株の名義変更を親子で行う場合のポイントとは?ケースごとの流れも解説

相続財産といえば現金や土地、不動産などがイメージされますが、なかには「株」が遺されているケースもあります。しかし、例えば親子で株の相続を行いたい場合には、どのような方法があるのでしょうか?
ここでは株式を所有する方やその親族に該当する方のために、名義変更の方法やポイント、注意点などをまとめました。
目次
親子間で「株式譲渡」を行うには3つの方法がある
まず、株を他者や他の会社に譲ることを「株式譲渡」と言います。第三者への株式譲渡では、現金等の対価を用いて売買契約を行うのが一般的です。しかし、親子をはじめとする親族間の譲渡においては、「相続」や「贈与」という方法も選択できます。
方法1|相続する
相続は、「親が亡くなった後に受け継ぐ」方法のことです。財産の金額に応じて相続税がかかるのが特徴で、以下のような公式で税率の計算が行われます。
課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数) |
メリットとしては基礎控除額が大きいことや、相続人が株を購入するための資金を用意せずに済むことなどが挙げられます。ただし、株式は想定した相続人に自動的に受け継がれるわけではありません。株式を譲渡する相手や割合など「遺言書」によってしっかりと意思を伝えることが重要です。
また、財産の中で株が占める割合が大きすぎないか(他の相続人にとって不公平にならないか)も注意してください。遺産分割協議でのトラブルを防ぐ上でも、遺留分を考慮した財産の分配を意識しましょう。
関連記事:【税理士監修】株の相続が発生したら?取るべき手続きや株の相続方法について解説
方法2|売買する
親子をはじめ、親族間での株式譲渡でも「資金力のある相続人を選ぶ」目的で売買を選択されることがあります。また、この方法では株式が相続財産に含まれないため、遺留分に関する問題が発生しないのもメリットだと言えるでしょう。
ただし、株式を保有していた側に譲渡益課税(所得税+住民税の合計20.315%)が課される点には注意しなければなりません。その他、譲渡額を抑えようと市場価値より取引価格が著しく低いタイミングを選択した場合は贈与扱いになるリスクもあります。
方法3|贈与する
贈与は、「親が亡くなる前(生前)に財産を受け継ぐ」方法です。会社ごと承継を行うケースでも先代の意向を反映できるほか、時期の調整もしやすいのが大きなメリットだと言えるでしょう。
また、以下のような制度を利用することも可能です。
- 暦年贈与:年間110万円までの贈与であれば非課税となる
- 相続時精算課税制度:一括贈与を行っても2,500万円+基礎控除までは非課税となる
しかし、上記の制度には併用不可、定められた期間より後の贈与には相続税が課税されるといった決まりがあります。生前贈与を検討している場合は、税理士をはじめとする専門家に相談の上、慎重に動くのがおすすめです。
関連記事:暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?
関連記事:相続時精算課税制度とは?特別控除と新設の基礎控除を解説
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「相続」と「贈与」で違う!株の名義変更の流れは?
親から子へ株を譲渡する方法としては、特別な事情がない限り「相続」か「贈与」を選択されることが多いと言えます。この時必要となるのが、所有権を移転する「名義変更」です。
これは生前の「贈与」か死後の「相続」かによって必要書類等が変わってきますので、よく確認しておきましょう。この項では、株の発行元による違いなども含め解説しています。
名義変更の流れ
株の名義変更を行う際には、その株式が「上場企業」のものか、「非上場企業」のものかを確認します。どちらに該当するかによって手続きを担当する会社が変わりますので、気を付けてください。
<上場企業の場合>
- 取引をしている証券会社(楽天、SBIなど)に連絡
- 相続人の証券口座を新たに開設(既に持っている方はその口座に贈与された株を移管)
- 求められた書類の用意・提出
- 手数料の支払い
<非上場企業の場合>
- 株を発行した会社に連絡
- 指示に従って手続きを進める(会社ごとに必要書類・流れが異なる)
- 名義変更の承認を受けて完了
非上場企業の名義変更は、企業の規模や株式の性質によって手続きが異なります。また、譲渡制限が設けられていることが多いため、名義変更にあたり発行元の承認が必要となるのも特徴です。特に贈与よりも相続の方が流れが煩雑になりやすいとも言われていますので、よく相談して進めていきましょう。
名義変更に必要な書類
株の名義変更で必要な書類は、生前贈与か相続かによって違います。また、非上場企業の場合は会社ごとの規定により、上場企業とは異なる書類を求められる可能性もありますので、注意してください。
<贈与の場合>
- 贈与契約書のコピー
- 贈与者の印鑑登録証明書
- 贈与手続依頼書
※非上場企業は、上記プラス取締役会議事録や株主総会議事録の提示が必要となることも
<相続の場合>
- 株式名義書換請求書
- 相続人全員の同意書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人の戸籍謄本・遺産分割協議書
- 亡くなった人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続するもの)
- 取引口座引き継ぎの念書
※非上場企業はプラスアルファの書類が必要となる可能性も
上記を見ると、贈与における名義変更より相続における名義変更の方がより手間がかかることが窺えます。株の後継者がいる方は、できる限り生前から早めに準備をしておきましょう。
関連記事:株式を相続したときの名義変更の方法は?相続税はいくらかかるの?
関連記事:株式を生前贈与すると相続税対策になる?手続き方法や節税のポイント
名義変更後は、株の評価額に応じて税金を申告
株の名義変更を終えれば、「贈与」や「相続」が完了したことになります。その後は受け継がれた株式の評価額によって、どの程度の税金がかかるかを把握せねばなりません。そこで年間、もしくは相続時の基礎控除額を超えてしまうと、贈与税や相続税の支払いが求められます。
特に非上場企業は参考となる株価を公開していないため、評価額の計算方法が異なる点にも注意が必要です。非上場企業の場合、取引や会社の規模、総資産価額などによって「大会社」と「中会社」、「小会社」に分類します。その上で、類似業種比準方式や純資産価額方式など、適正だと考えられる方法で評価額が算出されるのが一般的です。
また、非上場企業を会社ごと「売却」するのであれば、売る側に税金がかかる可能性があります。非上場企業の売却における税金に関しては、下記の記事に詳しくまとめられていますので、ぜひご参考ください。
関連記事:非上場株式を売却する際の税金はいくら?計算方法や税率を解説!
親子間で株式譲渡を行う際の注意点 
親子という近しい間柄だからこそ、贈与や相続は簡単だと思われるかもしれません。しかし、株は現金や不動産とはまた違った性質を持つ財産です。その価値や手順をきちんと確認しておかなければ、予想外のトラブルに繋がることもあります。最後に、どのような心構えが必要かも含めてチェックしていきましょう。
株の評価額によっては、多額の税金がかかる
株の評価額は様々な要因によって求められますが、基本的には「その時の株価」や「時価」が基準となります。そして、高ければ高いほど相続人が支払うべき相続税や贈与税は上がってしまうのです。
できる限り避けたいのは、相続時精算課税(2,500万円)や相続税(3,600万円)の基礎控除を微妙に超えてしまうことでしょう。株を税金の支払いに充てるには現金化しなければならない上、額によってはかなりの負担となりかねません。価値が流動的な部分もありますが、受け継ぐ人のためにも常に株価に気を配り、早めに遺贈や相続の準備を始めましょう。
他にも相続人がいると、揉め事に繋がることも
例えば資産として株を多数保有している方や、株式会社を経営している方の場合、株が主要な財産となることもあると思います。そこで「1人を後継者として株を全て譲りたい」と考えているとしましょう。
しかし、相続人が複数いる中で特定の1人に財産の比重が偏ってしまうと、争いが生まれかねません。かといって平等に株を分配すれば、今度は会社の経営権に支障が出るといった問題もあるでしょう。
このような事態を防ぐためにも、親族間であらかじめ根回しや話し合いを行うことが大切です。また、遺留分がどの程度の金額になるかを踏まえ、後継者以外への財産の分配についても考えておきましょう。
関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説
相続した後、株を売る際には税金が発生する
親から株を相続した方の中には、それを売って現金化したい、と考えている方もいるでしょう。ですが、売却により利益が発生した場合、譲渡所得の20.315%の譲渡所得税が課税されるという決まりがあります。
譲渡所得=売却金額-(取得費+売却手数料等) |
ただし、相続税の申告期限から3年以内に株を売却できれば、相続税の一部が株の取得費として加算される制度があります。相続した株を売る際にも、早め早めの行動が大事だと言えそうです。
まとめ|株の価値や特徴を踏まえ、専門家にも相談を
親の株を子に受け継ぐ方法としては、贈与や相続が一般的です。その際には名義変更を行いますが、上場企業と非上場企業で手続きや必要書類が異なるため、注意しなければなりません。
また、株の評価額や規模によっては税金の支払いや親族間のトラブルなど、相続人の負担が増えるリスクも生まれます。こういった事態を防ぐためにも、生前から後継者や親族と意思の疎通を図り、株の扱いについて考えておくのが良いでしょう。
とはいえ、全てを自力で準備するのは非常に難しいものです。もし名義変更に関するお悩みがあれば、税理士をはじめ頼れる専門家に一度相談してみてはいかがでしょうか。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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