はじめに
現代社会は、18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、
20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、
1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続く、
IoT・ビッグデータ・AI(人工知能)・ロボット等による第4次産業革命の真っ只中にあると言われています。
このような急激な環境変化に対応し、既存企業の有するリソースを最大限活用した
オープンイノベーションの促進とユニコーン級ベンチャーの育成を図るため、
一定のベンチャー投資に対する税制上の支援措置の新設が予定されています。
1.対象法人(買い手)
制度の対象となるのは以下を満たす法人です。
(1)青色申告書を提出する法人
(2)特定事業活動を行うもの(=自らの経営資源以外の経営資源を活用し、
高い生産性が見込まれる事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことを目指す株式会社等)
すなわち、本措置は一定の事業を行う事業会社が対象であり、
純粋な投資会社(コーポレート・ベンチャー・キャピタルを除く)は対象とはなりません。
2.特別新事業開拓事業者(投資対象)
投資先の対象となるのは以下を満たす法人です。
(1)産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち、
同法の特定事業活動に資する事業を行う内国法人又はこれに類する外国法人
(2)既に事業を開始しているもので、設立後10年未満のもの
新規設立会社や一定の事業を行っていない法人は対象とならないことに注意が必要です。
3.特定株式(経済産業大臣の証明)
投資においては、取得する株式が次の要件を満たすことにつき経済産業大臣の証明が必要となります。
(1)対象法人が取得するもの又はその対象法人が出資額割合50%超の唯一の有限責任組合員である投資事業有限責任組合の組合財産等となるもの。
(2)資本金の増加に伴う払込みにより交付されること。(=他者からの株式の買受け等は該当しない)
(3)払込金額が1億円以上(外国法人への払込みにあっては5億円以上)であること。
ただし、対象法人が中小企業者の場合には、払込金額の要件が1,000 万円以上とハードルが低くなります。
また、対象となる払込みには上限を設けることとされています(詳細は未定)。
(4)対象法人が特別新事業開拓事業者の株式の取得等をする一定の事業活動を行う場合であって、
その特別新事業開拓事業者の経営資源が、その一定の事業活動における高い生産性が見込まれる
事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことに資するものであることその他の基準を満たすこと。
4.対象期間
2020年4月1日から2022年3月31日までの間に特定株式を取得し、かつ、
これをその取得した日を含む事業年度末まで有している必要があります。
5.税制措置の内容
特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定の金額として経理したときは、
その事業年度の所得の金額を上限に、その経理した金額の合計額の損金算入が認められます。
(特別勘定の計上の仕訳例)
特別勘定繰入額 ×× / 特別勘定 ×× |
ただし、その特定株式の取得から5年以内に、以下の特別勘定の取崩し事由に該当することとなった場合には、
その事由に応じた金額を取り崩して、益金算入する必要があります。
(特別勘定の取崩し事由)
(1)経済産業大臣の証明が取り消された場合
(2)特定株式の全部又は一部を有しなくなった場合
(3)特定株式につき配当を受けた場合
(4)特定株式の帳簿価額を減額した場合
(5)特定株式を組合財産とする投資事業有限責任組合等の出資額割合の変更があった場合
(6)特別新事業開拓事業者が解散した場合
(7)対象法人が解散した場合
(8)特別勘定の金額を任意に取り崩した場合
(特別勘定の取崩しの仕訳例)
特別勘定 ×× / 特別勘定戻入益 ×× |
おわりに
本税制は、ベンチャー企業へ出資した時点で一定額の所得控除を認めるという、
期間限定の極めて異例な措置といえます。今後公表される具体的な要件や手続き方法にも
引き続き注目です。(担当:江森)