事業承継で相続税に悩まない!企業オーナーが知るべき特例制度と活用法を徹底解説

「事業承継」における相続税の負担は、事業を次の世代へ引き継いでいきたいオーナーにとって避けては通れない問題です。特に相続税の負担が大きくなると、後継者が安定して会社を運営していく上で大きな障壁となることがあります。

この記事では、事業承継と相続税の関係を整理し、企業オーナーが押さえておくべき特例制度や活用の流れを解説します。

事業承継の重要性と相続税の影響

事業承継

事業承継は会社の未来をつなぐ行動でありながら、相続税の重圧が後継者の経営継続を難しくする要因となります。自社株式や事業用資産が高く評価されればされるほど、相続税の負担が大きくなってしまうためです。税負担が増すことにより事業運営や資金繰りに支障をきたす可能性があります。

したがって、事業承継を進める際は相続税を含めた承継対策を講じることが求められるのです。税の専門家である税理士を早期に交えて、具体的な事業承継計画を立てることこそ、経営の安定と未来につながる第一歩といえるでしょう。

事業承継とは何か

ではまず事業承継とは何か、を解説します。事業承継とは、経営者がこれまで育ててきた会社を次世代へ渡す行為を指しており、単なる名義変更とは異なります。

中小企業庁は「企業の熱い想いや技術を次世代へつなぐこと」と定義しており、それが社会にとって重要であることがわかります。

例えば親族内で後継者に経営を引き継ぐ「親族内承継」、従業員への継承を図る「社内承継」、さらには第三者(M&A)に引き渡す「第三者承継」のように、承継の形態は多岐にわたります。

事業を後継者にスムーズに引き継げる体制が整っていれば、会社経営を停滞させたり、事業継続を断念したりせずに済む一方で、事業承継の準備が不十分だった場合、承継そのものや継続すべき事業における混乱を招き、資産の流出を招くこともあり得ます。

そのため事業承継を成功させるには、早期に承継の方法を定め、必要な支援策を把握することが重要です。

参考:事業承継を知る | 中小企業庁

相続税が事業承継に及ぼす影響とは

事業を安定的に次世代に引き継ぐには、相続税が想像以上に重い負担となる可能性がある点を認識しておくことが求められます。例えば非上場株式の評価額は市場で取引される有価証券に比べて割高になるケースが多く、それが相続税の納税額を押し上げる要因になります。

また相続人が納税資金を確保できない場合には、不本意な資産売却や株式の手放しを強いられる事態にもつながりかねません。

このような税負担のリスクは、事業のスムーズな継続そのものを揺るがしかねない深刻なものです。相続税の納税資金の準備が不十分だと、後継者が経営への集中を失い、経営判断や業績に影響が及ぶ危険性があります。

参考:No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁

関連記事:事業承継における相続税対策とは?事業承継税制についても解説

企業オーナーが考慮すべき相続計画のポイント

相続税の影響を小さくし円滑に事業をつなぐには、生前から計画的に「移す・測る・備える」を進めることが重要です。贈与で持株や資産を段階的に次世代に移行することで、相続時の課税対象を整理できます。さらに株式評価を把握することにより、税額の見通しと対策が具体化し、納税資金の準備が可能になるでしょう。

事業承継税制の仕組み

税金

ここからは、事業承継税制がどのような仕組みになっているのかをみていきます。

事業承継税制は、一定の要件を満たす後継者が非上場株式等を贈与や相続で取得した場合、相続税・贈与税の納税が猶予され、後継者の死亡等で納付が免除される仕組みです。この仕組みにより、承継時の資金負担を抑えやすくなります。

引用:事業承継税制特集|国税庁

承継時の資金負担が抑えられる理由は、円滑化法に基づく都道府県知事の認定を前提に、税務署への申告や担保提供等の手続きを行うことで猶予が成立する制度設計にあります。

具体的には、平成30年度改正で特例措置が創設され、納税猶予割合が100%となり、対象株式数の上限撤廃など大幅な拡充が図られました。適用期間は贈与・相続の実行が2018/1/1~2027/12/31で、特例承継計画の提出期限は2026/3/31と定められています。

つまり期限から逆算して特例承継計画を整え、認定支援機関の助言の下で承継方法と時期を設計することがスムーズな事業承継の肝といえます。

参考:事業承継税制特集|国税庁

参考:経営承継円滑化法による支援 | 中小企業庁

事業承継税制の特例とそのメリット

事業承継税制の特例は、後継者が非上場株式等を相続もしくは贈与で取得した場合に、その相続税や贈与税の納税を100%猶予し、一定の事由や後継者の死亡等により免除が認められる仕組みです。

具体的には、2026/3/31までに特例承継計画を提出し、2027/12/31までに承継を実行すれば、承継時の税負担を実質ゼロにでき、納税資金の外部調達圧力を抑えつつ、承継後の投資や雇用に経営資源を振り向けやすくなります。

つまり、この特例は後継者の資金負担を大幅に軽減し、事業の継続性を高める実務的な選択肢となるでしょう。適用期限から逆算し、認定経営革新等支援機関の助言の下で準備を進めることが成果につながります。

参考:法人版事業承継税制(特例措置) | 中小企業庁

相続税の免除対象となる要件とは

事業承継税制の特例で相続税の免除を視野に入れるには、制度の要件を満たし続けることが前提です。要件を満たさない場合は適用されません。

要件が厳しい理由は、この特例が円滑化法に基づく都道府県知事の認定と申告手続を土台に、猶予の継続・免除の可否を厳格に判定する設計だからです。

具体的には、特例では対象株式数の上限が撤廃され全株式が猶予対象となりますが、平成30年4月1日~令和8年3月31日(2026/3/31)までに特例承継計画を提出し、その確認を受けていることが求められます。

引用:法人版事業承継税制(特例措置) | 中小企業庁

雇用確保要件は弾力化され、未達でも一定の手続により猶予継続が可能ですが、管理を怠ると打切りのリスクが残ります。さらに免除の主な場面としては、後継者が死亡した場合や、特例経営承継期間経過後に一定の事情の下で株式を後継者へ贈与した場合などが明示されています。

つまり計画提出の綿密な期限管理と、代表継続・雇用・株式保有の実務管理を並行させる運用が有効といえるでしょう。

関連記事:事業承継による相続の手続きと相続税の支払いについて

申請手続きの注意点と必要書類

事業承継税制の特例措置を受けるには、特例承継計画の提出が必要です。

この計画書は令和8年(2026年)3月31日までに都道府県庁へ提出し、確認を受けなければいけません。提出期限を過ぎると特例措置の適用が受けられなくなるため、余裕を持って準備しましょう。

特例承継計画の作成にあたっては、認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けることが前提条件となっています。計画書には後継者の氏名、承継時期、事業の継続・発展に向けた取り組み内容などを記載する必要があるためで、支援機関と綿密に相談しながら作成することが求められます。

実際の納税猶予を受けるためには、都道府県知事の認定と税務署への申告という二段階の手続きが必要です。それぞれに提出期限が定められており、認定申請は相続開始後8カ月以内、税務署への申告は相続税の申告期限までに行わなければなりません。書類の不備や提出遅延があると、せっかくの税制優遇が受けられなくなるリスクがあります。

以下の表に提出すべき書類や手続き、提出先や期限の目安をまとめました。

書類・手続

提出先

期限の目安

特例承継計画
(様式第21)

都道府県

令和8年3月31日までに提出(認定支援機関の指導・助言の記載が必要)

認定申請
(贈与・相続)

都道府県

贈与は基準日に応じ10/15・翌1/15等
相続は開始翌日から8か月経過日まで。
期日超過は不適用リスクがある。

継続届出書

税務署

申告期限後5年間は毎年、その後は3年ごとに提出。

参考:-中小企業経営承継円滑化法- 申請マニュアル

さらに、納税猶予の適用を受けた後も、5年間は毎年の年次報告書と継続届出書の提出が義務付けられています。5年経過後は3年に1度、税務署に継続届出書の提出が必要です。

これらの書類提出を怠ると猶予が取り消される可能性があるため、長期的な管理体制の構築が不可欠です。

参考:法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類

事業承継税制と贈与税の違い

事業承継税制における贈与税の取り扱いは、通常の贈与税とは大きく異なります。

異なる点のひとつは、事業承継税制を活用すると、後継者が承継した自社株式にかかる贈与税について納税猶予を受けることができ、最終的には免除される可能性がある点です。

通常の贈与では、受け取った財産の価額から基礎控除110万円を差し引いた金額に対して、累進税率により最高55%の贈与税が課税されます。これに対して事業承継税制の特例措置を適用した場合、贈与税の100%が納税猶予の対象となり、一定の要件を満たし続けることで最終的に免除されるのです。

生前贈与による事業承継は、相続による承継と比較して早期に経営権を移転できる利点があります。経営者が元気なうちに後継者への引き継ぎを進められるため、計画的な事業承継が可能となるのです。

ただし、贈与税の納税猶予を受けるためには、贈与者が会社の代表権を喪失し、後継者が代表者に就任するなど、相続税の納税猶予とは異なる要件が設定されています。

さらに納税猶予を受けた後も5年間の事業継続要件があり、この期間中は毎年の報告書提出が義務付けられています。特例措置では雇用確保要件が実質的に緩和されていますが、一般措置では5年平均で贈与時の80%以上の雇用維持が求められるなど、制度の選択により要件が異なります。

このように制度そのものや適用条件が異なるため、両制度の適切な使い分けが求められるでしょう。

参考:1 贈与税の概要 その年1月1日から 12 月 31 日までの1年間に財産の贈与(法人からの贈与を

関連記事:事業承継税制を利用すれば相続税は免除できる?納税猶予について紹介!

まとめ

事業承継税制は、中小企業の経営者が直面する相続税・贈与税の負担を大幅に軽減する制度として、企業の円滑な世代交代を支える重要な役割を果たしています。特例措置を活用すれば、後継者が引き継ぐ非上場株式の100%について相続税・贈与税の納税が猶予され、要件を満たし続けることで最終的に免除される可能性があります。

令和7年(2025年)の税制改正により、特例承継計画の提出時点ではなく、贈与や相続の時点で後継者が役員に就任していれば適用が可能となるなど、制度の使い勝手も向上しています。

ただし、特例措置を利用できるのは2027年12月31日までに行われた贈与や相続に限られるため、早めの検討と準備が求められます。制度を利用するためには、特例承継計画の作成・提出から始まり、株式の贈与・相続、認定申請、税務申告という一連の手続きを正確に進める必要があります。

事業承継は企業の存続と発展にかかわる重要な経営課題であり、税制面での対策は早期から計画的に進めることが肝心です。専門的な知識と経験を持つ税理士などの専門家と連携しながら、自社の状況に最適な承継方法を選択し、制度を最大限に活用することで、次世代への円滑な事業の引き継ぎが実現できるでしょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。