はじめに
印紙税は、契約書や領収書など日常の経済取引に伴って作成される20種類の文書に課される税金です。税務調査でも印紙の添付漏れはほぼ必ず調査対象となりますので、日々の業務で作成される文書については、それが課税文書に該当するのか、いくらの収入印紙を貼り付ければよいのか、正しく理解することが必要です。今回は、特に判断の誤りやすい「請負に関する契約書(第2号文書)」を中心に整理していきます。
1.請負に関する契約書(第2号文書)
印紙税法上の「請負」とは、当事者の一方(請負人)がある仕事の完成を約し、相手方(注文者)がこれに報酬を支払うことを約することによって成立する契約をいいます。完成された仕事の結果に対して報酬が支払われる点に特質があり、その目的物には、家屋の建築、洋服の仕立て等の有形なもののほか、講演、警備、機械保守、清掃等の無形なものも含まれます。
請負の契約書に関する印紙税額は以下の通りです。(なお2020年3月31日までに作成される建設工事の請負に関する契約書には別途軽減措置があります。)
記載された契約金額 | 印紙税額 |
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 10,000円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 20,000円 |
記載された契約金額 | 印紙税額 |
5千万円を超え1億円以下 | 60,000円 |
1億円を超え5億円以下 | 100,000円 |
5億円を超え10億円以下 | 200,000円 |
10億円を超え50億円以下 | 400,000円 |
50億円を超えるもの | 600,000円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
2.請負と売買の違い
物品の売買契約は、第7号文書(後述)に該当するものを除き、不課税文書になります。請負と売買の違いは、契約当事者の意思が仕事の完成であるか、物の所有権移転であるかによりますが、判別が不明確なものについては具体的な取り扱いが例示されています。
<請負・売買の事例(印紙税法基本通達第2号文書の2)>
区分 | 契約の内容 | 事例 |
請負契約 | 注文者の指示に基づき一定の仕様又は規格等に従い、製作者の労務によって工作物を建設することを内容とするもの | ・家屋の建築 ・道路の建設、橋りょうの架設 |
注文者が材料の全部又は主要部分を提供(有償、無償を問わない。)し、製作者がこれによって一定物品を製作することを内容としたもの | ・生地提供の洋服の仕立て ・材料支給による物品の製作 |
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製作者の材料を用いて注文者の設計又は指示した規格等に従い一定物品を製作することを内容とするもの | ・船舶、車両、機械、家具等の製作 ・洋服等の仕立て |
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一定物品を一定の場所に取り付けることによって所有権を移転することを内容とするもの | ・大型機械の取り付け | |
修理又は加工を内容とするもの | ・建築・機械の修繕、塗装 | |
売買契約 | 一定物品を一定の場所に取り付けることによって所有権を移転することを内容とするものであるが、取付行為が簡単であって、特別の技術を要しないもの | ・テレビを購入した時のアンテナの 取付けや配線 |
製作者が工作物をあらかじめ一定の規格で統一し、これにそれぞれの価格を付して注文を受け、当該規格に従い工作物を製作し、供給することを内容とするもの | ・建売住宅の供給(不動産の譲渡 契約書) |
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あらかじめ一定の規格で統一された物品を、注文に応じ製作者の材料を用いて製作し、供給することを内容とするもの | ・カタログ又は見本による機械、家 具等の製作 |
3.請負と委任の違い
請負と混同されがちなものに「委任」があります。委任契約とは、当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを相手方(受任者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約をいい、その契約書は課税文書に該当しません。
両者の違いは、仕事の完成義務を負うかどうかによります。例えば、法務顧問契約であれば、日々の法律相談を目的とするものは委任契約ですが、文書の作成等の具体的な成果を求められる場合には請負契約になると考えられます。また、一般に支援業務等といわれる、契約の相手方の指揮監督下において、単に労務だけを供給するような契約については、委任契約に該当します。
なお、いわゆる「業務委託契約書」は、通常、その条件により請負か委任のどちらかになりますので、個々の契約内容に照らして判断することが必要です。
4.継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)
第7号文書とは、特定の相手方との間において継続的に生じる一定の取引の基本となる契約書をいい、契約期間が3ヶ月以内かつ更新の定めのないものは除かれます。印紙税額は一律4,000円となります。
ここで、営業者間において継続的に行う請負に係る契約書については、第2号文書と第7号文書の双方に該当することになり、その所属が問題となります。この場合、契約金額の記載のあるものは第2号文書、記載のないものは第7号文書として決定されます。契約金額の記載の有無は、契約書の記載から契約金額が計算できるかどうかによって決まります。
5.おわりに
納付すべき印紙税を課税文書の作成の時までに納付しなかった場合、本来納付すべき印紙税の額の3倍(自主納付の場合は1.1倍)に相当する過怠税が徴収されることになります。課税文書に該当するか不明な場合には、国税庁HPにある印紙税額一覧表等を参考にしたり、顧問税理士等の専門家に問い合わせいただくなどして、適切な納付を心がけましょう。(担当:江森)