はじめに
令和5年度の税制改正において、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化の措置」(以下、「本措置」という)が公表されていますが、いよいよ令和7年分より適用されることになります。
この改正は、株式や不動産の譲渡所得が約10億円を超えるような高額所得者の方に影響が生じることが見込まれます。
そのため、その内容と注意点を理解し、適切な対策を講じることが望まれます。
この記事では、その内容をわかりやすく解説いたします。
1.本措置の説明
令和7年分以降の所得に対して適用される本措置は、次のような内容となります。
(1)概要
各種所得を合算した所得金額(基準所得金額)から特別控除額(3億3000万円)を控除した金額に、22.5%の税率を乗じた金額が、納めるべき所得税の金額(基準所得税額)を超過した場合に、その超過額部分について追加的に納税が必要になります。
※1 基準所得金額の計算において、申告不要制度の対象となる上場株式の譲渡所得・配当所得(特定口座・源泉徴収あり)等を考慮する必要があります。
※2 基準所得税額は、基準所得金額に基づいて計算され、外国税額控除考慮前の金額となります。
例えば、所得が株式の譲渡所得のみで所得控除等が一切ないとすると、9.9億円までは追加納税が生じない計算となります。
基準所得金額が9.9億を超え、例えば20億円の場合は7,575万円、30億円の場合は1億5,075万円と徐々に高額になっていきます。
(2)改正の趣旨
累進課税方式により、給与などの所得は高額になるほど税率が上がる一方、株式等や土地建物の譲渡所得の売却益に対する税率は一律15%であることから、株式等の譲渡が多いほど、実質の税負担が低くなる状況が生じています。
高所得者層ほど所得に占める株式等や土地建物の譲渡所得の割合が高いことから、高所得者層で所得税の負担率が低下するという逆転現象が生じており、このような現象を解消することを趣旨として改正が行われました。
2.注意点
基準所得金額の計算において、以下のような注意点があります。
・申告不要制度の対象となる上場株式の譲渡所得や配当所得(特定口座・源泉徴収あり)を考慮する必要があります。
・譲渡した土地等の特別控除がある場合には、特別控除考慮後の金額を使用することになります。
・申告不要制度の対象となる少額配当も考慮する必要があります。
・源泉分離課税に係る預金利子は対象外となります。
・NISAに係る非課税所得は対象外となります。 等
また、相続が生じた際に活用される金庫株特例(自社株買い)を適用した場合にも、金額次第では本措置の適用がありますので、企業オーナーファミリーにとっても注意が必要になります。
同様に、M&Aにより個人株主が株式を売却した場合にも本措置の適用可能性があります。
3.対応策
(1)令和6年中での売却
本措置の適用は令和7年分の確定申告からとなります。
そのため、残り約5か月しかありませんが、可能ならば、年内に売却することが考えられます。
(2)スタートアップへの再投資(エンジェル税制の活用)
エンジェル税制には、スタートアップへの株式投資で譲渡益が生じたケースにおいて、再度スタートアップに投資した場合には当該株式譲渡益に課税しないという優遇措置があります。
この場合の株式売却益は、基準所得金額の計算には含まれないため、当該優遇措置の対象となるスタートアップに再投資することで本措置の適用対象外になり得る可能性があります。
<参考>
エンジェル税制(エンジェル投資)について merumaga240523-2 (koyano-cpa.gr.jp)
エンジェル税制(起業特例)について merumaga240516-2 (koyano-cpa.gr.jp)
おわりに
今回ご紹介した本措置は、IPOやM&Aを目指すスタートアップ経営者や、自社株を相続する企業オーナーファミリーの方々に大きな影響を与えるものです。
事前に本措置の影響を把握し、必要な対策の検討が望まれます。
ご不明点や気になる点がありましたら、お気軽にお問合せください。
(担当:園田)