はじめに
今や海外に住んだり海外で仕事をすることは珍しいことでなく、日本と海外を頻繁に往復している人も多いと思います。
このような人にとって、税法上の居住者と非居住者の区分は重要になります。居住者と非居住者では課税範囲が大きく異なるためです。今回は両者の区分と非居住者に対する課税の概要についてご紹介します。
1.非居住者とは
所得税法では、居住者及び非居住者を以下のように規定しています。
所得税法第2条第1項
三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。 五 非居住者 居住者以外の個人をいう。 |
また、上記の「住所」とは、所得税基本通達において以下のように規定されています。
所得税基本通達2-1
法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する。 |
上記の通り、「住所」はその人の生活の中心がどこかによって判断されます。
よく住民票を日本に残しているから居住者という理解がされるようですが、
必ずしもそうとは限りません。
2.課税のしくみ
居住者(非永住者除く※)の場合、所得が生じた場所にかかわらず、
すべての所得に対して課税されます(いわゆる全世界所得課税)。
一方、非居住者の場合、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされます。
例えば、国内にある不動産の貸付けにより受け取る対価は国内源泉所得に該当します。
上記のように、居住者に比べ非居住者は課税の範囲が限定されているため、
居住者・非居住者の区分は極めて重要になります。
なお、国内源泉所得を有する非居住者については、
・どのような国内源泉所得を有するか
・事業所などの「恒久的施設」を有するかどうか
・国内源泉所得が「恒久的施設」に帰せられる所得かどうか
により、課税方法が異なります。
※簡素化のため、ここでは非永住者以外の居住者を前提とします
3.実務上の主な留意点
(1)居住者と非居住者の区分の判定
上記1.の通り、居住者と非居住者の区分については、
生活の本拠がいずれに存在するかの認定が重要になります。
これまで、当該区分が裁判で争いになった事例が多くあります。
これまでの裁判例によれば、「住所」「職業」「生計を一にする配偶者その他の親族の居住状況」
「資産の所在」等の客観的事実に基づいて総合的に判断することが通説となっています。
複数の国に住居を有する、複数の国で職業に就く、複数の国に資産が分散しているといったケースでは、
考慮すべき事実関係が多くなります。
(2)日本の税法(国内法)以外の規定
複数の滞在国がある等の場合、当然外国の法令にも影響を受けることになります。
外国(A国)の居住者となるかどうかは、A国の法令によって決まります。
このとき、A国で居住者と判定され、日本でも居住者と判定される場合には、
二重課税が生じうるため、租税条約(二重課税の防止等のために二国間で締結される条約)は居住者の判定方法を定めています。どちらの国の居住者になるかについて、
具体的にはそれぞれの租税条約によりますが、一般的には、「恒久的住所」→「利害関係の中心的場所」
→「常用の住居」→「国籍」の順に考えて、どちらの国の居住者となるかを判定します。
上記のように、国内法以外の規定も検討すべきであるのが通常と想定されます。
おわりに
居住者と非居住者の区分や非居住者に関する課税を考えるにあたっては、事実関係が複雑かつ検討事項が多くなりやすいため、慎重に対応することが求められます。(担当:伊藤)