「小規模宅地等の特例」と「固定資産税」の誤解を解く!相続した土地の税金対策

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暦年課税制度の改正で何が変わる?相続税・贈与税の最新ポイントを徹底解説!

「暦年課税制度が改正されたと聞いたけれど、具体的に何が変わるのか分からない」と不安になっている方もおられるのではないでしょうか。

長く使われてきた制度だからこそ、改正の内容を理解しておくことは将来の資産管理に直結します。特に土地や不動産を家族へ引き継ぐ場面では、税金の負担が大きく影響するため、早めに情報を整理しておくことが重要です。

この記事では、暦年課税制度の基本から改正内容、相続税や贈与税との関係、さらに節税対策のポイントまでを整理し、わかりやすく解説します。

暦年課税制度とは?改正の背景と基本ルール

まずは暦年課税制度とは何か、また改正される背景と基本ルールを解説します。

暦年課税制度の仕組みと基礎控除額

贈与税には2つの課税方式があり、そのうちの1つが暦年課税制度です。同制度は生前に財産を受け取った年ごとに課税する仕組みで、1月1日から12月31日までの期間に贈与を受けた財産の合計額を基準とします。この合計額から 基礎控除額110万円 を差し引いた残額に対して、速算表により税率を適用して贈与税が計算されます。

この暦年課税制度は、令和5年度(2023年度)に税制改正が行われました。主な改正内容は、相続税における生前贈与加算の対象期間が3年から7年に延長されたことです。この改正は2024年1月1日以降の贈与から適用されています。

贈与財産が相続財産に加算される期間が延長されたため、実質的な増税となったといわれています。つまり、相続税対策としての生前贈与はより早い時期から計画的に行う必要性が高まったのです。

参考:令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!

参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

関連記事:【2025年】暦年贈与とは?改正内容・ポイント・注意点まとめ!

相続税と贈与税の関係性と利用されてきた経緯

暦年課税制度は、贈与税の基本方式として長年活用されてきました。その背景には、相続税の課税対象となる財産を生前に計画的に移転することで、相続時の負担を抑えたいというニーズに適していたためです。

相続税法では、被相続人が死亡する前3年以内に行われた贈与は「相続財産に加算」される仕組みがあり、贈与と相続の両制度を連動させることで課税の公平性を確保してきたのです。

一方でこの制度は、相続税対策の一環として積極的に利用され、毎年110万円の基礎控除を利用した「少額贈与の積み重ね」により、多くの家庭で資産承継の手段として定着しました。ただし、こうした運用は税負担の平準化に寄与する一方で、富裕層に有利に働くという課題も指摘されてきました。

そのため、令和5年度の税制改正では、従来3年であった加算期間が7年に延長され、相続税との一体的な課税がより強化されたのです。

参考:相続税・贈与税のあらまし

参考:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

なぜ制度改正が必要とされたのか

暦年課税制度の改正が必要とされた理由として考えられるのは、生前贈与が相続税の軽減策として広く行われてきたことが挙げられます。

この制度を利用することによって、資産移転の時期を操作することで税負担が有利に働く可能性が生じていました。その結果、課税の公平性・中立性が損なわれる懸念が高まったことが、改正の背景となっています。

令和5年度の税制改正では、こうした課題を是正し、生前贈与と相続を通じた課税の整合性を高めることが目的とされました。また、相続時精算課税制度がこれまで使い勝手に制約があった点を見直し、より幅広い層に活用してもらいやすくする意図もあります。

例えば、相続時精算課税に「基礎控除額110万円」を設け、申告ハードルを下げる改正が盛り込まれた点が、利用の拡大を見込んでの施策といえます。

引用:令和5年度税制改正|財務省

このように、資産移転の時期を選ぶことで税負担が大きく変わる不公平を軽減し、生前贈与と相続の選択を自然にできる制度設計を目指したのが、今回の改正の背景といわれています。

暦年課税制度の改正内容とスケジュール

暦年課税制度の改正の背景やその目的がわかったところで、ここからは、同制度の改正内容とスケジュールを見ていきます。

改正の具体的な内容ー教育資金・住宅取得資金の非課税制度との統合など

令和5年度の税制改正では、先の暦年課税制度以外に相続時精算課税制度も見直されています。

まず、暦年課税においては、先の解説のように相続税課税価格に加算される期間(加算対象期間)が「相続開始前3年以内」から「7年以内」に拡大されました。しかし拡大された4年分については、贈与を受けた額の総額から100万円を控除した残額を加算対象とする配慮が設定されています。

そして相続時精算課税制度の方にも贈与税の申告負担を軽くするため、110万円の基礎控除枠が別途設けられました。これにより、相続時精算課税を選択した場合でも一定の贈与について贈与税を課さない運用が可能となりました。

参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

関連記事:2025年度税制改正による相続税・贈与税の変更点は?近年の大きな変更も解説

施行時期と経過措置の有無

暦年課税制度の加算対象期間の拡大(相続開始前3年→7年)といった新要件は、この施行日以降の贈与に対してのみ効力を持ちます。したがって令和6年1月1日前の贈与については、従来どおりの制度が維持される点に注意が必要です。

ただし、延長された4年分(旧制度の範囲を超える部分)については、加算対象としない金額(100万円まで)を設けるという配慮が講じられています。これは、過度な遡及適用を防ぐ措置と考えられます。

関連記事:暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?

暦年課税制度の改正が個人や法人に与える影響とは

今回の税制改正により暦年課税制度に変更が加えられたことで、個人・法人にとって具体的にどのような影響が出るのでしょうか。

まず、相続開始前3年以内の生前贈与を相続税の課税対象に加える「持ち戻し期間」が7年に延長されたため、これまで節税手段として使われた暦年贈与の効果が見直されるケースが増えると思われます。

加えて、相続時精算課税制度に新たに年間110万円の基礎控除枠が設けられた影響についても考慮が求められます。相続時精算課税を選択した場合でも、この控除枠の範囲内であれば贈与税の申告・納税義務が免除されるためです。これにより、相続時精算課税の選択を検討する人が増える可能性があるでしょう。

法人においては、役員・従業員への持株贈与や退職金的贈与を検討する際、これらの改正が贈与スケジュールや税負担構造に影響を与える可能性があります。したがって、改正後には贈与方法の選択肢が増える一方で、税務リスクを抑えるためにシミュレーションを綿密に行っておくとよいでしょう。

参考:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

改正による相続税・贈与税への影響

ここからは、暦年課税制度の改正による相続税・贈与税への影響について解説します。

贈与税の課税範囲と税率の変化

暦年課税の見直しで最も影響が大きいのは「持ち戻し期間の拡大」です。

相続開始前の3年以内の贈与は、従来どおり全額が相続財産に加算されます。そして税制改正によって、さらに4年分を上乗せして7年まで広げられるようになりました。ただし延長された4年分は、各年の贈与の合計が100万円までなら加算されません。そのため、生前贈与で前倒し移転を考える場合、加算対象の広がりを前提にシミュレーションすることが重要になります。

一方で税率構造そのもの(10~55%の累進)は変更なく、従来どおり基礎控除後の課税価格に適用されます。他方で相続時精算課税は年間110万円の基礎控除が新設され、この範囲は相続時の加算からも除外されるため、注意が必要です。

参考:令和5年度税制改正(案)のポイント

関連記事:暦年課税が改定|生前贈与加算の期間が7年になるとどんな影響がある?

暦年課税制度改正と節税対策のポイント

ここからは、暦年課税制度改正と節税対策のポイントを以下3つの視点から見ていきます。

  1. 相続時精算課税制度との比較と使い分け
  2. 小規模宅地等の特例との組み合わせによる効果
  3. 贈与時期や資産種類を工夫することで軽減できるケース

1.相続時精算課税制度との比較と使い分け

暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらを選ぶかは、資産承継における税負担に大きく影響します。特に令和5年度の税制改正による暦年課税制度の相続開始前の贈与加算期間が3年から7年へ段階的に延長され、相続時精算課税制度には年110万円の基礎控除が新設されました。

暦年課税制度は、毎年110万円までの基礎控除があるため長期的な資産移転に適しています。一方の相続時精算課税制度は、2,500万円の特別控除枠を活用して多額な資産を一括贈与するのに適しています。

暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらを選ぶかは、贈与者の年齢や健康状態、資産構成、受贈者との関係性を総合的に判断する必要があります。もし判断に迷いがある場合は、税の専門家である税理士への相談も検討しましょう。

関連記事:暦年課税制度と相続時精算課税制度の違いは?贈与はどちらを選ぶのが正解?

2.小規模宅地等の特例との組み合わせによる効果

暦年課税制度の加算期間が延長されたことにより、小規模宅地等の特例と組み合わせることでさらに相続税の節税効果を高められる可能性があります。

小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用や事業用の宅地について、一定要件を満たせば相続税評価額を最大80%減額できる制度です。特定居住用宅地等では330平方メートルまで80%の減額が適用され、土地の評価額が大幅に圧縮されます。

暦年課税制度による計画的な生前贈与で現預金や有価証券を移転しつつ、居住用不動産については相続時に小規模宅地等の特例を適用する戦略が有効になりそうです。

流動性の高い資産は生前に移転して相続財産から除外し、評価額の高い不動産は小規模宅地等の特例を活用することで、より大きな減額効果が期待できるでしょう。

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説

3.贈与時期や資産種類を工夫することによる効果

暦年課税制度改正後も、資産の種類によっては節税効果をより高められる可能性があります。

具体的な資産としては、将来的な値上がりが見込まれる株式や成長企業の非上場株式です。これらを優先的に贈与することで、将来の評価額上昇分を相続財産から除外できるでしょう。

収益物件や配当株式を贈与すれば、贈与後の収益が受贈者に帰属し、相続財産の増加を抑制する効果があります。一方で現預金は価値変動がないため、毎年の基礎控除枠内で確実に移転できる資産として活用できます。

不動産については、相続時に空き家となった物件を売却する際、3,000万円の特別控除が令和9年12月31日まで適用可能です。相続開始から3年以内の売却が要件となるため、贈与せずに相続時まで保有し、この「3,000万円特別控除」の特例を活用する選択も検討しましょう。

資産の特性と税制上の優遇措置を総合的に判断し、贈与と相続の最適な組み合わせを設計することが重要です。

参考:住宅:空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除) – 国土交通省

参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

まとめ

暦年課税制度の改正により、生前贈与の設計は「相続時の加算」を前提に組み立て直す時代になりました。相続開始前の加算期間は順次拡大し最長7年となり、4〜7年分は各年100万円まで加算しない仕組みとなっています。

さらに相続時精算課税も年110万円の基礎控除が加わったことで、暦年課税とどちらが有利かを比較し、より計画的な贈与を検討する必要があります。

今後は贈与の目的や金額、時期を年次で整理し、相続発生時の加算と贈与税額控除の見通しまで含めて試算することが求められるでしょう。不明な点がある場合は、税の専門家である税理士に早めに相談することをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。