法人が従業員を雇用している場合、社会保険への加入義務が生じますが、社会保険料の法人の負担割合を正しく理解していますか?今回は、社会保険料で法人が負担する割合について、社会保険の基礎、保険の種類ごとの負担度合い、保険料を計算する方法まで詳しく解説します。従業員の給与から控除している各種保険料のほとんどは、労使折半です。社会保険料の種類と法人が負担するべき保険料について理解し、社会保険料を正しく計算しましょう。
目次
社会保険料の概要
社会保険料は従業員と法人が折半します。社会保険料を適切に納付するためにも、社会保険料とは何か、その種類について理解しましょう。
社会保険の目的
社会保険料とは、従業員の日常で起こり得るさまざまなリスクに備えるために、公的保険制度の維持に支払う保険料のことです。以下に、リスクの一例を挙げます。
- 病気
- ケガ
- 出産
- 失業
- 死亡
社会保険にはその保障内容に応じていくつかの種類があり、その種類に応じて保険料率や法人が負担する割合が異なります。
社会保険の種類
社会保険は、主に5つの種類があります。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
上記の社会保険料について、従業員の負担分は給与から天引きして保険料を徴収するのが一般的です。
健康保険の種類と違い
ケガや病気をしたときに医療費の一部を負担してもらえる健康保険は、健康保険(企業の会社員や公務員の方が加入)と、国民健康保険(自営業者や無職の方が加入)に分かれます。会社員として働いているときは、健康保険に加入していますが、退職したときは国民健康保険への切り替えが一般的です。
健康保険と国民健康保険は主に4つの違いがあります。まず1つ目が運営母体の違いです。健康保険は健康保険組合が運営していますが、国民健康保険は市町村によって運営されています。
2つ目が扶養家族への対応です。健康保険は従業員の扶養家族も加入できますが、国民健康保険には、そもそも扶養という概念がなく、家族それぞれの加入が必要です。
3つ目が給付金の違いです。健康保険には病気やケガで長期間仕事を休んだときに支給される傷病手当金、被保険者が出産で会社を休んだときに支給される出産手当金などの制度があります。しかし、国民健康保険は、健康保険ほど給付金や手当金が手厚くありません。
4つ目が、保険料を導出するやり方です。健康保険の保険料は、従業員それぞれの収入を基にして保険料を計算します。一方で、国民健康保険は平等割や均等割、所得割などいくつかの要素を考慮して保険料を計算します。
法人が社会保険料を負担する割合
法人が従業員の社会保険料を負担する場合、その負担の度合いは社会保険の種類に応じて異なります。従業員ごとに異なる社会保険料を適切に計算するためにも、保険料を計算する基準や負担割合について紹介します。
保険料を計算する基になる標準報酬月額とは
健康保険や厚生年金といった保険料は、従業員それぞれの収入額を参考に計算します。しかし、従業員の給与額がそれぞれ異なるため、個別で保険料を導き出さなくてはいけません。
さらに、残業代などの影響で、毎月給与額が変動することがあるでしょう。そのため、従業員の人数にもよりますが、各従業員の保険料について適切に計算することは、担当者にとって相当な負担です。
そこで、毎月の収入を等級ごとに分けた標準報酬月額表の等級を参考にして、従業員それぞれの健康保険料と厚生年金の保険料を個別に算出します。
標準報酬月額を決めるのは以下の報酬です。
- 3カ月分(4~6月分)の給与平均額
- 標準賞与額
3カ月分の給与平均額には基本給や役職手当、通勤手当、残業手当などが含まれています。他にも定期券や社宅など、現金ではなく現物での支給を受けているものについても報酬扱いです。
法人の負担割合の基本
法人と従業員それぞれが、保険の種類ごとに決められた割合で社会保険料を負担しますが、社会保険の種類によって双方の負担割合が変わります。そこで、保険の種類ごとに、法人が負担するべき保険料の割合を紹介します。
【法人が負担する保険料の割合】
健康保険 | 50% |
厚生年金 | 50% |
介護保険 | 50% |
雇用保険 | 業種により異なる |
労災保険 | 100% |
雇用保険については、業種によって負担率に違いがあるものの、従業員よりも法人の負担割合を高くしているケースがほとんどです。
参考:国税庁 健康保険料の事業主負担(2分の1以上の負担)による経済的利益
社会保険料の計算方法を事例で解説
社会保険料を算出するときは、標準報酬月額や標準賞与額などを参考にして、個別で保険料を計算します。また、社会保険の種類によって負担割合も変わってくるため、具体例を挙げて保険料を算出します。
健康保険と厚生年金保険料の計算
健康保険料の計算を分かりやすくするために、下記の具体例をもとに解説します。
埼玉県在住の47歳会社員 給与平均額 470,000円 |
協会けんぽに加入している場合、都道府県ごとに標準月額報酬が提示されているため、該当する都道府県の標準月月報酬を参考にしましょう。
今回の例では、年齢が47歳で介護保険第2号被保険者に該当するため、等級は29です。この月額表を参考に保険料の総額(折半前)を算出します。
- 健康保険料 54,708円
- 厚生年金保険料 86,010円
健康保険料と厚生年金保険料については、法人の負担割合は50%であるため、健康保険料は26,743円、厚生年金保険料は43,005円です。従業員の負担割合は法人と同額であるため、原則として同額の保険料を請け負います。
ここでは協会けんぽの保険料を参考にしましたが、自社の健康保険組合や厚生年金基金に加入している場合は、保険料率が同じとは限りません。必ず、自社が加入している保険組合の保険料率に従って保険料を計算しましょう。
介護保険の法人負担割合
介護保険の被保険者は、40歳以上が対象です。そこで、該当する従業員のみ介護保険料を導き出します。
介護保険料の法人負担割合は50%で、健康保険組合の保険料額表を参考に、保険料を導き出します。
先ほどの事例を基に保険料額表を確認してみると、介護保険第2号被保険者に該当しない場合の保険料が45,966円、介護保険第2号被保険者に該当する保険料は53,486円です。そして、両者の差額7,520円が介護保険料です。
法人と従業員、介護保険料のそれぞれ50%を負担するため、法人が負担する介護保険料は3,760円です。
協会けんぽの令和6年3月分の保険料率は、一律1.82%です。
標準報酬月額である470,000円に指定の保険料率をかけると保険料は8,554円です。介護保険料も健康保険、厚生年金保険料と同様に法人の負担割合は50%であるため法人の保険料負担は4,277円です。
雇用保険の計算
雇用保険料の保険料率は業種によって異なるため、法人の業種に該当する事業の保険料率を用いて保険料を算出します。
【雇用保険の保険料率等:令和6年4月以降】
保険料率 | 会社負担率 | 従業員負担率 | |
一般の事業 | 1.55% | 0.95% | 0.6% |
農林水産業 清酒製造業 | 1.75% | 1.05% | 0.7% |
建設事業 | 1.85% | 1.15% | 0.7% |
先ほど、例に挙げた会社員を一般事業を営む法人の従業員だとすると、保険料率は1.55%です。給与470,000円に保険料率をかけると、7,285円が雇用保険料の総額です。法人の負担額を470,000×0.95%の計算式で求めると、4,465円と算出できます。
労災保険の計算方法
労災保険は法人が100%負担するため、従業員に支払う給与から保険料を控除しません。労災保険の保険料率については、雇用保険よりもさらに細かく業種が分けられているため、適切な保険料率を選び、正しく保険料を計算することが大切です。
社会保険料の会計処理
社会保険料に関連するお金の動きを記帳するときは、「法定福利費」と「預り金」の勘定科目を使用するのが一般的です。
会社が負担した保険料は「法定福利費」として処理し、従業員の負担分を給与から天引きした分については「法定福利費」もしくは「預り金」で処理します。
社会保険料は翌月末が納付期限のため、従業員と法人がそれぞれ負担した分を合算して納付します。
社会保険料を計算するときに気を付けるべきポイント
標準月額報酬や保険料率、保険の種類ごとに異なる法人の負担割合や計算方法を把握することで、法人が負担するべき社会保険料を計算できます。ただし、社会保険料を計算するときにはいくつか注意するべきポイントがあるため、ここで詳しく解説します。
保険料率は年度ごとに改訂
社会保険料を正しく計算するためには、最新の情報を参照することです。社会保険料の保険料率は、年度ごとに改定される可能性が高いため、必ず最新の保険料率をチェックしたうえで、保険料の計算を行ってください。
保険料の端数の扱い
定められた保険料率に従って保険料を計算したときに、計算結果によっては1円未満の端数が出ます。従業員の保険料と法人の保険料では、端数の扱いが異なります。
従業員の保険料の端数
従業員が負担する保険料を給与から控除する、もしくは現金で徴収する場合は従業員が負担する保険料については、50銭以下切り捨て、50銭以上は1円に切り上げます。ただし従業員と会社との間で特約がある場合は、それに準ずる計算です。
法人の保険料の端数
1円未満の端数について切り捨てします。
定められた保険料率や負担割合に従って保険料を計算したときに発生した端数は、保険料の総額が出てから処理するため、従業員ごとの対応はありません。
従業員が負担する保険料と、法人が請け負う保険料とでは、端数処理のルールに違いがあります。そのため、従業員と法人の保険料の負担割合がそれぞれ50%と同じでも、必ずしも同額負担になるとは限らないのです。
賞与でも保険料が発生
賞与が支給される場合、保険料が発生するため適切な計算と手続きが必要です。賞与額に応じた社会保険料を導き出すためには、標準賞与額(1,000円未満の端数切捨て)から該当する保険料率をかけて計算します。
また、標準賞与額を参考に保険料を算出するときは、下記の賞与の定義を満たす必要があります。
- 年間での支給が3回以下
- 労働の対価であること
上記の条件に該当しない賞与は、標準賞与額ではなく標準報酬月額を参考に保険料を計算します。また、雇用保険については、実際に支払ったボーナスの額に、労使双方の負担率をかけて保険料を導き出します。
保険料の支払いが免除される事例
原則、法人と従業員それぞれが定められた割合で社会保険料を負担します。しかし、従業員の妊娠、出産、育児を理由とする場合は、従業員と法人それぞれの保険料負担が免除されます。
- 産前休暇中(出産予定日を含む42日前)
- 産後休暇中(産後56日間)
- 育児休業期間(子供が3歳になるまで)
法人と従業員の社会保険料免除に該当するケースでは、法人から日本年金機構への届け出が必要です。
介護保険料の徴収
介護保険料は、従業員が40歳になったときから徴収をしなくてはいけません。そこで、従業員が40歳の誕生日を迎えるとき、その前日に該当する月から介護保険料を徴収します。
また、従業員が65歳以上に達した場合も、保険料の徴収方法が変わります。これまで法人が徴収していた介護保険料を、該当する従業員が在住する市町村が徴収します。
社会保険料を節約する手段
法人と従業員の双方で負担することから、従業員全員の社会保険料の負担は法人にとって相当重くなることがあります。そこで、負担の軽減につながる対策をいくつか紹介します。
4月~6月の従業員給与を調整
従業員の保険料は、4月~6月の給与額を参考にして計算するため、給与額を調整することで保険料の総額を減らせる場合があります。給与額を調整するには以下の方法があります。
- 残業を減らすことで残業代を削減
- 通勤手当の調整
- 7月以降に昇給月を設定
- 昇給ではなく福利厚生の充実で対応
- 給与を減らすもしくは増やさずに退職金に回す
- 企業型確定拠出年金に加入
- 賞与をなくして給与を増やす
給与額が減る、昇給月が変わることで従業員から不満が出ることもあります。自社にとって適切な方法を選ぶのはもちろん、従業員の理解を得るための丁寧な説明が求められます。
従業員の入退社の時期で調整
中途採用などで年度の途中から従業員を雇用する場合、毎月1日を入社日にすることで保険料の負担を軽減できます。社会保険料は月払いとなるため、入社日が月の途中もしくは月末となっても、社会保険料の負担が生じるからです。
月末を退職日にすることで、退職月の社会保険料の負担義務が生じます。そこで、可能であれば、退職日を調整してもらいましょう。
パートや業務委託を活用
従業員を雇うことで社会保険料の負担が生じてしまうため、社会保険の加入要件に該当しない以下のような人材を活用することで、社会保険料の節約につながります。
- パート
- 業務委託
- 非常勤役員
社会保険料を節約する場合、従業員が将来受け取れる年金額や傷病給付金などが減少するなどデメリットも生じます。
資金繰りが苦しいときの対策として、社会保険料の支払いが難しいときは、猶予制度(1年間)を利用できる場合があります。自社にとって適切な保険料の節約方法や対策を知りたいときは、税理士に相談するのも手段の一つです。
社会保険料の節約や支払いでお悩みなら、「小谷野税理士帆人」にお気軽にお問い合わせください
まとめ | 法人の社会保険負担割合について正しく理解し経営に活用
社会保険の法人負担割合を把握することは、正しく保険料を計算し、納付するために大切です。社会保険料にはいくつかの種類があり、それぞれ法人と従業員が負担する割合が異なります。保険の種類ごとの負担割合、計算のやり方を理解し、正しく保険料を計算しましょう。