個人事業主が会社を作って法人に移行することを「法人成り」と言います。法人成り後は個人事業主の時とは異なる税金が発生します。また、個人事業主だった頃の個人事業税の納税についても疑問を持つ方も多いでしょう。本記事では、法人成りに伴う事業税の取り扱い方について、具体的な流れや注意点をわかりやすく解説します。
目次
法人成り後に必要な確定申告
法人成り後の個人事業税の支払い方法や経費計上の仕方には注意が必要です。ここでは、個人事業税の基本的な計算方法と税金の扱いについて解説します。特に「個人事業税の見込控除」を活用することで、適切に経費計上し、無駄な税負担を回避できます。
個人事業税の計算方法
個人事業税は、個人事業主が得た事業収入に基づいて課税される地方税です。その計算方法は、事業収入から必要経費を差し引いた所得を基準とし、そこに税率を掛けて求めます。
さらに、基礎控除の290万円を差し引いた金額が課税所得となります。基礎控除は白色申告、青色申告に関わらず適用されます。つまり、売上から経費を引いた所得が290万円以下であれば課税されません。
基本的な計算式は以下の通りです。
課税所得=売上-必要経費-基礎控除(290万円) 個人事業税額 = 課税所得 ×税率 |
税率は事業内容によって異なりますが、多くの自治体では、税率は3%から5%の間に設定されています。たとえば、売上が400万円、必要経費が100万円の場合、まず課税所得を計算します。
400万円 - 100万円 -290万円= 10万円 |
次に、税率が4%と仮定した場合、個人事業税は以下のように計算されます。
10万円 × 0.04 =4,000円 |
この4,000円が、課税年度の個人事業税として支払う金額です。
なお、個人事業税は地方税であるため、自治体により税額や計算方式が異なる場合があります。正確な金額を把握するために、事前に自治体の公式情報を確認しましょう。
また、個人事業税は、納税義務のある年の所得に基づいて翌年に課税されるため、税額の把握は早めに行うことをおすすめします。法律やその年の経済状況に応じて税率が変更されることもあるため、最新の情報を収集しておくことも大切です。
法人成り後の個人事業税の支払いタイミング
法人成り後も、個人事業主のときの所得に対する個人事業税は発生することがあります。一般的に、個人事業税は前年の確定申告に基づき、翌年の8月と11月に納付する仕組みになっています。しかし、法人化すると翌年に個人事業が存在しないため、そのままでは個人事業税を経費として計上することができません。
この問題を解決するために、「個人事業税の見込控除」という制度があります。この制度を活用すると、翌年に支払う予定の個人事業税を、個人事業の最終年の確定申告時に経費として計上することが認められます。
関連記事:廃業後でも個人事業税は課税される?見込控除や更正の請求を解説
経費として計上できる範囲とその注意点
法人成り時の経費計上については、個人事業主としての経費と法人成り後の新たな経費を明確に分ける必要があります。ここでは個人事業主としての経費区分と法人設立費用の処理について説明します。
事業廃止前後の経費区分
個人事業主として最後に納めるべき個人事業税や、事業に関連する資産の引き継ぎについては適切な記帳が求められます。これらの処理を怠ると、後に税務上の問題を引き起こす可能性があるため、慎重な対応が求められます。
個人事業主の期間に発生した経費は、廃業届を提出する際に月割り計算を行い、正しく経費として処理することが必要です。
また法人化に伴い、経費区分や会計処理のルールも変わるため、その違いと処理方法についても理解しなければなりません。たとえば、法人では「給与」として処理できた費用や個人事業主では経費にできたものが、法人では対象外になるケースもあります。
関連記事:法人成りで個人事業主の資産を引き継ぐ方法は?資産の種類、注意点も解説!
法人設立費用の経費処理のポイント
法人設立時に発生する登録免許税、定款認証手数料、司法書士報酬などの費用は設立時の初期投資として扱われます。設立費用の一部は、「創立費」や「開業費」として資産計上し、一定期間で償却することも可能です。これらの費用を適切に申告することで税務リスクを回避できます。
また、法人化初年度における経費記録は大切です。今後の事業運営にも影響するので、予算や支出は適切に処理することにより、資金管理の透明性が向上し健全な経営のスタートを切ることができます。
関連記事:法人成り後にかかるランニングコストとは?種類と費用の目安を解説
法人成り後の仕訳について
法人成り後の仕訳は、法人運営を成功させるために重要です。ここでは税金や経費を中心に、個人事業主との違いと仕訳処理の具体的な対応方法について解説します。
支払済み税金の仕訳処理方法
法人成り後に発生した法人の税金(法人税、消費税、事業税など)は、法人の経費に計上できるため、正確に仕訳を行うことが重要です。
支払済みの税金を仕訳帳に記載する際は、「法人税等」の勘定科目を用いて、税額と支払った日付を記録します。仕訳の正確な処理によって経理業務が効率化され、年度末の決算作業にもスムーズに取り組むことが可能となります。
未払い税金の仕訳処理方法
法人税や消費税などの支払いは、支払期日によって処理が異なる場合があります。通常、法人税の納付は決算後に支払います。しかし支払い期日が翌期にまたがる場合は、未払い税金として「未払法人税等」などの勘定科目を使用して仕訳することになります。
仕訳例としては、以下のように記帳をします。
仕訳例(未払法人税)
借方 | 貸方 |
法人税等(経費) ◯◯◯円 | 未払法人税等 ◯◯◯円 |
関連記事:法人成りの手続きに必要な5ステップについて詳しく解説
個人事業税処理で気をつけるべきポイント
個人事業主から法人成りする際、事業の業態が変わっても個人事業税の支払い義務が完全になくなるわけではありません。法人成り後も個人事業主だったときの所得に対する税金が発生する場合があるため、適切な処理が求められます。
ここでは、法人成りの際の税務処理や控除適用、余計な税負担やトラブルを避けるためのポイントを解説します。
所得税や控除との関係
所得税と個人事業税はそれぞれ異なる基準で計算されます。個人事業税は確定申告の内容に基づいて自治体が算定し、申告不要で自動的に課税されます。ただし、法人化のタイミングによっては、最後の事業年度の個人事業税の処理方法に注意が必要です。
「個人事業税の見込控除」を利用すると、翌年支払う予定の個人事業税を法人化前の確定申告時に経費計上できます。これを行わないと、法人化後に支払う個人事業税が経費にできず、実質的に税負担が増えてしまう恐れがあります。
また、青色申告特別控除を適用している場合、所得税の計算には影響を与えますが、個人事業税そのものの計算には影響しません。そのため、所得税の申告内容と個人事業税の処理を混同しないよう注意が必要です。
関連記事:法人成りで消費税を最長2年間免除に!免除の条件とインボイス制度による影響を徹底解説
まとめ:法人成り後の税務処理のアドバイス
法人成り後は、税金や経費の取り扱いが個人事業主の頃とは大きく異なります。これまでの感覚とは違う手続きや計算が必要となるため、慎重な対応が求められます。特に個人事業税と法人税の混同には注意が必要です。
法人になると法人税の適用を受けることになりますが、個人事業主時代の未払い税金(個人事業税など)は法人の経費として計上できません。個人事業時代に発生した税金はあくまで「個人の負担」となり、法人の経費に計上することはできない点に注意しましょう。
また、法人になると消費税や住民税の取り扱いも変わるため、事前にしっかりとした準備と理解が必要です。特に消費税の納税義務については、2年前の課税売上高によって変わるため、誤った認識でいると思わぬ負担が生じる可能性があります。
そのため、法人成り後は税理士と連携し、適切な税務処理を行うことが成功の鍵となります。税理士からの専門的なアドバイスを受けることで、税務処理がより効率化され、税負担の軽減を図ることが可能です。また、税理士に依頼することで正確な申告が可能になり、税務関連のトラブルを未然に防ぐことができます。不安がある場合は早めに相談し、確実なサポートを受けることをおすすめします。