はじめに
年初、各生命保険会社が販売を一斉に休止したことで大きな話題となった、
所謂「節税保険」の保険料に係る法人税基本通達が6月28日に改正されました。
本稿では、その背景と内容について解説します。
1.法人税基本通達改正の背景
本来、法人契約の定期保険は、「掛け捨て」という性格から貯蓄性がないため、
支払保険料は原則として保険期間の経過に応じてその全額が損金算入されます。
一方、保険期間が長期にわたる長期平準定期保険や保険金額が逓増する逓増定期保険は、
被保険者の年齢が高くなったり、保険金額が増えたりすることで、後半になるほど保険料が高くなるところ、
全期間一定の保険料に設定するため、保険期間の前半に支払う保険料には後半の保険料に充当される部分が
含まれることになります。この結果、中途解約した場合にはその前払した保険料が戻ってくることになり、
貯蓄性を備えた定期保険となります。
そこで、税務においては、個別通達として、保険期間の長短や被保険者の加入年齢によって、
損金算入を制限(ex.支払保険料の1/2を資産計上)するルールで運用してきました。
ところが、最近になって、契約初期の保障を障害のみに限定(その後は通常の死亡保障に戻す)して
保険料を抑制することにより前払保険料部分を厚くしたり、
支払保険料のうち付加保険料(付加保険料は解約するとそのまま戻る)を高く設定したりすることで、
廃止前の個別通達に沿った全額損金計上の保険契約ながら中途解約時の解約返戻率を高めた商品が
登場し、これが中小企業経営者を中心として大ヒットしました。
こうした中、国税庁や金融庁は、保険本来の保障機能ではなく、
全額損金計上という税務上のメリットに偏った商品性や金融機関の販売姿勢を問題として、
今回の基本通達の改正(個別通達は廃止して第三分野保険を含めて基本通達に一本化)に至ったものと考えられます。
2. 法人税基本通達改正の内容
(1)改正内容
1.で見たように、問題視されたのが「中途解約時の解約返戻率が高いこと」だったため、改正では最高解約返戻率(ピーク時の解約返戻率)に着目して損金算入に制限を設ける内容となっています。
具体的には、次表の通り、最高解約返戻率が高くなるほど、損金算入が制限され、資産計上額は大きく(=損金算入額が小さく)なっています。
最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額 | Ex.保険期間20年、保険料300万円/年の処理(注) |
50%超70%以下 | 保険期間の前半4割相当の期間 | 支払保険料×40% | (1~8年目)資産120万円 損金180万円 |
70%超85%以下 | 支払保険料×60% | (1~8年目)資産180万円 損金120万円 | |
85%超 | 保険期間開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日 | 支払保険料×最高解約返戻率×70%(保険期間開始日から10年経過日までは90%) | 12年目に最高解約返戻率が90%になると仮定
(1~10年目)資産243万円 損金57万円 (11~12年目)資産189万円 損金111万円 |
(注)紙面の都合上、資産計上期間経過後の処理は省略しております。
また、85%超の区分については最高解約返戻率となる期間経過後も資産計上を継続する場合があります。
(2)改正時期
2019年7月8日(解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険は2019年10月8日)以後の契約に
係る定期保険又は第三分野保険の保険料について適用します。
(3)改正時期前の既契約分については遡及適用をしません。
おわりに
損金算入効果が高い保険契約を巡っては、「生命保険会社の新商品開発→販売過熱→当局による規制」という「いたちごっこ」が続いてきました。今後も、金融機関の販売姿勢の問題を含めて、生命保険の取扱いを巡る動向からは目が離せません。(担当:竹内)