2025年度税制改正による相続税・贈与税の変更点は?近年の大きな変更も解説

税制改正

2025年度の税制改正により、相続税や贈与税に関する変更が数点ありました。インパクトの大きい変更はありませんでしたが、適切な納税や節税対策のためには最新の税制について知っておく必要があります。また、前々年度の2023年度の税制改正では抜本的ともいえる大きな変更がありました。

今回は直近の2025年度と、少し前の2023年度の税制改正による相続税・贈与税の変更について解説します。

2025年度税制改正による相続税・贈与税の変更点

変更点

2025年度税制改正における相続税・贈与税に関する変更点は5つです。それぞれ詳しく解説します。

変更点1【相続税】物納制度における物納許可限度額等の見直し

相続税の物納制度とは、相続税を金銭で納付するのが困難な場合に相続財産による納付ができる制度です。

物納許可限度額は原則として以下の計算式で求めます。

物納許可限度額=納付すべき相続税額-納期限に金銭で納付可能な金額-延納によって納付することができる金額

このうち「延納によって納付することができる金額」を計算するためには、延納期間を考える必要があります。延納できる期間は相続財産に占める不動産等の割合に応じて定められており、最長で20年です。物納許可限度額の計算の基礎となる延納年数も、税制改正前のルールでは最長20年となります。

2025年度の税制改正により、延納年数の上限が納期限等における申請者の平均余命の年数に変更されました。

参考:No.4211 相続税の延納|国税庁

変更点2【相続関連】相続登記の登録免許税の免税措置に関する変更

相続税そのものではなく、相続登記にかかる登録免許税の免税措置に関する変更です。

相続により取得した土地が以下のいずれかに該当する場合、当該土地の所有権移転登記等にかかる登録免許税は免税となります。

  • 一次相続により土地を取得した個人が相続登記をしないで死亡した場合に行う、一次相続に関する所有権移転登記
  • 不動産の価額が100万円以下の土地を取得した場合の所有権保存登記または相続による所有権移転登記

2025年度の税制改正により、上記2つの登記にかかる登録免許税の免税措置の適⽤期限が2年間延長されました。2027年3月31日までの登記が対象になります。

参考:相続登記の登録免許税の免税措置について:法務局

変更点3【贈与税】直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税の適用期限を延長

贈与税には通称「結婚・子育て資金贈与」と呼ばれる特例制度があります。

結婚・子育て資金贈与とは、直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合に1,000万円まで(結婚資金は300万円まで)が非課税になる制度です。非課税制度の適用を受けるためには、一般的な方法による贈与ではなく、金融機関等で所定の手続きを行う必要があります。

本制度は2025年3月31日に終了予定でしたが、2025年度の税制改正により適用期限が2年延長になりました。

関連記事:【税理士監修】結婚・子育て資金贈与とは?概要や手続き方法、注意点を解説

変更点4【贈与税】事業承継税制に関する要件見直し

事業承継税制とは、会社や個人事業の後継者が取得した資産にかかる贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。2025年度の税制改正により、法人版・個人版ともに事業に従事していた年数に関する要件の見直しが行われました。

【法人版事業承継税制の変更点】

変更前は、贈与時点で役員就任から引き続き3年以上経過している必要がありました。税制改正により役員就任要件が緩和され、贈与の直前において役員であれば特例認定贈与承継会社の役員等とみなされます

【個人版事業承継税制の変更点】

税制改正の前は、贈与の日まで引き続き3年以上の事業従事要件が定められていました。2025年度税制改正により事業従事要件が緩和され、贈与直前に特定事業用資産に係る事業に従事していたことに変更されています。

関連記事:事業承継税制とは?税制優遇を受けるためにするべきことや注意点まとめ

関連記事:新事業承継税制とは?制度の概要やメリット・デメリットを解説

変更点5【相続税・贈与税】農地等に係る相続税・贈与税および山林に係る相続税の納税猶予制度に関する変更

2025年度の税制改正により、以下2つの制度に関する変更が行われました。

  • 農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度における営農困難時貸付け
  • 山林に係る相続税の納税猶予制度における特例山林の経営委託

いずれも、相続や贈与によって取得した土地等について納税猶予制度の適用を受けた場合に関連する制度です。農地および山林の経営が困難となる一定の事由が生じた場合でも、一定の要件を満たせば納税猶予制度の利用を継続できます。

上記2つの特例の適用事由として「介護医療院へ入所したこと」が追加されました。

参考:令和7年度税制改正の大綱

参考:農地の贈与・相続に係る特例措置について知りたい

参考:令和7年度 税制改正事項(林野関係)の概要

【2023年度】近年の税制改正で行われた相続税・贈与税の大きな変更とは

相続税の申告書

2025年度の税制改正では、相続税や贈与税に関する特別大きな変更はなかったといえます。

しかし実は、2023年度の税制改正で相続税や贈与税に関する抜本的な変更が実施されました。少し前に大きな変更があったために、2025年度は相続税や贈与税に関する変更が軽微なものであったといえるでしょう。

この章では、2023年度の税制改正で行われた相続税・贈与税に関する大きな変更について解説します。

参考:令和5年度税制改正の大綱(2/10) : 財務省

なお、いずれも生前または死後どの時期に財産を移転しても税額が大きく変わらない仕組みの実現を目的とした変更です。このような考えは「資産移転の時期の選択に中立的な税制」「相続税と贈与税の一体化」等と呼ばれます。

参考:資産移転の時期の選択に中立的な 相続税・贈与税のあり方について

参考:資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築に向けた論点整理

相続税の課税価格に加算される暦年贈与の範囲拡大

生前贈与の注意点として「亡くなる前の3年以内の贈与は相続税の対象となる」と見聞きしたことのある人は多いでしょう。

2023年度の税制改正により、相続税の対象となる贈与の範囲が亡くなる前3年以内から7年以内に拡大されました。当該改正は、2024年1月1日以後の贈与によって取得する財産にかかる相続税から適用となります。

相続税の対象範囲の拡大により、生前贈与による相続税の節税効果が得にくくなったといえるでしょう。相続税の節税目的で贈与を行うのであれば、なるべく早いうちから始める必要があります。

関連記事:【税理士監修】相続税対策に生前贈与を行うべき?生前贈与のメリットや注意点を解説

相続時精算課税に係る基礎控除の創設

相続時精算課税とは、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供・孫への贈与に際して選択できる制度です。

相続時精算課税を選択すると、対象の贈与者からの贈与財産2,500万円まで贈与税がかからなくなります。ただし、贈与者が亡くなった時に相続財産に含めて計算する必要があります。

2023年度の税制改正により、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が創設されました。相続税の計算時には、相続時精算課税による毎年の贈与額から基礎控除110万円を引いた額を相続財産に加算します。

関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説

まとめ:相続税・贈与税の今後の動向も要確認

2025年度の税制改正における相続税・贈与税関連の変更を5つ紹介しました。適用期限の延長や適用範囲の拡大など、いずれも調整程度の軽微な変更といえるでしょう。

ただし、2年前である2023年度には相続税・贈与税に関する大きな変更が行われました。2026年度以降もさらなる変更が行われる可能性があるため、今後の動きも確認する必要があります。

とはいえ、最新の税制を完璧に把握した上で適切な対応を行うのは容易ではありません。効果的な節税対策をしたつもりが、改正後のルールでは不適切という事態も起こり得ます。

最新情報を踏まえた効果的な節税対策や正確な申告・納税を行うためには、専門家である税理士のサポートを受けるのが安心です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。