会計・税務の知識

2018年09月13日 発行収益認識会計基準と法人税法改正

はじめに

平成30年3月30日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、収益認識に関する会計基準及び同適用指針(以下、両方をあわせて「収益認識会計基準」という)を公表しました。

この会計面での改正を受け、税制面では、平成30年度税制改正で、資産の販売等に係る収益の認識に関する法令の整備が行われ、さらに、平成30年5月30日に「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)が国税庁HPで公表されました。

今回は、上記のうち平成30年度税制改正による法人税法改正の内容につき解説いたします。

 

1.法人税法22条4項の改正と22条の2の新設

平成30年度税制改正において、法人税法22条4項が改正されるとともに、法人税法22条の2が新設されています。この改正は、「収益認識会計基準」の制定により、公正妥当な会計基準も広範囲な内容に変化したことに伴い、法人税法上もこれに対応したものです。

 

2.法人税法における収益計上時期の考え方

法人税法の収益計上時期については、法人税法22条4項、法人税法22条の2の規定で整理されます。

両者の関係ですが、収益認識会計基準の公表にあわせて22条4項に「別段の定めがあるものを除き」という文言が追加され、「別段の定め」として22条の2が新設されました。22条4項は従来から存在する「公正妥当処理基準(一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って益金を処理する)」の扱いをそのまま引き継いだものと考えられ、新設された22条の2は収益認識会計基準に対応するために制定されたものと整理されます。

 

3.法人税法22条の2の概要

法人税法22条の2は、上記「2.法人税法における収益計上時期の考え方」で記載したとおり、収益認識についての一般的な基準を定めたものではなく、収益認識会計基準の制定により、これに対応するために、従来通達に定めた取扱いを法律により明確化したものです。22条の2の概要は以下のとおりです。

法22条の2概要 収益の計上時期 第1項 収益認識は原則として引渡日基準、役務提供日基準
第2項 引渡日等に近接する日の計上も認める
第3項 申告調整によることも可能とする
収益の計上額 第4項 資産の引渡の時における価格は、提供をした役務につき通常得べき対価の額(時価)※値引きや割戻も価格の調整との位置づけ
第5項 貸倒、買戻しは可能性があっても、価格(時価)に織り込まない
現物配当 第6項 現物配当は資産譲渡と利益分配の混合取引であるが、資産の譲渡に係るキャピタルゲインについて課税されることを明記
政令委任 第7項 施行令18条の2において、修正経理をした場合の対応を定める

上記表のとおり、収益の計上時期は原則として、引渡日基準又は役務提供日基準としています。この引渡日については、出荷日や検収日等複数の計上時期が想定されますが、法人の選択した処理基準は継続する必要があります。また、引渡日基準に合致した日でなくとも、公正妥当基準に準拠して引渡日に近接する日を収益計上時期としている場合も認められるものとしています(契約効力発生日、仕切精算書到達日当)。

さらに、収益認識会計基準との相違点として、収益認識会計基準が貸倒れによる回収不能や返品の可能性を反映して収益計上の対価の額を考えているのに対し、法人税法上はこれを認めていない点に留意が必要です

 

4.おわりに

今後の実務への影響ですが、中小企業(監査対象法人以外)の会計処理については、従来どおり企業会計原則等による会計処理が認められることとされていますので、今般の改正により従来の取扱いが変更されるものではありません。ただし、30年度税制改正で決定した①返品調整引当金制度の廃止、②長期割賦販売等に該当する資産の販売等について延払基準により収益の額及び費用の額を計算する選択制度の廃止(いずれも経過措置が設けられています。)については中小企業も適用対象となるため、留意が必要です。(担当:高橋)

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