特に複数人で起業する場合に重要であるのが「出資比率」です。出資比率についてどのように考えればよいのか、経営にどのような影響があるのかなどを知っておくことで、出資比率の選択を適切に行いやすくなります。本記事では、出資比率についての詳しい情報をお伝えします。計算方法や持株比率・議決権比率との違い、比率ごとの権利についても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
出資比率とは?考え方について
出資比率とは、その名の通り、誰がいくら出資したかの比率のことです。英語では「Investment ratio」と呼ばれます。
株式会社では経営に関する権利に関わるため、出資比率は慎重に考える必要があります。特に複数人で起業する際には、トラブルを防いだり円滑な経営をしたりするためにも、出資比率は重要な意味合いを持つと言えるでしょう。
出資比率のメリット
複数人で起業する場合でも、出資はひとりのメンバーが単独で行うこともできます。では、企業メンバーの間で出資を分散させることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ひとつめに、公平感を持たせられるという点が挙げられます。特に出資比率を均等な割合にした場合、行使できる経営上の権利も同等となり、メンバー間での軋轢を防げるでしょう。
また、起業メンバーの中のひとりが独断で無茶な経営に走るのを防げることも、メリットです。複数人が同等の経営権を持っていれば、経営に関する決定を行うには全員の賛成が必要となり、抑止力が働きます。
なお、出資比率に関係なく権利を与えたい場合は、株式会社ではなく合同会社を選択しましょう。合同会社の場合、定款で定めることで議決権や利益分配の割合を出資比率と異なる割合に設定できます。
例えば、資金力のある人とノウハウのある人が共同で起業する際は、合同会社を選ぶことをおすすめします。資金力のある人が多く出資しつつ、ノウハウのある人に議決権を多く持たせるなどの調整が可能です。
出資比率のリスク
出資を分散させることには、メリットだけでなくリスクもあります。
平等性を持たせるため出資比率を均等にしたケースでは、議決権も出資者全員が同等です。誰が軸となって意思決定するかが曖昧になってしまう可能性があります。何らかの理由で出資比率を均等にしたい場合は、誰が意思決定の軸となるかを事前に決めておくとよいでしょう。
また、2者で出資比率を半分ずつとした場合、経営上のあらゆる決定にお互いの合意が必要となり、迅速な判断・行動がしづらくなります。極力、ちょうど半分ずつではなくどちらかの比率を多く設定しましょう。
そのうえで、比率の低い側の意見も経営に反映できる工夫をするのがおすすめです。比率の低い側の意見を反映させる工夫としては、拒否権付株式を発行したり、一定の決定には事前の承認を必要とする契約を結んだりすることが挙げられます。
社長とそれ以外の出資者で出資を分散させる場合は、社長自身の出資比率を3分の2以上にすることが重要です。出資比率が3分の2を下回ると、社長が自分の意思のみで決定を行えず、他の出資者の同意を得なければならないケースが発生します。比率ごとに得られる権利についての詳細は後述しますので、参考にしてください。
出資比率と経営権の関係
出資比率は、経営を行う権利、いわゆる「経営権」に影響を及ぼします。経営権は法律で定められているわけではありませんが、一般的には半分以上の議決権を持っている場合に「経営権を保持している」とみなされます。なお、議決権とは、株主総会での決議において票を入れられる権利のことです。
株式会社においては、一般的に出資を行えば株式を保有することになります。議決権のない株式を発行していない場合、出資比率と全議決権に対して保有する議決権の割合は同じです。そのため、出資比率が半分以上であれば保有する議決権の割合も半分以上となり、経営権を保持できます。
ちなみに、議決権を半分以上持っている場合に経営権を保持していると見なされるのは、株主総会での普通決議を単独で成立させられるためです。普通決議は、出席した株主の持つ議決権が全議決権の過半数であり、そのうちの過半数が賛成票である場合に成立します。普通決議では、役員の選任・解任や資本金の増額など、会社経営における基本的事項を決定できます。
出資比率50:50の意味とは
2人で株式会社を設立しようとするとき、出資比率を50:50とする、つまり出資金の半分ずつを出し合おうと考えるケースも多いのではないでしょうか。出資比率を50:50とした場合、どのようなことが起こりうるか確認しておきましょう。
機動的な経営ができなくなる
出資比率が50:50のケースでは、経営上のことを決めるには常に両者の同意が必要です。基本的な事項を決めたり変更したりする度にお互いの同意を確認していては、迅速な対応ができない場合も出てきます。
出資者同士が対立した際に身動きが取れなくなる
パートナーが急に音信不通になったり、意見が対立して折り合いがつけられなくなったりと、一緒にビジネスを続けることが難しくなるケースも考えられます。出資比率が50:50だと、連絡が取れなくなったパートナーを取締役から解任することも、株主総会の決議をすることもできません。
出資比率50:50の場合に行うべき対策
どうしても出資比率を50:50にしたい場合には、自分だけで決議が行えるような工夫が必要です。
出資比率50:50の片方だけでも決議を行えるようにするには、例えば決議の定足数(出席の要件)を定款に明記して緩和する方法があります。普通決議であれば、通常は過半数とされている定足数の排除が可能です。特別決議に関しても定足数を3分の1まで引き下げられ、出資比率50:50の片方でも定足数を満たせます。
ただし、この方法では意見の対立するパートナーが決議に参加して反対した場合は可決できません。出資比率は極力50:50ではなく51:49など、主導権のある側を多く設定するほうが好ましいでしょう。
出資比率が持つ権利と権限
出資比率が経営権に大きな影響を与えることはすでにお伝えしましたが、必要な権利・権限を持つには出資比率が何%あればよいのか、確認しておくことが重要です。ここからは、何%の出資比率でどのような権利・権限を得られるのかをご紹介します。
出資比率が1%を超える場合
出資比率が1%を超えていれば、株主総会での議案の提出が認められます。経営者以外にも出資者がいる場合には、議案提出権について留意しておきましょう。
出資比率が3%を超える場合
3%を超える出資比率を有していると、株主総会の招集を請求できます。他にも、帳簿の閲覧や業務執行の検査役の選任について請求する権利も認められています。
出資比率が33.3%(3分の1)を超える場合
出資比率が3分の1を超える出資者は、特別決議の可決を自分だけの反対で阻止できます。特別決議の可決には、総会の出席者が有する議決権のうち3分の2以上の賛成が必要なため、3分の1以上の議決権があれば必ず可決を阻止できるのです。
特に、経営陣以外に3分の1以上の出資比率を有する人物がいる場合、事前に意向を確認するなど注意すべきでしょう。
出資比率が50%(2分の1)を超える場合
50%を超える出資比率を有している場合は、普通決議を単独で可決できるため、経営において強大な権利を持っていると言えます。役員の選任・解任や報酬の決定、事業計画の承認などを、自分の意見のみで行うことができます。
出資比率が66.7%(3分の2)以上の場合
66.7%以上の出資比率を有するケースでは、普通決議だけでなく、特別決議も単独での可決が可能です。会社の合併・分割・解散や定款の変更などの重要な決定も、反対意見に左右されずに行えます。
自分の意見を強く経営に反映させたい場合は、出資比率を66.7%以上となるよう設定するとよいでしょう。
出資比率が90%以上の場合
90%以上の出資比率があれば、「スクイーズアウト」を行えます。スクイーズアウトとは、他の出資者の有する株式をすべて買い取ることです。出資比率を100%とする必要がある事態が想定される場合は、もともとの出資比率を90%以上にしておくと、株式の買い取りをスムーズに進められます。
出資比率と持株比率、議決権比率の違い
出資比率と似た言葉に、持株比率・議決権比率というものがあります。それぞれの意味や違いについて、確認しておきましょう。
出資比率
冒頭でもご紹介したように、出資比率とは誰が何割出資しているかという割合のことです。例えば起業の際に、出資金500万円のうちAさんが300万円、Bさんが150万円、Cさんが50万円を出資したとします。この場合の出資比率は、Aさんが60%、Bさんが30%、Cさんが10%です。
持株比率
持株比率は、ある株式会社の株式を誰が何割保有しているかの割合を指します。通常、持株比率は出資比率と同じ割合である場合が多いです。ただし、起業する際には、出資額に対して割り当てる株式数を異なる割合にできます。
持株比率を出資比率と異なる割合にしたい場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
議決権比率
議決権比率は、ある株主がどの程度の議決権を保有しているかを示した割合のことです。議決権を持つ普通株式のみを発行している場合、議決権比率と持株比率は一致します。議決権のない無議決権株式を発行しているケースでは、持株比率とは異なる割合になることもあります。
どの程度の議決権を有しているかで行使できる権利が変わるため、経営への影響力の指標として重要な比率です。
合弁会社における出資比率
出資比率が重要な意味合いを持つケースのひとつに、合弁会社を立ち上げる場合が挙げられます。
合弁会社は、共同出資会社やジョイント・ベンチャーと呼ばれることもあります。2社以上の会社が、共同出資して立ち上げる会社のことです。資金力のある会社とノウハウや人材のある会社などが、お互いのリソースを組み合わせて事業を行うために設立するケースが多く見られます。
合弁会社を立ち上げるにあたっては、出資比率が経営への影響力や利益の分配率にも関わってくるため、出資比率をどうするか慎重に検討すべきです。2社のみで合弁会社を設立する場合は、出資比率を50:50とすることが多いでしょう。しかし、貢献度の高い側や主導権のある側の出資比率を高く設定するケースもあります。
また、出資比率に差がある場合、出資比率が少なくても意思決定に参加できるよう、拒否権付株式を発行するなどの配慮が必要です。
出資比率の計算方法
最後に、出資比率の計算方法についてご紹介します。出資比率は、全体の出資金額に対して出資した金額が占める割合を求めることで計算できます。計算式で表すと、下記の通りです。
- 出資比率 = ( 出資した金額 ÷ 全体の出資金額 ) × 100
先ほどもご紹介した「出資金500万円のうちAさんが300万円、Bさんが150万円、Cさんが50万円を出資した」ケースでは、それぞれの出資比率は下記のように計算します。
- Aさん:(300万円÷500万円)×100=60%
- Bさん:(150万円÷500万円)×100=30%
- Cさん:(50万円÷500万円)×100=10%
なお、持株比率であれば「(保有株式数÷総株式数)×100」、議決権比率であれば「(保有議決権数÷総議決権数)×100」で計算できます。
出資に関する疑問は税理士への相談もおすすめ
今回は、出資比率について、意味やメリット、比率ごとの権利などをご紹介しました。起業するにあたって出資比率をどのような割合にするかは、その後の経営にも大きな影響を及ぼす重要事項です。状況や事業内容に合わせて、慎重に検討しましょう。
自身での検討が難しい場合は、専門家への相談をおすすめします。出資比率についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。