はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から申告所得税、
贈与税および個人事業者の消費税の申告期限は4月16日まで延長されました。
これに伴い関連手続である財産債務調書も同時期まで提出期限が延長しました。
財産債務調書とは、所得税・相続税の申告の適正性を確保する観点から、
12月31日時点で個人の財産・債務の明細を所得税の確定申告書の提出期限までに、
確定申告書の提出先の税務署に提出するものです。
1.提出が必要となる対象者
財産債務調書の提出は、次の①を満たし、かつ、
②または③を満たす場合に必要となります。
①確定申告義務があり、所得金額が2千万円超
②保有財産の合計額が3億円以上
③有価証券等の国外転出特例対象資産の合計額が1億円以上
2.記載事項
保有財産の種類、数量、価額、所在及び債務の金額等を記載します。
その際の、財産の「価額」は、その年の12月31日における「時価」又は
時価に準ずるものとして「見積価額」とされています。
3.財産の記載漏れや誤りがないよう要注意
提出した財産債務調書の記載内容に誤りや記載漏れがあった場合には、
提出期限内だけでなく期限後であっても、再度提出することで訂正が可能です。
その際、当初提出した財産債務調書及び財産債務調書合計表に記載済みの財産債務を含め、
全ての財産債務を記載する必要があります。期限後の提出であっても、
それが所得税等の更正等を予知してされたものでないときは、
期限内に提出されたものとされます。
提出を怠った等の場合に刑事罰等の罰則規定は設けられていませんが、
次の優遇措置・加重措置があります。
①優遇措置
期限内に提出した場合には、財産債務調書に記載がある財産又は債務に関して
所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても、過少申告加算税等が
5%軽減されます。
②加重措置
期限内に提出がされなかった場合又は期限内に提出された財産債務調書に記載すべき
財産又は債務の記載が漏れていた場合には、その財産又は債務に関して、
所得税の申告漏れが生じたときは過少申告加算税等が5%加重されます。
4.国外財産調書との関係
財産債務調書の提出が必要な対象者が、国外に5,000万円超の財産を保有している場合、
「財産債務調書」と「国外財産調書」の両方、提出が必要になります。
この場合、「財産債務調書」及び「財産債務調書合計表」には
次の国外財産に係る事項の記載を要しないこととされています。
・国外財産調書に記載した国外財産の価額の合計額
・国外財産調書に記載した国外財産のうち国外転出特例対象財産の価額の合計額
さらに、「国外財産調書」を提出する方が、国外財産について財産債務調書に記載しても、
国外財産調書に不備があることになります。内外判定は重要です。
なお、国外に存する債務については、「財産債務調書」に記載する必要があります。
また、国外財産調書には財産債務調書と違って、刑事罰の罰則規定もあります。
5.2020年度税制改正
①相続開始年の12月 31日における財産債務調書については、
その相続又は遺贈により取得した相続財産を記載しないで提出することができます。
②その年の12月31日において相続財産を有する者の責めに帰すべき事由がなく
提出期限内に財産債務調書の提出がない場合、加重措置の適用対象外となります。
③過少申告加算税等の特例の適用の判定の基礎となる財産債務調書の見直しがされます。
※上記改正は、2020年分以後の財産債務調書について適用されます。
おわりに
大切なことは、提出が必要な場合には、期限内に正しい財産債務調書を提出することです。(担当:新谷)