はじめに
相続法の改正法案が2018年7月6日に成立し、同年7月13日に公布されました。今回の改正は、約40年ぶりの見直しとなり、相続実務においても大きな影響が見込まれます。
本稿では2018.7.5号で、改正項目の内、「配偶者保護規定」を紹介しました。今回は、「遺産分割」と「遺言」について説明いたします。
1.遺産分割に関する改正
(1)自宅贈与の持ち戻し免除の推定
2018.7.5号において、「配偶者保護規定」として紹介しましたので、ここでは省略いたします。
(2)預貯金の仮払い制度の創設
①現行の取扱い
2016年12月19日最高裁決定により、相続された預貯金は遺産分割の対象財産に含まれることとなり、遺産分割が終了するまでは、相続人単独では預貯金の払戻しができないこととされました。
②改正内容
相続された預貯金について、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度が創設されました。
払戻しの方法には次の2つがあります。
ア)家庭裁判所の判断なしで払戻しを認める制度
遺産に属する預貯金のうち、口座ごとに次の計算式で求められる額(同一金融機関に対する権利行使は150万円が限度)までについては、単独で払戻しをすることができます。
相続開始時の預貯金の額×3分の1×払戻しを行う共同相続人の法定相続分
イ)保全処分の要件緩和
仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められます。
(3)一部分割
従来から、実務では遺産の一部分割ができることとされていましたが、その点が明文化されました。具体的には次の通りです。
①相続人は、遺言で禁じた場合を除き、いつでも協議で遺産の一部の分割ができます。
②相続人は、遺産の一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。
③但し、一部分割により他の相続人の利益を害する恐れがある場合はこの限りではありません。
(4)遺産分割前に一部財産が処分された場合
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、相続人全員の同意により、処分された財産を遺産分割の対象に含めることができます。
これは、財産処分した相続人の同意を得る必要はありません。
2.遺言制度に関する改正
(1)自筆証書遺言の方式緩和
全文の自書を要求している現行の自筆証書遺言の方式を緩和し、パソコン等で作成した目録や銀行通帳のコピー・不動産の登記事項証明書等を目録として自筆証書遺言に添付することができるようになりました。
但し、財産目録の各頁に署名押印することが必要です。
(2)自筆証書遺言の保管制度の創設
法務局において自筆証書遺言を保管します。
保管された自筆証書遺言は検認が不要です。
遺言者は保管の申請、返還又は閲覧の請求ができます。但し、遺言者自らが出頭することが必要です。
相続開始後、相続人・受遺者・遺言執行者は遺言書の閲覧や、遺言書を保管している法務局の名称等の証明書や遺言書の画像情報等の証明書交付を申請できます。
(3)遺言執行者の権限の明確化
遺言執行者の法的地位を「遺言の内容を実現することを職務とする」と明確化し、かつ「相続人に対して直接にその効力を生ずる」と行為の効果が相続人に帰属することが明らかにされました。
おわりに
施行時期は、2.(1)が2019年1月13日、2.(2)が2020年7月10日、その他が2019年7月1日となっていますので、スケジュールには留意が必要です。 (担当:竹内)