株式を生前贈与すると相続税対策になる?手続き方法や節税のポイント

株式の生前贈与は、相続税対策に効果のある方法の一つです。生前に株式を家族に引き継ぐことで、将来の相続財産をあらかじめ減らし、結果として相続税の負担を軽くできます。

この記事では、株式の生前贈与を検討する際に知っておきたいメリットとデメリットを整理し、手続きの流れや評価方法、贈与税の仕組みまで解説します。また、節税に役立つ工夫や注意点も紹介します。

株式を生前贈与するメリット

メリット

株式を生前贈与することには、相続税対策以外にも次のメリットがあります。

  • 将来の相続時の税負担を軽くできる
  • 不動産より贈与手続きが簡単に済む
  • 株価が安い時期の贈与で節税効果が高まる

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

メリット1:将来の相続時の税負担を軽くできる

株式を早めに生前贈与しておくと、将来の相続時に課される税金を軽くできます。贈与した株式は受贈者(もらった人)の資産となり、贈与者(あげた人)の財産から除外されるためです。結果として、相続税の計算対象となる遺産総額を抑えられます。

早めに株式を渡しておけば、株価が将来上がったとしても増加分に相続税はかかりません。株式の生前贈与は、長期的に見て相続税の負担を軽くする方法です。

メリット2:不動産より贈与手続きが簡単に済む

株式の贈与手続きは不動産よりも簡単で、短期間で完了します。不動産の生前贈与では登記や評価書の取得が必要ですが、株式なら証券会社で名義変更をするだけで済むからです。必要書類を提出して名義を書き換えるだけのため、手間がかかりません。

例えば、上場株式を子どもに贈与する場合、証券会社に所定の書類と印鑑を提出すれば、おおむね1週間~2週間以内に名義変更が完了します。不動産のように司法書士に依頼して登記をする必要もなく、手続き費用の面でも負担は軽くて済みます。

株式は比較的手間とコストを抑えて柔軟に贈与できる資産です。時間も費用もかけずに子や孫へ財産を移転できる点は、株式贈与ならではのメリットでしょう。

メリット3:株価が安い時期の贈与で節税効果が高まる

株式は株価が低い時期に贈与することで、贈与税と相続税の両方を抑えることができます。贈与税は贈与時の評価額をもとに計算されるため、株価が安いほど税負担を軽くできる仕組みです。

さらに贈与後に株価が上昇しても、値上がり分は受贈者の資産となり、贈与者の相続財産には含まれません。将来的に成長が見込まれる株式ほど、上昇前に贈与しておくことで節税効果が大きくなります。日頃から市場動向に目を配り、贈与のベストなタイミングを計ることも大切です。

株式を生前贈与するデメリット

デメリット

株式の生前贈与は相続税対策として有効な場合が多いですが、注意しておきたいデメリットもあります。

  1. 贈与税が発生する可能性がある
  2. 特別受益とみなされ、遺産分割でトラブルになる可能性がある

特に気をつけたいのが、贈与税による予想外の負担と、他の相続人との間に生まれる不公平感からくるトラブルです。それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。

デメリット1:贈与税が発生する可能性がある

生前贈与をする際には、贈与税の負担に注意しなければなりません。贈与税には毎年110万円の基礎控除(非課税枠)がありますが、それを超えた贈与額には10%~55%の累進課税が課されます。

例えば、1,000万円を一度に贈与すれば、数百万円の贈与税が発生することもあります。相続税を節約するつもりが、かえって贈与税の方が重くなることもあるため注意が必要です。

贈与税の負担を抑えるため、毎年少しずつ贈与する「暦年贈与」を活用するのも一つの方法です。 また、一定の条件を満たせば、大きな金額を一括で贈与できる 「相続時精算課税制度」を利用できます。制度の特徴や使いどころについては、後述する「株式の生前贈与にかかる贈与税の計算」で解説します。

デメリット2:特別受益とみなされ、遺産分割でトラブルになる可能性がある

株式を特定の相続人に生前贈与すると、遺産分割の際に思わぬトラブルになることがあります。生前贈与が「特別受益」と見なされると、他の相続人との間に不公平感が生まれやすくなるためです。特別受益があるときは、その分を考慮して相続財産全体の配分を見直す必要があります。

例えば、長男にだけ高額な株式を生前贈与していた場合、他の兄弟姉妹は「遺産を不当に多く受け取っている」と感じるかもしれません。さらに、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を侵害していると主張されれば、話し合いがこじれて訴訟に発展する可能性も出てきます。

遺産分割のトラブルを防ぐには、誰にどれだけ渡すかをあらかじめ明らかにしておくことが大切です。贈与契約書を作成したり公正証書遺言を残したりして、贈与の経緯を文書にしておくと安心です。必要に応じて税理士や弁護士などの専門家に相談することで、将来のトラブルを未然に防ぐ体制を整えられます。

関連記事:【税理士監修】相続財産を巡る兄弟間の生前贈与トラブルの事例と解決方法

株式を生前贈与する手続き

株式を生前贈与する手続きは、贈与する株式が上場株式か非上場株式かによって異なります。上場企業の株式と中小企業の自社株では名義変更の方法や必要な書類が変わりますので、それぞれの流れを押さえておきましょう。

ここでは、上場株式の場合と非上場株式の場合に分けて具体的な手順を説明します。

上場株式の場合

上場株式を生前贈与する場合は、主に証券会社を通じて手続きを行います。まず、株式を保有している証券会社に連絡し、生前贈与の意思を伝えましょう。その後、証券会社から指示された必要書類を提出します。

一般的に提出する書類は以下の通りです。

  • 株式贈与契約書
  • 移管依頼書

これらの書類に基づいて、贈与者の口座から受贈者の口座へ株式が移管されます。必要書類や手続きの詳細は証券会社によって異なるため、事前に確認しておきましょう。名義変更が完了すれば、株式の所有権が受贈者に移転します。

非上場株式の場合

非上場株式の生前贈与は、上場株式と異なり証券会社を介さず行うのが一般的です。主に事業承継を目的として行われ、手続きにはいくつかの段階があります。

まず、贈与契約書を作成し、贈与の意思を明確にしましょう。次に非上場株式には多くの場合、譲渡制限があります。そのため、会社に株式譲渡の承認を請求し、取締役会などで承認を得る必要があります。

承認後は、以下の手続きを行います。

  • 株主名簿の書き換え(名義変更)
  • 法人税申告書「別表二」の内容変更

非上場株式の評価や手続きは複雑なため、専門家のアドバイスを受けながら進めることをおすすめします

生前贈与した株式の評価方法

株式の評価

株式を贈与する際には、贈与税の課税評価額を算出する必要があります。上場株式と非上場株式では評価方法が異なるため、それぞれ理解しておきましょう。評価額の算定は税額に直結する重要なポイントです。

上場株式の評価方法

上場株式は市場価格を基準に評価し、原則として贈与日の終値を評価額とします。ただし、贈与月・前月・前々月の終値平均と比較し、最も低い価格があれば、それを評価額として採用できます。

例えば10月に贈与した場合、贈与日の終値と8月~10月の各月の最終価格の平均額を比べ、最も低い株価が評価額となります。相続税と同様の評価方法で、株価変動がある中でも有利な価格を選べる仕組みです。

非上場株式の評価方法

非上場株式は市場価格がないため、会社の財務状況や規模に応じて評価手法を選択します。主に以下の2つが用いられます。

  • 類似業種比準方式(上場企業の株価や利益率と比較して評価する方法)
  • 純資産価額方式(会社の純資産額から株価を算出する方法)

会社の規模に応じて、2つの方式を使い分けたり併用したりするのが一般的です。また、同族株主か少数株主かによって評価方法が変わる場合もあります。

評価は複雑で誤差が生じやすいため、非上場株式を生前贈与する際は税理士に評価を依頼すると安心です。専門家に任せれば、最新の評価基準に則って適正な株価を算定してもらえます。

株式の生前贈与にかかる贈与税の計算

株式を生前に贈与すると、基本的に受贈者に贈与税がかかります。税額の計算には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの制度があり、選ぶ制度によって税負担や相続時の扱いが変わります。ここではそれぞれの仕組みと計算方法を解説します。

暦年課税制度

暦年課税制度は、毎年1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額に対して課税する仕組みです。年間110万円までの贈与であれば非課税(基礎控除)となり、110万円を超えた部分についてのみ贈与税がかかります。

贈与額が大きくなるほど税率も高くなる累進課税が適用され、税率は最大55%に達します。しかし、毎年110万円以下の贈与に抑えておけば税金はかかりません。毎年コツコツと非課税枠内で贈与を続けることで、長期的には多額の財産を無税で移転できます。

例えば、毎年100万円ずつ株式を贈与すれば、10年間で合計1,000万円の株式を非課税で子や孫に渡せます。しかし一度に1,000万円を贈与すると、約177万円の贈与税が発生します。非課税枠を活用して複数年に分ければ、非課税で同額の財産を移せるのです。

関連記事:【税理士監修】暦年贈与の注意点、相続税対策のポイントを解説

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、一定の条件を満たす親子・祖父母と孫の間で利用できる贈与税の特例です。生前に大きな金額を贈与しやすくなる一方で、相続時に最終的な税負担を精算する仕組みです。

利用条件と非課税枠

制度を使えるのは、贈与者が60歳以上の父母または祖父母、受贈者が18歳以上の子や孫の場合です。制度を選択すると、累計2,500万円までの贈与に贈与税がかかりません。例えば、1,000万円の贈与後に1,500万円を追加しても、合計が2,500万円以内なら非課税です。

超過分の課税と相続時の精算

累計が2,500万円を超えると、超えた部分に一律20%の贈与税が課税されます。例えば累計3,000万円なら、500万円に対し100万円の税額が発生します。

なお、贈与財産は贈与者の死亡時に相続財産に加算され、相続税として精算されます。すでに納めた贈与税は相続税額から差し引かれます。

この相続時精算課税制度を利用する際に注意したいのが、 一度選択すると、贈与者からの贈与は暦年課税に戻せないということです。相続時精算課税制度を利用する際は、将来の相続税負担も見据えて慎重に判断することが大切です。

参考:No.4103 相続時精算課税の選択|国税庁

関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説

株式の生前贈与における節税対策

株式の生前贈与を効果的な節税対策とするには、押さえておきたいポイントがいくつかあります。具体的には、次の3つの節税方法が代表的です。

  1. 株価が低い時期に贈与する
  2. 年間110万円の非課税枠を利用する
  3. 事業承継税制を活用する

それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。

[対策1]株価が低い時期に贈与する

株式の贈与を考えるうえで、その時点の株価がどの程度かは見逃せないポイントです。贈与税は贈与時の株価をもとに計算されるため、株価が下がっている時期に贈与すれば、評価額が低くなり税の負担も軽くなります。

今後の回復が期待できる銘柄を持っていれば値上がり前に贈与を済ませることで、将来的な資産移転がよりスムーズに進みます。贈与時の価格で評価されるため、その後に株価が上がっても上昇分については課税の対象にはなりません。

しかし、株価の動きは予測できるものではありません。目先の値下がりに反応してすぐに判断するのではなく、企業の状況や市場の流れを見ながら無理のない範囲で進めることが大切です。

[対策2]年間110万円の非課税枠を利用する

暦年贈与では、年間110万円までの基礎控除(非課税枠)があります。この枠を使い切れていない方は、計画的な贈与でぜひ有効活用しましょう。

ポイントは、毎年継続して贈与することです。例えば、毎年子ども2人に110万円ずつ株式を贈与すれば、1年で合計220万円、10年間で2,200万円の財産を非課税で移転できます。

資産規模が大きい場合には、早いうちから少額の贈与を積み重ねていくことで、将来の相続財産を着実に減らせます。贈与する株式の数量は株価によって変わりますが、毎年の評価額が110万円以内に収まるよう調整すれば問題ありません。

ただし、毎年同じ時期に同じ金額を贈与し続けると、「定期贈与」と見なされることがあります。贈与の時期や金額に多少の変化を持たせるなど、形式にも気を配りましょう。

[対策3]事業承継税制を活用する

非上場会社の株式を贈与して事業承継を行う場合は、事業承継税制の活用も検討しましょう。一定の要件を満たせば、後継者が取得した自社株式にかかる贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。

特に「特例措置」が適用されると、贈与税・相続税の実質的な負担をゼロにできる可能性もあり、中小企業の経営者にとって有利な制度と言えます。

ただし事業承継税制は適用要件や手続きが複雑です。計画的に事前準備が必要なため、専門家に相談しながら進めることで、手続きミスや税務上のトラブルを未然に防げます。制度を正しく使えば、税負担を抑えつつ、スムーズに株式を次世代へ引き継ぐことができます。

参考:非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等|国税庁

関連記事:事業承継税制とは?制度の概要や目的をわかりやすく解説

関連記事:事業承継による相続の手続きと相続税の支払いについて

株式の生前贈与でのよくあるトラブル

株価下落・トラブル

株式の生前贈与は、相続対策として有効な方法ですが、思わぬトラブルを招くこともあります。ここでは、よくあるトラブルの例を紹介します。

名義預金ならぬ名義株と判断されるリスク

名義だけを変えても、実態がともなわなければ贈与とは認められません。

例えば、株式の名義を子どもに変更しただけで、引き続き親が管理や運用をしていると、「名義株」とみなされることがあります。この場合、税務署からは贈与が成立していないと判断され、贈与税が否認されたり相続財産に含めて再計算されたりするおそれがあります。

贈与を成立させるには、まず贈与者と受贈者の間で贈与の意思を確認し合い、贈与契約を文書で交わすことが大切です。さらに、株式の名義変更だけでなく、配当金の受け取り先や管理権限も受贈者に移す必要があります。形式だけでなく、中身もともなった贈与であることを、第三者にも分かる形で証明できるようにしておきましょう。

贈与後の株価下落による影響

贈与後に株価が下がると、割高な税負担だけが残ることがあります。贈与税は贈与時点の評価額で決まるため、後から株価が下落しても税金は戻りません。例えば、1,000万円相当の株式を贈与し、200万円の贈与税を支払ったとしましょう。その後、株価が半分になれば、実質的に「500万円の株に200万円の税」という割高な贈与となってしまいます。

さらに、贈与は原則として取り消せません。株価の変動リスクを十分に理解せずに贈与すると、後悔する可能性もあります。株式の性質や市況を見極めたうえで、贈与のタイミングを慎重に選びましょう。

まとめ

株式の生前贈与は、将来の相続に備えて財産をあらかじめ移すことで相続税の負担を抑えられる方法です。贈与のタイミングや進め方を工夫すれば、より高い節税効果も期待できます。

ただし、贈与税が発生するケースやほかの相続人との間に不公平感が生じる可能性もあります。また、手続きの流れを誤ると思わぬトラブルや税務上の不利益につながることもあるでしょう。

株式の生前贈与を検討する際は、専門家の意見を聞きながら自分や家族の状況に合った方法を見つけることをおすすめします。信頼できるサポートがあれば不安を抱えずに資産を円滑に引き継ぐことができ、将来への備えにもつながります。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。