個人事業主として事業をする中で、所得税や住民税など「納税」を負担に感じるケースもあるものです。節税する方法を知り実践すれば、納税による支出額を減らし、資金繰りを改善できる可能性があります。今回は、個人事業主の支払う税金や節税方法、計算方法などを解説します。最後まで読めば、節税方法に関する疑問点を解消できるでしょう。
目次
個人事業主が支払う税金4つと計算方法とは
個人事業主が支払う税金として以下の4つがあげられます。
税金の種類 | 概要・計算方法 |
所得税・復興特別所得税 | 【概要】
【計算方法】 収入から経費を引いた所得から所得控除を引いた課税所得に税率を掛けて計算する |
住民税 | 【概要】
【計算方法】 均等割と所得割を足して計算する |
個人事業税 | 【概要】
【計算方法】 事業所得から事業主控除を引き、税率を掛けて計算する |
消費税 | 【概要】
【計算方法】
|
上記のように、税金の種類によって計算方法が異なることを理解しておきましょう。
参考:「所得税のしくみ」国税庁
参考:「消費税のしくみ」国税庁
個人事業主・フリーランスの手取りシミュレーション|年収や手取りの計算方法
個人事業主が所得税などを節税できる仕組み
以下の方法をとると、個人事業主は節税できる仕組みです。
- 経費の計上で課税所得額を小さくする
- 控除の利用で課税所得額を少なくする
ここから具体的に解説します。
経費の計上で課税所得額を小さくする
課税所得額を小さくすると所得税も小さくなることから、必要経費を正確に計上すると節税につながります。趣味の買物や食事など、個人的な支出は経費にできないものの、事業活動や売上に関するものなどであれば経費にできます。
- 仕事専用の服やバッグの購入代
- 事業に関する勉強のための書籍代
- 取引先との会食代
事業所と住まいを兼ねている場合、家賃や光熱費の一部を経費として計上できます。「家事按分」と言われており、床面積や使用時間などに応じて納税する割合を算出します。
経費にできる金額に上限はなく、発生した経費に関しては帳簿やレシートなどで記録を残しておくのがポイントです。
個人事業主は経費をどこまで切れる?経費にできるものや上限・メリットなどぶっちゃけ紹介!
控除の利用で課税所得額を少なくする
所得から所得控除が引かれると所得税が算出されるのが特徴で、以下の控除を適用すると節税になる仕組みです。
- 所得控除:総所得から一定額を引く制度
- 税額控除:計算された税額から一定額を引く制度
控除の金額が多ければ多いほど、納付する所得税の金額を小さくできます。計算方法により、所得控除と税額控除の金額が同じ場合、税額控除の方が節税効果は高いです。
税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説!
参考:「No.1200 税額控除」国税庁
個人事業主が所得税などを節税する方法10選
個人事業主が節税する方法として、具体的なものは以下の通りです。
- 青色申告特別控除を利用する
- 少額減価償却資産の特例を適用する
- 経費をもれなく計上する
- 経営セーフティ共済に加入する
- 小規模企業共済を利用する
- iDeCoを利用する
- ふるさと納税を利用する
- 医療費控除を利用する
- 短期前払費用の特例を活用する
- 法人成りする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
青色申告特別控除を利用する
節税方法としてあげられるものは、青色申告特別控除の活用です。個々の状況によって異なるものの、以下の通り所得金額から最大で65万円控除できるのが特徴です。
青色申告特別控除の種類 | 適用条件 |
55万円控除 |
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65万円控除 | 【55万円控除の条件を満たす】 e-Taxで確定申告or優良な電子帳簿として保存している |
10万円控除 |
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少額減価償却資産の特例を適用する
節税に効果的なものとして、少額減価償却資産の特例の活用があげられます。青色申告している個人事業主が、30万円未満の減価償却資産を購入した場合、同年に全額経費として計上できる制度です。
原則として、10万円以上の減価償却費を購入した場合、法定耐用年数を適用し、数年間にかけて計上する必要があります。
少額減価償却資産の特例を利用すると、取得した年の経費を増やせることから、節税につなげられます。
参考:「No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」国税庁
個人事業主・フリーランスの節税・税金対策とは?知っておきたい裏ワザやテクニックをご紹介
経費をもれなく計上する
個人事業主が節税するには、必要経費をすべて計上するのがポイントです。必要経費とは所得を得るために必要な金額を表し、具体的には以下が挙げられます。
経費になるもの | 経費にならないもの |
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意図せずとも、経費にならないものを計上すると「過少申告加算税」などのペナルティを課されるケースがあります。
経営セーフティ共済に加入する
個人事業主が節税する方法として、経営セーフティ共済への加入があげられます。取引先が倒産した場合、共倒れを防ぐために設けられている制度で、以下のメリットがあるためです。
- 無担保・無保証人でお金を借りられる:未回収の売掛金か掛金の10倍相当額のどちらか低い方が上限
- 取引先の倒産後にお金を借りられる:未回収の売掛金がある場合でも安心
- 経費として計上できる:節税効果が期待
- 解約手当金をもらえる:12ヵ月以上掛金を払っている場合、総額の8割以上戻る。40ヵ月以上払っている場合、全額戻る
経営セーフティ共済の月額は5,000円から20万円までで、任意による選択ができます。
経営セーフティ共済の節税効果とは?知っておきたい概要や注意点を詳しく解説!
小規模企業共済を利用する
個人事業主の節税方法の一つは、小規模企業共済の活用です。個人事業主が対象の退職金制度で、廃業する場合には共済金をもらえるためです。
小規模企業共済の特徴は以下の通りです。
- 共済金の受取方法を選択可能:「一括」「分割」「一括と分割の併用」の中から選択できる
- 掛金を変更可能:1,000円から7万円の範囲内で、加入後も500円単位で変更できる
- 低金利での貸付可能:掛金に応じて、貸付制度を利用できる
即日中に貸付を受けられるケースがあり、資金繰りに困ったときも役立つ制度です。
iDeCoを利用する
個人事業主が節税する方法として、iDeCoの利用があげられます。掛金はすべて所得控除でき、60歳以降に受け取れる制度のためです。
iDeCoの特徴は以下の通りです。
- 運用益が非課税:課税される金融商品とは異なり、利益を多く残しやすい
- 積立金が非課税:受取方法は2種類(金融機関によっては3種類)あり、一時金で受けとる場合は非課税となるケースがある
元本割れになる可能性があったり、手数料が発生したりする点を押さえたうえで、iDeCoの利用を検討するとよいでしょう。
iDeCoを活用した節税とは?いくら節税できる?効果的な運用方法・シミュレーション・注意点などをご紹介
ふるさと納税を利用する
個人事業主の節税方法の一つは、ふるさと納税の利用です。2,000円の自己負担金のみで、さまざまな返礼品を受け取れる可能性があるためです。
ふるさと納税とは、任意で選んだ自治体に寄附すると、住民税と所得税から(寄附金−2,000円)の金額が控除されます。直接的な節税方法ではないものの、返礼品を受け取ると、寄附金以上の価値を得られるのがメリットです。
ふるさと納税を確定申告するときは、寄附金受領証明書が必要です。
ふるさと納税は節税ではない?行うメリットや寄付の方法・返礼品の活用法を詳しく解説
医療費控除を利用する
個人事業主の節税方法として効果的なのは、医療費控除です。一般的には年間で10万円以上の医療費が発生したときに利用できる制度で、最大200万円まで控除できるためです。
医療費控除の対象は、具体的に以下の通りです。
- 納税者、納税者と生計をともにする配偶者やその他の親族
- 1月1日から12月31日の期間
- 医療費10万円以下の場合:総所得が200万円未満の場合、総所得5%相当の金額以下である
入院や出産などに関する費用は、医療費控除の対象外です。
【税理士監修】医療費控除とは?申請・計算方法や他の制度との違いを解説
短期前払費用の特例を活用する
短期前払費用の特例を利用すると、個人事業主の節税に効果的です。以下の条件を満たす場合、本来であれば翌期以降に計上すべき経費でも、当期に計上できるためです。
- 支払日から1年以内に提供を受けるサービスである
- 継続した役務の提供である
- 支払い方法や計上方法を継続する
短期前払費用が適用されるものとは、具体的に以下が挙げられます。
- 土地代や家賃
- リース料
- 保険料
- 年間購読料
月払いから年払いにすると、利用するサービスによっては割引率が高くなるケースがあり、よりお得に利用できます。
【税理士監修】短期前払費用を徹底解明 | 正しい会計処理と節税対策
法人成りする
個人事業主の節税方法として、法人成りがあげられます。法人成りとは、法人を設立し事業を継続すると、経費として計上できるものを増やせるためです。
法人成りすると得られるメリットは、具体的に以下の通りです。
- 社長に支払われる報酬を経費にできる
- 家族に役員報酬を支払うと所得の分散効果があり、所得税率を下げられる
- 従業員として働く家族の給与を経費にしたり各種控除できたりする
- 赤字を10年まで繰り越せる
個人事業主から法人成りを検討するタイミングは、課税所得が800万円を超えるときが考えられます。
【税理士監修】法人の税金対策を徹底解説!節税方法から法人化まで
個人事業主が所得税などを節税するには早めの対策がポイント
個人事業主が節税に効果的な方法を実践する場合、なるべく早く始めるのが賢明です。書類を作成する必要があったり期限が決まっていたりと、時間や労力がかかる傾向にあるためです。
確定申告間際になって慌てて行動しても、「時すでに遅し」となる可能性があります。
事業をしながら節税に取り組むのは大変かもしれませんが、長期的に見ると金銭面でのメリットを受けられます。まとまった時間を確保し、まとめて作業すると節税アクションを効率的に進められるでしょう。
個人事業主の所得税などの節税に関する相談は税理士へ
ここまで、個人事業主の節税や納税額の計算方法などに関して解説してきました。
個人事業主にとって、事業を発展させるにはいかに有効に資金を活用するのかがポイントの一つです。節税に取り組めば、自由に使える資金を増やせ、精神的な余裕も生まれるでしょう。
一方で、節税に取り組むうえでの手続きや書類作成などは面倒に感じやすいものです。
小谷野税理士法人では、豊富な経験と専門知識を持つスタッフが、あなたの節税対策を丁寧にサポートします。お気軽にご相談ください。