国庫補助金・保険差益の圧縮記帳
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はじめに
法人税法では株主等からの拠出資本のみを資本等取引として捉えています。
従って国庫補助金収入や、火災等により保険金を取得した場合の保険差益なども課税の対象となってしまいます。
しかし国からの補助金や保険差益が課税対象になってしまったら、国庫補助金等を活用した新たな資産の取得が妨げられたり、火災等による復旧を阻害してしまう事につながります。
そこで法人税法では、これらの収益を益金の額に算入し課税するという原則を守りながらも、「圧縮記帳」という課税技術上の制度を規定しています。
法人税法に規定する圧縮記帳のうち国庫補助金の圧縮記帳及び保険差益の圧縮記帳について紹介します。
1.圧縮記帳の概要
国庫補助金を例にとって説明します。
前述のとおり、国庫補助金収入は収益として益金の額に算入されます。
ここで同額の圧縮損を計上し、損金の額に算入することで、利益及び所得が出ないようにします。
ただし、このままでは法人税の免除になってしまいますから、国庫補助金で取得した固定資産の取得価額を圧縮損分減額します。
これにより、翌期以降の固定資産の減価償却費が圧縮記帳をしない場合に比べて少なくなります。
国庫補助金収入及び圧縮損を計上した年の利益及び所得は出なくなり法人税も計上されませんが、翌期以降の利益及び所得は減価償却費が少ない分多くなり法人税がその分計上されるという仕組みです。
課税の繰り延べ効果を得られる規定になります。
2.会計処理
(1)直接減額方式
決算時に固定資産圧縮損を計上し、新たに取得した資産の取得価額を固定資産圧縮損と同額だけ圧縮する方法です。
固定資産圧縮損/固定資産
(2)積立金方式
圧縮積立金を積み立て、新たに取得した資産の減価償却に伴って圧縮積立金の取崩処理を行う方法です。
①積立(決算時)
繰越利益剰余金/圧縮積立金
②取崩(決算時)
圧縮積立金/繰越利益剰余金
3.法人税法上の規定
法人税法上(1)国庫補助金の圧縮記帳(2)保険差益の圧縮記帳(3)交換の圧縮記帳の3つの規定が設けられています。
(1)国庫補助金の圧縮記帳
【要件】(法人税法第42条)
・国庫補助金等の交付を受け、当該事業年度終了の時までにその返還不要が確定すること。
・当該事業年度終了の時までに交付目的に適合した固定資産の取得又は改良をすること。
・圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額し又は確定した決算において積立金として積み立てる経理をすること。
【圧縮限度額】(法人税法第43条)
固定資産の取得等に充てた国庫補助金等の額相当額
(2)保険差益の圧縮記帳
【要件】(法人税法第47条)
・所有固定資産の滅失又は損壊により保険金等の支払を受けること。
・所有固定資産に代替する同一種類の固定資産を取得すること。
・圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額し又は確定した決算において積立金として積み立てる経理をすること。
【圧縮限度額】(法人税法施行令第85条)
保険差益金の額×圧縮基礎割合
※保険差益金の額=保険金等の額-滅失経費の額-所有固定資産の被害直前の帳簿価額のうち被害部分相当額
※圧縮基礎割合=代替資産の取得又は改良をするために要した金額/保険金等の額-滅失経費の額
4.税務調整
ex)3月決算10/1固定資産取得
国庫補助金収入10,000固定資産取得価額20,000(耐用年数4年残存価額0定額法)
(1)直接減額方式
仕訳(期中):現金 10,000/国庫補助金収入10,000
固定資産20,000/現金 20,000
(決算時):固定資産圧縮損10,000/固定資産10,000
減価償却費1,250/固定資産1,250
別表4 | 調整なし |
(2)積立金方式
仕訳(期中):直接減額方式と同様
(決算時):減価償却費2,500/固定資産2,500
繰越利益剰余金10,000/圧縮積立金10,000
圧縮積立金1,250/繰越利益剰余金1,250 ※
別表4 | 加算 | 圧縮積立金取崩 | 1,250 |
| 減算 | 圧縮積立金積立 | 10,000 |
※圧縮記帳をしない場合と直接減額方式で圧縮記帳をした場合との減価償却費の差額になります。
おわりに
法人税法上他に交換の圧縮記帳(法人税法第50条)の規定があります。
租税特別措置法では特定資産の買換えの圧縮記帳(第65条)や収用等の圧縮記帳(第64条)などの規定もあります。
適用の際には経理方法・取得価額その他注意すべき事項をその都度確認しながら進めてください。
(担当:山口藤子)