山口家で《特許》と呼ばれる、極上のスポンジがあります。山口家で「《特許》持ってきて。」と頼めば、例のあの白いスポンジが登場します。《特許》を使えば、ガスコンロの周りの油も、お風呂の湯垢だってピッカピカ。山口家に《特許》を導入したのは、母でした。初めて《特許》を使った日の感動が昨日のことのように思い出されます。
母が、茶渋で汚れ散らかしたコップを、洗剤も使わずに《特許》のみでピカピカに磨き上げた上、得意げに娘たちにコップを見せつけ「参った??」と聞いてきたのです。娘たちは、「すげ!」と目をキラキラに輝かせました。早速、自分達のコップで《特許》を試し、「すげ!すげ!」とピカピカのコップを二度見しました。
翌日、母親のほっぺとご自慢の高い鼻は、真っ赤っ赤になっていました。私が「どうしたのぉ?」と問いかけると、母は、「ウフフフフ」となにやら意味深な笑みを浮かべたのです。
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そうです。あまりにもきれいに汚れが落ちるので、母の年季の入った顔の汚れも落ちるかと、自ら、《特許》を使ってごしごしと顔を洗ってしまったのです。さすがの《特許》も、母の顔はピカピカにはできませんでした。
もちろん、《特許》は、山口家だけの俗称で、正式名称は「メラミンスポンジ」。