110万円以下なら贈与税は申告不要?複数人・夫婦間の贈与に注意

個人からタダでもらったお金が年110万円以内なら、贈与税の納付は不要です。110万円のカウントは年をまたぐとリセットされるので毎年適用でき、相続税対策としても注目されています。とはいえ、注意したい点もあります。この記事では、110万円の基礎知識や注意すべき点、相続税対策への活用法などを解説します。
目次
贈与税で聞く「110万円」とは?対象はいつから・いつまで?
ここでは、贈与税の仕組みと課税方法を解説します。
贈与税とは?暦年課税と相続時精算課税の2種類の課税方法
贈与税は、「個人からタダでもらった財産」に課せられます。
課税方法は2種類あり、一般的なのは「暦年課税」です。条件を満たせば「相続時精算課税」も選べます。
暦年課税 |
|
相続時精算課税 |
|
※相続開始とは、「財産をあげた人の死亡日」を指す
どちらにするかは、もらった側が選びます。相続時精算課税を使うには税務署への届出が必要で、届出をしなければ暦年課税が自動適用されます。
以前は、暦年課税しか基礎控除はありませんでした。しかし2024年の税制改正で相続時精算課税でも使えるようになりました。
もらった額が年110万円以下なら申告は不要
受け取った金額が年110万円以内なら、贈与税の申告・納税は不要です。
例えば父から年105万円をもらった人は、納税不要です。一方、150万円もらった人は課税価格が40万円となり、申告や納付をしなければなりません。
なお、税金を納めるのは「財産をもらった側」であり、あげた側は手続き不要です。
参考:No.4402|国税庁
参考:No.4103|国税庁
期間はその年の「1月1日〜12月31日」で毎年リセットされる
贈与税の対象期間は1月1日〜12月31日で区切られ、基礎控除の枠も年ごとに使えます。
例えば、2020年に105万円、2021年に105万円を受け取っても、それぞれの年で110万円を下回っているので納税不要です。
一方、110万円超を受け取ったら、翌年の2月1日〜3月15日に贈与税の申告と納税をしましょう。
参考:No.4429|国税庁
贈与税はいくら?税率は?複数人から受け取ったら注意
贈与税は「年間に受け取った合計額」を基準に計算されます。同じ年に複数の人からお金をもらうと合算されてしまうので注意しましょう。
例えば、父から1月に105万円、母から8月に101万円を受け取ると、年206万円を受け取ったことになります。このケースだと、206万円 – 110万円 = 96万円が課税価格です。税率は10%で、96,000円の贈与税を納めます(暦年課税とする)。
下記は、「いくらもらったら贈与税がどれくらいかかるのか」を示した暦年課税の早見表です。
【直系尊属から成人がもらうケース(特例税率)】
直系尊属とは、自分より前の世代の血族を指します。例えば父母・祖父母・曽祖父母・養父母などが該当します。
もらった額 |
課税価格 (もらった額ー110万円) |
税率 |
控除額 |
贈与税の額 |
---|---|---|---|---|
150万円 |
40万円 |
10% |
0円 |
40,000円 |
500万円 |
390万円 |
15% |
10万円 |
48万5,000円 |
1,000万円 |
890万円 |
30% |
90万円 |
177万円 |
3,500万円 |
3,390万円 |
50% |
415万円 |
1,280万円 |
【上記以外のケース(一般税率)】
例えば、夫婦間、兄弟間、友人間、知人、他人、配偶者の直系尊属、おじ・おばなどから受け取るケースです。未成年が直系尊属から受け取るケースもこちらに含まれます。
もらった額 |
課税価格 (もらった額ー110万円) |
税率 |
控除額 |
贈与税の額 |
150万円 |
40万円 |
10% |
0円 |
40,000円 |
500万円 |
390万円 |
20% |
25万円 |
53万円 |
1,000万円 |
890万円 |
40% |
125万円 |
231万円 |
3,500万円 |
3,390万円 |
55% |
400万円 |
1,464万5,000円 |
参考:No.4408|国税庁
なお、相続時精算課税は上記の早見表とは税率が異なりますのでご注意ください。
支払うべき贈与税額を把握したい方や、どちらの課税方法を選ぶべきかお悩みの方は、ぜひ初回無料相談をご利用ください。
生活費や教育費は基本的に対象外だが課税されるケースも
生活費や教育費は、基本的に贈与税の対象になりません。とはいえ、使い方によっては生活費などとして判断されず、贈与と判断されるケースもあります。
夫婦・親子など扶養義務者からのお金で資産形成すると課税対象に
夫婦や親子などの扶養義務者から受け取った生活費は、生活に使う範囲なら課税対象外です。しかし貯蓄や投資などの資産形成に回すと、贈与とみなされ課税される可能性があります。
例えば、配偶者から毎月12万円の生活費や教育費を受け取っているとします。年144万円受け取っていますが、実際に食費や学費など必要な支出に充てていれば、課税されません。
一方、生活費の名目で受け取っても、そのお金をNISAなどで運用すると、課税される可能性があります。高額な貴金属や不動産など、資産性が高いものの購入も同様です。
扶養義務者からのお金は「その都度生活出費に充てる」と意識しましょう。
参考:No.4405|国税庁
関連記事:【税理士監修】夫婦間でも贈与税は発生する。贈与税が発生しないパターンや疑問について解説
毎年110万円以内の受け渡しがあるなら「贈与契約書」で証拠を残す
110万円以内の受け渡しを毎年繰り返す方は、その都度「贈与契約書」を作成して証拠を残すことがおすすめです。
贈与契約書がないと「毎年110万円を○年間あげる」という包括的な贈与とみなされ、まとめて課税されるリスクがあります。その際、贈与契約書を残せば、各年ごとに独立した贈与だと主張しやすくなるでしょう。
例えば、配偶者から毎月12万円を生活費として受け取っている人が、5年間毎年110万円ずつをさらに受け取ってNISAで運用したとします。このとき毎年贈与契約書を作成しておけば、「その年ごとの贈与」として扱われ、課税されない可能性があります。
一方で、契約書がなければ「計550万円の贈与だ」と判断され、5年分まとめて課税される恐れがあります。
毎年受け渡しをする方は、贈与契約書や通帳の記録を用意しておけば、税務署から指摘されても説明しやすくなります。
贈与契約書について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:【税理士監修】生前贈与とは?メリットや注意点について徹底解説
110万円超をもらうときは教育費などの特例を活用する
教育資金や住宅取得資金などのまとまった金額を、課税されずに受け取れる特例もあります。以下に代表的な制度をまとめました(2025年9月現在)。
特例の種類 |
主な対象 |
控除額 |
夫婦間で行う不動産贈与 (婚姻期間20年以上) |
配偶者から贈られたのが
のいずれか |
2,000万円+110万円 |
結婚・子育て資金の一括贈与 |
直系尊属から受け取った結婚または子育ての資金 |
1,000万円 |
教育資金の一括贈与 |
直系尊属から受け取った教育資金 |
1,500万円 |
住宅資金の贈与 |
直系尊属から受け取った住宅取得または増改築の資金 |
・省エネ等住宅:1,000万円 |
制度の内容は頻繁に変更されるため、「現時点で制度はどうなっているか」を確認してから利用を検討しましょう。
参考:No.4452|国税庁
参考:No.4511|国税庁
参考:No.4510|国税庁
参考:No.4508|国税庁
関連記事:結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税
関連記事:【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税?注意点と手続き方法を解説
関連記事:【税理士監修】住宅取得等資金贈与のメリットは?非課税制度の適用条件と注意点
想定外の贈与税を回避したい方や、特例を適切に使いたい方は、ぜひ税の専門家にご相談ください。
贈与税についてよくある質問4つ
ここでは贈与税についての質問に回答します。
110万円ずつ毎年渡したら相続税の対策になる?
なるケースと、ならないケースがあります。
暦年課税だと、長期的に毎年110万円以下をあげ続ければ相続財産を減らせるため、相続税対策になるでしょう。
例えば、90歳で亡くなった人が、60歳〜80歳の20年間に毎年2人の子供に110万円ずつ渡していたとします。このケースだと、合計で4,400万円が相続財産から減っており、大きな節税効果を得られています。
とはいえ、財産をあげる側が死亡する直前に贈与しても相続税対策になりません。死亡前7年以内にあげた分は、基礎控除分も含めて相続税の対象に含まれるためです。よって、活用するには若いうちから計画的に渡し続ける必要があります。
相続時精算課税は、原則として2,500万円までは贈与税はかかりません。土地や有価証券など、将来値上がりする可能性が高い資産を早めに贈与することで相続税対策として活用できるでしょう。
どんな方法でいくら渡すのが最も相続税対策となるかは、個々の状況によって異なります。自分に適した相続税対策を行いたい方は、税理士に相談するのが安心です。
関連記事:【税理士監修】相続税対策に生前贈与を行うべき?生前贈与のメリットや注意点を解説
関連記事:暦年課税が改定|生前贈与加算の期間が7年になるとどんな影響がある?
基礎控除がなくなるって本当?なくなるのはいつから?
なくなる時期は、現時点では決まっていません。とはいえ将来的に縮小あるいは廃止される可能性はあります。
現在、「財産移転が生前・死後のどちらでも税負担を同じにしてはどうか」という議論が行われています。その中で、控除に関しても見直される可能性があります。
贈与計画を立てる際は、改正の可能性も視野に入れ、最新の税制動向をチェックしましょう。
詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:相続税と贈与税の一体化とは?実施の目的や具体的な施策を解説
結婚式で40人のゲストから30,000円ずつのご祝儀……贈与税はかかる?
40人から30,000円ずつ受け取ったら合計は120万円となりますが、贈与税は課税されません。結婚式でのご祝儀は世間で当たり前とされているお金で、課税の対象にはならないとされています。
国税庁ホームページでも「祝物など社会通念上相当と認められる金品」は課税されないと明記されています。通常の範囲内のご祝儀であれば、申告や納税は不要です。
参考:No.4405|国税庁
親から生活費をもらっているがお年玉にも贈与税はかかる?
かかりません。お年玉もご祝儀と同様に、「社会通念上相当と認められる金品」に含まれるためです。国税庁のホームページでは、「年末年始の贈答」には課税されないと明記されています。
例えば、親から生活費として毎月12万円の仕送りを受けている学生が、祖父からお年玉に50,000円をもらったとします。このケースでも、お年玉50,000円は慣習的な範囲の金額であるため、贈与税はかかりません。
とはいえ、お年玉として100万円など高額なお金を受け取ると「社会通念上相当」とは認められず、贈与税の対象になる可能性があります。
贈与税にお悩みの方はご相談ください
この記事では、贈与税に関する控除について解説しました。
受け取った額が年110万円を超えたら、贈与税が課せられます。特に、複数人からお金などを受け取った方や、夫婦での受け渡し、毎年の受け渡しなどは要注意です。また、税制改正で見直される可能性もありますので、今後は最新情報を踏まえて判断しましょう。
自分に合った税金対策は、財産の内容や家族構成によって異なります。お悩みの方は、ぜひ一度専門家にご相談ください。最適な方法で、大切な資産を守るサポートをします。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。