中小企業において重要な役割を担う非常勤役員。しかし、非常勤であるがゆえのメリットとデメリットがあり、その導入には慎重な検討が求められます。非常勤役員をおく際には社会保険の加入条件や、報酬の設定にも注意が必要です。本記事では、非常勤役員の利点と課題を具体的に解説しますので、貴社の最適な企業経営にお役立てください。
目次
非常勤役員とは
非常勤役員とは、企業の経営や意思決定に非常勤で関与する役員です。会社から要請があった時に出社し、特定の専門知識や経験を活かして企業の成長や経営戦略に寄与します。
非常勤役員の定義と役割
非常勤役員は、常勤役員とは異なり、通常の労働時間で勤務する立場にはありません。必要に応じて経営会議や特定のプロジェクトに参加し、専門知識を提供し企業の方向性を支える役割を担います。
言い換えると、非常勤役員は、企業の外部からの視点を持ち込み、内向きになりがちな経営に変革をもたらす役目が期待されているとも言えるでしょう。日常業務は行わず、柔軟な勤務形態であるため、中小企業のニーズに合わせた人材採用が行いやすいのも特徴です。
非常勤役員と常勤役員の違い
非常勤役員と常勤役員は、勤務形態と責任範囲に大きな違いがあります。常勤役員はその名の通り企業に常に在籍し、日常的な業務運営や管理、部下の指導などを行います。
一方、非常勤役員は特定の時期やプロジェクトなど、必要に応じて経営戦略や重要事項に関するアドバイスを提供するのが主な役割です。
また、非常勤役員と常勤役員では報酬体系も異なります。高額な非常勤役員の報酬は、経費として認められない可能性があります。こうした違いを踏まえたうえで、企業の経営効率や戦略に沿った適切な役員構成が求められます。
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非常勤役員のメリット
経営の安定と信頼性の向上をもたらす非常勤役員の導入は、戦略的な経営に必要な手段のひとつと言えます。一方で、企業の利益を最大化するためには、適切な役員構成と報酬体系の整備が欠かせません。
会社のノウハウ活用と社会的信用向上
非常勤役員を据え、外部の専門知識やスキルを持つ人材が加わると、既存の業務プロセスや戦略を見直す機会となります。
また、非常勤役員の存在は、企業の社会的信用を向上させる一助にもなります。一般的に、高い専門知識を持つ人材が役員として参加することで、取引先や株主、顧客からの信頼を得やすくなるからです。
報酬を最適化して節税効果
非常勤役員の報酬が、節税効果につながる場合もあります。非常勤役員に支払う報酬が経費となれば所得が減り、法人税の負担が軽減されるのです。
また、非常勤役員の報酬は常勤役員よりも低く設定することが多いため、人件費全体の抑制にもつながります。
退職金の経費処理が可能
非常勤役員に対する退職金の支払いは、職務執行や会社に対する功績が認められる場合は経費としての計上が可能です。退職金は、長年、役員が企業に貢献したことに対する報酬として支払われるため、その支出が法人税の課税所得から控除されるのです。
この仕組みを効果的に取り入れると、企業の税負担を軽減できます。
家族非常勤役員のメリット
家族を非常勤役員として採用することは、経営の安定性や信頼性の向上に寄与します。家族という特定の信頼関係を基盤にした役員構成は、企業内部のコミュニケーションを円滑にし、速やかな意思決定を促進します。
さらに、報酬を比較的柔軟に設定できるため、報酬体系の最適化にもつながるのがメリットです。
非常勤役員のデメリット
ここまで見てきた通り、非常勤役員の導入は多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも存在します。そのデメリットを正確に理解し、適切な対策を講じることで、非常勤役員の効果を最大限に引き出しましょう。
報酬と社会保険料の負担
非常勤役員に対する報酬の支払いが、企業にとって大きな経済的負担となることもあり得ます。特に中小企業では、この負担が経営の柔軟性を圧迫する原因にもなるのでご注意ください。
また、非常勤役員が一定の要件を満たし社会保険に加入する場合、その保険料は企業が一部負担しなければなりません。非常勤役員の報酬と社会保険料のバランスをうまく取らないと、企業経営の最適化どころか、財務状況の悪化につながる危険性もあるのです。
勤務実態が否認されるリスク
非常勤役員の勤務実態が明確でない場合、税務署などから報酬が否認されるリスクもあります。例えば、「実際には業務を行っていないのに報酬を受け取っている」と見なされると、損金として取り扱われず、適用される税制上の優遇が受けられないことも。
同様に、社会保険料についても「不適切な取り扱い」と判断される場合があります。これを防ぐためには、非常勤役員の業務内容や勤務時間を明確にし、適切な記録を保管しなければなりません。
非常勤役員と社会保険の関係
非常勤役員を導入する際には、社会保険に関する取り扱いについて慎重に検討しましょう。非常勤であっても社会保険の加入義務が発生する場合があるため、負担する保険料や加入条件について、企業側と役員側双方が明確に理解しておく必要があります。
法人が負担する社会保険料について
法人が負担する社会保険料には、健康保険、厚生年金保険、雇用保険などが含まれ、報酬額に対して一定の割合で計算されます。勤務時間や日数などが一定の条件を満たすと、これらの保険料の法人負担が発生。これは、非常勤役員であっても同様です。
このため、非常勤役員の報酬を設定する際は、社会保険料の負担額も考慮した総費用をしっかりとシミュレーションすることが求められます。
非常勤役員の社会保険加入条件
非常勤役員は役員報酬の有無に関係なく社会保険の加入義務はありません。しかし、実際の業務や働き方などによっては、社会保険に加入することがあります。具体的には、以下の判断基準などが挙げられます。
- 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
- 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
これらの条件を満たす非常勤役員は、健康保険や厚生年金保険に加入する義務があるため注意しましょう。
非常勤役員の報酬と相場
非常勤役員の報酬は、役員の職務内容、企業の利益、業界の慣習に基づいて決定されます。公平な報酬額を設定することが、非常勤役員のモチベーションの向上に寄与します。
市場相場と適正報酬
市場相場の把握は、非常勤役員の報酬を適正に設定するための第一歩です。一般的に、中小企業の非常勤役員の月額報酬は、数万円から十数万円程度とされています。
非常勤役員の報酬は、その専門知識や経験値、役割の重要度に応じて幅があります。さらに、業務内容や勤務時間、企業の経済状況なども考慮に入れ、企業と役員双方が納得できる最適な額を設定しましょう。
まとめ
非常勤役員の導入にはメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。
会社のノウハウを効果的に活用し、社会的信用を向上させる点、報酬を最適化して節税効果を得られる点、退職金の経費処理が可能な点、家族非常勤役員を活用することでの経営安定化できる点などがメリットとして挙げられます。
一方で、報酬と社会保険料の負担や、勤務実態が否認されるリスクといったデメリットも慎重に検討しなければなりません。また、社会保険に関しても企業の負担額や加入条件などを正確に理解しておく必要があります。
これらを踏まえ、非常勤役員の適切な導入と運用を行うことは、企業の健全かつ持続可能な発展につながります。