先日、井戸や温泉を掘り当てる地中掘削事業をされている某中小企業の社長さんとお話する機会がありました。数年前に先代から事業を承継した若社長で、温かみとバイタリティのあるとても素敵な方でした。
5年程前に渋谷区で起きた温泉施設での爆発事故により、温泉法が改正されて規制が厳しくなったこともあり、温泉掘りの需要が激減しており、経営環境は厳しいようです。事業拡大のためには、アジアなど海外進出か、掘削技術を活かせる別のマーケットへの進出が必要とのこと。そこで最近業界で盛り上がっているのが、地熱発電の熱源を掘削するビジネスへの期待だそうです。
この話を聞いて思い出したのが、最近斜め読みした「マグマ」という小説。著者はNHKドラマにもなった「ハゲタカ」の原作者である真山仁氏です。この小説は、「5年以内に日本の原子力発電所を閉鎖して欲しい」という一節から始まります。東日本大震災と福島の原発事故後である今となっては、このような考えはもはや多数派だと思いますが、この小説が書かれた2005年当時、震災の6年前の時点では、小説上のセリフだとしても、かなり異端であったのではないかと感じ、作者の先見の明に驚嘆した記憶があります。最近WOWOWでドラマもやっていました。てっとり早く概要を知りたい方には、地中熱利用促進協会のホームページに掲載されている書評がお奨めです。
冒頭の社長さんとお会いした後、地熱だけでなく自然エネルギーについても興味が湧いて「孫正義のエネルギー革命」(自然エネルギー財団)という本も買ってみました。日本の消費電力量は約1兆キロワット時で、その約3割が55基の原発で賄われていて、原発が150基あれば全て賄える計算だそうですが、この本によると、地熱で原発23基分、水力で33基分、その他に、風力や太陽光などで、理論上、原発はまったく不要になるほどのポテンシャルが自然エネルギーにはあるのだそうです。また、自然エネルギーの割合を高めると自動的にエネルギー自給率(現在はわずか4%)も高まり、安全保障上も効果があると。さらにホームページなどで調べていくと、水力発電だけで世界各地には未開発な電源が17兆キロワット時もあり、これは世界の消費電力12兆キロワット時の約1.5倍のポテンシャルだとする記事にも遭遇しました。
2009年7月に書かれた文庫本のあとがきには、この小説を発表したことにより地熱発電の可能性を見直すべきという反響が生まれ、実際にいくつかの大手企業が開発に乗り出す動きがでてきたとのこと。“小説の力”に日々驚いている、とありました。そして、「あきらめからは何も生まれない」「激動の時代だからこそ“あるべき社会”を模索するための果敢な挑戦を諦めてはならないのだ」と。すごく共感しました。
今回の社長さんとの出会いと2冊の読書をきっかけに、日本や世界が目指すべきは、脱原発、完全な自然エネルギーにより消費電力を賄える社会ではないかと、そのために政治や教育、金融のベクトルが一致すべきではないかと、強く想いました。
おわり。