不動産で相続税対策をするには?節税効果の高い方法をご紹介

不動産で相続税対策をするには?節税効果の高い方法をご紹介

相続税対策とは、相続税の負担を軽減するためのさまざまな方法のことです。不動産は、相続税評価額が現金等と比較して低くなる特性があるため、特性を活用した対策が可能です。そのほか、賃貸活用や借入利用による評価額の圧縮や特例の適用といった相続税対策があります。

ここでは不動産を活用した具体的な節税対策や評価方法、注意点について詳しく解説します。

不動産が相続税対策に有効な理由

不動産が相続税対策として有効な理由は、相続税評価額の仕組みにあります。不動産は現金と異なり、時価と相続税評価額に差があるため、相続税の課税対象となる財産額を圧縮でき、節税対策が可能なのです。

ここでは、不動産が相続税対策に有効である具体的な仕組みについて解説します。

現金より相続税評価額が抑えられる

相続税を計算する際、現金や預貯金は額面どおりに評価されます。一方で不動産の評価は土地は路線価や倍率評価、建物は固定資産税評価額を基準とし、これらは時価より低く設定されているのです。

特に土地の相続税路線価は公示価格の約8割水準、建物の固定資産税評価額は新築建築価格の5割から7割程度になることが一般的です。時価との差額分だけ相続税評価額を圧縮できます。同じ価値の財産でも、不動産として保有する方が相続税の課税対象額を減らすことができるため、節税につながります。

参考:相続税財産評価に関する基本通達|国税庁

関連記事:【税理士監修】【路線価の概要・見方】土地の評価額を調べるために必要な知識をわかりやすく解説

賃貸にすることでさらに評価額が下がる

不動産を賃貸に出すことで、相続税評価額をさらに引き下げることができます。賃貸物件は「貸家」として評価され、自用家屋の評価額から借家権割合(通常30%)と賃貸割合を乗じた分が減額されるためです。

同様に貸家が建てられている土地(貸家建付地)も、自用地としての評価額から借地権割合、借家権割合、賃貸割合に応じた減額を受けられます。これは賃貸により利用が制限されることを評価に反映させる制度です。満室稼働の賃貸物件では、土地・建物合わせて20~30%程度の評価減が見込めます。

参考:No.4614 貸家建付地の評価|国税庁

借入を利用した対策

不動産購入時の借入金も、相続税対策として活用できます。相続税の計算では、被相続人の債務を相続財産から控除できるため、借入金は課税財産額を減少させられるのです。

例えば1億円の借入で賃貸物件を購入した場合、物件の相続税評価額が7,000万円であれば、差額の3,000万円分だけ課税財産が圧縮されます。ただし、相続人には返済義務が引き継がれるため、賃貸収入による返済計画や相続人の資力の十分な検討が肝心です。

参考:No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

不動産を活用した相続税対策

不動産(賃貸)の相続

不動産を活用した相続税対策には、複数の方法があります。

具体的には土地や建物の有効活用や賃貸物件の購入・運営などにより、相続税の負担を軽減できます。それぞれの方法には特徴があり、自身の状況に合わせた検討が重要です。

ここからは、不動産を活用した相続税対策を詳しく解説します。

[対策1]賃貸アパートやマンションを経営する

賃貸アパートやマンション経営は、不動産を活用した代表的な相続税対策です。更地に賃貸物件を建てる、あるいは既存のアパートやマンションを購入して賃貸に出すことで、土地や建物の相続税評価額を圧縮できます。

賃貸物件は「貸家建付地」「貸家」として評価され、自用物件より評価額が低くなる仕組みを利用して節税が可能となります。

賃貸経営のメリット

賃貸経営の主なメリットは、相続税評価額の圧縮効果が期待できる点です。土地・建物ともに評価減が適用されるため、自身で利用する場合と比較して、20~30%程度の評価減が見込めます。また、家賃収入により相続税の納税資金を確保しやすくなるメリットもあります。

賃貸経営のデメリット

賃貸経営はメリットだけでなく、当然リスクも存在します。

空室期間は家賃収入が途絶える一方、固定資産税や管理費は継続的に発生します。建物の修繕費、設備更新費などの維持管理コストも必要です。

さらに金利上昇リスクや不動産価格の下落により、期待した節税効果が得られない場合もあります。

物件選定を誤ると収益が悪化し、借入金返済が困難になる可能性もあるため、慎重な検討が求められます。

参考:No.4614 貸家建付地の評価|国税庁

[対策2]土地を有効活用する

所有する土地の有効活用も、相続税対策となり得ます。活用方法により土地の評価額を引き下げることが可能です。

小規模宅地等の特例を利用する

一定の要件を満たす土地は「小規模宅地等の特例」により、相続税評価額を最大80%減額できます。

この特例は、被相続人が居住用・事業用に使用していた宅地等が対象で、一定面積まで評価額が最大80%減額されるものです。自宅の敷地であれば最大330㎡まで、貸付事業用の宅地等であれば最大200㎡まで、それぞれ評価減の対象となります。

特例の適用には配偶者や同居親族が相続することなどの要件があるため、事前確認が必要です。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します

広い土地の評価方法について

広い土地の場合、形状や利用状況により評価額が調整されます。例えば、不整形地や無道路地などの利用価値が低い土地は評価額が減額されます。

また「地積規模の大きな宅地の評価」により、三大都市圏で500㎡以上、その他地域で1,000㎡以上の宅地は、一定要件を満たせば評価減を受けられます。

参考:No.4609 地積規模の大きな宅地の評価|国税庁

関連記事:【税理士監修】地積規模の大きな宅地の評価とは?適用条件や計算方法を解説

[対策3]自宅として利用する

自宅も相続財産として相続税の対象となりますが、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)により、敷地の評価額を最大80%減額できる場合があります。

この「小規模宅地等の特例」は、配偶者や同居親族が相続し、引き続き居住する場合などに適用されます。自宅を相続する場合の税負担を軽減することができます。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説

[対策4]不動産を売却する

相続発生前に不動産を売却し、現金化することも相続税対策の一つです。

不動産の売却によって遺産分割が容易になり、売却資金を生前贈与や生命保険など他の相続税対策に活用できます。ただし、不動産を売却すると所得税や住民税がかかる点に注意が必要です。また、希望する価格で売却できないリスクや、売却に時間がかかる可能性も考慮する必要があるため、計画的な実行が必要です。

参考:No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)|国税庁

不動産の相続税評価方法

不動産と現金

不動産の相続税評価方法は土地と建物で異なり、賃貸物件の場合はさらに評価が調整されます。ここでは、それぞれの評価方法と相続税評価額の計算方法について解説します。

土地の評価

土地の相続税評価は「財産評価基本通達」に基づき、主に路線価方式と倍率方式の2つの方法で行われます。

参考:相続税財産評価に関する基本通達|国税庁

路線価方式

路線価方式は、市街地など路線価が設定されている地域で採用される評価方法です。

路線価とは道路に面した標準的な宅地の1㎡あたりの価額で、国税庁が毎年7月に公表します。土地の評価額は路線価に土地面積を乗じ、形状や利用状況に応じた補正率を適用して算出します。路線価は公示価格の約80%を目安に設定されています。

参考:財産評価基準書|国税庁

関連記事:【税理士監修】【路線価の概要・見方】土地の評価額を調べるために必要な知識をわかりやすく解説

倍率方式

倍率方式は、路線価が定められていない地域(郊外や農村部など)で採用される評価方法です。この方式では、固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて相続税評価額を算出します。倍率は地域や地目(宅地、田、畑など)により異なり、評価倍率表で確認できます。

建物の評価

建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額です。固定資産税評価額は市町村(東京23区は東京都)が建物の構造や築年数等を基に算定し、建築費の50~70%程度となることが一般的です。

参考:固定資産評価のしくみについて (家屋評価)|総務省

関連記事:【税理士監修】土地の評価額は複数存在する。評価額の調べ方や計算方法、注意点も解説

関連記事:【税理士監修】建物の相続税評価額を計算する方法とは?注意点や節税方法について解説

賃貸不動産の評価

賃貸している土地や建物は、自用の場合と比較して評価額が低くなります。貸家の評価額は、自用家屋としての評価額から借家権割合(全国一律30%)と賃貸割合を乗じた額を控除して計算します。貸家建付地も同様に自用地評価額から借地権割合、借家権割合、賃貸割合を乗じた額を控除します。この評価方法により、賃貸物件は相続税評価額を20~30%程度圧縮可能です。

参考:No.4614 貸家建付地の評価|国税庁

関連記事:【税理士監修】建物の相続税評価額を計算する方法とは?注意点や節税方法について解説

不動産での相続税対策における注意点

不動産を活用した相続税対策は有効な手段ですが、実行にあたってはいくつかの注意点やリスクの理解が重要です。不適切な対策は思わぬトラブルや不利益につながる可能性があります。ここでは、特に注意すべき点を解説します。

明らかに税金逃れと判断される場合

相続税対策として不動産を活用する際、相続税の負担を不当に減少させることのみを目的としていると税務署に判断された場合、その対策が否認される可能性があります。

特に被相続人の死亡直前に不動産を購入したり、借入により評価額を圧縮して相続後すぐに売却したりする行為は、税務署から「税金逃れ」と見なされるリスクが高まるでしょう。

このようなケースでは、不動産が時価で評価されるほか、過少申告加算税や重加算税が課される可能性があります。

参考:財産評価基本通達6項|国税庁

流動性リスク

不動産は現金と異なり、分割や換金が困難な資産です。この流動性の低さは、不動産を相続する際の一つのリスクとなります。相続人が複数の場合、不動産の分割方法を巡って意見が対立し、遺産分割協議が長期化することがあります。

また相続税の納税資金が必要でも、すぐに不動産を売却して現金化できるとは限りません。市況により希望価格で売却できなかったり、売却に長期間を要したりする場合もあります。

維持管理のコスト

不動産を所有していると、固定資産税や都市計画税といった税金に加え、建物の修繕費用、管理費(マンションの場合)、火災保険料など、さまざまな維持管理のコストが発生します。

特に老朽化した物件や賃貸物件の場合、定期的な修繕やリフォームが必要となり、多額の費用がかかることがあります。これらのコストは相続後も継続的に発生するため、相続人の負担となる点に留意が必要です。

遺産分割の際の考慮事項

不動産は物理的な分割が困難なため、遺産分割でトラブルになりやすい財産です。

例えば特定の相続人が不動産を単独で相続する場合、他の相続人への代償金支払いが必要となりますが、資金不足で実現困難な場合があります。また共有相続の場合は、売却や活用に共有者全員の同意が必要となり、意見の対立から不動産を有効活用できないリスクがあります。

遺産分割をスムーズに進めるためには、生前に相続人全員で話し合い、不動産の分け方について合意形成を図ることが重要です。

参考:登記申請手続のご案内 (相続登記①/遺産分割協議編) 法務省民事局

不動産投資以外の対策

法人化

相続税対策には、不動産投資以外にもいくつかの方法があります。これらを不動産対策と組み合わせることで、より効果的に相続税の負担を軽減できます。ここでは、不動産投資以外の主な相続税対策について解説します。

法人化による対策

賃貸不動産を多数所有している場合、資産管理会社を設立して不動産を法人所有とする「法人化」が相続税対策として有効です。

法人化のメリット

法人化により、個人財産から不動産を切り離すことで、相続税の課税対象を圧縮できる可能性があります。

相続人を役員として役員報酬を支給することで、所得分散による所得税・住民税の節税効果も期待できます。また、株式化により遺産分割が容易になります。

法人化のデメリット

法人設立・維持には費用が発生し、不動産移転時には不動産取得税や登録免許税が課税されます。また法人所有となった不動産は個人利用に制約が生じるほか、法人解散時には複雑な清算手続きが必要です。

相続税対策として法人化を検討する場合は、これらのコストやリスクを十分に理解した上で、専門家と相談しながら進めることが重要です。

参考:No.5759 法人税の税率|国税庁

関連記事:不動産で起業・独立開業したい!どんな仕事なのか?成功率や失敗する原因などを詳しく解説

不動産による相続税対策のまとめ

相続税対策とは、大切な財産を次の世代にスムーズに引き継ぐために、税負担を軽減する準備をすることです。なかでも不動産投資や不動産の活用は、相続税評価額を圧縮できる有効な節税方法として知られています。

不動産を保有している場合や購入を検討している場合は、評価方法や特例、賃貸活用などを理解し、自身の状況に応じた対策を講じることで、相続税負担を軽減できるでしょう。

ただし、不動産での相続税対策には、流動性リスクや維持管理コスト、税務署からの否認リスクなど注意すべき点も存在します。

特に不動産経営では専門的な知識が必要になり、不動産鑑定士や賃貸不動産経営管理士などの助力が必要になるケースも多いです。相続した不動産の相続税対策は選択肢も多い分、時間もかかるため、被相続人が生前のうちから対策をすることが重要です。

また、相続税に関する疑問や不安をお持ちの方は、相続税対策に詳しい税理士に相談しましょう。

関連記事:【税理士監修】不動産を相続するためには何をする?必要な書類やかかる費用についても解説

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。