中小企業のホールディングス化は、単なる組織再編ではなく、経営効率の向上やリスク管理の向上を図るための重要な戦略としてとらえる必要があります。経営資源の最適化や、事業多角化を実現するのに有効な手段ですが、一方で、導入には慎重な判断が求められるという側面も。本記事では、ホールディングス化のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
目次
ホールディングス化の基本知識
ホールディングス化とは、企業が事業部門ごとに独立した法人を設立し、全体を持株会社が管理・統括することによって経営効率を高める手法です。
資源の再配分を行いやすくし、新たな事業機会の獲得に繋がります。規模拡大や多角化を狙う企業にとっては、重要なステップと言えるでしょう。
ホールディングス化とは何か?
ホールディングス化とは、事業部門を分社化し、それぞれが独立した法人として運営を行うこと。親会社はグループ内の各事業を統括し、経営の戦略面を担います。
各事業は独自の業績評価を受けるため、個々のパフォーマンスの可視化が実現。この仕組みによって経営判断を迅速に行えるため、リスク管理の観点でも非常に効果的です。
ホールディングス化の具体的な方法
ホールディングス化を進めるには、いくつかのステップを踏む必要があります。まずは既存の組織構造を見直したうえで、新たに持株会社を設立するか、あるいは既存の法人を持株会社とする形を取るかを選択しましょう。
場合によっては、各事業部門の分社化も考えられます。この際は、法的な手続きや内部規定の整備も必要です。
また、ホールディングス化のメリットを最大限に引き出すには、効果的な資本配分や、各子会社における業績の監視体制の確立も求められます。これらの過程では、経営者や管理職が確たるビジョンを持つことが重要です。
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中小企業がホールディングス化するメリット
ホールディングス化はさまざまなステップを経て実現されることがわかりました。しかし、「そこまでして行ったほうがいいのだろうか」と悩む中小企業の経営者もいらっしゃるでしょう。
ここからは、中小企業がホールディングス化することにより得られる主なメリットを紹介していきましょう。
経営資源の最適配分のメリット
ホールディングス化によって、グループ内での経営資源の配分が柔軟に行えるようになります。各子会社の業績や市場環境に応じた資本の再配分ができるため、特定の事業に過度に依存するリスクも軽減されます。
また、資金や人材といったさまざまなリソースを効果的に活用できるようになり、全体のパフォーマンスが向上。企業全体の競争力が強化されるとともに、それぞれの事業の特性を活かした運営が実現します。
事業リスクの分散効果
ホールディングス化により、各子会社の独立性が強化されます。このため、特定の事業が不振に陥った際にも、他の事業によってリスクをカバーできるようになるのもメリットのひとつです。
また、市場の変化に応じて迅速な対応が可能となるため、リスク管理も容易に行えるように。つまり、ホールディングス化は、経営資源の分散により組織の柔軟性を高める手段とも言えるでしょう。
事業承継のしやすさ
ホールディングス化により、企業の事業承継がスムーズになるのもメリットです。親会社に所有権が集約されることで、株式の引き継ぎが容易に。また、事業遂行部分を部門の専門家に任せ、経営者は後任者の育成に集中することも可能です。
こうした仕組みは、特に次世代経営者へのスムーズなバトンタッチに役立ちます。
M&Aの促進
ホールディングス化は、M&A(合併・買収)のプロセスを円滑に進める基盤にもなります。各子会社が法人として独立しているため、買収対象企業をグループに組み入れる際の心理的ハードルも低いものに。
特に、既存の事業と親和性のある企業を買収すると、シナジー効果が期待できます。
節税効果
ホールディングス化には税務上のメリットも。グループ全体での利益を調整することで、税負担の軽減に繋がります。特に、損失を出している子会社の利益を相殺すると、全体の税額を抑えられる可能性があります。
ホールディングス化のデメリットと対策
ホールディングス化は企業の成長を促す一方で、運営の複雑化や個々の事業の独立性によって統一感を欠くなど、デメリットも存在。実行の決断を下すには、さまざまなデメリットを把握したうえで慎重に検討する必要があります。
セクショナリズムによる運営の難しさ
ホールディングス化が進むと、各子会社が独立した法人として運営されるケースが多くなります。これにより、各社が自社の収益向上にのみ注力し、他の子会社との連携が希薄になることが懸念されます。
このようなセクショナリズムに陥ると、グループ全体のシナジー効果が得られず、かえって連携が損なわれる可能性も。解決策としては、情報共有の場や定期的な交流会を設け、協力体制を強化することなどが挙げられます。
トップダウンが効きづらくなる
ホールディングス化によって資本と経営が分離されると、オーナーの意向が現場に十分に伝わりにくくなります。これにより、意思決定の遅れや、経営方針が浸透しづらくなるといった問題が考えられるでしょう。特に、オーナーが直接指示を出さない場合、各子会社の経営陣の判断が重要な要素になります。
この問題を克服するには、コミュニケーションを強化し、定期的な会議や情報の共有を通じて、経営方針に対する理解を深められるようにしましょう。
不採算事業の撤退が難しい
ホールディングス化が進むと、各子会社が独立採算で運営されるようになります。不採算事業が明確に把握できる一方で、撤退の決断が難しくなるケースも。
特に、現場の責任者やスタッフの「やり続けたい」という意志が固いと、経営者がトップダウンで判断を下すのが難しくなります。
このような状況を乗り越えるためには、事業の見直しを定期的に行い、データに基づいた冷静な業績評価の実施が重要です。撤退のタイミングを逃さずに事業の整理を進めるには、客観的に状況を判断できる環境を整えておく必要があります。
ホールディングスの維持にかかるコスト
ホールディングス化を行うと、子会社が増えた分だけ、管理部門や税務関連のコストが増加する可能性があります。特に、中小企業の経営者はこれらのコストを見落としがちなので、注意が必要です。
こうしたコストを抑えるには、管理業務の集約が有効です。共通する業務を持つ子会社同士で業務を共有して効率化を図ると、コスト面の改善が期待できます。また、外部の専門家の活用も効果的です。
デメリットを軽減する方法
ホールディングス化に伴うこれらのデメリットは、あらかじめ対策を講じることで、ある程度の軽減が可能です。まずは、グループ内での定期的な情報交換や協力体制を強化し、各子会社間の連携を図りましょう。これにより、セクショナリズムを克服するだけでなく、お互いの強みを活かせるようになります。
また、経営者が現場の声に耳を傾ける姿勢を持つことで、トップダウンの効果を保つことができます。さらに、事業評価のシステムを導入し、不採算事業の方針に対する明確な基準を設けると、意思決定の質向上に繋がるでしょう。
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ホールディングス化する際の税理士の選び方
中小企業がホールディングス化を進める際には、専門的な知識が必要です。税務知識に優れた税理士の選定が成功の鍵を握ります。ここでは、その選定のポイントについて、詳しく見ていきましょう。
会社設立の実績が豊富な税理士を選ぶ
新たに持株会社を設立する際には、法律や税務を熟知している税理士が求められます。会社設立に関する知識や経験が豊富な税理士は、ホールディングス化において大いに活躍するでしょう。
特に、過去に同様の事例を多く扱っている税理士であれば、その経験を基にした具体的なアドバイスが期待できます。スムーズな手続きやトラブルの回避にも貢献してくれるでしょう。
コンサル型の税理士を選ぶ
ホールディングス化は、単なる税務処理だけでなく、経営戦略にも大きく関わってきます。そのため、コンサルティング業務の実績がある税理士を選ぶと、強い味方となってくれます。
コンサル型の税理士は、財務的な視点だけでなく、事業戦略に基づいたアドバイスも可能。これにより、経営者はホールディングス化のメリットを最大限に引き出しつつ、今後の成長戦略を描くことができます。経営環境が変わる中での柔軟な対応も提案にも期待できます。
会計業務や労務改善の提案ができる税理士を選ぶ
ホールディングス化の際は、会計や労務の管理もとても重要な要素です。会計業務や労務改善に関する提案ができる税理士は、各子会社の財務状況や労務環境を適切に把握した上で、的確な策を授けてくれるでしょう。
特に、各子会社の独立採算性を維持するには、しっかりとした財務管理が求められます。財務に関する専門的な知識を持つ税理士を選ぶと、経営者は一層安心して事業運営に集中できるでしょう。
ホールディングス化をお考えの際は税理士にご相談ください
ホールディングス化は、中小企業に経営資源の最適配分や事業リスクの分散、事業承継の円滑化などのメリットを提供します。一方で、セクショナリズムやトップダウンの効きづらさ、不採算事業の撤退が難しいといったデメリットもあります。
ホールディングス化をスムーズに進行させるには、会社設立の実績が豊富な税理士や、コンサル型の税理士を適切に選ぶことが重要です。ホールディングス化に関するご相談は、豊富な経験を持つ小谷野税理士法人にぜひお寄せください。