生前贈与を行う場合、贈与税について検討が必要です。
このとき、暦年単位で課税関係を完結させる課税方式(以下「暦年贈与」)のほか、相続時点で課税関係を精算する課税方式(以下「相続時精算課税制度」)を選択することもできます。
今回は相続時精算課税制度の内容、メリットやデメリットについてご紹介します。
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上(令和4年4月1日以後の贈与については18歳以上)の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度のことをいいます。
当該制度を利用すれば、課税価格2,500万円までの贈与は特別控除の対象となるため、贈与時点での納税は不要となり、2,500万円超の贈与に対してはその超過部分に対して一律20%の贈与税が課税されるのみで贈与時点での課税関係が完結します。
そして、当該贈与財産は贈与者の相続発生時に贈与時点の時価で相続財産に持ち戻して相続税が計算され、相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除してもなお、納付すべき相続税がある場合には差額を納付します。
逆に控除しきれない場合には、控除しきれない贈与税相当額は還付されます。
この制度を選択する場合には、原則として贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。
では相続時精算課税制度はどのような場面に適した方法なのでしょうか。暦年贈与と比較しながら、相続時精算課税制度の主要なメリットやデメリットについて確認してみましょう。
|
暦年贈与 |
相続時精算課税制度 |
メリット |
・原則として贈与時に課税関係が完結するため、相続時の納税資金は不要(注1)。 |
・2,500万円までの贈与は贈与時点での納税は不要になるなど、早期に多額の財産を次世代に移転できる。
・賃貸不動産等の収益物件を贈与すれば、贈与者の財産増加を防ぎ、かつ賃貸収益は受贈者のものとなるため相続税対策として有効。
・相続時に精算される際の時価は贈与時点の時価となるため、相続時点で時価の値上がりが予想される財産に対しては有効。 |
デメリット |
・基礎控除110万円超の贈与に対しては都度贈与税がかかる。(注2)
・累進税率(最高55%)が適用されるため高額な贈与には不向き。 |
・相続時に贈与税相当額が精算されるため、相続時に納税資金が必要となる場合がある。
・相続時点で時価が下落していたとしても、その時価は使えず、贈与時の高い時価で相続税が計算されてしまう。
・いったん相続時精算課税制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降贈与者が無くなるときまで継続してこの制度が適用され、暦年贈与へ変更することはできない。 |
(注1)相続開始前3年以内の贈与については、贈与時の時価で相続財産に加算される。
(注2)暦年贈与においては年110万円までの贈与は非課税となる。
相続時精算課税制度は、贈与時点での納税を抑えるという観点からは一定のメリットがあります。しかし、あくまでも相続時点まで課税関係の完結を繰り延べるという方法であり、最終的に課される相続税が減少する訳ではありません。相続時精算課税制度を利用する際は、対象財産の特性に合っているか、また将来の相続時点での納税資金の目途がついているかなど、慎重な計画に基づいて利用することが大切です
(担当:木山)