個人事業主として順調に利益が出るようになると、次の段階として「法人成り(法人化)」を検討する方が多くいます。しかしそのタイミングは、何を基準にすればよいのか判断しにくいものです。今回の記事では、法人成りの基準となるタイミングをテーマに解説します。また、節税効果が高い決算月の決め方も併せて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
法人成りは所得が年900万円を超えたとき
法人成り(法人化)とは、個人事業主が法人になることです。法人成りには、社会的信用度が上がる、節税、事業承継しやすいなど、様々なメリットがあります。
個人事業主が法人成りを行うタイミングは、「所得が年900万円を超えたとき」です。
日本は、個人事業主には超過累進課税が適用されます。そのため、所得に応じて課税額が上がります。個人事業主の場合、所得が900万円を超えると税率が33%に変わります。そのタイミングで、法人税よりも税率が高くなってしまうのです。
個人事業主と法人の、具体的な所得税の税率は下記の通りです。
【個人事業主の所得税】
課税される所得金額
税率
1,000円 から 1,949,000円まで
5%
1,950,000円 から 3,299,000円まで
10%
3,300,000円 から 6,949,000円まで
20%
6,950,000円 から 8,999,000円まで
23%
9,000,000円 から 17,999,000円まで
33%
18,000,000円 から 39,999,000円まで
40%
【普通法人の税率表】
課税される所得金額 | 税率 | |
年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | |
年800万円超の部分 | 23.20% |
上記のように、 800万円台を比較した場合、個人事業主の税率は23%、法人の税率は23.20%とほとんど変わりません。
しかし、900万円を超えると個人事業主は33%、法人は23.20%と大きな差が生まれます。さらに、法人の場合はそれ以上所得が増えても23.20%のままですが、個人事業主の場合はどんどん税率が上がり続けます。
そのため、平均所得が900万円を超えた場合は、法人成りを行ったほうが節税対策としてメリットがあると言えます。
参考:超過累進税率とは|総務省
課税売上高が1,000万円を超えたとき
年間の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、法人成りを検討しましょう。
個人・法人を問わず、年間の課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後に消費税課税事業者となります。消費税課税事業者になると、消費税の納税義務が発生します。個人事業主の場合は、1,000万円を超えたらその2年後に納税する必要があります。
一方、最適なタイミングで法人成りした場合は、消費税の納税義務を最長2年間の免除される可能性があります。免除期間を延長できるタイミングについては、本記事の「法人成りにベストな決算月は?」で詳しく解説します。
参考:No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁
事業拡大したいとき
所得が900万円以下でも法人成りを検討したいタイミングは、事業を拡大したいときです。
企業の中には、取引先を法人のみに限定しているところもあります。そのため、これらの企業と取引を行いたいと考えている場合は、法人成りが必要です。個人事業主よりも法人のほうが信頼されやすい理由は、手続きに様々な費用や書類などが必要になるためです。
法人成りするには、定款の作成・認証や設立登記申請、許認可手続きや各種契約物の名義変更などが必要です。毎日の経理・会計業務に加えて、これらの準備も進めなければなりません。そのため、法人成りすると「バックオフィス業務も正確に行っている企業」として信用されやすくなるのです。その結果、大きな取引を依頼されるようになったり、金融機関からの融資額が増えたりするメリットがあります。
法人成りにかかる主な費用や手続きは、ぜひ下記の記事を参考にしてください。
会社設立の流れとは?法人化・株式会社起業をお考えの方へ基礎知識をご紹介
法人成りにベストな決算月は?
個人事業主とは異なり、法人は決算月を自由に決められます。ですが、それだけに何を基準にすればよいのか悩んでしまう方もいるでしょう。
ここでは、法人の決算月について解説します。決算月のタイミングによって納税額も変わるため、ぜひ押さえておきましょう。
設立の12カ月後
法人成りした企業は、会社設立の12カ月後を決算月とすることが一般的です。例えば、10月に設立する場合は決算月を翌9月にします。最初の事業年度が12カ月になるようにするためです。
上述のように、年間の課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後に消費税の納税義務が発生します。
ですが、資本金1,000万未満で会社を設立した場合は、設立後1期目と2期目は消費税の納税が免除される可能性があります。
消費税の免除期間は、設立月と決算月のタイミングによって大きく異なります。
設立月・決算月 | 免除期間 | |
11月設立・12月決算 | 13カ月 | 1期目(1カ月)+2期目(12カ月) |
11月設立・10月決算 | 24カ月 | 1期目(12カ月)+2期目(12カ月) |
上記のように、免除期間が最大11カ月も変わってきます。決算月を決める際は、その点も考慮しましょう。
消費税やその免除は、仕組みが複雑です。また、消費税の課税事業者となる時期を見極めるためには、正確な計算が求められます。
そのため、専門家である税理士とよく相談したうえで判断することをおすすめします。
閑散期か通常期
閑散期は時間にも余裕があり、税理士との節税対策などをしっかり行えることもメリットの一つです。
その反対に、最も避けたほうがよいのが繁忙期です。繁忙期に決算を迎えると、通常の業務に加えて決算業務が増え、処理が大変になります。さらに、通常業務をこなすだけでも大変なため、節税対策がおろそかになりやすいデメリットもあります。
そのため、決算月は閑散期かあるいは通常期を選びましょう。
参考:No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁
現金が潤沢なとき
法人の納税期限は、決算の2カ月以内です。その期間に法人税や事業税などを一度に納めるため、決算月は現金が潤沢なタイミングを選びましょう。繁忙期の報酬が入金される月もおすすめです。
参考:申告と納税|国税庁
タイミングはぜひ税理士と相談を
個人事業主から法人への法人成りは所得が900万円、あるいは課税売上高が1,000万円を超えたときなどがベストタイミングと言えます。また、所得が900万円以下でも、事業拡大といった目的がある場合はぜひ検討してみてください。
ただし、タイミングを間違えると不必要な費用がかかったり、消費税の免除期間が短くなったりすることもあります。法人成りは1人で決めるのではなく、具体的な数字をもとに税理士によく確認したうえで進めるようにしましょう。