はじめに
2024年8月に「中小M&Aガイドライン」が改訂され、3版を重ねることになりました。
改訂の趣旨は、不適切な譲り受け側の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者が実施する過剰な営業・広告等の課題に対応し、中小M&A市場における健全な環境整備と支援機関の質の向上を図ることです。
本稿では、仲介者・FA向けの改訂ポイントについて、代表的事例を挙げて解説いたします。
1.仲介者・FAの手数料・提供業務の詳細説明
仲介者・FAは、仲介契約・FA契約締結前に、手数料の詳細な算定基準、プロセスごとに提供する具体的な業務、担当者の保有資格、経験年数・成約実績等の具体的な説明が必要となります。
また、仲介者の場合、相手方の手数料に関する事項について、手数料の総額がM&Aの成立や条件に影響を与える可能性があることを含めて説明するべきとされています。
2.広告・営業の禁止事項
仲介者・FAは、M&Aの実施意向がない旨や広告・営業を受けることを希望しない旨の意思を表示された場合、これを拒んではならず、ただちに広告・営業を停止しなければなりません。
譲り受け(譲り渡し)の意向がないのにあると偽ったり、譲渡額を過大に提示したり、相手側の収益・財務状況を実際より優良だと誤認させたりするような広告・営業は禁止です。
3.利益相反に係る禁止事項
譲り受け側から追加で手数料を取得し、その譲り受け側に便宜を図ったり、リピーターとなる依頼者を優遇したりすることは禁止です。
4.ネームクリア・テール条項に関する規律
ネームクリア(注)は、興味を示した候補先に対して、譲り渡し側からの同意を取得し、候補先との秘密保持契約を締結した上で、実施されることが求められます。
(注)譲り渡し側の名称を含む企業概要書等の詳細資料を開示すること
テール条項(注)の対象は、ネームクリアが行われ、譲り渡し側に対して紹介された譲り受け側に限定すべきとされます。
(注)仲介・FA契約終了後一定期間(テール期間)内に、当事者間のM&Aがあった場合、そのM&A業者が手数料を取得する条項
5.最終契約後の当事者間のリスク事項への対応
仲介者・FAは、M&A成立後に当事者間でトラブルが発生するリスクを低減する契約を締結するよう支援する必要があります。
【リスク事項の例示】
・デュー・ディリジェンス(DD)の非実施に伴うリスク
・譲り渡し側に過大な表明保証の負担になるリスク
・譲渡対価をクロージング後に分割払いにしたり、譲渡額に調整・修正する条項を設けたりすることに伴う決済リスク
・最終契約後に、譲り渡し側の会社と経営者の財産の整理が滞るリスク
6.譲り渡し側の経営者保証の扱い
仲介者・FAは、譲り受け側の義務として保証の解除又は移行を位置付けた上で、当該義務が果たされなかった場合の契約解除や補償の条項を盛り込むべきです。
7.譲り渡し側の経営者保証の扱い
M&Aに関連して違法と疑われる行為や最終契約に定めた義務の不履行を行うような不適切な譲り受け側は、中小M&Aの市場から排除していく必要があります。
仲介者・FAには、譲り受け側に対する調査や業界内での情報共有の取組が求められます。
おわりに
M&Aを検討する中小企業においては、仲介者・FAが提供する業務の内容・質と手数料を参照の上、支援を受ける仲介者・FAを選定することが期待されます。
また、M&A後に当事者間でトラブルに発展しうるリスクについても吟味し、M&Aの実行や条件について、慎重に検討することが望まれます。
(担当:竹内)