会社が法務局で実印を登録するために必要な書類で、個人の印鑑登録と同じ意味合いを持ちます。必要な印鑑の種類は以下の通りです
- 代表者印
- 銀行印(法人口座)
- 角印
- ゴム印
スムーズに申請を進めるためにも、事前にきちんと準備をしておきましょう。
定款の作成と認証
定款(ていかん)とは、会社を運営するうえでのルールをまとめたもので、「会社の憲法」ともいわれています。定款の作成は、会社設立の手順の中でも最も時間がかかるため、余裕を持って準備を進めましょう。
定款には、会社概要を記載する必要があり、中でも必ず記載しなければならないと法律で決められているのが「絶対的記載事項」です。
絶対的記載事項は下記の5項目で、記載がないと定款は無効なので注意が必要です。
- 屋号
- 事業目的
- 本店所在地
- 出資金の額
- 発起人氏名・住所
株式会社の場合は、作成した定款を公証役場に提出し、認証の手続きを行います。公証役場は予約制のため、本店所在地がある公証役場への事前連絡が必要です。
合同会社の場合、定款の作成は必要ですが、認証は不要です。
出資金(資本金)を払い込む
会社設立の途中のため法人の銀行口座を開設できませんが、発起人の口座に資本金を入れておく必要があります。1円からでも可能ですが、事務所賃貸借契約ができないなどの場合がありますので、最低でも運転資金の3ヶ月程度を足した金額を入れておくのをおすすめします。
登記申請書類を提出し登記申請を行う
一般的な株式会社の登記申請書類は、以下の書類が必要です。
- 設立登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 定款
- 代表取締役の就任承諾書
- 取締役の就任承諾書
- 監査役の就任承諾書
- 役員の印鑑証明書
- 出資金(資本金)の払込証明書
法人登記申請書は定められた様式によって記入する必要があり、不備があった場合には再提出する必要があります。申請方法は2種類あり書面申請とオンライン申請があります。
法人登記の申請は委任状があれば代理人が対応できます。、税理士事務所などが書類の作成から申請までを担うこともできるため、手間を省きたい方には専門家への依頼をおすすめします。
なお、自己申請を行う方は以下のリンクより、申請書のフォーマットがダウンロードできますのでご利用ください。
法人化したあとの手続き
登記申請後は以下の手続きも必要です。提出期限が短いものもありますので、早めに準備しましょう。また、事業内容によっては、許認可が必要な業種であれば行政書士などの専門家に相談する必要もがあります。
税金関係の手続き
会社には様々な税金がかかります。本店所在地の所轄の税務署への書類の提出が必要となります。都道府県税事務所、市町村役場への法人設立届出書を提出しなければなりません。
株式会社以外の形態の法人でも必ず提出することが義務付けられていますので、会社設立の2か月以内に各所に提出しましょう。
労働保険関係の手続き
法人においては、1人の社長でも社会保険に加入する必要があるため年金事務所への届出が必要です。
健康保険、厚生年金保険のどちらも加入する必要があり、未加入のまま放置していると年金事務所から連絡がきて最終的には罰則が課せられます。
新規加入する手続きは、法人登記が完了してから5日以内と期限が短く早急に届け出る必要があります。
申請方法は電子申請、郵送、窓口のいずれかの方法で必要書類を提出しましょう。
労働保険関係の手続き
従業員の雇用の際、労災保険と雇用保険に加入する必要があります。労災保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークで手続きを行います。
パート、アルバイトの雇用も労災保険への加入が必要で、雇用保険に関しては1週間に20時間以上の労働時間と、31日以上の継続的な雇用の場合には加入が義務付けられています。
法人化するための費用
法人化の費用は株式会社の場合で約25万円〜、合同会社の場合は約10万円〜が法定費用として決まっています。また、専門家への手続きを依頼する場合や、提出までの代行を依頼する場合には別途費用が必要です。
会社によって申請書を提出した後も、継続的なサポートを提供している会社もあります。
法人化に関する法定費用と、その他の費用を詳しく解説していきます。
登記手続き費用
登記手続きでかかる費用は以下の通りです。
株式会社
①定款の収入印紙代 40,000円
※電子定款の場合は不要
②定款の認証にかかる手数料 30,000~50,000円
(資本金額により異なる)
③定款の謄本手数料 約2,000円
(1ページあたり250円、平均8枚)
④登録免許税 150,000円
もしくは資本金額の0.7%
※高い方を優先
合計費用 約250,000円~
合同会社
①定款の収入印紙代 40,000円
※電子定款の場合は不要
②定款の認証にかかる手数料 0円
③定款の謄本手数料 0円
④登録免許税 60,000円
もしくは資本金額の0.7%
※高い方を優先
合計費用 約100.000円~
株式会社の場合、定款認証手数料は資本金額によって変わります。
資本金100万円未満の場合は30,000円、資本金100万円〜300万円未満は40,000円、資本金300万円以上は50,000円となります。
社会保険料
社会保険料は法人と従業員が50%ずつ負担し、従業員負担分については毎月の給与から天引きすることになります。社会保険料は月末に従業員が法人へ属していることで発生し、当該保険料を翌月末までに納付することとされています。一方、毎月の給与の締日や支給日、社会保険料の天引き方法は法人が目的や状況に応じてルールを定めています。
保険料率は、加入している健康保険組合や都道府県などによって異なります。協会けんぽ(東京都)における令和5年3月からの保険料率は、以下のとおりです。
- 健康保険料率(介護保険なし):10.00%
- 健康保険料率(介護保険あり):11.82%
- 厚生年金保険料率:18.30%
社会保険料は標準報酬月額に保険料率をかけた金額がかかります。
専門家に支払う費用
法人化にかかる費用は法定費用と、専門家に支払う費用です。会社設立のための書類の準備から提出までを代行する会社もあり、基本的には法人化を行う個人事業主は専門家に依頼するケースがほとんどです。
法人化を行う依頼先は司法書士や税理士事務所に依頼する場合が多く、費用は約5〜9万円とされています。
また、会社設立に伴い、税理士と顧問契約を結ぶ場合がほとんどです。税務処理や会計処理が複雑なため専門的なサポートを受ける必要があります。
なお、顧問料の契約金としては年額50〜70万円が相場です。
そのほかの費用
そのほかの費用としては、会社印の作成費用、申請にかかる交通費、印鑑証明などの各種証明書の発行手数料などが挙げられます。
また、事業拡大のための事務所の移転、改装費用、書類保管のための備品の購入など細かな費用がかかります。資本金とは別途に運転資金として、最低3ヶ月以上の資金が必要です。
インボイス制度との関係性
個人事業主から法人化することでメリットとデメリットを解説しました。
2023年10月よりインボイス制度が開始され、法人成りのタイミングに悩んでいる事業者も少なくありません。
今までは売上や税制面の観点から法人設立を検討していた方も、インボイスの導入により取引先との関係が崩れてしまう場合もあります。
個人が企業向けに事業を行っている場合は特に影響を受ける可能性があるでしょう。
法人化するときの適切なタイミングや法人化の費用について詳しく知りたい方は、お気軽に小谷野税理士法人にご相談ください。