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- 繰り返される投資詐欺(4)~プリンストン債事件~
小谷野です。
株式市場が35年ぶりの活況ということもあり、怪しい投資話を周辺で多く聞くようになりました。
先日も、元本保証あり、確定高利回り、税金はゼロをアピールした海外ファンドの投資に関して相談を受けました。
公認会計士・税理士として資金運用に拘わる様々な詐欺事件に遭遇しました。
似たような手口が繰り返され、真面目に生きてきた人の人生を破綻させる事件を今も繰り返し見ていますで、警鐘のためのシリーズ化した情報発信です。
今回は事例分析として1999年に発覚したプリンストン債事件を取り上げました。
当事務所が被害者の依頼を受け、ニューヨークの訴訟まで関与することになった事件です。
クレスベール証券が販売したプリンストン債という正体不明の債券(海外私募債)を、日本代表する上場会社など70社が1200億円も購入して騙された事件です。
金融のプロも騙された事件として有名で、首謀者であるアームストロングは、高卒の独学のエコノミストで、相場の予想家として米国証券市場では名を馳せていました。
事件後、米国SEC(証券取引監視委員会)の調査によって、プリンストン債として
日本から集めた1200億円のうち385億円はアームストロングの個人の運用損失の穴埋めで使われ、使途不明が722億円となっていました。
詐欺商品を売るために使ったのはクレスベール証券東京支店でした。
1.運用実績の説明がカリスマ的
首謀者アームストロングが来日して行った運用説明会は端的に言えば、実際には運用をしていないのに、過去の相場のグラフを見て、安い値段で投資し、高い値段で売却した事にして、たくさん儲かったとする、いかさまの説明会です。
しかし、彼のプレゼンはファイナンスを勉強したことがある人にとっては、専門的用語を散りばめた高度なテクニックの説明で、逐一腹に落ちる内容だったようです。
一流の詐欺師はプレゼン能力が卓越して魅力的であり、首謀者が来日して行う講演会は、毎回異常な賑わいを見せていました。
1.日本特有のリスク管理(集団心理の安心感)
「みんなが(誰かが)やっているから、うちも(私も)大丈夫だ」、という日本特有のリスク管理手法が被害額を巨大化させました。
プリンストン債を購入した会社として、ヤクルト、日本電産、アルプス電気、中電工、群栄化学、マキタ、ジャスコ、アサツーDK、アマダ… 名のある上場会社が投資していているとの情報を営業に使われ、自社での独自のリスク査定は蔑ろになっていました。
投資資金が適正に運営管理されていることを証明する、監査法人の監査も受けていない、海外発行の私募債で流動性(資金回収)が低く、運用会社も発行会社も財務内容が不明、募集の正規の目論見書も存在しない、ブラックボックスである海外私募債をリスク査定を行わず、巨額の送金していたのです。
1.債券は2種類と安全コースもカモフラージュで準備
①元本保証あり2-3%
②元本保証はないが年利30-40%
私募形式の米ドル建て債券ですが、元本保証の低利回り私募債は、商品の信憑性を持たせるための商品ラインアップでした。
1.販売手数料が高額
販売手数料が異常に高額なものは、顧客利益と相反するだけでなく、詐欺商品の疑いがあります。
最近は、投資信託や保険商品などの販売手数料を顧客に開示する時代になりました。
1.運用法人の役員や社員が巨額のリベートを受け取っていた。
財務運用担当者の接待や、個人へのお礼は常態化していました。
個人で6億2000万円ものお礼を裏で受け取っていた上場会社役員もいました。
運用詐欺以前の問題で特別背任、脱税で実刑判決を受けました。
1.損失隠しの時代背景
普遍的な教訓には成りませんが、本件の被害金額が巨額になってしまった特殊な時代背景を記載しておきます。
純粋に高利回りの資金運用としてプリンストン債を購入して騙された企業や個人もいる一方、藁をもつかむ思いの中、バブル崩壊後の巨額の特定金銭信託含み損失を抱えていた企業が、この私募債を損失隠しに使っていた背景もありました。
クレスベール証券が、上場会社の含み損失を抱えた特定金銭信託を高く買って、価値のないプリンストン債を高く売りつけていた「飛ばし」に近いことが行われていました。
損失を会計上表面化せず、数年で特金の損失がプリンストン債の高い運用益で取り戻せると運用担当者は信じていたようです。
1.ポンジスキーム
このプリンストン債も他の詐欺商品と同じように、実際には運用をしていません。
高利回りを謳う詐欺商品は、このポンジスキームの場合が多く、この名称は20世紀初頭の米国の天才詐欺師チャールズ・ポンジの名前を由来としています。
高利回りを謳い、定期的に高配当を支払うと言って多額を投資家から金を集めるが、実際の運用はしません。
新しい出資者からの入手したお金を配当として支払う自転車操業で、出資者は最初の頃は約束通りに高配当が振り込まれるので、投資金額が大きくなってしまう傾向があります。
お金は詐欺スキームの主催者の遊興費に使われて消滅するのが常で、募集は政治家や芸能人を広告塔としてうまく活用している場合も多いのが特徴です。
~カタカナ表記に、いまだ弱い日本人、小谷野でした~